さっさと試験終わらせて学園編に行かなければタイトル詐欺になってしまう。
「フフフ……始まったね。さあ、一体何人合格できるかな?」
「いえ、合格者の枠数は初めから規定されてますから」
雄英高校ヒーロー科入学実技試験モニター室。
そこでは幾人かの試験監督者と雄英教師達が、始まったばかりの試験の様子を見守っていた。
「ウォオオオオオ!! 話せ、じゃなくてHA☆NA☆SE! 実況、俺に実況やらせろ!」
「止めてください試験ですよ! 事前に却下されたじゃないですか、落ち着いてくださいプレゼント・マイク!」
「シャアラップだ! 今の俺はMC・マイク!」
「いや五月蠅いのは貴方ですから!」
――――訂正。そうでない者もいた。
薄暗い室内、モニターの光が内部の人間を照らす中で、数人のスタッフ達が暴れるプレゼント・マイクを取り押さえていた。取り押さえられるマイクが必死に手を伸ばした先には、直前まで使用していた全体アナウンス用の音響機器が鎮座している。
それが今は。哀れヒーローに捕まった
「まったく……毎年毎年懲りない奴だ」
「HAHAHA、いいじゃないか相澤君。あの騒がしさに救われている人間もいるのさ」
「
ぎゅうぎゅうと押さえつけられるプレゼント・マイクを見て、相澤と呼ばれた男は眉間に皺を寄せ、かたや
彼らの目の前には大きなメインモニターが設置されており、丁度その中でくせっ毛の少年が大きく出遅れてスタートしている姿が映っている。並んでいるサブモニターも同様に多くの受験者たちが駆けまわっている。 なる程確かに、受験者たちが懸命に試験に挑む姿は手に汗握る物があるかもしれない。
まぁ、それにしても時と場合と限度という物があるのだが。
「ハッハー! 胸が躍って血が騒ぐ! この熱き鼓動の限界バトル、オレが実況しなきゃ誰がやるってんだ! それがMCとして、そしてデュエリス「いい加減うるさいし連れてって良いぞ」――ちょ待って牛尾! ゴメンゴメンせめて見させて――――」
大柄な主任の命令を忠実に守り、プレゼント・マイクを部屋の外へ引きずっていくスタッフたち。悲観に暮れるマイクの叫びは、冷たく分厚い防音防火耐衝撃機能付きの扉によって冷酷に遮られてしまった。
「――――とまあ、ココまでが毎年の流れなんだけど、どうかなオールマイト。緊張しているようだけど」
ポンッと膝を叩いて恒例のお約束を一区切りを入れながら、根津は隣席のまるで骸骨のように痩せた長身の男に話しかける。
「え、ええ、その、マイクのあの騒がしさに救われている人間もいますから」
「それもう僕が言ったよ。そんなに食い入るようにモニターを見て……気になる子でもいたのかい?」
「え!? あ、いやぁ、どうですかねぇ。 ハハハ……」
オールマイトと呼ばれた痩せぎすの男は目を泳がせた。まさか気にするどころか気にかけている受験者がいるとは大っぴらに言えるはずも無く、ワザとらしい笑い声をあげて誤魔化す他無かった。というか分かっててやってるのだろうこの小動物は。
「と、ところで入試の雰囲気でしたっけ? なんか記憶してたより
「――――気の所為なんてもんじゃない。校長、これは一体何の冗談ですか? 敵ロボの数が異常です」
誤魔化しの戯言はしかし、真実となって受け止められた。
数十年ぶりに試験を目にするオールマイトと違い、相澤は毎年のように目にしている。故に気が付いた。今年の実技試験が昨年までと大きく変わっている事を。
「そう、今年の試験は――――いや、雄英高校は一味違う」
問い詰められた根津は小さなカップに入れられたコーヒーにミルクを足しながら返す。注がれたミルクが真っ黒な波紋に白く渦巻いている。
「先日、前の供給会社が合併吸収されてね。合併元の新会社が今の供給会社さ。以前の会社と合併元の会社、双方の技術が合わさって色々とバージョンアップしたのさ」
「……初耳なのですが」
「なにしろ急な合併だったからね。試験に間に合うように主任の牛尾君には骨を折ってもらったよ。伝えるのが遅くなってすまなかった」
「だったらもっと感謝してくださいよ……ここ数日寝れてないんですから」
そう言って三人の元に、牛尾と呼ばれた試験主任の男がくたびれた姿で資料を手にやってきた。よく見ると目の下に隈ができており、無精ひげも手入れがされていない様子だ。
居た堪れない気持ちになりながらも、相澤とオールマイトは沈痛な表情で資料を受け取った。
根津は満面の笑みで受け取った。
「具体的に言うとロボの数が初期投入の時点で前年度の三倍、予備投入分含めると十倍になっている。スペックに関しては全身のフレームを最新のパーツに変更して従来の倍の性能を発揮、更にはAIも軍事用の物を導入して個体ごとに情報をリンク、戦術レベルの連携行動を取る事ができるようになったのさ!」
「……なる程、だから一体何人合格できるか、ですか。より網の目を細かくして振るい落とされる数を増やす、確かに後から除籍するよりかはよっぽど合理的ではありますが……」
もっとも合格できるものがいるとしたらですが、という呟きは周辺機器の電子音に紛れて消えた。
合理的な性格の相澤は根津の説明に一応の納得を示しつつも、疑わしげに資料を捲っている。オールマイトといえば資料半分、モニター半分で視線を言ったり来たりさせながら忙しそうに話を聞いている様子だ。
そんな二人の姿を見ながら、根津はコーヒーを一啜りして全てのモニターをぐるり眺めた。
「社会、学園、僕たち教師とヒーロー、そして彼ら、
「はい! 現在、初期投入数の五割、いえ、六割が撃破されている状態です。投入数が違うので一概には言えませんが、単純な撃破ペースは昨年度の一.五倍となっております」
モニターを操作する女性オペレーターの回答に満足そうに頷いて、根津はカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
カップが空になった時、柔和だった表情は一変、鋭さをもってモニターに映るすべての受験者に向けるかのように宣言した。
「よし、予備投入分の起動、そして例の新型を投入しようじゃないか。牛尾主任、やってくれたまえ」
「……マジでやるんですかい? いや命令なら従うしかないんですがね」
「……新型?」
相澤の疑問の声を気に掛ける事無く、牛尾と呼ばれた主任の男は冷や汗をかきながらも、席に備え付けられていたタッチパネルを操作する。太い指が見かけによらず器用にパネルの上を踊り、最後に人差し指のステップが赤い決定ボタンをタップした瞬間、部屋内の危機に赤い光が走りブザーが鳴り響いた。
『命令を受諾。新型敵ロボの投入を開始いたします。同時に、メタ・デュエリストプログラム始動。戦術レベル制限を解除いたします』
「――――さて、ここからが本当の試験だよ。受験者の諸君」
不敵に呟き正面のメインモニターを見つめる根津。釣られるように相澤たちも視線を動かすと、そこには複数の受験者たちが今まさに敵ロボの群を撃破した姿が映っていた。
最前面の少年――逆立った金髪で電気を纏っている――が足元に転がってきたロボのパーツを蹴飛ばしながら勝ち誇っている。
『へへっ、最初はちょっとビビったが大した事無いな! こんな鉄屑、オレの個性でイチコロだっつーの! オラオラ、矢でも鉄砲でもかかって来いよ!!』
まさに有頂天。無駄に電気をバリバリと放出して格好つけて言い放つ言葉は、しかしその場全員の代弁だったのだろう。皆一様に自信に満ち溢れた顔をして次なる獲物を探し求めている。
『この辺の敵は全部倒したっぽいね。急いで場所を……え、何の音――――――』
ふと、一人の受験者の耳――『個性』だろうか、イヤホンジャックが伸びている――が聞き覚えの無い音を捉えた。数秒後、その音は他の受験者の耳にも届いた。
低く鋭く、それでいて荒々しい。まるで巨大な重量物が風を切って高速で移動している様な音だ。
ふと最前線の少年は、自身の身体に影が差している事に気が付いた。
その影は何故かドンドンと大きくなってきて、それと同時に重い風切り音もボリュームを増して――――――。
『へっ……ちょ、うぉおおおおおおおおお!?』
ふと、上空を見上げた電気少年の目には、謎の巨大な物体が自身めがけて落ちてくる光景があった。
間一髪、かっとぶように身を転がらせてその場を離れた直後、その物体は轟音を上げコンクリートの道路を粉砕して
『あ、あっぶねえ! 一体何が――――――』
『GunGungaaaaaaaaaan!!』
その右手は拳銃であった。
その左手も拳銃であった。
そしてその頭部もリボルバー拳銃であった。
全身に三丁のリボルバー拳銃を備えた、鋼鉄の機械龍がそこに存在していた。
『……へぁ?』
『Russian roulette start!!』
呆然とする電気少年と受験者たち。それを眼中に入れていないかのように、その獣の魔獣は
甲高いモーター音を上げて回るチャンバー。まるでカジノのスロット、いや、ルーレットのような――――
ガチンッ!! カチッ! ガチンッ!――――音が鳴りルーレットは止まった。
すなわち、処刑の選定は完了したのだ。
『Gun-cannon shot fire!!』
軍事用AIが全ての工程を完了させ、見えない指で引き金を引いて、空を揺るがす
弾丸が放たれてから反応できる人間など、どれほど存在するだろうか? まして十代半ばの少年少女にそれを求めるのは、あまりに酷というものだ。
『え、ぐぇえ!!?』
『ぎょええ!!』
身動き一つ、声の一つも上げられず。放たれた二発の弾丸は電気少年の頭部をかすめ、すぐ背後にいた二名の受験者に直撃、内蔵された火薬に着火し、爆炎を吹き荒らした。
『………』
ビル壁に反響した発砲音が受験者たちを包む。大音量の爆音による耳鳴りが彼らの鼓膜を揺さぶる。しかしそれらと反対に、受験者たちは何も言わず凍りついている。
煩い程の沈黙。それは、爆風に高く舞いあげられた二名の受験者がゴミのように地面に叩き落とされた事で、終わりを迎える事となった。
『ホ……ホントに鉄砲が来たぁああああああああ!!?』
先程までの楽観ムードが嘘のように、阿鼻叫喚に陥る参加者たち。
そしてその声を聞きつけたかのように、新たな敵ロボが降り注いでくる。
オートマチック拳銃の頭部を持った鉄の恐竜、銃口が二つ重なった顔をした機械ラプター、そして棘付き車輪の下半身を持った顔面ガトリングの三つ首のドラゴン。
『GanGannGoaaaaaaaaaaaa!!』
凶悪な銃器の頭部を持った
『な、な、な、な――――何だこいつらぁあああああああ!!?』
――――質問の答えは、撃鉄の上がる音。弾薬が装填され、頭部ごと銃口を受験者たちへと向ける。その動作に一欠けらの躊躇いも無く、その眼差しに一切の揺らぎも無い。
『
冷酷に冷徹に、
「……校長。あれは、一体、なんですか?」
メインモニターに映し出される惨状に言葉を失いかけながらも、相澤は絞り出すように問いかけた。目の前の惨劇は一つだけではない。視線を少し動かせば、また別のモニターに正体不明のロボが受験者たちに牙を剥いている光景が浮かび出ていた。
直前までの受験者たちのイケイケな展開と打って変わって、多量の物量を以て蹂躙をする機械の軍勢に、室内の人間の多くは白目を剥いて絶句するか、冷や汗をかいて呆然としていた。
――――極一部、「クオリティ高いわね」とか「コミック版の効果じゃねーか」とポップコーン片手に鑑賞する教師たちの姿もあったが。
そんな彼らの目の前で、根津は新品のケースから煙草を一本取出しながら、高笑いをした。
「HAHAHAHA! これが新型の敵ロボさ! グレードアップされただけの通常敵ロボと違って個性豊かな外見、更にチューンされたAI、会場全域の受験者を捕捉できる索敵機能、そして個体ごとに専用の武装と機能を兼ねそろえた最新鋭の戦闘マシン! それがユニークタイプ敵ロボ! お値段撃破ポイント共に3ポイント敵ロボと据え置きとなっております!」
まぁ、実際は5~7ポイント相当の強さなんだけどね! と狂った笑いを上げる根津。
呆然とする周囲の中、いち早く正気に戻ったのは最高のヒーロー、オールマイトであった。むせ返りそうな口を押えながら、慌てたように根津へ問い詰める。
「だ、だだだ大丈夫なんですか? 物凄く爆発したり吹っ飛ばされたりしてますけど大丈夫なんですか!? 大丈夫なんですよね!?」
「そして校長、私は別に性能を聞いてる訳じゃないんです。なんであんなのが会場にいるのか聞いているんです」
「あと校長、気になってたんですが見た目とかの版権ってコレ、大丈夫なんですか?」
オールマイトに続いて相澤、牛尾が質問を叩きつけるも、根津はゆったりとした動作で煙草に火を点け、その小さな口に遊び咥えながらにっこり笑って指を一本立てた。
「まず大丈夫かどうか、これは概ね大丈夫だよ。内蔵されているのは軍用AIだが、そこに特注で非殺傷プログラムを書き加えてもらった。攻撃以外でのダメージや予期せぬアクシデント、そして一部例外の受験者を除いて、怪我はすれど死にはしない絶妙な手加減を行っているのさ! で、続いて牛尾君の質問だけれどもこれも大丈夫! 何せ取引先の会社が会社だからね!」
自慢げに語られた安全性に頬を引き攣らせて笑みを浮かべる相澤。
その表情を見て、納得を得られたとばかりに根津は三本目の指を立てて続けた。
「で、最後の相澤君の質問、何故あんなモンスターマシンを投入したか。いやね、僕も最初は考えたのさ。未来の可愛い生徒たちのためとはいえ些か厳し過ぎやしないか、やり過ぎていないか、趣味に走り過ぎてないかってね。でもね――――
『
――――ってその取引先の社長に言われてねえ」
両手を上げて困ったように言う根津。いつの間にか吸い終わった煙草を灰皿に押し付けられて潰れていた。
何とも言えない雰囲気。何と言えば良いのか分からず沈黙は続き、しばらくして相澤が絞り出すように言葉を発した。
「……校長。これテストプレイしたんですよね。試験運用済みですよね?」
それはあくまで形だけの確認。必要のない質問。
雄英高校校長、根津。その頭脳で数多のヒーローを育て上げ、送り出してきた人格者。
その男――――鼠が、まさか、そんな事はないだろうと、あくまで確認のため、場を繋ぐ為の質問を相澤は口にしたのだ。
その期待に応えるように、根津はヒーローの鏡のような笑みを浮かべて、ハッキリと答えを口にした。
「試験? HAHAHA、何を言っているだい!
――――まさに今している最中だろう」
HAHAHAと高笑いをする根津。黙って目を背ける牛尾。それを
彼らを照らし出すメインスクリーンに敵ロボの残骸が表示され、最新鋭の高画像モニターが装甲に刻まれているロゴマークを鮮明に映し出していた。
――――KC、という企業ロゴを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ドロー! 魔法カード、ブラックフェザー・シュート発動! 手札から「BF」を一体墓地へ、相手の守備表示モンスターを墓地へ送還!」
黒羽を纏った竜巻が金属性の巨体を木の葉のように舞い上げる。クルクルと錐もみ状態になった2ポイントの敵ロボはオートバランサーで体勢を直す事も叶わぬまま、中空からその巨体故の凶悪な落下速度で地面に叩きつけられた。敵ロボの内部回路が衝撃で狂い、紫電を走らせながらショートし、やがて足元に転がるガラクタが新たに一つ、数を増やした。
それを確認するまもなく新たに五機――内一体は巨大なドリルの鼻をしたモグラ型のロボ――が囲み込むように強襲する。それを見逃す決闘者ではない。目元の汗を拭いながら自身の、そして
試験会場内中央付近エリア。五階建てのビルの屋上で決闘者は敵ロボたちと追いつ追われつの攻防を繰り広げていた。
「俺は銀盾のミストラルを守備表示で特殊召喚! バトルフェイズ!」
決闘者の激に応えるように、フィールド上のBFたちが武器を構えて敵ロボへを迎え撃つ。
シムーン、ブラスト、シュラ、そしてアームズ・ウィングが襲い掛かる敵ロボの群を食い止めるが、一体の敵ロボ、モグラ型のロボが間を縫うように距離を詰め決闘者に襲い掛かる。
『
ソレをさせじと銀色の顔当てをした黒鳥、ミストラルがモグラロボの前に立ち塞がり、高速回転するドリルの一撃を受け止める。鋼鉄と銀が拮抗し甲高い金属音が鳴り響くが、やがてドリルの槍が銀の盾を食い破り、黒羽で覆われた身体を引き裂いた。
「すまないミストラル。だが助かったっ、ぜ!」
感謝の言葉もそこそこに、決闘者は横っ飛びにその場から離れる。数瞬後、白煙を引いて飛来してきた小型ミサイルが弾着し爆炎を上げた。振り向けば、十メートル程離れた所にミサイルランチャーを背負った蜘蛛型のロボがこちらを照準を合わせていた。
「TM-1ランチャースパイダー、それにドリルロイド……型の敵ロボか。良い趣味してる」
舌打ちと共に吐かれた軽口に、新型の敵ロボ――――ランチャースパイダーはミサイルの再発射で返礼した。
広がるように発射されたミサイルたちは上空、そして左右へ弧を描き決闘者を包囲する。逃げ場の無い決闘者にミサイルの雨が突き刺さる。
「――――アームズ・ウィング!!」
決闘が大きく叫び、アスファルトを強く蹴って空中へ跳んだ。着弾寸前、空中で身動きが取れない決闘者にミサイルがぶつかろうとした時、黒き神風が間隙を裂いて己が主人の身体を攫った。
BF-アームズ・ウィング。一足先に敵ロボを撃破した彼が、決闘者を抱きかかえて襲い掛かるミサイルの群をすり抜ける。絶え間なく襲いかかる衝撃と爆炎から逃れる姿はまるで踊っているかのようだ。
――――もっとも、その激しい
「ぐ……っ、助かったぜ。さあ、お返しだ! リバース
《ゴッドバードアタック》
通常罠
①:自分フィールドの鳥獣族モンスター1体をリリースし、フィールドのカード2枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「俺はシムーンをリリース! 生贄を捧げられし神鳥よ! 我らが敵を打ち砕け!」
シムーンの身体が光の粒子に変わり、やがて二羽の光の鳥へと形取る。
二羽の光鳥は翼を強く羽ばたかせると応じるようにその身体は輝きを増し、二体の敵ロボ――――ドリルロイドとランチャースパーダーへと光の矢となって飛翔した。
光速の一撃から逃れられるはずも無く、二体の新型敵ロボは身動き一つできぬのまま光の矢で鋼鉄のボディを貫かれ爆散した。
『
「……っ、上だ、アームズ・ウィング!」
休む間も無く、決闘者は自身に差す影を察知し警戒を促す。アームズ・ウィングが視線を上げると、上空から新手の敵ロボが数機、奇襲を仕掛けて来ているではないか。先陣を切っているのは、全身のあらゆる箇所からドリルを生やした凶悪な人型ロボットだ。唸りを上げる螺旋槍の狙いはただ一人、決闘者へと向けられている。
「ドリラゴ!? だが、
『――――大事な試験にゲーム感覚で挑むような者に、ヒーローの資格は無い』
罠カードが存在するから発動しない、そう考える決闘者の脳裏に試験前に耳にした言葉が浮かび上がる。
「……ッ! トラップ発動、BF‐バックフラッシュ!」
《BF-バックフラッシュ》
通常罠
自分の墓地に「BF」と名のついたモンスターが5体以上存在する場合、相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
デュエルディスクの墓地からオーラが吹き出し、
「シュラの効果でBF-東雲のコチを守備表示で特殊召喚。手札から死者転生を発動、手札を一枚捨て墓地のミストラルを手札にサルベージ、カードをセットしてターンエンド……ふう」
周囲を見渡し敵ロボの姿が無い事を確認した決闘者はターンエンド宣言をした後、大きく息を吐いた。それを合図にしたかのように、戦闘を終えたBFたちが決闘者の元に帰還する。幸い、このターンでは誰も撃破はされる事は無かった。
「やれやれ、機械の相手はデュエルロボだけにしてほしいぜ」
文句を言いながら息を整え、学生服の袖で額の汗を拭う。身体能力とタフさに定評があるデュエリスト、幸いにも敵ロボからの攻撃は受けておらず怪我一つ無い。相手の攻勢が収まった今の内に少しでも体力を回復させようとその場で片膝を突く。
――――その時、背後でアスファルトを踏みつける音が聞こえた。
「っ!……と、何だ常闇君か、ちょっとビビったって」
反射的に振り向きディスクを構えた決闘者の視界に入ったのは、敵ロボではなく試験開始前に言葉を交わした
「勝手に驚け……それより貴様、何ポイント獲得した」
ホッとする決闘者に対し鼻を鳴らしながら言葉少なく問いかける常闇。
投げかけられた質問に、視線を中空へと向けて決闘者は今まで倒した敵ロボの事を思い浮かべた。
「……30ポイントから先は覚えてないな。ロボ自体は五十体は倒したと思うが」
「ちっ、俺も似たようなものだ」
舌打ち一つ、忌々しげに遠く会場を見渡す常闇。直前まで決闘者同様、敵ロボと戦闘を行っていたのだろう、纏っている服は所々汚れていた。
「しかし、敵ロボを探すんじゃなくて、敵ロボから身を隠す事になるとはな」
試験の説明でプレゼントマイクは、1から3ポイントの敵ロボ、そして0ポイントのお邪魔ユニットが存在していると言っていた。確かにそれは間違っておらず、今まで戦った全ての敵ロボの外装にポイントと思わしき数字が表記されていた。
だが同時に、各ポイントの敵ロボが全く同じ姿をしているとは一言も口にしていなかった。多くは特徴の無い機械然としたロボが殆どであったが、ごく少数、先程の特徴的な見た目の――――何故かデュエルモンスターズのカードに描かれているモンスターの姿をしたユニークタイプのロボが紛れ込んでおり、その特出した戦闘力で受験者たちに猛威を振るってきたのだ。
それは自分にとっても例外ではない。決闘者は溜息を吐いてデュエルディスクのセットカードとLPカウンター、そして墓地のカードを見ながらそう思った。
ここまで、おそらく順調にポイント獲得を進めている決闘者ではあったが、それは決して一方的な展開では無かった。ノーマルタイプの敵ロボは手こずる事無く撃破していたが、ユニークタイプにはそれ相応に手を焼いている現状だ。
現に今フィールドに出ているブラストは二体目、一体目は一ターン目の奇襲で相打ちになっており、その際に二ターン目に特殊召喚していた空風のジンなど数体のモンスターを撃破されていた。
倒しても倒しても、休む事無く次から次へ途切れる事無く甲鉄の波が押し寄せてくる。狩られる立場であるはずの機械は、狩るべき者たちへ反逆の牙を突きたてる。
まさに、
「それにしても、ロボのデザインといい戦術といい……どうにも
先程撃破したユニークタイプの残骸を視界に入れながら決闘者は呟く。どう見てもデュエルモンスターズのカード、TM-1ランチャースパイダーとドリルロイドをモチーフにしたデザインだ。しかもわざわざモンスター効果まである程度再現しているという手の込みようだ。
そして気の所為ではないだろうが、何故かユニークタイプの敵ロボは決闘者――――いや、デュエリストを捕捉するや否や明らかに動きが良くなり、より一層苛烈な攻撃を仕掛けてくるようになっていた。
しかもターン優先権やフェイズ移行を無視して攻撃を仕掛けてくるのだ。流石の決闘者も――――いや、デュエルに慣れている決闘者だからこそ戸惑い、手こずらされていた。
「と言うよりも、わざと横紙破りな戦闘行動をとってるな、コレ」
脳裏を過ぎった疑念はやがて確信へと変わる。
そうだ、わざわざデザインを似せているという事は製作者はデュエルモンスターズを知っているという事。ならばそのルールも把握しているはず。
思い返してみれば、やけにAIが高性能というか小賢しいというか、スタンバイフェイズ中に攻撃してきたり、バトルフェイズに割り込んできたりとあきらかに
「ルール無用のプレイングは、今の俺ではフィールが足りなさすぎる。せめて多対一にならないように――――――」
しなければならない、という決闘者の言葉は、大気を切り裂く機動音によって掻き消された。
「ちぃ、新手か!?」
警戒の声を上げて常闇と黒影が、少し遅れて決闘者も戦闘の構えを取って辺りを見渡す。
決闘者と常闇、そして黒影が張り巡らせる視線の警戒網。そこへけたたましい駆動音を唸らせながら新たに五体のロボが二方向から挟みこむように強襲を仕掛けて来た。
「――――あ、これはヤバイって」
『
見覚えのあるデザインを目にして、決闘者の口から思わず声が漏れてしまった。
視界に映る五体の敵ロボ。ドラゴンや虎、キャタピラタンクなどの形状をした敵ロボの軍勢はカラフルな装甲を纏い屋上の決闘者たちを移動しながら包囲している。
獲物を狙う猛禽類の如くカメラアイをギラつかせる敵ロボはやがて、二手に分かれて決闘者たちを挟みこんだ。
「挟撃する気か! チィ、そちらの二機はくれてやる! 俺はこちらの三機を――――――」
「――――いや、相手にするのは
視線を前方の二機――――虎を模した戦闘機と大型のブースターユニットを見据えつつ、背後にも気を払い決闘者は常闇の言葉を訂正した。
その言葉に返答するように、取り囲む敵ロボから電子音が響き渡った。
『CALL・XYZ! 〈X-ヘッド・キャノン〉、〈Y-ドラゴン・ヘッド〉、〈Z-メタル・キャタピラー〉、combine!』
『CALL・VW! 〈V-タイガー・ジェット〉、〈W-ウィング・カタパルト〉、combine!』
ボディに備えられたスピーカーから発せられる電子音声が掛け声となって、常闇方面の敵ロボ――赤い翼竜型の戦闘機、肩にキャノンを装備した青い兵士、キャタピラを回す鋏を持った黄色いタンクの三体――が縦に重なるフォーメーションを組みあげた。
同様に、決闘者の真向かいの二機も編隊を組んでシークエンスに入る。
誘導レーザーが機体を結ぶように空間を走り、それに導かれて三機と二機は距離を縮めてゆき、そして零になる。稲妻の鎖が機体同士を結び付け、装甲の一部が変形して連結を完了させる。
『Complete! 〈XYZ-ドラゴン・キャノン〉、Unionited!』
『Complete! 〈VW-タイガー・カタパルト〉、Unionited!』
「なぁ……っ!?」
『ガッタイシタァ!』
そう、合体した。三機が数多の砲塔をギラつかせる人型戦車に、二機が虎頭を持つ大型ファイターに。全身の装備をギラつかせながら、二体の巨大敵ロボは降臨した。
――――決して、重ねて乗っけただけとは言ってはいけない。
『
呆けている暇など無かった。二体の大型敵ロボは駆動音を唸らせながら、全身の兵器を決闘者たちへと狙いを定める。最新型のデュエルAIによって、目標の演算、照準はコンマ一秒も掛かる事無く完了し、間髪開けずに砲弾の嵐を吹き起こした。
砲弾が、ビームが、ミサイルが、暴力の嵐となって襲い掛かる。
『……Croww!!』
あわや、身動き一つとれない常闇たちを守ったのは、実体と化したBFたちであった。
東雲のコチ、そして蒼炎のシュラが文字通りその身を盾にして二人と一体を砲弾の雨から守り抜き、光の粒子となって消え去った。
「だが、攻撃したな! そっちのバトルフェイズが終わったなら――――」
『――――CALL・ABC! 〈A-アサルト・コア〉、〈B-バスター・ドレイク〉、〈C-クラッシュ・ワイバーン〉、combine!』
言い切る間もなく、真後ろから聞こえてきた電子音声に背筋が凍り、咄嗟にその場で身を伏せる。
まさに間一髪、頭上スレスレを三機の敵ロボがフォーメーションを組んで通過して行った。あと少し伏せるのが遅れていればその超重ボディで跳ね飛ばされていたところだ。
「おい、何回通常召喚するつもりだ」
ターン終了宣言はよ、との決闘者の呟きは新たに現れた三機の敵ロボの電子音声に掻き消された。
黄色い蠍のようなタンクに二機のドラゴン型の敵ロボ――ラプトル型とプテラノドン型だ――が自身を構成するパーツを分離しながら距離を詰め、そして二頭を持つ恐竜戦車へと合体を完了させた。
『Complete! 〈ABC-ドラゴン・バスター〉、Unionited!』
「囲まれたっ……! おのれ、次から次へと!」
三体――――正確には八体の敵ロボは決闘者たちを囲い込み逃げ場を無くす。今彼らの前には24もの撃破ポイントがある訳だが、今は喜びの欠片も無い。
『
無情にも、再度撃鉄は落とされる。銃砲から光が溢れ出さんとする。三方を抑えられた包囲網の逃げ場は無い。逃げ場は――――――
「上だ! ブラスト、アームズ・ウィング!」
すんでのところで、二陣の風が決闘者と常闇を空中へと連れ去った。直下の爆風を後押しに立体駐車場を離れ、三体の敵ロボ繰り出す光線の網を黒風がすり抜けて距離を離す。
「……移動は待機モーションの一部という事で、攻撃でも表示形式変更でもない。そう言う事にしておこう」
そう言う事になった。
「おい! 何を勝手な事をしている、離せ!」
「じゃあ自分で飛べ! その烏面と黒影くんは飾りかよ!」
『カザリダヨ! トベナイヨ!』
「スマン! 悪い事を言った、本当にスマン!」
ギャアギャアと喧しく空中で喚きあう二人と一体。気の所為かBFたちもうるさそうに翼をはためかせている。だが、そんな事は背後の敵ロボには関係ない。ひたすらにスラスターを蒸かし追撃のビームを放ってくる。
「ちぃっ、いつまで逃げ回っている! このまま逃げ回っていても刻限が来て終幕だ」
「……ユニークタイプの敵ロボはデュエルモンスターズのカードを模してデザインされている。そしてそれは見た目だけじゃなく、効果も機能として再現している……だが、完璧に再現できている訳じゃない! なにより、デザインと効果を模倣しているという事は、その能力を推定できるっていう事だ!」
アームズ・ウィングに抱きかかえられたまま体勢を変え、追跡してくる三体の見据えながら考えを張り巡らせる。
「ライフポイントも心許ない、ここは相手の力を利用するか……問題はどっちの〝融合〟で来るかだが――――」
『CALL・――――――』
果たして、決闘者の呟きに答えるように猛追する敵ロボが四度目の合体シークエンスの開始音を鳴らす。空を駆ける逃亡劇に決着をつけるべく、
『――――AtoZ! 〈ABC-ドラゴン・バスター〉、〈XYZ-ドラゴン・キャノン〉、combine!』
「AtoZ! 来るか、ドラゴン・バスターキャノン!」
その名に応えるように、閃光が舞い機械の身体が再構成されてゆく。
双頭の龍戦車と半人の砲台が機械音を立てて合体を解除し、そして再度紫電の鎖を繋いで合体を果たす。X-ヘッド・キャノンがZ-メタル・キャタピラーの背に乗り、キャタピラーの装甲前面にB-バスター・ドレイクとC-クラッシュ・ワイバーンの首が接続される。Y-ドラゴン・ヘッドとA-アサルト・コアが連結し長い尾を持つドラゴンとなり、背部装甲を展開して先の四体を背負うように装着する。その他細部パーツが音を立てて装着された時、そこに巨大な
『Complete! 〈
「っ、なんという……っ!」
吹き荒れるプレッシャーに常闇は言葉を失う。六体分の武装、AI、パワーを内包した巨大な存在は関節部分から余剰エネルギーを吹き出しながら逃げ惑う獲物を見下す。
やがて、逃げるのを諦めたように二体のBFは決闘者と常闇たちを三階建ての立体駐車場の屋上へと降ろす。
『
逃げ道を失った目標に照準を定め、ドラゴン・バスターキャノンの全身の砲塔にエネルギーが充電されてゆく。閃光を反射するカメラアイが雄弁に物を言う、これで終わりだと――――――
「――――それはどうかな!」
それを、逆襲の言葉が真っ向から切り返す。言葉を放った口に不敵な笑みを浮かばせ、決闘者は宣言する。
「
《エネミーコントローラー》
速攻魔法
①:以下の効果から1つを選択して発動できる。
・相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
その相手の表側表示モンスターの表示形式を変更する。
・自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。
《破天荒な風》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力・守備力は、次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。
常闇を降ろしたブラストが光と消えると同時、巨大なゲームコントローラーが決闘者の背後に現れ、そこから伸びたコードが合体からあぶれていたVW-タイガーカタパルトに接続される。
「洗脳コマンド入力! ↓→↓←AC!」
ボディを振って抵抗するタイガーカタパルトに構わず決闘者はコマンドを口にすると、コントローラーはその通りにキーを押しこんでいく。最後のコマンドを入力した時、タイガーカタパルトカメラアイが赤く光り、AIのハッキングが完了した事を知らせた。
「バトルだ! VW-タイガーカタパルトでAtoZ-ドラゴン・バスターキャノンに攻撃!」
破天荒の風で強化されたタイガーカタパルトが、カメラアイから赤い線を引きながらドラゴン・バスターキャノンに突貫していく。だがドラゴン・バスターキャノンは怯む事無く、嘲笑うかのように機械の咆哮を上げる。
勝敗の行方は明確だ。例え強化されていても
――――何もしなければ、だが。
「この瞬間、俺は墓地のタスケルトンの効果発動! 攻撃を無力化する!」
《タスケルトン》
効果モンスター
星2/闇属性/アンデット族/攻700/守600
モンスターが戦闘を行うバトルステップ時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
そのモンスターの攻撃を無効にする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
「タスケルトン」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
先の戦闘、死者転生のコストにしていたタスケルトンが墓地から舞い戻る。デフォルメされた黒豚が土煙を上げながらタイガーカタパルトとドラゴン・バスターキャノンの間に割って入る。丁度二体の真ん中に辿り着いた時、地面を強く蹴って跳躍したタスケルトンは身体を風船のように大きく膨らませ――――――
――――タイガー・カタパルトの攻撃を無効化した。
「何をっ!?」
『!?!?!?』
常闇も〝黒影〟も、ドラゴン・バスターキャノンですら驚愕の表情を浮かべ混乱する。
ぼよんっ、と音を立てて突撃の勢いそのまま真上に弾き飛ばせれるタイガー・カタパルト、その真下をドラゴン・バスターキャノンの迎撃の集中砲火が空を切って通り過ぎる。
役目を終えたタスケルトンは、皮を脱ぎ捨てるように骨の身体を吐き出して消えていった。
何故、負けると分かっている突撃命令を出したのか。何故、その無謀な攻撃をわざわざカードを使って取り消したのか。謎のプレイングに、ドラゴン・バスターキャノンのAIは理解不能とばかりに音を立てて演算を繰り返す。
そしてそれは、決闘者を前にして行うには致命的な隙であった。
してやったりと笑みを浮かべた決闘者は、先のターンに伏せていた魔法カードを翻した。
「ここだ! タスケルトンの効果にチェーンしてリバースオープン! ダブル・アップ・チャンス発動!」
《ダブル・アップ・チャンス》
速攻魔法
①:モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスター1体を対象として発動できる。
このバトルフェイズ中、そのモンスターはもう1度だけ攻撃できる。
この効果でそのモンスターが攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの攻撃力は倍になる。
タスケルトンによって弾き飛ばされたタイガー・カタパルトが、落下の勢いを乗せて再度ドラゴン・バスターキャノンに突撃を仕掛けてくる。
混乱の隙を衝かれたドラゴン・バスターキャノンは即座に演算を取りやめ迎撃を選択、弾幕を展開する。だが、遅すぎた。直上を取られたため射角が足りず、照準に捉えきれないまま暴走したタイガー・カタパルトは予備バッテリーすら消費して自身を加速させる。
「――――ゲーム上でのAtoZ-ドラゴン・バスターキャノンの除外効果は手札というコストを払わなければ発動できない。おそらく、現実で再現するのに必要な代償は装甲のパージかエネルギーチャージと見た。そして第二効果の分離能力もこのタイミングじゃ間に合わないぜ……何故なら、これはデュエルでもありリアルでもあるからな」
決闘者の推測は当たっていた。AtoZ-ドラゴン・バスターキャノンは内蔵された予備バッテリーを消費する事で瞬間的に超強力な衝撃波を発生させ、対象を〝除外〟する機構が備わっていた。
だが、タスケルトンによって不発に終わった攻撃を繰り出した直後、衝撃波を発生させるにはエネルギーも時間も足りなかった。
『
「宣言が遅ぉおい!! ブチ破れ、タイガー・カタパルトォォオオ!!」
そして、その効果の再現の為に支払った代償――――あまりに長時間化した合体・変形シークエンスの弊害はあまりにも大きかった。
全エネルギーを推力に回した同胞から逃げる事など不可能。流星と化したタイガー・カタパルトは向かい来る弾幕を駆け抜け、そのままドラゴン・バスターキャノンのどてっ腹を突き破った。
『GI、Ga、Gyaaaaaaaaaaaa――――――!!!』
胴体に開いた風穴から内包されていたエネルギーが吹き荒れ、一瞬の静寂の後、AtoZ-ドラゴン・バスターキャノンは轟音と共に跡形も無く爆炎に消え去った。
『Vi、Viwooooooooooo!!』
だが、まだ終わった訳ではない。エネミーコントローラーで操られていたVW-タイガーカタパルトのカメラアイが赤から青に点滅し始めている。バトルフェイズが終わり、エンドフェイズが近づいているためコントロールダッシュ効果が消えようとしているのだ。
しかも、破天荒な風によって攻撃力は3000となっておりBF-アームズ・ウィングを上回っている。今だ半ばコントロール権を奪われたまま、タイガー・カタパルトは歪な軌道を描いて決闘者の喉笛を食い破らんと迫ってくる。
あわや、飼い犬に手札を食い破られんとする瞬間。しかし、やはり決闘者は不敵な笑みを崩す事は無かった。
「何を勘違いしてやがる――――まだ俺のメインフェイズ2は終わってないぜ!」
《神秘の中華鍋》
速攻魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、その数値だけ自分のライフポイントを回復する。
「与えた力、そっくりそのまま糧にさせてもらう!」
『NOoooooooooooo!!?』
アームズ・ウィングで攻撃をせず、わざわざエネミーコントローラーで攻撃力を上げた相手モンスターを奪ったのはこの為だった。哀れタイガー・カタパルトは宙から現れた巨大な中華鍋に放り込めて具材と共に
油が弾ける気持ちの良い音と漂ってくる香ばしい臭い。やがて、中華鍋が煙のように掻き消えた瞬間、ドン! と効果音を上げながら、決闘者の目の前に山盛りの炒飯が配膳されたではないか。
『………』
パッと見、何の変哲の無い美味しそうな炒飯。が、目を凝らすとあきらかにボルトやコードなど部品が混ざっている。周囲を見渡せど、当たり前のように店員の姿はない。
ある意味で、文句を付けようが無い炒飯がそこにはあった。
「……常闇君! 良かったら半分食べ「喰うか!!」……だよな」
これ喰わないとライフ回復しないのかな、呟きながら決闘者は炒飯の山をスプーンで崩し始めた。
「……っちぃ」
そしてその姿を複雑な表情で見つめる常闇。〝黒影〟が心配そうに常闇の肩に手をやるも、気持ちを落ち着かせるには足りないようだ。
先の攻防で決闘者が手に入れた撃破ポイントは24ポイント。
正確な獲得点は分からないが、少なくとも常闇より数歩抜きんでている状態だろう。他の受験者の様子は詳しくは分からないが、ユニークタイプの敵ロボが投入されてからポイントの獲得ペースが下がったように思える。
そんな中で、一度に複数体のユニークタイプをまとめて撃破――――撃破?した決闘者はおそらく試験合格に近い位置にいる。
このふざけた男が、ヒーローになる為の資格に最も近付いている。
その事が常闇の心を酷くざわつかせた。
「おのれっ……煩わしい。もっと何か別な事を――――」
頭を冷やそうと常闇が頭を振ったその時、何かの物音が耳に届いた。
新手かっ、と身構えそうになるも、直ぐにそうでは無い事に気が付いた。機械の駆動音ではない、生身の人間の声と足音が人口のゴーストタウンに微かに響いている。戦闘の掛け声や悲鳴などではなく、複数人での会話のようだ。
思わず、息をひそめて声のする方に歩みを進める。三階建ての立体駐車場の端から階下を覗くと、そこには十人程度の受験者たちと、力なく横たわる複数の敵ロボの姿があった。
……どうやら、負傷した受験者を別な受験者たちが助けている様子だ。
「よいしょっと……大丈夫?」
「オレにはまだ……救い出さなきゃならないら奴がいる……オレはまだ、満足していない……!」
「いや、そんなボロボロな姿で言われても……ほら、ジャケットなんか袖の所で破けてるし……」
「これは元からなんだが」
バンダナをした長髪の男が一人で――――いや、二人か。よく観察すると、男の近くで手袋や靴がひとりでに動いていて、その付近にいる
「くっそ、こいつら俺らの時だけ強くなりやがって……」
「しくじった……拾ったカードだけで戦うのは間違っていたのか?」
「いや、カードで戦うの自体が間違っているんじゃ?」
少し視線を動かすと、ビルの壁に背を預けながら参加者たちが言葉を交わしている。足を挫いた者や他の受験者の背中を擦る者、中には頭から血を流したり全身ボロボロになっている者もいた。
……そのボロボロな奴らに限って、何故か手に持ったカードを眺めたりと、見た目に反してやけに元気そうなのだが。
「撃破ポイントを稼がず人助けか、余裕だな……だが」
常闇が振り返ると視線の先には、地面に置かれた空の皿とスプーンに背を向け、駐車フェンスに手をかけて腹を擦ってうめいている男がいた。
「アレよりかは幾分か〝ヒーロー〟をしているのだろう」
例え得点にならなくとも、傷ついた人に救いの手を差し伸べる。まさに
ゲーム感覚で試験をこなす決闘者より――――いや、もっと言うなら得点に目が眩んでひたすらに戦闘行為を繰り返す常闇含めた受験者たちよりも、ずっと〝ヒーロー〟らしく感じられるのではないか?
……普段の常闇踏陰であったら、彼らの姿を見てこの試験の〝もう一つの答え〟に辿り着いていただろう。ヒーローの姿に憧れ、真摯に向き合う普段の彼なら、眼下の光景を見て素直に称賛する事ができただろう。
だが、視界の端に映る決闘者への対抗心が常闇の心に焦りを生み、冷静な判断力と広い視野を奪っていた。
故に、彼らが眩しくて、目を逸らした。陽射しを強く感じ、常闇は場所を移す。
相棒たる〝黒影〟の力を発揮するには、今の常闇たちにそこは直視できない程に些か眩しすぎた。日陰を。自分たちの『個性』を十全に発揮できる日陰に入り、この熱くなった頭と心臓を冷やそう。
そう考えて常闇は早足で移動して――――
「わぁあああああああああああ!!」
「ええい! 今度は何だ!!」
何度目かの急展開に、常闇は苛立ちまぎれに声を荒げた。
またしても声。しかも今度は機械音声でも会話でもない、聞くからに必死て無様な男の悲鳴だ。
いい加減にしろと言わんばかり悲鳴がした方へ睨むように振り向いて――――思わず固まった。
一人の受験者――変な髪型の小柄な少年――がこちらに逃げて来るではないか。
逃げてくる――――何から? 無論、敵ロボから。
敵ロボが一体、二体、三体……十体以上の敵ロボが群れを成して、少年の後を津波のように追いかけていた。
「なっ……おのれ、逃げるなら人気の無い方へ行けば良いものを!」
今日何度目かの悪態をついて、常闇は頭を振るって気を入れ直す。
地上の受験者たちも気が付いたのか、やおら騒がしく動き始めた。
「あのバカ、
透明人間に肩を借りていた男が、傷ついた身体を動かして周囲の受験者に声をかける。その号令に応じるように怪我をした受験者は迫り来る敵ロボの波と反対方向に逃げ始める。反対にその場で構えるのは残った数人の受験者たち。ボロボロのジャケットの男を筆頭に、透明な少女や試験開始前に目立ていたコスプレ集団の幾人かが、満身創痍ながら目に闘志を燃やして迫り来る脅威に身構えた。
……どうするべきか。常闇は少し考えて、再度敵ロボの群れを見た。
一見、大多数が人型のユニークタイプのロボだが、そのデザインは一風変わっていた。
何と言うか、やけ古めかしいのだ。
今まで倒してきたユニークタイプは、鋼鉄の装甲を纏った、まるでSF漫画やアニメに出て来る、いわゆるカッコいいロボだったが、今向かってくる敵ロボは、ボディが歯車や古びた鉄板で覆われた――――まるで
先の合体ロボよりも弱そうな出で立ちに、思わず常闇の手に力がこもる。
泣きながらこちらに逃げてくる少年は真っ直ぐこちらに向かってくる。このままでは後一分もしないでこの場に辿り着き、地上の受験者たちとぶつかるだろう。
「ここで攻勢に出て、一気に撃破ポイントを稼ぐ……問題はどのようにするか、だ」
先手を打って単騎で突撃する――――そのまま押しつぶされるだけだ。
階下の受験者と合流して迎え撃つ――――満身創痍も多く、ポイントもバラけてしまう。
ここは引いて別の場所でポイントを稼ぐ――――そんな無様は論外だ。
時間は無く、焦りは募る。この機を逃せば、またポイントを体力獲得できるチャンスが来るとは限らない。
真っ向からは困難、死角から不意を突いて一撃で倒す必要があるが、その為には敵ロボの注意を掻い潜らなければならない。
そうこうしている内に、敵ロボの先陣――スクーターのような戦車に跨り、
だが、奇襲を仕掛けるにはまだ足りない。どうにかして、もっと敵ロボたちの注意を逸らさなければならない。例えば、
そう、敵ロボから逃げる少年や地上の受験者たちのような――――――
「――――この……愚か者がぁ!!!」
瞬間、衝動的に、常闇は屋上を蹴って敵ロボの群へと突っ込んだ。
少しでも、馬鹿な考えを持ってしまった己を恥じ入るように。ヒーローを目指す者としてあるまじき事を考えた己から逃げるように。
雄たけびをあげ、勢いそのままに突っ込んでいった。
「なっ……待て常闇君! 危険だ!」
「待てるかぁ!」
一足遅れて接敵に気が付いた決闘者が静止の声を上げるがもう遅い。上空に響く怒声に驚き見上げる受験者たち。
常闇は振りかえらない。止まらない。特に決闘者には、彼にだけは今の常闇は止めれない。止められたくないのだ。
「ヒーローへの資格を手にするためならば! 巨人の一体や二体、打ち倒せずに何とする!!」
常闇の『個性』、〝
影のモンスターを使役する個性。そしてその力は暗所である程強力になる……!!
ビルの影をその身に受けて、強化された〝黒影〟は巨大化したその両腕を大きく振りかぶる。狙うべき首級は一つ、軍勢の先頭を行く
十メートル強の巨体は、しかし立体駐車場から飛びかかる常闇たちからは格好の獲物であった。
狙うべきは一点、跳んで目と鼻の先にある、守られる装甲の薄い首筋。そこを狙われれば、例え超技術で作られた鉄巨人であろうがひとたまりも無いだろう。
己への怒りで目が血走りながらも、狙い所はしっかりと捉えている。踏込みの勢いも完全に〝黒影〟の腕へと乗せれている。全力の一撃を叩きこまんとする二人の元に、必死な決闘者の叫びがぶつけられた。
「違う、巨人の方じゃないっ……
もしも、常闇が「アンティーク・ギア」というカード群を知っていたのなら、その一言で攻撃を取りやめただろう。しかし、常闇は「アンティーク・ギア」も、それどころかデュエルモンスターについても知ってはいなかった。
故に攻撃は取り止められる事無く、乾坤一擲の一撃は見事に二輪の戦車に跨った
『Aaaa……aaaaa……』
不意に急所を穿たれた巨人は、苦悶の声を上げて機能を停止させ――――
――――それに連動して、
「……が、ッハ!」
「きゃぁあああ!!」
「ぐっ……!!」
それは装備する事で攻撃力が600ポイントアップし、破壊される事で相手に600ポイントのダメージを与える効果を持つ、アンティーク・ギア専用カード。
それを現実で再現した結果がこれだ。
特殊な火薬と薬品で非殺傷レベルにまで抑えているとはいえ、至近距離からの爆風と爆炎は、常闇と〝黒影〟、そして周囲の受験者たちは巻き込んだ。吹き飛ばされ、息ができないままコンクリートに叩きつけられた彼らの耳は、辛うじて鳴り響いた電子音を捉える事ができた。。
『
「チィッ! 邪魔だぜ……ドロー! カードを二枚セット! 待ってろ、速攻で片付ける!」
後続のアンティーク・ギアたちがデュエリストたちの反応を捉え動きを洗練させるのに対し、決闘者はカードを引き抜き迎え撃たんと屋上を駆ける。
だが、その声は常闇には届きはすれど聞こえてはいなかった。
「俺は、何を……くそっ!」
熱くなった頭が、急激に冷やされていく。
衝動的な行動。無謀な突撃。そして制止を振り切っての攻撃。
その結果がこのざまだ。常闇が功を焦り、それで生まれたのが自身と周囲の人間が地面に倒れ伏したこの惨状だ。
身体へのダメージは甚大。だがそれよりも、己が為した事での
『フミカゲ、マエ!!』
〝黒影〟の叫び声が上がる。
なんと、破壊したはずの
『
攻撃と自爆による損傷でショートとエラーを起こしながら、仕込まれたギミックが発動する。巨人の胸部装甲が爆破離脱、内側から歯車が巻き付いた球体が投げ出され、続くように巨人の片腕が発射された。
「ロ……ロケットパンチだぁああ!!」
透明少女の言うとおり、巨人に装備されていた外付けの機械椀が炎を吐きながら常闇へと襲い掛かる。
常闇は避けられない。
陽射しを遮っていたビルは崩壊し、爆発で吹き飛ばされたされた先は、白く照らされた日向。燦々と太陽が照らしつけてくるこの場所では、〝黒影〟の全力を出す事はできない。
なにより、身体よりも精神が動けないでいた。
万事休す。常闇は目を閉じて襲い掛かる鉄拳に身を強張らせ――――
「危ねえ! うぉおおおお!!」
それを、袖が破れたジャケットの男が、身代わりとなってその身で受け止めた。
「何……だと!?」
機械の掌に鷲掴みにされ、コンクリートに叩きつけられる男。衝撃で口から血を吐きながらも、何故かその表情は満足そうな笑みを浮かべていた。
何故、と驚愕する常闇の心を読んだかのように、男は……まるで誰かのように、不敵に笑って答えた。
「くくっ……ヒーローもデュエリストも、助け合い……だろ?」
「――――――」
何も返せずに、閉口する。
助け合い。先の選択で、常闇が選ぶ事ができなかった事。ポイントを優先し、選ばなかった事。
ああ、助け合う事がヒーローの、デュエリストのすべき事だと言うのならば――――
「一体、俺は……何を、やっているのだ」
その問い掛けに、答えは返ってこない。それは自分自身へ向けられたものだから。
爆風と爆炎が収まり、されど狂争は止まらない。混乱が渦巻く中、それでも
どうにか立ち上がろうとする受験者たち。汗を拭い、漏れ出る悲鳴を飲み込み、震える心を押さえつける。
けれど、機械仕掛けの神様は残酷だ。
『|Count down……start《カウントダウン開始』
半壊した巨人の胸から投げ出された物体。それはノイズで掻き消されそうな電子音声を謳いだし――――等間隔で電子音を鳴らし始めた。徐々に間隔を短くしてゆく電子音は、廃墟と化したビル街に反響し、いやがおうにも受験者たちの耳に届いてしまう。
それが、爆弾である事に気が付くまで、そう時間はかからなかった。
傷ついた体を引きずり逃げる者、頭を抱え物陰に隠れる者、その場で伏せてやり過ごそうとする者。皆が皆、爆発を凌ごうと必死の行動をとる。
無論、受験者は知るよしもないが、この爆弾は非殺傷使用だ。殺意に塗れた試験だが、何も本当に死人を出したい訳ではない。
だが、場所が、タイミングが悪かった。
地べたに転がる瓦礫やコンクリート片。ビルに挟まれた空間。迎え撃たんと密集していた受験者。
今爆発が起これば、死人は出ずとも重傷必死。
そして、火が点いた。一本の電子音が鉄筋のビル街に鳴り渡り――――――
「――――ドロォォォォオオオオオオオオオオ!!」
そして閃光が全てを覆い尽くした。
配置転換、新業務、テレワーク、通院……
俺の精神がマインドクラッシュ!
何でか前後編か前中後編になりました。
もう……流石に次会で試験終わらせます!
嘘だったら罰ゲームしても良いよ!
また少し開くかもしれないので、近日中にアンケート設置します。
気が向いたら参加してね。
最後に、お待たせしたのに読んでくれてありがとうございました。
主人公の髪型を決めよう。
-
ウニ頭
-
ワカメ頭
-
サザエ頭
-
帽子(コナミ君にならって)