霊感少年の幽雅な生活 (完)   作:ケツアゴ

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教員研修のヴァルキリー
八十三話


「へぇ、ついに結婚するんだ。それで式の様式はどうするの? 所属的にギリシア風? それともロスさんに合わせて北欧風? それとも君の故郷に合わせて……は無いか。夫にそんな決定権はないもんね」

 

ランスロットから正式に結婚する報告を受けた一誠は哀愁を漂わせながらも祝いの言葉を述べる。どうやら彼も結婚式の様式は玉藻に決定権を握られている様だ。いや、実の所三人全員に握られていた。

 

「……主も決定権が無かったのですね。まぁ、私はロスヴァイセ殿が喜ぶのが一番ですので。取りあえずはギリシア風にして、お色直しで北欧のウェディングドレスに着替えるという予定です」

 

「良いなぁ。白無垢も良いけど、純白のウェディングドレス姿の玉藻も見てみたいよ」

 

どうやら、矢張りと言うべきか玉藻は和式の結婚式を選んだようだ。一誠はランスロットと話している様だが、最後の辺りでは玉藻の膝に乗せている頭を動かし、彼女の顔をジッと見た。無言で言っているのだ。着ろ、と。

 

「うぅ、分かりましたよぉ。でも、結婚式は譲れませんから、今夜の衣装という事で」

 

「そう言えば結婚前に花嫁衣裳を着ると婚期が遅れるという言い伝えが……いえ、何でもありません」

 

この時、ランスロットは二度目の死を覚悟した。三途の川の向こうでは、息子やグィネヴィアが手を振っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスロットさんを紹介されるまでロセが結婚するとは夢にも思っていませんでした。色々とご迷惑をかけてはいませんか?」

 

「いやいや、ロスさんには書類仕事をやって貰ってるし、助かってるよ」

 

数日後、一誠の元を訪ねてきたロスヴァイセの祖母であるゲンドゥルは出されたお茶を飲んでいた。今日はロスヴァイセへの家事の指導とソーナからの頼まれ事があってその打ち合わせで来日し、ついでにと寄ったらしい。

 

頼みと言うのは念願の学校の建設が終わったので、仮入学した生徒達に対する公演を行って欲しいというものだった。魔法使いの集会が近くである事もあり、ゲンドゥルはそれを了承したらしい。

 

「魔法使いの集会かぁ。確か禁呪とかを持ってる人に接触する奴が増えてるから、悪用を避ける為に封印し合う事になって、それについて話し合うんだっけ?」

 

「ええ、自分で封印しても洗脳されたら意味がありませんしね。それで、お願いがあるのですが護衛役を派遣してくださいませんか? もちろん対価はお支払い致します。狙われている者達が集まるなど、襲ってくれと言っている様なものですし、私も孫娘の結婚前に心配を掛けたく有りませんので」

 

「じゃあ、ランスロットを派遣するね。アイツなら身内の為にオフを使って、って事にすれば面倒くさい手続きは要らないしさ、俺も上司として余計な仕事しなくて良いから助かるよ」

 

最上級死神になった事で部下を使う際に面倒臭い手続きをしなければならなくなった事に辟易している一誠はお茶を飲みながら笑った。

 

 

 

 

 

 

その頃、ランスロットとロスヴァイセは街中まで買い物に来ていた。ロスヴァイセの趣味である百円ショップを周り、良い物がないか物色する。

 

「……百円とは言えこの作りは酷いですね。すぐ壊れるから、また買い直さなければなりませんし」

 

「成る程。では、これなんてどうですか? キッチンペーパーがこれだけ入って百円ですよ?」

 

二人は真剣な目つきで商品を品定めする。見た目の歳や会話からして貧乏カップルに見えるが二人とも結構な高給取りである。しかし、貧乏性が抜けないロスヴァイセは便利で安い百円ショップに拘り、ランスロットも不平不満を言わずに真剣に付き合っている。相手の趣味嗜好を尊重する。それが恋愛で大切だ、というのが彼の考えだ。二人が店を出る時には商品を入れた袋がパンパンになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 色気がない!」

 

「そうっすよねぇ。ここは下着売り場に行って、どれが良いですか? って訊かれて赤面する隊長が見たかったのに……」

 

「諦めるな! きっと今から面白可笑しいイベントが起きるさっ!」

 

彼らはランスロットを尾行する元円卓の騎士達。もう騎士としてどこか間違っている集団だが、その実力は確かだ。彼らはランスロットと違って未だ肉体を得ておらず通行人の目の映らないのを良いことに堂々と尾行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は何処に行きますか? そろそろお食事時ですし、ご馳走しますよ」

 

ランスロットは車道側を歩きながら右腕にはめた腕時計を見る。空いた左腕はロスヴァイセの手と指を絡めあうようにして繋いでいた。

 

「あ、あの、あのファミレスに行きませんか? 私クーポン持っていますからっ!」

 

慌ててバックからクーポン券を取り出そうとするロスヴァイセだったが、ランスロットは首を横に振る。

 

「いえいえ、それは別の日に貴女がお使い下さい。私も男です。好きな相手に食事を奢る時は格好を付けたいんですよ。私に意地を通させてくださいませんか? さ、お好きな店をお選びください」

 

「そ、それじゃあ最近話題のあの店に……」

 

ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら話題のオープンカフェを指さす。恋人達に人気の店には他にも若いカップルが居たが、二人が来ると恋人よりそっちの方に目を奪われていた。

 

 

「わぁ、あの人格好良いっ! しかもあのスーツってブランド物よね!?」

 

「うぉっ! スゲェ美人な上にスタイルもスゲェっ!」

 

美男美女の外人カップルに視線が集まる中、二人は注文の品を待っていた。

 

「では私はスープバーに行ってきます。ロスヴァイセ殿はコーンスープで良いんですよね?」

 

「あ、あの、ランスロットさん。ロスヴァイセっと呼び捨てにして下さいませんか? 私はソッチの方が良いです」

 

「では、行ってきますね、ロスヴァイセ(・・・・・・)

 

ランスロットはにっこり微笑み、ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながらも幸せそうだ。それを遠くから見ていた騎士達も歓声を上げている。そんな中、一人の青年がロスヴァイセに近づいてきた。彼の名はユークリッド・ルキフグス。

 

「……ロスヴァイセさ…」

 

彼はロスヴァイセの名を呼んで肩に手を置こうとし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如横から放たれた投げ縄によって茂みの中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

確かに後ろから呼ばれた気がして振り返ったロスヴァセであったが、振り向くと誰も居ないので空耳と判断し、丁度戻ってきたランスロットとのデートを楽しんだ。

 

 

「先ほど悪質な魔力を感じましたが、何だったんでしょうか?」

 

「さぁ? それよりも、この後はベビー用品を見に行きませんか? ほら、私が何時妊娠するか分かりませんし……今日は泊まって行きますよね? それとも、少し疲れたので何処かで休憩します?」

 

ロスヴァイセが艶のある視線を送ったのは少し離れた所にあるホテル街。その後、食事を終えた二人は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおら、姐さんに何の用だ、ゴラァッ!!」

 

「ぶはっ! 言ってたまるものですか!」

 

「ったく男が居る女に声かけ様ってのか? はんっ! 日本の諺にあるだろ? 人の恋路を邪魔する奴は騎士に絡まれ死んじまえってなぁ!!」

 

その頃、人払いの術が施された廃ビル内でユークリッドに対するごうも……取り調べが執り行われていた。フェンリルでさえ捕まえるグレイプニルで全身を縛られたユークリッドはドラム缶に溜まった汚水に顔をつけられ、限界になったら呼吸を許され詰問される。体には油性マジックで変態やらストーカーとか書かれており、服装は汚いブリーフ一枚になっている。それでも彼は必死に抵抗する。すると騎士の一人が謎の物体を持ってきた。

 

 

「姐さんの作った味噌汁という名の暗黒物質を持ってきたぞ!」

 

そしてもう一人怪しい薬品を持ってくる者がいた。

 

「永久脱毛薬持ってきました! 玉藻様の不能の呪い付きです! あと、塗った頭皮から悪玉コレステロールを大量に吸収するらしいです!」 

 

 

 

 

 

「よしっ! 両方使っとけ!!」

 

 

 

 

その日、ユークリッドの胃と毛根は死滅した。彼は語る。味噌汁の後に飲んだ汚水が超一流レストランのスープに思えたと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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