とある日…この日、翼は倉庫で自分の乗るバイクを弄っていた。鼻歌も混じえてご機嫌である。
いつしか鼻歌が二重奏になり、後ろを振り向くと同時に翼のすぐ後ろで奏がバイクを見ていた。
「奏っ!」
少し顔を赤くしながら翼は奏を見た。
「ご機嫌ですな」
いつものすまし顔で奏は言う。
「今日は非番だから、バイクで少し遠出に…」
「特別に免許貰ったばかりだもんな。それにしても、任務以外で翼が歌っているなんて初めてだ」
「奏…」
さらに顔を赤くして翼は目線を斜め下に下げる。
「そういうの、なんか良いよな」
奏は軽く翼の額を指で弾いて、翼はハッとした様に顔を上げた。
「また鼻歌聞かせてくれよな〜」
そう言いながら奏は倉庫の出口に歩いて行った。
「あっ奏…!鼻歌は誰かに聴かせるものじゃないから…!」
「分かってるって。じゃ、行ってきな」
奏は後ろ手を振りながら白い光の中に消え、それを翼は困った顔をしながら笑って見送った。
―――とある、翼の奏との記憶。
それを思い出しながら翼はメディカルチェックを受けていた。
「お疲れ様。ダメージは完全に回復です」
男性職員が言うのを聞き、翼は手を握ったり開いたりを繰り返し、力が戻ったのを実感していた。
「ただいま、奏」
翼は笑顔で小さく呟いた。
その頃、響は未来を連れて基地の中を案内していた。
「学校の地下にこんなシェルターや地下基地が…」
「あっ!翼さーん!」
響は翼を見つけ、翼のいる方に向かって走り、翼も響に気付いて響の方を見た。
「立花か。そちらは確か協力者の…」
「こんにちは、小日向未来です」
そう言って未来は丁寧にお辞儀をした。
「えへん。私の一番の親友です」
そう言って響は両手を腰に当てて仰け反った。
「立花はこう言う性格ゆえ、色々面倒をかけると思うが、支えて欲しい」
「いえ、響は残念な子なのでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「えっ何!?どういうこと?」
響は困惑しながら翼と未来を交互に見た。
「二人とも響を通して意気投合してるって事だな」
横にいた昴が笑って言った。
「はぐらかされた気がする…」
そう言って響は頬を膨らませた。
そんな響を見て翼と未来は静かに笑った。
(変わったのか…あるいは変えられたのか…)
仲睦まじい様子を見る翼を見て、昴も安心した様に微笑んだ。
「でも未来とここに居るのは、なんかこそばゆいですよ」
「小日向を外部協力者として二課に異色登録させたのは、司令が手を回してくれたおかげだ。それでも不都合し得るかもしれないが」
「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんてそんな」
「ああ、そう言えば師匠や大我さん達は?」
「ああ、私達も探しているのだが…昴さんは何か知りませんか?」
「いや、俺も何も聞いてねえな」
風鳴弦十郎のデスクのモニターには、「TATSUYAに緊急返却」と言う文字が並んでいた。
「あら、良いわね。ガールズトーク?」
「どっからツッコんで良いか分かんねえが、俺を無視しないでくれるか」
どこからともなく了子が現れ、昴も呆れたように言った。
「了子さんもそういうの興味あるんですか?」
「モチのロン!私の恋バナ百物語聞いたら、夜眠れなくなるわよ?」
「まるで怪談みたいですね…」
「了子さんの恋バナ!?聞くとうっとり夢オシャレな銀座の恋物語!?」
翼は呆れたように額に指を当て、未来も困ったように苦笑いをしているのとは対照的に、響は了子の恋バナに胸を昂らせていた。
「そうね…遠い昔の話になるわね…こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから…」
「「おおー!」」
それを聞いて未来も響同様に食いついた。
「意外でした。櫻井女史は恋と言うより、研究一筋であると…」
「命短し恋せよ乙女と言うじゃない。それに女の子の恋するパワーなんて凄いんだから」
「お、女の子か…」
それを聞いた了子に昴は顔面に裏拳を喰らってしまった。
「私が聖遺物の研究を始めたのもそもそも…」
ふと了子は我に返り、一瞬動きが止まった。
「「うんうん!それで?」」
「ま、まあ?私も忙しいから?ここで油売ってられないわ」
そう言って了子は顔を赤くして頭をかいた。
「お前が割り込んだんだろォ!?」
またも昴は了子の逆鱗に触れ、蹴りを顔面に喰らった。
「とにもかくにも、デキる女の条件はどれだけいい恋してるかに尽きる訳なのよ〜。ガールズ達も、いつかどこかでいい恋なさいね。それじゃ、ばっはは〜い」
そう言って了子は歩いて去ってしまった。
「聞きそびれちゃったね〜」
「うーん、ガードは堅いか…でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出して見せる!」
そんな響を見て未来は微笑み、翼は困った顔をしていた。
「司令、まだ戻って来ないな…」
昴達四人は基地の廊下の一角にある休憩所で弦十郎を待っていた。
「ええ。メディカルチェックの結果を報告しなきゃいけないのに…」
「次のスケジュールもあるんだろ?早いとこ小川さんにも合流しなきゃだな」
そう言って昴は腕時計を確認した。
「もうお仕事入れてるんですか!」
「少しずつよ。今はまだ慣らし運転のつもり」
「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですよね!?」
「…」
YESとも取れる様に翼は口をもごもごとさせて声を出した。
「それじゃ翼さん、デートしましょ!」
「デート?」
その頃、零と大我は食料と花を持ってクリスのいるマンションに来ていた。
「ほらよ」
零と大我はクリスのいる部屋に入り、警戒態勢を取っているクリスの方を見た。
「応援は連れてきていない。シンフォギアだって置いてきた。俺達二人だけだ」
「…!」
「もう、お前の保護を任されたのは俺だけだ」
そう言いながら二人はクリスの前で腰を下ろした。
「…どうしてここが…」
「ちょっとしたツテってやつだ。差し入れと、俺が育てた花だ!可愛いだろ?」
大我が抱いている鉢植にはマリーゴールドの花が咲いていた。
「…そこ、置いときな」
すると、クリスの腹が鳴り、零もそれを聞いてパンをビニール袋から取り出し、一口食べて見せた。
「何も盛ってなんかないよ」
それをクリスに見せるや否やそれをひったくり、それを食べ始めた。
「…バイオリン奏者、雪音雅律と、その妻声楽家のソレッド・M・雪音が、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが六年前。残った一人娘も行方不明。その後、国連軍のバルデルデの介入によって事態は急転。組織に囚われていた娘は発見され、保護」
大我も牛乳を開けて一口飲み、クリスに渡した。
「日本に引き渡されたんだ」
「よく調べてるじゃねえか。風鳴のオッサンでもねえのに」
そう言ってクリスは牛乳を飲んだ。
「そう言う詮索、反吐が出る」
「俺も詳しく知ってる訳じゃないけど…当時の司令達は適合者を探すために音楽界のサラブレッドに注目していて、天涯孤独となった少女の引き取り先として、立候補した、との事だ」
「フッ…こっちでもか…」
「?こっちでも?」
「なんでもない…続けな」
そう言ってクリスは牛乳を再び飲んだ。
「ところが、帰国直後に消息を絶った。相当慌てたんだろうな…二課からも相当人が駆り出されたが、事件に関わった者の多くが行方不明か死亡…」
「何がしたい貴様ッ!」
「俺達がやりたいのは、クリス、お前を助け出す事だ」
「…!」
「引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだ」
「へっ、大人の務めと来たか。余計なこと以外は何もしてくれないくせに!」
そう言ってクリスは空の紙パックを投げ捨て、ガラスを突き破って外に飛び出した。
「ガラスを破りやがった!」
クリスはイチイバルを纏い、雨の中どこかに行ってしまった。
「ダメだったか…」
クリスが飛び出した直後に弦十郎が入ってきた。
「はい…」
「外から話を聞いていたが、やはりダメだったか…仕方ないさ。きっと俺も同じことを言い、同じようになっていただろう」
「そうだぜ。とにかく次はどうするかを考えよう」
「そうだな…」
零は部屋を出ながらクリスが突き破って粉々になったガラスを見ていた。
次の日、翼は公園で腕時計を確認しながら二人を待っていた。
「あの子達は、何をやってるのよ…」
「すみません翼さん…」
すると、未来と響の二人が翼の元へ走ってきた。
「遅いわよ!」
「申し訳ありません。お察しの事だとは思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして…」
二人は一息ついてふと翼を見ると、彼女の服装は普段からは考えられないカジュアルな服装で来ていた。
「時間がもったいないわ。急ぎましょ」
そう言って翼は踵を返し、歩き出した。
「すっごい楽しみにしてた人みたいだ…」
「誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだ!」
翼は照れ隠ししながら二人に言った。
「翼イヤーはなんとやら…」
早速三人は街へ繰り出し、様々な場所へ出かけることにした。
雑貨屋でマグカップを見たり、映画館で感動して涙したり、屋台の店で買い食いしたり、服屋で色々な服を買って着替えたり、翼が来ていることがバレそうになって隠れたり…。
「翼さんご所望のぬいぐるみは、この立花響が手に入れて見せます!」
響はゲームセンターのUFOキャッチャーの前で意気込んでいた。
「期待はしているが、遊戯に少しつぎ込みすぎじゃないか?」
スマホをかざしてボタンを叩くように押し、気合を入れるように叫んだ。
「変な声出さないで!」
もはやとてつもない額をつぎ込んだのだろう、怒りで叫び出した響を宥め、三人はカラオケの店へ入った。
「うおおおおー!!凄いッ!私達ってばすごーぃッ!トップアーティストと一緒にカラオケに来るなんて!」
すると、演歌が流れ出し、響と未来はお互いかと思って指を指すと、翼がマイクを取り、二人に一礼をした。
「一度こういうの、やってみたいのよね」
「渋い…」
[恋の桶狭間 歌:風鳴翼 作詞・作曲:上松範康]
「おおお〜…!」
「カッコイイ〜!」
やがて陽が落ち、辺りはすっかり夕暮れになっていた。
「二人とも…どうしてそんなに元気なんだ?」
翼は息を切らしながら階段を登り、響と未来はその上で翼を待っていた。
「翼さんがへばり過ぎなんですよ〜!」
「今日は慣れないことばかりだったから…」
「防人であるこの身は、常に戦場にあったからな…」
翼は響と未来を見て、風に吹かれる木を見た。
「本当に今日は、知らない世界を見てきた気分だ」
「そんなことありません!」
そう言って響は翼の手を引いた。
「お、おい!立花何を…」
響は翼を連れて公園の柵に捕まりながら街を見下ろした。
あまりの絶景に翼も言葉を失った。
「あそこが待ち合わせした公園です。皆で一緒に遊んだところも、遊んでないところも、ぜーんぶ翼さんの知ってる世界です!昨日に翼さんが戦ってくれたから、今日日みーんなが暮らせてる世界です。だから、知らないなんて言わないでください!」
「…!」
翼はもう一度街の方を向いた。
『戦いの裏側とか、その向こう側にはもっと違ったものがあるんじゃないかな。アタシはそう考えてるし、そいつを見てきた』
ふと、奏の言葉が蘇る。
「…そうか、これが奏の見てきた世界なんだな…」
「えっ!?復帰ステージ!?」
また次の日、響と未来は翼と学校の屋上で話していた。
「アーティストフェスが十日後に開催されるんだが、そこに急遽ねじ込んで貰ったんだ」
「なるほど〜!」
二人の手にはそのライブのチケットが握られていた。
「倒れて中止になったライブの代わりと言う訳だな」
響はチケットの裏の一部分、会場の名前を見て、あの時の記憶が蘇った。
「翼さん、ここって…」
奏が亡くなり、響の身体にシンフォギアが入ったあの場所である。
「立花にとっても、辛い思い出がある会場だな」
「ありがとうございます、翼さん!」
「響…」
「いくら辛くても、過去は絶対乗り越えて行きます!そうですよね!翼さん!」
そう言う響の目には一切の曇りもなかった。
「…」
翼は屋上に止まっている二羽の鳥を見て、もう一度前を向いた。
「私もそうありたいと、思っている」
そう言う翼の目にも、光が宿っていた。
そして十日後、翼のライブの日、響も当然会場に向かっていた。
すると、携帯が鳴り、電話に出た。
「はい、響です」
『ノイズの出現パターンを検知した!零くんと翼にもこれから連絡を…』
「師匠!」
『?どうした』
「現場には、私と零さんだけでお願いします。今日の翼さんには、自分の戦いに望んで欲しいんです。あの会場で、最後まで歌い切って欲しいんです!お願いします!」
弦十郎は少し驚いた様な顔をしたあと、ゆっくりと微笑み、再び顔を引き締めた。
『やれるのか?』
「はい!」
『だそうだ。零くん。サポートを頼む』
『合点承知!』
翼は会場で、零、響、そしてクリスはノイズと各々の戦いに望んでいた。
[FLIGHT FEATHERS Vo.風鳴翼]
会場のペンライトが全て青に染まる頃、クリスもノイズの群れの中で戦場を煙の白に染めていた。
しかし、巨大なノイズには傷一つ付かず、ノイズの大砲に寄ってクリスは吹っ飛ばされてしまった。
二発目の大砲が撃たれ、あわや命中するかと思われた次の瞬間、シンフォギアを纏った零と響が間一髪で割り込み、ノイズの攻撃を相殺した。
響はブーストして雷のようにノイズの間を通り抜け、次の瞬間地上にいた大量の小型ノイズは炭に変わった。
「ウルトラランスッ!」
零もウルトラブレスレットを変形させて一本の槍に変え、空中のノイズ達を一掃した。
巨大なノイズが二人を襲おうとした途端、今度はクリスが二人への攻撃を相殺した。
「貸し借りはナシだ!」
そう言ってクリスはノイズから距離を取った。
それを聞いて響は安心した様に笑った。
「さあ!行きましょう零さん!」
「ああ!」
零と響は再び構え、二手に分かれてノイズを倒し始めた。
「はっ!でやぁ!」「えりゃっ!」
響は拳と脚でノイズを次々と砕いていき、零もアイスラッガーを手に持ち、メビュームブレードを展開して迫ってくるノイズ達を切り裂いて行った。
そして、残された巨大なノイズ目掛けて地面を殴り、その振動派をノイズの真下へ送ってノイズを転ばせた。
響がアームドギアを展開している間に零とクリスは近くにいた小型ノイズ達を一掃し、響は巨大なノイズに強烈な拳の一撃を叩き込んだ。
そして、翼が歌い終わると同時にノイズも炭へ変わり、風に吹かれてその形を崩していき、零と響も安心した様に笑顔を見せた。
「ありがとう皆!今日は思い切り歌を歌って気持ちよかった!」
その声を聞いて、会場にいたファンも大歓声を翼に浴びせた。
「こんな想いは久しぶり。忘れていた。でも思い出した!こんなにも歌が好きだったんだ!聞いてくれる皆の前で歌うのが、大好きなんだ!…もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかってオファーが来てる。自分が何の為に歌うのか、迷っていたけど、今の私はもっと沢山の人に歌を聴いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても、歌で伝えられる事があるなら、世界中の人に歌を聴いてもらいたい」
それを聞いてファンは再び大歓声をあげた。
「私の歌が助けになると信じて、皆に向けて歌い続けていた。だけどこれからは皆の中に自分も加えて行きたい!だって私は、こんなにも歌が好きなのだから!たった一つのわがままだから、聞いて欲しい。許して欲しい。」
――許すさ。当たり前だろ?
どこかからか奏の声が聞こえたような気がした。
翼は知らない内に涙を流していた。
「…ありがとう!」
「アイツは敵だぞ!なのにどうして助けちまった…!ちくしょう…ちくしょうッ…!」
悔し涙を流しながらクリスは膝から崩れ落ちた。
今回はここまでです!
一期はそろそろ佳境にはいりますなぁ
次回もよろしくお願い致します!