響とクリスは森の中で交戦し、やがて響はクリスに鋭く、重い一撃を当てた。
[私ト云ウ 音響キ ソノ先二 Vo.立花響]
クリスが吹っ飛んだ道を描くかのように道がえぐれており、石垣も砕け煙をあげていた。
(なんて無理筋な力をしやがる…!この力、あの女の絶唱に匹敵しかねない…!)
響を睨みながらクリスは体を起こし、ネフシュタンの鎧も徐々に再生していった。
(食い破られる前にカタをつけなければ…!)
ふと響の方を見ると、響は何もしてこずにただ立って歌っていた。
「お前、バカにしてんのか!?アタシを!雪音クリスを!」
「…そっか。クリスちゃんって言うんだ」
響の顔には敵意は無かった。
「…」
「ねえクリスちゃん。こんな戦い、もう止めようよ。ノイズと違って、私達は言葉を交わすことが出来る。ちゃんと話をすれば分かり合えるはず!だって私達、同じ人間だよ!?」
「…ウソくせえんだよ…ウソくせえ…!」
クリスは有無を言わさず響に蹴りかかり、連続で回し蹴りを響に食らわせた。
少し時間も経っており、鎧の再生も完全になろうとしていた。
「クリスちゃん…」
「吹っ飛べよ!アーマーパージだ!」
クリスが叫ぶと鎧は粉々に砕け、周囲に飛び散って行った。
鎧ということもあり、森の中の木はいとも容易く折れた。
響が腕で防いでいると、歌が聴こえた。
「Killiter Ichaival tron…」
「この歌…」
見ると、クリスは響や翼、零と同じような光を纏っていた。
「見せてやる。イチイバルの力だ!」
「イチイバルだとッ!?」
司令室で様子を見ていた弦十郎は驚きを隠せないでいた。
「イチイバルって確か…!」
「ああ、失われた第二の聖遺物だ!」
「それが敵の手に渡っていたとは…!」
大我達三人も驚きながらモニターを見ていた。
「クリスちゃん…私達と同じ…!」
響の前には真紅のシンフォギアを纏ったクリスが立っていた。
「歌わせたな…アタシに歌を歌わせたなッ!教えてやる!アタシは歌が大っ嫌いだ!」
「歌が嫌い…?」
[魔弓・イチイバル Vo.雪音クリス]
すかさずクリスはボウガンを取り出し、赤い光の矢を響に向けて放った。
響はなんとか逃げ回るも逃げた先にクリスが先回りされ、強い一撃を貰って大きく吹き飛んだ。
クリスはボウガンを両手に持って変形させ、巨大なガトリングガンへと変えて連射する【BILLION MAIDEN】を放った。
倒れている響はなんとか素早く立ち上がり、避けようとするも、更にクリスは腰部からギアを展開し、無数のミサイルを発射する【MEGA DEATH PARTY】を放ち、追尾型のミサイルが響を追っていった。
大きな爆発が起きてもなおクリスは銃撃を辞めず、一通り撃ち終わった所で肩で息をしながら事の成り行きを見守っていた。
煙が晴れると、そこには巨大な盾のようなものが立っていた。
「盾…?」
「剣だッ!」
そこに立っていたのは盾ではなく、更に巨大な剣が刺さっており、その上にシンフォギアを纏った翼が立っていた。
「ハッ、死に体でおねんねと聞いていたが、足でまといをかばいに来たか」
「もう何も、失うものかと決めたのだ」
「おお!翼!」
「間一髪間に合ったぜ!」
翼の復活に喜ぶ大我達とは裏腹に、弦十郎は険しい顔でモニターを見ていた。
『翼、無理はするな』
「はい…」
「翼さん…」
響は剣の後ろに倒れながら顔をあげ、剣の上の翼を見上げた。
「気付いたか、立花。だが私も十全ではない。力を貸して欲しい」
響を見る翼のその瞳は以前とは違い、真っ直ぐに響に向けられていた。
「は、はいッ!」
そう言って響も立ち上がった。
[絶刀・天羽々斬 Vo.風鳴翼]
「ぬおおりゃああアーッ!」
クリスは再びガトリングガンを翼に向かって連射し、翼はそれらをしなやかに避けてクリスとの間合いを詰め、クリスに斬りかかった。
クリスもその斬撃を避けて翼に銃弾を撃ち込むも当たる様子はなく、クリスの後ろに飛んだかと思うとすぐに斬撃を放ち、後ずさったクリスの後ろにいつの間にか回り込んでいた。
(この女…以前とも動きが…!)
「翼さん、その子は…」
「分かっている」
クリスは後ろに向かってギアを纏った肘打ちを喰らわせようとしたが翼もそれを読んでおり、刀で受けてお互いに間合いを取った。
(刃を交える敵じゃないと信じたい…それに、八年前に失われた第二号の聖遺物の事も質さなければ…!)
そして、クリスが武器を構えた瞬間、上空から二匹のノイズが突進し、両腕の武器を破壊した。
「何ッ!?」
そして、もう二体のノイズがクリスに突進し、一体は響が、もう一体はなんとか間に合った零が体当たりで突き飛ばし、響はクリスが、零は翼が受け止めた。
見ると、零の額には沢山の汗が吹き出ており、胸のカラータイマーも早くも赤く点滅していた。
「お前ッ!何やってんだよ!」
「ありがとう…翼さん」
「礼には及ばない。立てるか?」
「すみません…きついです…」
「分かった。お互い無理はするな」
そう言って翼は零を近くの木に座らせ、剣を構えて周囲を警戒し、クリスは受け止めた響を座らせた。
「ごめん…クリスちゃんに当たりそうだったからつい…」
「バカにしてっ!余計なお節介だッ!」
そういうクリスの頬は赤く染っていた。
「命じた事も出来ないなんて、どこまで私を失望させるのかしら」
上空に四体のノイズが飛び、その下の高台には金髪の女性が杖のような物を持って立っていた。
「フィーネ!」
(フィーネ?終わりの名を持つ者…)
「こんなやつがいなくたって、戦争の火種くらいアタシ一人で消してやる!」
そう言ってクリスは響を突き飛ばし、それを翼は受け止め、その後ろに零も立った。
「そうすれば、アンタの言う様に人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」
フィーネは静かにため息をついた。
「もう貴方に用はないわ」
「…!…なんだよそれッ!」
フィーネは辺りのガレキを光の粒に変えて手に集め、渦巻き状にして下方に放った。
そして、先程のノイズが翼達に襲いかかり、翼は剣で、零は腕をX字に組んで青い光線を放つクロスショットを放ってノイズを一掃させた。
その間にフィーネは高台から飛び降りた。
「待てよ!フィーネェェー!」
そして、最後のノイズを倒している間にクリスはフィーネを追ってどこかへ行ってしまった。
零も追おうとしたが昴とのダメージが抜けきれていなかったのだろう、腹部に痛みを感じてその場に膝をついた。
「くっ…!大丈夫か?柊」
「…なんとか」
零は翼の手を借りて立ち上がり、シンフォギアを解除して基地に向かった。
「反応、ロスト!」
「こっちはビンゴです」
そう言ってスタッフの一人が一枚の新聞記事を司令室のモニターに映した。
そこには、幼い頃の雪音クリスが映っており、その写真の横には【ギア装着候補 雪音クリス】と書かれていた。
「なっ…どういう事だよ!?」
「あの嬢ちゃんも翼の嬢ちゃんと同じように適合者だってのか!?」
「ふむ…」
「あの少女だったのか…」
「雪音クリス。現在十六歳。数ヶ月前に行方知れずとなった、過去に選抜されたギア装着候補の一人だ」
司令室の扉を開け、資料を持って言いながら昴が入ってきた。
「昴…」
「調べるのに骨が折れたぜ」
そう言って昴は片手で資料を閉じた。
(奏が何のために戦ってきたのか、今なら少し分かる気がする…。だけど、それを理解するのは正直怖い。人の身ならざる私に受け入れられるのだろうか…)
翼はエレベーターの中で静かに虚空を見つめていた。
「自分で人間に戻ればいい。それだけの話じゃないか。いつも言ってるだろう?あんまりバチバチだと、ポッキリだ、って」
そう言って翼は静かに笑う。
「…なんてまた、意地悪を言われそうだ」
その翼の顔には安堵の表情が浮かんでいた。
(だが今更、戻ったところで何が出来ると言うのだ。いや、何をしていいのか分からないではないか)
エレベーターを降りる翼の脳裏に奏の声がこだまする。
(好きなことをすれば良いんじゃねえの?簡単だろ?)
声が聞こえたような気がして、後ろを振り返る。
そこには、ただ誰もいないエレベーターが閉まっていくだけだった。
(好きなこと…もうずっとそんなことを考えていない気がする。遠い昔、私にも夢中になれるものがあったはずなのだが…)
その頃、響と零は了子の元でメディカルチェックを受けていた。
「響ちゃんの方は外傷は多かったけど、深刻なものが無くて助かったわ。零くんの方は外傷は無いけど、疲労が溜まりに溜まってるし、ノイズが少ない時くらいなら響ちゃんと翼ちゃんに任せれば大丈夫そうね」
「良かった…零さん、来てくれた時も辛そうにしてたから…本当に良かった。次は任せてください!」
「…ありがとう、響ちゃん。でも、大丈夫。俺、まだやれる…ッ!」
起き上がろうとした零の身体に鈍い痛みが走り、再び身体を寝かせた。
「ここ最近、無茶なトレーニングのし過ぎね。一週間は出撃は出来ないわね」
「…そうですか…」
「響ちゃんの方は、常軌を逸したエネルギー消費に寄る…いわゆる過労ね。少し休めばまたいつも通り回復するわよ」
了子は二人に近付き、響もベッドから降りた。
「じゃあ、私…」
響が立ち去ろうとした瞬間、響は足から崩れ落ち、それを了子は受け止めた。
「だから休息が必要なの」
「私、呪われてるかも…」
それを聞いて了子はため息をついた。
「気になるの?お友達のこと」
「あっ、はい…」
「心配しないで大丈夫よ。緒川くん達から事情の説明を聞いているはずだから」
「そう…ですか」
「機密保護の説明を受けたら、すぐに解放されるわよ」
「はい…分かりました」
大我達四人は零の元にお見舞いに来ていた。
「よっ、調子はどうだ?」
見ると、髪の色も目の色も嘘のように元に戻っていた。
「調子は…どうかな…そんなに良くないかも…ちゃんと…役に立てなくて…足を引っ張るんじゃないかって…」
そう言って顔を両手で覆う零の声は震えていた。
「…イチイバルも敵の手に渡っちまっていたのは仕方ねえが、翼の嬢ちゃんは、ちゃんとお前を認めていたぞ」
「ああ。仲間のために伏せっている訳にはいかない、まして自分の代わりに共に響と戦ってくれていた事や、サポートしていてくれていた事にもちゃんと礼を言っていた」
「お前も響も、まだまだ半人前だけど、戦士には相違ない、ってな。完璧には遠いが、お前ら二人の援護なら戦場に立てるかも、って。嬉しいこと言われてるじゃねえか」
そう言われる零の身体がピクリと反応する。
「俺…ちゃんと役に立ててたかな…」
それを聞いて四人は頷いた。
「…ありがとう…そしてごめん…」
「何、今更気にすんな。もう切り替えていこうぜ」
昴の言葉に零はとめどなく溢れる涙を拭って強く頷いた。
(しかし、こいつの中のもう一つ人格が出来上がって来ているのもまた事実…どうしたもんか…)
「?どうした?ゼロ」
「ん?ああ、何でもねえよ」
「ふーん。まあ、それなら良いけど…」
「ああ…」
ただ、今の状態が円満であるとも言いきれなかった。
響は未来にシンフォギアの奏者である事もバレ、クリスも行き場を失ってしまったのである。
夜の街の中、クリスは一人歩いていた。
「何でだよ…ッ!フィーネ…」
響との戦いが思い返される。
話せば分かり合える。その言葉がクリスの琴線に触れていた。
「アイツ…クソッ!」
(アタシの目的は戦いの意思と力を持つ人間を叩き潰し、戦争の火種を無くす事なんだ…だけど…)
すると、どこからか子供の泣き声が聞こえた。
そこには、二人の男女の子供がいた。
「泣くなよ!泣いたってどうしようもないんだぞ!」
「だって…だってぇー!」
「おいコラ!弱い者をいじめるな!」
クリスは子供達に歩み寄りながら男の子に言った。
「いじめてなんかいないよ。妹が…」
男の子がそう言うと女の子がまた泣き出した。
「いじめるなって言ってるだろうが!」
「うわっ!」
クリスが拳を振り上げ、男の子に振り下ろそうとした時だった。
「お兄ちゃんをいじめるな!」
女の子が男の子の前に立ち、それを見てクリスも拳を下ろした。
「お前が兄ちゃんからいじめられてたんだろ?」
「ちがう!」
「?」
「父ちゃんがいなくなったんだ。一緒に探してたんだけど、妹がもう歩けないって言ってたから、それで…」
「迷子かよ。ハナっからそう言えよな」
「だって…だぁってぇー…」
「おいコラ泣くなって!」
「妹を泣かしたな!」
クリスが女の子に顔を近付けて言うと、今度は男の子がクリスの前に割って入った。
「あぁーもうめんどくせえ!一緒に探してやるから大人しくしやがれ!」
夜の繁華街の中、クリスは二人を連れて鼻歌を歌いながら子供達の父親を探して歩いていた。
「…?」
鼻歌に気付いた女の子はクリスの顔を見上げた。
「な、なんだよ…」
「お姉ちゃん、歌すきなの?」
「…歌なんて、ダイキライだ。特に、壊すことしか出来ないアタシの歌はな…」
そう言うクリスの声はどこか哀しそうだった、
すると、交番の前で男の子が父親らしき男性を見つけた。
「父ちゃん!」
男の子の声につられ、女の子もクリスの手を離れて男性の元へ駆け寄った。
「お前達、どこに行ってたんだ」
「お姉ちゃんがいっしょに迷子になってくれたー!」
「ちがうだろ。一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」
それを聞いて、男性はクリスに頭を下げた。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
「いや、成り行きだから、その…」
「ほら、お姉ちゃんにお礼は言ったのか?」
「「ありがとう」」
父親に言われ、二人の子供は声を揃えて礼を言った。
「仲良いんだな…。そうだ、そんな風に仲良くするには、どうすれば良いのか教えてくれよ」
そう言われて二人は顔を見合わせ、女の子は笑って男の子の腕に抱きついた。
「そんなの分からないよ。いつもケンカしちゃうし」
「ケンカしちゃうけど、なかなおりするからなかよしー!」
そう言われてクリスはハッとした。
「零の身体にもう一つ人格が生まれている?」
昴達四人は部屋の中で零のことについて話していた。
「ああ。タイガ、お前も以前似たような事があっただろ?怪獣リングを使いすぎて闇に堕ちてしまった事が…」
「…アレは今でも思い出したくないが、零も今その状態になりかけてる、ってことか?」
「ああ。今はまだ出来上がってる訳じゃないから心配する事じゃないが…俺の推測通りなら、零のやつが今持っている全てのカード、メビウスインフィニティーの力をシンフォギアに宿した時の反動で急速に人格が成長し、零の身体から剥離するんじゃないかと考えている」
「お言葉ですが、今の零君ならしっかり休ませて万全に動けるようになれば七枚全てを使わなくても戦えるのでは?」
「それが出来りゃあ、苦労はしねえ。何より、響や翼の事もあるし、アイツのシンフォギアはあの二人のものと違って、カードを使ってようやくあの二人と並べるか並べないか程度のものだ。それを自分自身の運動能力で補っているから、いつも以上に体も頭も酷使してるんだろうよ」
「…」
「…それじゃあ、仮に零が二人に別れたとしてよ。もう一人はどんな力を持つんだ?」
「分からない…俺達や零と同じように光の力を持つか、あるいは闇の力を持つのか…皆目見当もつかない」
「…そんな事態にならない事を祈るしかないなんてな…」
我ながら響と未来に興味無さすぎ問題