太閤転生伝   作:ミッツ

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今回は割りと際どい描写があります。これでも書き直した方です。
問題があるようなら後日修正します。


美濃はいまだ遠く

 それは、ありし日の一時であった。

 

「むむむ、くぅーっ!参った!儂の負けじゃ!相変わらず御主は強いのぅ。」

 

 碁盤を前に唸り声を挙げていた秀吉は、頭を掻きむしりながら己の敗北を宣言する。

 しかし、そこに敗北を悲観する面影は全く無く、むしろ勝利者を称えんとする爽やかさがあった。

 それを受けて、対戦相手であった色白な男は静かに微笑んだ。

 

「ありがとう御座いました。誠に良い碁を打てました。」

 

「そうは言うがのぅ、結局今回も勝てなんだ。やれやれ、何時になれば御主に勝てる日が来るのか。」

 

「藤吉郎様も以前に比べれば、格段に上手くなられましたよ。私を越える日もそう遠くは無いかと。」

 

「儂だってこのまま勝ち逃げさせる気は無いわ。その時まで首を長くして待っておれ。」

 

「ふふ、楽しみにしています。ただ、あまり時は無いかもしれません。」

 

 色白な男が漏らした一言に、秀吉の顔に影が射す。

 しかし、すぐにニィッと口元を吊り上げると、重くなった空気を笑い飛ばそうとする。

 

「はははっ!辛気臭いことを言うでない。そうじゃっ!良い知らせがあったのを忘れておった。調略を進めておる播磨なんじゃが、有馬と言う場所に良い温泉が沸くそうじゃ。万病にも効くという噂もあってのぅ、きっとそこに浸かれば御主の病もたちまち良くなるじゃろう!」

 

 努めて明るく話す秀吉に、色白な男は相変わらずニコニコと笑みを向ける。

 その顔に秀吉は胸を締め付けられる感覚を覚え、やがて力無く顔を伏せ言葉を途切れさせてしまう。

 

「………どうにも、ならんのか?」

 

 唐突に溢れた、秀吉らしくない弱気な言葉に、色白な男は張り付いた笑みのまま、静かに首を振った。

 

「はい、もう長くは。」

 

「………すまん。」

 

「…なぜ、藤吉郎様が謝られるのですか?」

 

「思えば儂は御主に無理をさせ過ぎておった。もっと早く、儂が御主の体を気遣っておれば………のう、もう策を練れとは言わん。儂の隣に立たずとも良い。故郷に帰り養生し、元気になってくれ。そしてまた、碁を打とう。頼むっ!半兵衛っ!」

 

 瞳に涙を浮かべ懇願する秀吉に、色白の男、竹中半兵衛は初めて笑顔を崩し、物悲しそうな顔をする。

 

「…運命とは誰にも判らぬもの。この半兵衛は己の意志で藤吉郎様のもとで才を振るい、天命に殉じ己の生を全うした次第に御座います。そこに一片の悔いはなく、今は穏やかな心で最後の時を待ちたい所存です。藤吉郎様、」

 

 そう言って秀吉を見つめる眼差しは、とても澄んでいた。

 

「今までありがとう御座いました。お側に仕えられ幸せでした。」

 

 その日が、羽柴秀吉と希代の天才軍師、竹中半兵衛が言葉を交わした最後の日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桶狭間の戦いに勝利し、三河松平家と強固な同盟関係を築いて後患の憂いを無くした織田信奈は、満を持して義父である斎藤道三の『美濃国譲り状』を根拠に、美濃侵攻を開始した。

 

 そして、惨敗した。

 

「なんでよっ!?」

 

 先日侵攻を宣言した清洲城の評定の間で、信奈は癇癪を起こし叫ぶと、手に持った指揮棒を床に叩きつけた。

 その容貌は泥にまみれ、着たままになっている甲冑も傷や欠け落ちが目立つ。

 見事なまでの負け装束である。

 

 はじめは順調だったのだ。

 尾張を出立した織田軍は美濃との国境を越え、西美濃安八郡に侵攻し、周辺の砦を落とし制圧した。

 その勢いに乗り、一気に稲葉山城下へと向けて軍を進めたところで、流れが変わった。

 美濃の奥に進むにしたがい、険しい山道の登り降りが多くなり、進軍速度が大幅に遅くなったのである。

 そうした状況下で兵達の疲労を考慮しなければならなくなった頃、織田軍は両側面を崖に挟まれた谷間で突如深い霧に包まれ身動きが取れなくなってしまった。

 そこに至って、一部の将は不味い事になったと勘づいたが、時既に遅し。

 霧の奥から怒号と悲鳴が木霊した。

 信奈は即座に撤退を指示し、織田兵はもと来た道を一目散に戻り、必死の思いで尾張に逃げ帰って来たのであった。

 

 幸い、即時撤退が上手くいったお陰で兵の被害は少ないが、それでも完膚なきまでの敗北に言い訳のしようは無く、信奈の機嫌の悪さも致し方無いだろう。 

 

 一方で主の荒ぶりように、家臣たちは沈痛な面持ちで頭を下げる他無い。

 そんな中、万千代は溜め息混じりに指揮棒を拾うと、信奈の元に歩み寄る。

 

「姫様、落ち着いて下さい。」

 

「私は落ち着いてるわ!」

 

「いや、それは流石に無理があるかと。物に当たって敗けが無くなるのであれば良いですが、そうで無いなら今後の事を検討するのが有意義です。」

 

 そう万千代が諭すと、信奈は万千代をギロリと睨むが、口を曲げたまま指揮棒を引ったくった。

 取り敢えずは話が出来る状態になった事に万千代は安堵するが、それを見計らったように場にそぐわぬ緩やかな足音が響いた。

 

「ほうほう。これは随分と手酷くやられたようじゃな。結構、結構。」

 

 足音と同じくのんびりとした口調で現れたのは、信奈の義父にして美濃斎藤家前当主、斎藤道三その人である。

 そんな道三に対し、信奈は大きく舌打ちを鳴らし睨み付けた。

 

「マムシ、いま私は機嫌が良くないの。無駄口を叩くなら視界から消えてくれないかしら。」

 

「これは失敬したな、信奈ちゃん。果たしてどのような負けっぷりをしたか気になってのう。思っておったより被害は軽いようなので、つい口が軽くなってしまったようじゃ。」

 

「………何それ?まるで私が負けるのが分かってたみたいな言い方ね。」

 

「如何にも。よほどの事がない限り、信奈ちゃんは惨敗するじゃろうと、儂は戦が始まる前から…」

 

 そう道三が語っていた途中、信奈は指揮棒を道三に向かって投げつけ、道三の言葉を無理矢理止める。

 そして、空いた手で刀を抜くと、その切っ先を道三の首元に突きつけた。

 

「姫様っ!?お止めくださいっ!」

 

「マムシ、私はあんたの事を気に入っているわ。それはあんたの事だから分かってると思うけど、だからって、まさか何を言っても命までは取られ無いだろうとは、思ってはいないでしょうね?」

 

 信奈の凶行を何とか止めようと万千代が叫ぶが、信奈はその声を一切無視した。

 その目は完全に据わっており、道三の姿しか写っていない。

 信奈が醸したす濃密な殺気は、家臣団に呼吸さえ忘れさせた。

 しかし、そんな状況にあっても、道三は穏やかな笑みを絶やさず、まるで愚図る幼子を見守る翁の如き視線を信奈に向ける。

 それが益々、信奈を苛立たせるが道三は気にしない。

 

「そうじゃのう。そもそも儂の命はとっくの昔に潰えていた筈じゃ。それを拾ったのは他でもない信奈ちゃん。然らば、この首を信奈ちゃんに跳ねられたところで、何の文句も有りはせんよ。」

 

「………何で私達が敗けると思ったの?」

 

「逆に聞こう。何故、お主たちは勝てると思うた?」

 

 質問に質問を返され、信奈は眉をひそめる。

 しかし、何かを口にしようとしたところで、ハッと目を見開いた。

 それを見て、道三は満足そうに頷いた。

 

「西から攻められる心配が無くなった。国内をほぼ統一した。以前と同じだけの戦力に回復できた。評判が高まった。まあ、主だった理由はこの辺りじゃろう。おおぅっ!重要な部分を忘れておったわ。」

 

 そう言うと道三は刃の先を手で逸らし、一歩信奈に近付き言った。

 

「あの今川に勝った我らには、天運が味方している。そう思い込んだかのう。ん?」

 

 ほんの僅かに、道三が醸し出す雰囲気が変わった。

 それだけで、先程とは違った冷たい緊張感が評定の間を覆う。

 前の方に座る家臣達からは、信奈の首筋に汗が浮かんでいるのが見えた。

 

「カッカッカッ!まぁ、勝利というのは極上の美酒じゃ!しかも、あの様な鮮烈な勝利を味わってしまっては、ついつい酔いすぎてしまうというもの。しかしのぅ、その程度の根拠で戦を仕掛けるとは…」

 

 不意に道三が目を細め、信奈を見据える。

 その眼光はどこか毒蛇を想起させ、信奈を無意識に後退させた。

 そんな信奈に対し、道三は拳を振り上げる。

 

「戦を、美濃を舐めすぎじゃっ!小娘がっ!」

 

 手加減無しの強烈な拳骨が、信奈の脳天に炸裂した。

 あまりの威力に信奈は言葉すら失い、刀を取り落として、その場に蹲り悶絶する。

 

「戦の本番は平時の積み重ね。実戦はその答え合わせに過ぎぬ。それを忘れた者に領主の資格はないわ。少し頭を冷やすが良い。」

 

 道三は拳を握ったまま、憤怒の表情で信奈を見下ろし言い放つ。

 家臣達は道三の剣幕に圧倒されっぱなしだったが、いち早く我に返った万千代と勝家の二人が、いまだに頭を押さえる信奈に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか、姫様?」

 

「ああっ、たん瘤が出来てます。おのれマムシめ!いくら何でもやりすぎだ!成敗してくれる!」

 

「その必要は無いわ、六。」

 

 今にも刀を手に駆け出しそうな勝家を、信奈は痛みに顔をしかめながらも手で制する。

 

「あー、イタタ。拳骨を喰らうなんて父上以来ね。いや、平手の爺やにも一度やられたかしら。」

 

 どこか昔を懐かしむような口調で独り言を言う信奈に、先程までの剣呑さは無い。

 立ち上がり、床に落ちた刀を拾うと何事も無かったかのように鞘に納める。

 そして、床に膝と手を着くと道三に向かって頭を下げた。

 

「マムシ、先ほどの無礼を謝罪するわ。己の力量も計れず無様な戦をし、見るに耐えぬ醜態を晒した私を諌めてくれた事の感謝も。」

 

「………客将の身に有りながら、主君に手を上げた事は不問かの?」

 

「客将であると同時に、マムシは私の義父よ。馬鹿な行いをした子を折檻するのは、親として当然でしょ。」

 

「…寛大な御言葉、感謝つかまつる。」

 

 信奈の謝罪を受け取った道三は、主君に倣って膝と手を着くと謝辞を奉る。

 それにより、漸くホッとした空気が広間に流れる。

 道三から醸し出されていた冷たい雰囲気も霧散した。

 しかし、信奈を見据える瞳の奥には、尚も冷徹な光が宿ったままである。

 

「して、信奈ちゃん。此度の敗戦の原因は何と心得る?」

 

「…主因は私の油断慢心。けれど、冷静に振り返ってみると、私たちは敵に誘い込まれていた気がするわ。久太郎、地図を。」

 

「ははっ!」

 

 信奈を指示を受け、小姓の堀久太郎が信奈と道三の間に美濃の地図を広げる。

 信奈は筆を取ると、地図上に印を付けていった。

 

「これが私たちが侵攻に際して攻略した砦よ。今思えば柵が妙に小綺麗で、急添えで作ったような真新しい感じがしたわ。そして、攻め落とすのも容易かった。たぶん、最初から落とされる事を前提で用意したんだわ。」

 

「恐らくそうじゃろう。敢えて容易に砦を落とさせる事で油断を誘い、敵の動きを誘導する。件の谷で奇襲を受けた際も、その先に砦があると報告があったのじゃろ?」

 

「…マムシの言う通りよ。無視して背後を突かれるのも嫌だったし、全軍で当たれば早々に落とせると思ってたわ。道中に奇襲がしやすい谷が有る事も、知らぬ間に無視してしまって、その全てが敵の狙い通りなら、かなりの知恵者がいるわね。」

 

「むむむ、しかしこれ程の策を寸分狂わず成功させるとなると、並大抵の者では無いぞ。出きるとすれば儂以外では十兵衛くらいしか居らぬし、あやつも今は越前に居るしのぉ。義龍には意外にも戦の才はあったが、策略という面では…」

 

 相手の動きを読み、罠を張り、そこへ誘導する。

 言葉にするのは簡単だが、それを為すには必要な情報を収集し、何万と有る選択肢の中から敵の動きを予測し、自分達にとって最適な方法を取捨選択しなければならない。

 道三、光秀といった知恵者が去った美濃に、それだけの軍師働きが出来る人材がいただろうかと一同が思案していると、不意に手を上げる者がいた。

 良晴である。

 

「なぁ、それってもしかして竹中半兵衛がやったんじゃないか?」

 

「竹中半兵衛?マムシ、聞き覚えは?」

 

「うむむ。そういえば、先の美濃の変事の際に儂に味方した竹中重元の子がその様な名であったのう。儂が去った後に重元は義龍に帰順した筈じゃ。その子は大層な知恵者という噂もあったが、戦に出たことが無ければ無名なのも致し方ない。」

 

「良サル、あんたはその竹中半兵衛が今回の戦で私達を嵌めたって言いたいのね。」

 

「ああっ!竹中半兵衛の別名は今孔明。今後間違いなく戦国屈指の天才軍師として知られる超有名人さ!なっ、秀吉さん。」

 

 秀吉は半兵衛と関わりが深い武将として、真っ先に名前が上がる内の一人である。

 それを知る良晴からすれば気を利かせて話を振ったのだが、当の秀吉は何故か渋い顔をしていた。

 

「…ううむ。確かに竹中半兵衛は今は無名なれど、将来には全国に名を轟かせる知将なれば、軍略を以て我らを撃退せしめるは容易き事でしょう。」

 

「…へぇ。秀サルもそこまで言うのね。面白そうね。その竹中半兵衛という武将。」

 

 信奈の瞳に肉食獣めいた光が宿る。

 戦国大名の性と言うべきか、優秀な人材を手元に置きたいという欲が沸いてきていた。

 

「うん。今後の方針が大分見えてきたわね。万千代、美濃の地理についてマムシと詰めてちょうだい。今回の侵攻における兵糧の消費や、行軍速度の見直しも合わせて実施して!」

 

「御意にございます!」

 

「地蔵は此度の損失を計算して、補填にどれくらい掛かるか見積もりなさい。それと、美濃に伝手の有る商人に渡りを付けて国人衆の内情に探りも!」

 

「はっ!」

 

「六と犬千代は兵の教練よ!浮かれ者がいないよう、徹底的にやって頂戴!」

 

「はいっ!お任せください!」

 

「うん。犬千代も一から鍛え直す。」

 

「信盛は国境の防備を固めなさい。万が一にもこの機に乗じて攻め込まれないよう、警戒を怠らない様に各砦に伝えてるのよ!」

 

「ははぁ!畏まりました。」

 

「それと、良サル、秀サル!」

 

 矢継ぎ早に配下へ指示を出していた信奈は、最後に末席に座る二人へと目を向けた。

 その視線に二人は居ずまいを正す。

 

「あんたたちは美濃に行きなさい。実際に美濃の内情を探ると共に、竹中半兵衛について調べてくるのよ。」

 

「半兵衛をですか?」

 

「そう。今回の敗戦に半兵衛が関わっているなら、嫌でも美濃侵攻の壁となる武将よ。その人格を知り、弱点を探り、調略を仕掛け…」

 

 信奈の顔に、思わず背筋に寒気が走るような凄惨な笑みが浮かんだ。

 

「私の前に連れてきなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。では、明日には美濃へ出発されるのですね?」

 

「うむ。役割上長く国元を離れねばならぬ。もし、困った事があれば小一郎か犬千代に言ってくれ。あやつらにも伝えてある。ああ~、気持ちええのぅ。」

 

 そう言って秀吉はうつ伏せのまま、幸せそうに表情を蕩けさせる。

 その腰の上には寧々が乗っかり、秀吉の背を指圧し揉みほぐしていた。

 

「いや~、まさに天に昇るかのごとき心地よさじゃ。寧々のような女房を持てて儂は幸せもんじゃあ。」

 

「はいはい。私もお前様のような旦那様に娶って頂き、幸せですよ。でも、敵国に潜入するなんて、危ないで御座いましょう?」

 

「そりゃあそうだわな。じゃが、その様な危険を犯してでも為さねばならぬ大切なお役目じゃ。それだけ期待をして頂いてるわけじゃし、張り切って務めを果たせねばのぉ!」

 

「………その割には、気が向いて無さそうですが?」

 

「…何故そう思うた?」

 

「何となく、女の勘というやつで御座います。」

 

 秀吉が後ろに顔を向けると、寧々の澄まし顔があった。

 世が変わってもこの女房にだけは敵わぬと思い、秀吉の口許に笑みが浮かぶ。

 

「なるほど女の勘か。そりゃあ、バレても仕方ないわにゃあ。」

 

「………何か気がかりな事でも有るのですか?」

 

「…うんにゃ、なんにも。せっかく寧々と夫婦となれたのに、こうも早々と家を開けることになり、少々信奈様を恨めしく思うてしまっただけじゃ。」

 

 どこか誤魔化したような物言いであったが、秀吉があまり話を続けたく無さそうなのを察し、寧々はそれ以上追及しなかった。

 その事を秀吉も察し、改めて自分には勿体なさすぎる女房を得たと感じ入った。

 

「ああ、ええ具合じゃった。よしっ!今度は儂が寧々の苦労を揉みほぐしてやろう。」

 

「いえ、旦那様にそんな…」

 

「構わぬ構わぬ。儂が居らぬ間この家を守るのは寧々じゃて。その労に報いさせてくりゃあ。」

 

「もう、分かりました。それではお願い致します。」

 

 そう言って寧々がうつ伏せになると、秀吉は横に付き優しく背中を揉みほぐして行く。

 

「どうじゃ具合の方は?」

 

「ええ。とても気持ち良いで御座います。それにしても、姫様は随分と美濃にご熱心なので御座いますね。」

 

「うむ。美濃は東西南北に広がる陸路の交差点じゃからのう。ここを押さえられるかどうかで、天下の動静が大きく変わるんじゃ。」

 

「そうなのですね。でもそれなら、何故マムシ殿は全国の要所を押さえながら天下に挑まれなかったのでしょうか?」

 

「マムシ殿は美濃一国を手にするのに大分時間を掛けてしまったからのう。一平民の難しさというやつじゃ。あとは要所を押さえても、それを生かす伝手や財力が足らなかった。」

 

「それらは既に姫様はお持ちになられている。だから天下を目指すにはあとは美濃が必要。だから御執着されているというわけですね。」

 

「うむ、その通りじゃ。」

 

 道三はその生涯の大半を美濃一国を手に入れるのに費やした。無論、その功績は一浪人が成し遂げた事としては破格だが、当初目指していた天下の夢には到底届かなかった。

 その点で言えば、守護代の分家とはいえ先代から国内有数の貿易港を継承した信奈は、スタート地点から道三の先を行っていた。

 秀吉としては必ずしも絶対ではないと言いたいが、天下を望むには生まれの良し悪しは欠かせぬ要素である。

 

「そう聞くと、庶民にはなんとも世知辛い話で御座いますね。って、お前様!さっきから何処を揉んでるのですか!?」

 

 秀吉の手は寧々の腰の下、丁度臀部の部分の肉を掴んでいた。

 

「ん?いや、なに。明日から暫く御無沙汰になるのでな。今日はじっくりと寧々のココをほぐしておこうと思っての。」

 

「だからってこんな昼間から。せめて日が落ちてから…ヒャンッ!」

 

 寧々の言葉を無視し、秀吉は着物の裾を目繰り上げる。

 この時代、女性は基本的に下着を身に付けない。

 故に、発展途上の若き白桃が顕となった。

 

 秀吉はゴクリと唾を飲む。だが、焦ってはならない。

 最初は擦る様に。そして徐々に力を入れて揉み下いていけば、若き白桃はホンノリと赤みを帯び、持ち主の口からは幼さを残しながらも甘く、僅かに艶を含んだ声が漏れ始める。

 そうして己の指を押し返そうとする白桃の張りと弾力を楽しんだ秀吉は、頃合いを見計らい桃の割れ目に手を伸ばす。

 その奥に潜む不揃いの茂みを擦ってみれば、甘い悲鳴と共に粘り気の有る蜜が秀吉の指を濡らす。

 

 頃合いじゃの。

 

 指に着いた蜜を舐めると、秀吉はおもむろに己の金時様を取り出した。

 

「………お前様は助兵衛に御座います。」

 

「うん?寧々は助兵衛な儂は嫌いかの?」

 

「…嫌いではありません。もう諦めました。だから、一つだけ寧々の願い叶えて下さい。」

 

「なんじゃ?何でも申してみよ。」

 

 うつ伏せになった寧々の口許に耳を寄せれば、寧々は熱っぽい視線と共に囁いた。

 

「寧々に、お前様の赤ちゃんを産ませて下さい。」

 

 瞬間、秀吉の全身にゾクゾクとした快感が走る。

 

 ああ、これだから。幾つもの色を味わおうと、どれ程世が移り変わろうと、紛れもなく天下一女房はこの女なのだ。

 

「…ああ、勿論じゃ。で、何人じゃ?」

 

「え?」

 

「だから、寧々は何人儂の赤子を産みたいのじゃ?」

 

 秀吉の問いに恥じらい顔をした寧々であったが、14歳の若妻は大して時間をかけずに答えを口にした。

 

「…いっぱい。」

 

「…そうか。ならば、いっぱい愛してやらねばのうっ!!」

 

「あんっ!?」

 

 その日、若き劣情に任せた新婚夫婦の営みは夜分遅くまで続き、互いがどれ程相手を愛しているか存分に確かめ合ったのであった。

 

 なお、夜遅くまで隣夫婦の睦言の声を聞かされた隣人が、翌日完全な寝不足顔で現れる事は流石の秀吉も予想だにしてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西美濃は菩提山の頂上に築かれた菩提山城。

 その離れに作られた小さな庵に二人の人物がいた。

 一人は長身の若侍で、縁側に寝そべり酒を嗜んでいる。

 もう一人は、青みがかった銀髪を左右で結んだ小柄な少女である。

 彼女は縁側の若侍を気にした素振りもせず、黙々と手元の軍法書に目を走らせていた。

 二人の間に会話はなく、然れど不思議と気まずさのない独特の空気が流れていた。

 そうしている内に、不意に少女は書から顔を上げると、ゆっくりと立ち上がりフラフラと縁側に出てきた。

 

「どうした、なにかあったか?」

 

「………誰かから呼ばれた気がしました。」

 

 少女に若侍が尋ねると、心あらずといった様子で少女は答える。

 

「誰かとは、誰だ?」

 

「…解りません。でも、どうしてか懐かしく、昔から知ってる人のような気がするんです。」

 

 少女が見つめる先は南。その先には尾張の国があった。

 

「あなたはいったい、誰なんですか?」

 

 少女の声に答える者が現れるのは、もう間も無くである。

 

 

 今宵はこれまでに致しとう御座ります。




・美濃攻略
 史実でも苦戦した織田軍第二の壁。
 詳しい話は次話以降で触れていくので、暫くは情報は小出しで。
 それと、史実だと信長って結構負け戦が多い。しかも余裕ぶっこいて調子乗って負けたり、意地を張って引き時を見誤るパターンも割りとある。
 それでも致命的な敗北を回避し、確実に次戦で勝ちを繋げる辺り、流石だと思う。

・寧々
 遂に本領を発揮した本作のメインヒロイン。
 原作では子供だったが、本作では設定を変更した結果、どのヒロインよりも最初に大人の階段を上り、現在進行形で駆け上がり中。
 なお、本人にその意識は無く、原作キャラの城のお姉さま達に「どうすれば殿方に喜ばれる御奉仕が出来るでしょうか?」と質問するが、狼狽えられてばかりでまともな回答は得られていない。
 早く赤ちゃんが欲しいお年頃(14歳)
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