俺のデュエルアカデミア   作:タコよっちゃん

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体調不良で遅くなりました。
半端な知識で始めるのは辛いって事で


TURN-4 『なる為の資格:後編』

「……これは酷い」

 

 目の前の戦場を目にして、抹消ヒーロー《イレイザー・ヘッド》――――相澤は小さく呟いた。

 

 

target lock、Attack(目標捕捉、攻撃開始)!』

 

『ド、ドリルが、迫って……うわぁああ!!』

 

『逃げろぉお!!』

 

 迷路のように入り組んだ路地で、ドリルを携えた戦車(魔の迷宮戦車)に追われる数人の受験者。

 

 

target lock、torture start(目標捕捉、断砕処刑)!』

 

『振り子が……振り子が!』

 

『拷問どころか死んでしまうわあああ!!』

 

 浮遊し三日月型の刃を揺らす処刑……いや、拷問人形(振り子刃の拷問機械)の両腕から必死にかわす受験者。

 

 

『――――7! 7! 7! Jack Pot!』

 

『ちょ、コイツいきなり強くな、って、まっ……ギャァアアアアアアア!!!』

 

 スリーセブン。三つ並んだ7の数字を胸に、スロット型の敵ロボの動きが急激に変わり、哀れ受験者たちは腕のレーザー砲に焼かれて黒こげになった。

 

 

 飛び交う悲鳴。逃げ惑う受験者の群れ。

 試験開始直後の展開とは一転、狩る者と狩られる者が逆転した光景が広がっていた。

 

「この実技試験は、受験生にヴィランの総数も配置も伝えていない」

 

 その光景を真正面に見詰めながら、根津は語りかけるように言葉を紡ぐ。

 その瞳が何を写しているのか、相澤の席からは窺えない。

 

「限られた時間と広大な敷地。そこからあぶり出されるのさ。状況をいち早く把握するための情報力。あらゆる局面に対応する機動力。どんな状況でも冷静でいられる判断力。そして純然たる戦闘力。市井の平和を守るための基礎能力がポイント数という形でね」

 

「しかし、限度という物があります」

 

 相沢の言葉に、数人の教師たちが頷いて同意する。当然だ。何も彼らは受験者に悪意を持って試験を難しくしているつもりはない。選びたいのであって落としたい訳ではないのだ。

 

「先程も言いましたが、ふるいをかけて先鋭化したとしても合格できなければどうしようもありません。それにこのままでは、逃げ続けている受験者が合格、なんて事に―――」

 

「―――いや、イレイザー。そうでもないようだ」

 

 力強い言葉が、非難の声を遮る。

 オールマイトがディスプレイを真っ直ぐに見据えながら、小さく笑みを浮かべていた。

 見たまえ、と画面の一部を指さしてオールマイトは促した。

 画面の中の戦場。映し出されているのは、他と変わらずユニークタイプのロボに追い回される受験者の群れ―――

 

 

『うぉおおおおおお!! 上等だぁああ!!』

 

 

 ―――否、それだけではない。

 

 

『ドリルがなんだってんだ! 俺の硬化で受けて立つぜ!!』

 

『さっきの拳銃モドキに比べりゃ、こんな奴!』

 

『ウッゼんだよ糞ガラクタがぁ! スクラップにブッ殺してやんよぉ!!』

 

 

 逃げる受験者とは逆に、迫り来るドリルをその身で受け止める者がいた。

 ボロボロになりながらも、ロボの電子回路を電撃で焼切る少年がいた。

 

 血走った眼で暴言を吐きながら、敵もかくやという形相でロボを爆殺する危険人物がいた。

 

 すげえ顔してるな、と冷や汗をかきながらもオールマイトは続ける。

 

「ヒーローの資質は窮地にこそ現れる。そして資質を持っている者は、ここぞという時に困難から逃げたりはしない」

 

 その言葉に応じるように、試験会場のあちこちで爆炎が上がる。

 銃撃の雨を掻い潜り、ひび割れた歩道を駆け抜け、個性を振るい敵ロボを倒す受験者の姿が、そこにはあった。

 雌伏の時は終わった。ユニークロボの奇襲に受けた衝撃は収まり、受験者たちは反撃を開始したのだ。

 

「今年はなかなか豊作じゃない?」

 

「まだ分からんよ」

 

 受験者への賛美にそう返して根津は―――人知れず小さく一息吐き、コンソールを制御している試験官に指示を出さんとし―――ふと、視界の端で別の試験官たちが慌ただしく動いているのを捉えた。

 

「どうしたんだい? 何かアクシデントでも?」

 

「いや、それが……ドローンが妨害行為を観測したみたいで……」

 

 妨害行為と聞いて、試験官たちの表情が変わった。根津はデータを、と指示を出し、手元のタブレットに映し出された映像を見る。

 

 そこには機械に拘束され倒れ伏す男、そしてその男に長槍を突き刺している受験者の姿があった。

 

「なっ……これは!?」

 

 途端、試験官ルームが慌てふためき出す。当然だ。敵ロボが繰り出す非殺傷設定の攻撃ならともかく、受験者同士の、それも恐らく個性を使用しての攻撃だ。人命に関わる事態に、試験官たちは即座に対応せんと動き出す。

 

「と、ともかくスタッフを派遣して……いや、先にリカバリーガールを――――」

 

「いや……少し待ってくれたまえ」

 

 その動きに待ったをかけたのは、やはり根津だった。

 

「あの槍、恐らく『個性』によるものだが、殺傷性は無いようだね。よく見たまえ、命に別状は無い様子だ」

 

 そう言いながら、根津はタブレットを舐めるように観察する。パネルを操作し、映像データから読み取れる情報を冷静に分析していく。

 事実、槍で指された受験者は横たわりはすれど、何か下手人と言葉を交わしているようだった。

 

「この槍のデザインは、それにデュエルディスク。直前の映像と合わせるとこれは……なるほど、元はと言えば僕らの責任か……けれど、それを対処したのか」

 

 顎に手を当てながらブツブツと呟く根津は、やがてポンッと小さな手を打って新たな指示を繰り出す。

 

「通告は行っているんだね? 追って指示をするから対応は待っていて欲しい……先に次のフェースに移らなければならない」

 

「そ、それで大丈夫なんですか?」

 

「何とかするのが僕たちの仕事、責任を取るのが僕の仕事さ! ―――時間も無いし、次のフェーズに進もうか」

 

 引き続き手元で情報の検証を続けながらも、試験官たちに試験を最終段階に進めるように促す。

 指示に応じ、ディスプレイを操作していた試験官は、コンソールに設置されていた―――「YARUKI SWITCH」と記されたスイッチのカバーを開き、

 

「さて、真価が問われるのはこれからさ」

 

 スイッチはゆっくりと押し込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「い、一体、これは……」

 

 誰かが呟いた一言に、返す言葉は無かった。

 ただ、目の前に広がる光景が答えだった。

 

 機械人形に埋め込まれた爆弾。非殺傷であろうその一撃は、しかし受験者たちを戦闘不能に追い込むには十分のはずであった。

 事実、閉所で炸裂した爆弾は爆風と爆炎を吹き荒らし、瓦礫や小石を散弾のように撃ち出した。アスファルトは粉々に砕け、ビルの壁には大きな穴が開いた。周囲にいた敵ロボも巻き込まれ、四肢を虫のように力なく打ち捨てられている。

 けれど―――

 

「怪我一つ、無いのか……それに……」

 

 爆発に巻き込まれた受験者たちに、その脅威は一切届いてはいなかった。

 直前のロボの誘爆や爆音による耳鳴りはあれど、爆風爆炎のダメージはまるで不発で終わったかのように見当たらない

 何故、どうして、と浮かび上がる疑問。やがて土煙が晴れた先の光景が、新たな疑問の道を示した。

 

「光の、壁……バリアーだって!?」

 

 白く輝く、光の幕。爆風にその身をさらしても埃一つの汚れの無い神秘の守り。それが受験者たちの前で立ちふさがるように、爆弾の脅威を防いだのだ。

 

 

「―――断ち切らせやしない、俺たちの試験を!」

 

 

 そのバリアーを眼前に輝かせながら立つのは、学生服を風にたなびかせる男。

 デュエルディスクを盾の如く掲げ、もう片方の手に持った槍で受験者の男を突き刺しながら、決闘者は声高々に宣言をした。

 

「俺は、《古代の機械爆弾》にチェーンして罠カードを発動! 《BF-アームズ・ウィング》をリリースして《シンクロ・バリアー》を発動!」

 

 

《シンクロ・バリアー》

 通常罠

 自分フィールド上に存在するシンクロモンスター1体をリリースして発動する。

 次のターンのエンドフェイズ時まで、自分が受ける全てのダメージを0にする。

 

 

 一瞬、バリアーに生贄となった烏人の幻影が浮かび上がる。影―――アームズ・ウィングは決闘者に向け小さく頷き、そしてバリアーと共に光の粒子となって消えて行った。

 

「そして――――」

 

 続けて決闘者は、手に持った長槍を握り締める。刃先が腹部に刺さった受験者は小さく呻き声を上げ、横たわった身体を揺らす。

 

「貴様……ッ! 一体何を!」

 

 瞬間、常闇は痛んだ体を跳ね上げ、決闘者へと駆け出す。機械の掌からかばってくれた恩人である受験者の惨状に、身体の痛みを忘れて、勢いそのまま決闘者へ掴みかかろうとして―――

 

「うぐっ……ま、待ってくれ、俺は大丈夫だ!」

 

 それは刺された受験者本人の()()()によって止められた。

 

『―――ハァ!?』

 

 あまりの急展開に受験者たちは呆然とする。

 そりゃそうだ。バリアーで爆弾から身を守ってくれた決闘者が受験者を刺していたと思ったら、今度はその刺された本人が平気そうな声で話しかけてくるのだ。

 ユニーク敵ロボも加えて、唐突なハプニングが繰り広げられる試験。正直もうお腹一杯だ。

 

 しかし、現に刺された男は死んでいないし、平気な顔をしてこちらを見ている。

 よくよく見れば、体のあちこちに擦り傷切り傷はできているが、肝心の槍が刺さった腹部からは血の一滴も流れてはいない。

 分からない、理解ができない。受験者たちは解を求め、一斉に決闘者へと視線を向ける。視線の槍衾に身を晒しながら、身じろぎ一つとらずに決闘者は朗々と種明かしをし始めた。

 

「爆発の直前に、俺は《禁じられた聖槍》を発動していた。こいつを使用した事で、この男は《古代の機械掌》の破壊効果は受け付けられなくなった! ダメージ効果と破壊効果……オレの認識だとおそらく両方を凌がないといけなかったからな……ギリギリだったぜ」

 

 

《禁じられた聖槍》

 速攻魔法

①フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

 

 決闘者の解説の後、役目を果たした槍はバリアーと同様、光となって消えて行った。

 刺さった槍が無くなった男の受験者は、確かめるように腹部を擦りながら立ち上がろうとして、しかし途中で崩れ落ちそうになった所を決闘者に支えられた。

 

「咄嗟の事で槍を持たせる暇は無かった……悪かったな、無効化できてラッキーだったぜ」

 

「あ、ああ……刺された時は生きた心地がしなかったが、この通り五体満足だ。助かった」

 

 相も変わらず不敵な笑みを浮かべる決闘者に、男は苦笑いで返す。

 激しい戦闘は終わりを迎え、ようやく一息つける事ができる時を迎えた。

 

「た、助かったのか?」

 

「……良かった。みんな無事みたい」

 

 地面に伏せていた受験者たちが、ほっと息を吐きながら立ち上がっていく。

 常闇も、少し遅れてゆっくりと立ち上がる。背後から《黒影》が心配そうに見つめてくるが、それを気にする余裕は無かった。

 

「俺は……俺が急いた結果が、これか……」

 

 自分が功を焦らなければ―――そんな考えが常闇の脳裏にこびり付く。

 決闘者に対抗心を持ち、他の受験者を顧みずに敵へ突貫、失敗した挙句、敵からの反撃を出し抜いた受験者に庇われる。これを失態と言わず何と言うのか。

 

 怒りのままに拳を強く握り締める。自分への怒り、功を急いた己の浅はかさに対して常闇はどうしようもない怒りを感じた。

 

「えーっと、君が助けてくれたんだよね。ありがと!」

 

「何の問題もないぜ。それよりアンタ達、怪我はないのか?」

 

「え……あ、うん、大丈夫! 見ての通り!」

 

「いや、見て分かんないって」

 

 息を整えながら決闘者へと視線を向ければ、透明な受験者とカードシャッフル交じりに話をしている姿が見えた。額の汗を腕で拭い、帽子のズレを直している決闘者は日光のせいだろうか、どうしようもなく眩しく感じられた。

 他人の危機を救い、笑顔で言葉を交わす姿に、常闇は自分が目指す者の姿を重ねてしまった。

 

 

『ヒーローになるための資格はない』

 

 

「訂正を、しなければな……」

 

 立ち上がり、前に歩みだす。

 認めよう、自分の発言が誤っていた事を。

 大口を叩いていながら、試験中何度も助けられた。情けない、情けなくて足が止まりそうになる。

 

 けれど、ここで止まってしまうのはもっと情けない事ではないか?

 他人を認めず、失敗から目をそらし、挫折したまま立ち止まる。自分が目指す夢に誓って、そんな醜態さらしてなるものか!

 そのためにも、彼の前に立たなければならない。そして伝えるのだ。恰好を付けて告げた忠告を撤回し、自身の方が相応しくない振る舞いをしていた事を。そして、助けてくれた事を。

 

 

 襲撃が止んでいる今の内にと、済ませてしまおうと常闇は歩む足に力を入れる。幸いにして周囲に動いている敵ロボの姿は無い。試験時間も半ばを過ぎている、戦闘音もかなり少なくなってきた。

 

『陰踏、ナニか飛んでるよ』

 

 索敵を任せていた黒影が背後から告げ、常闇は上空を見る。白い雲が浮かぶ青空に、何か黒い影が音を立ててこちらに向かってくるではないか。ロボではない、もっと小さく軽いものだ。意識を研ぎ澄ませれば、それはプロペラ音である事が分かった。

 

「ムッ……アレは、ドローンか?」

 

 まさしく、機体下部にカメラを備えた小型飛行ドローンがレンズでこちらを照らしつけながら迫ってくる。目を凝らせば機体表面に雄英高校の校章が描かれている。おそらく会場の監視カメラに加えて試験を見守っていたのだろう。

 

 大きくなっていくプロペラ音に他の受験者たちも宙を見上げ始める。

 やがて、目線の高さまで降りてきたドローンはその場でぐるりと一回転し、受験者たちの顔をそのレンズに収めると、

 

 

 

『妨害行為を察知しました。妨害行為を察知しました。受験番号573番は試験を中断しその場に待機してください』

 

「あ、俺だ」

 

 

 

 すっごいアッサリと決闘者に失格を告げた。

 

『おい!』

 

 資格があると言おうと思った相手が、資格が無くなったんだが。

 あまりにあっさり告げられた失格の通告に全員が突っ込みを入れ、常闇は目を剥き決闘者へと食って掛かる。

 

「貴様ッ、人が礼を言わんとする時に何故! 失格になっている!」

 

「仕方ないだろ。あの場面で破壊効果に対応できるのが《禁じられた聖槍》だけだった、なら使うだろ」

 

 決闘者はディスクにセットしていたカードを一枚手に取りテキストを見せた。

 

 

《禁じられた聖槍》

 速攻魔法

①フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターはターン終了時まで、()()()()8()0()0()()()()()、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

 

「攻撃力ダウンを妨害といわれれば否定はできないぜ。手渡せれば良かったんだが間に合わなそうだったからな」

 

 そうため息交じりに言い放ち、決闘者はデュエルディスクを操作する。残っていたモンスターとカードが光となって消え去っていく。

 

「きさ、貴様……もっと、こう、ならばなぜもっと良いカードを引かないのだ!」

 

「俺の運命力を舐めるな! あの場面だとほぼ最適なカードだったぞ!」

 

「えーっと、あの、多分人助けだったんですけど……」

 

 言い争う男二人を背に透明少女はドローンに訳を話すが、返事は帰ってこない。プロペラの音だけを響かせ、ドローンはその場にとどまっている。

 どうしたもんかと頭を悩ませる背後で、だんまりなどローンとは反対に二人の言い争いは勢いを増していくばかりだ。

 見ていられなくなった受験者たちが、仕方なく間に割って入る。

 

「おいおい、落ち着けって。まだ試験は続いてんだぜ!」

 

「そうだよ、二人ともそのへんに――――」

 

 しておけ、と続くだろう言葉は轟音に掻き消された。同時、地面が揺れた。

 

「……っ! なんだ!? またロボの襲撃か!?」

 

「お、おいっ! アレを見ろ!」

 

 あわや襲撃か、と浮足立つ中、受験者の一人が試験会場中央を指さす。

 そこには、大型のビルが音を立ててなぎ倒される光景が広がっていた。

 轟音と上げてビルがビルを巻き込んで倒れていく。そして崩壊音に混じり、地鳴りと駆動音が重く響き渡る。

 やがて、舞い上がる煙の中からソレは姿を露わにした。

 

「オイオイ、マジかよ」

 

 受験者の一人が呆然と呟く。いや、試験会場中の、他会場の全ての受験者が今この瞬間愕然とした表情を浮かべているだろう。

 崩落したビルを押し退けて現れたのは巨大な、あまりに巨大なロボであった。

 周りを取り囲むビル群より一回り大きい体躯。陽光を鈍く照り返す白と赤の装甲。道路程の幅を持つ強靭な四肢。そして申し訳程度に肩部装甲に記された0のペイント。

 

「ま、まさかアレが、説明会の時に言ってた……」

 

 そう、これこそが三種の敵ロボ―――ユニークタイプの敵ロボは3ポイントに含まれる―――に続く四種類目のロボ。受験者を妨害せんとするお邪魔ユニット足る存在。

 その名も――――

 

 

「アレが……0ポイントの敵ロ「パーフェクト機械王だ」――――なんて?」

 

 

 完全再現超巨大パーフェクト機械王である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大であるという事は、それだけで強さに繋がる。強靭であればなおの事だ。

 パーフェクト機械王の腕が大きく振るわれる。遠くからはゆっくり見えるその薙ぎ払いで、周囲のビルが冗談のようにへし折れて宙を舞う。

 紙切れのように空に浮かび上がったビルの残骸は、その軽々しい動きとは正反対の重量をもって試験会場に瓦礫の雨となって降り注いだ。

 

 試験会場のあちこちで轟音と煙が、そして受験者たちの悲鳴が上がる。

 誰かが最初に背を向けて走り出した。続けて数人、やがて大勢が試験会場の中央から我先にと逃げ出していく。

 

「こ、これはヤバくないか? どうする?」

 

「どうするたって……あんなんどうやって倒すんだよ」

 

 彼らがまだ逃げ出していないのは、たまたま戦闘中ではなく、比較的落ち着いた状態でパーフェクト機械王が登場したからだ。

 戦闘中の浮足立った状態でいきなりその巨体と脅威を目にしていたら、他の受験者同様仕切り直す余裕も無く逃走の一手を打っていただろう。

 

「ひいいい、なんであんなのが出てくんだよぉ!?」

 

 ……一人恐慌状態に陥っている小柄な受験者がいたから、という事も遠因かもしれない。人間、自分よりパニックになっている者を見ると逆に落ち着くものだ。

 

 遠くを見渡せば、逃げずに様子を窺っているのはこの集団以外にほんの十数人と言ったところだろう。遠目に見えるその表情に余裕は無く、どうすればいいか迷っている様子が見て取れる。

 

「……落ち着け、説明通りならあのロボは0ポイントのはずだ、倒す必要はない。距離を取りながら他の敵ロボを撃破して行けば――――」

 

「……っ! ちょ、ちょっと待って! あそこ!」

 

 冷静に―――自分に言い聞かせるように、現状を話す常闇を声を遮って、透明少女は試験会場中心へ向けて指をさす。

 会場中心に居座るパーフェクト機械王。周りのビルを吹き飛ばし、舞い上がる粉塵の中で仁王立つ周囲は、崩壊した建物の残骸が積み上げられている。まさに大災害の跡の如き光景の中に、常闇たちは機械王以外に動きを見せる影を目に捉えた。

 機械王から少し離れた場所に、幾人かの受験者が身を寄せ合っている姿があった。

 

「なっ……逃げ遅れたのか!? あのままでは巻き込まれるんじゃ」

 

「い、いやでも、過去のヒーロー試験で死人が出たという情報はないぞ。流石に学園の方もそのへん大丈夫……だよな?」

 

 瞬間、受験者たちの脳裏に数分前の出来事がフラッシュバックする。

 数え切れない数の敵ロボ。容赦なく奇襲を仕掛けてくるユニークタイプ。戦闘不能(リタイア)ギリギリのダメージを狙ってくる弾丸やミサイル。そして初見殺しのギミックとそれ絶対やりすぎだよね?と言わんばかりの爆弾。

 

 ――――大丈夫じゃないかもしれない。

 

 全員が同じ事を考えた瞬間であった。

 

『UOhooooooooooooooooooooo!!!』

 

 戸惑う受験者たちを意に介さずに、パーフェクト機械王は腕を振って暴れ回る。

 降り注ぐ破片に身を伏せながら常闇は考える。

 ここで助けに向かう事にメリットは無い。あの巨体を倒せるとは思えないし、よしんば倒せたとしてもポイントは0、時間と体力を大きく消費するだろう。それはこの試験において致命的な損失だ。

 では、彼らを見捨てた場合について。これに対して、常闇は冷静になった頭で試験会場を見渡す。

 逃げ惑う大勢の受験者、傷つき物陰に寄り掛かる数名の受験者、そして立ち止まって戦闘を繰り広げる受験者と敵ロボ達。

 ―――逃げ惑い、倒れている受験者たちに攻撃は仕掛けられていない。

 明らかに至近距離にいるターゲットに対し、敵ロボたちはあからさまに反応を示していないのだ。更によく見れば、機敏に目標を探し回っていた動き自体も、巨大ロボが出たあたりから随分と緩慢になっているように見える。

 

「やはり、手加減されている……先程のようなアクシデントや怪我による戦闘不能はともかく死人を出すつもりはないようだな。だが逆を言えば致命傷にならない怪我はさせるという事……どうすべきだ」

 

 引くか、前に出るか。暴れる巨体を前に常闇は意を決めかねていた。

 胸の奥の良心が、彼らを助けるべきだと囁く。だが、圧倒的な脅威、そして先ほど危機を引き起こした判断ミスが、泥のように足に纏わりつく。

 何より、助けている内に試験が終了してしまうのではないかという事実が、試験に落ちるかもしれないという現実が重く圧し掛かっていた。それは、ヒーローになろうと強く望んでいるものほど、己を強くしばりつける重圧だ。

 

 足を止めなやめる常闇。そんな半身に対し、黒影は不安そうな顔をで覗き込んだ。

 

『フミカゲは、合格シタインダヨネ?』

 

 咄嗟にと応えようとして、しかし言葉が詰まる。ただ単純に肯定するだけだと、何かが違っているように思えたからだ。

 

「俺はこの試験に合格せねばならない……ただ合格するために? 違う、何のために合格したいのか……」

 

 噛みしめるように自分に問い掛け、胸の突っかかりをゆっくりと解いていき、身体から力みが抜けていく。夢への入り口、その光景に眩んでいた目がはっきりと見えるような感覚。

 大きく深呼吸を繰り返して、前を見る。

 

「俺は――――」

 

 一歩、足を踏み出そうとした途端、パーフェクト機械王が一際大きい鉄の咆哮を上げた。

 耳をつんざく叫びを轟かせ、鋼鉄の巨人は大きく腕を振り切って周囲に残っていたビル群を吹き飛ばす。崩れかけだったビルは一撃で粉々になり、何十もの残骸となって試験会場全体へと降り注いでいく。

 無論、常闇たち周辺へも。

 

『フミカゲ、危ナイヨ!!』

 

「分かっている! この後の事に比べれば、この程度乗り切って見せる! そうだろう、黒影!」

 

 降り注ぐ残骸を、受験者たちは防御、もしくは回避をして対処をする。粉々に砕かれたビルの残骸は、衝撃で脆くなっていて―――もしくは、意図的に脆くされたのか―――当たれば死にはしないが試験から脱落する事は間違いない。

 各々が体に鞭を打ち、脱落してなるのもかと死力を注ぐ。

 

 黒影の怪腕で残骸を吹き飛ばしいく常闇。その動きは軽やかで、他の受験者のカバーを行う余裕を見せる。広くなった視野で周囲を確認すれば、他の者たちも何とか対応できているようだ。

 このまま切り抜けられるか、そう思った瞬間、上空から今までよりも一回り大きい残骸が飛来してくるのが目に入った。

 フォローに回り迎撃すべきか。そう考えて残骸の着弾先を見やれば――――

 

「……フッ!」

 

 当然のように決闘者が独り佇んでいた。

 そう、独りだ。

 個性によって展開されていたモンスターたちは、先程消え去り今は一体も控えていない。

 

「貴様、来るぞ! 対応しろ!」

 

 警告を飛ばしながら、常闇は決闘者をフォローせんと駆け抜ける。モンスターを使役して戦闘するスタイルの決闘者にとって、今の状態は手足が無いも同然だ。

 しかし、決闘者はその場から動こうとせず、ただゆっくりと顔を上に向けて飛来する残骸を見据えている。

 そうこうしている内に、残骸は見る見るうちに間合いを縮めていく。あと数秒で激突せんとする時、決闘者はカッと目を見開き叫んだ。

 

 

「ある男はこう言った……カードが剣ならば、デュエルディスクは盾だと!」

 

 

 決闘者が左腕のデュエルディスクを体の前に盾のように突き出す。

 一点的中(ピンポイント・ガード) 

 一瞬後、ズバリそこへと超高速で激突した残骸を、デュエルディスクは鈍い金属音を上げて受け止めた。

 明らかに質量と強度を超えた防御に周囲の受験者はギョッとするが、決闘者は気にもせずに盾にしたディスクのデッキに手を添え――――

 

 

「ドルォォォオオオオオオ!!」

 

 

 デッキからカードを引き抜いた勢いそのまま、そのカードで飛んできた残骸を両断した。

 

 

『えええぇぇぇぇ!?』

 

「チィ! 堅いな……レアカードに傷がついたぜ!」

 

「いや傷が付くどころか破れないのがおかしいぞ!」

 

 何でできてんだそのディスクとカード!?というツッコミを華麗に聞き流し、決闘者を深く帽子をかぶり直す。そして親指で自分を差し、相も変わらない笑みで続ける。

 

「理屈を考えるのは後回しだ。俺は救助に行くぜ……失格になっているなら得点の事も考えなくていいだろう、まかせな!」

 

「あ、危ないって! それに試験官にちゃんと説明すれば失格も撤回されるかも……」

 

 他の受験者を助けんと行動しようとする決闘者と、それを止めようとする受験者たち。

 彼らはもはや決闘者の実力を疑ってはいない。ただ純粋に身を案じて引き留めようとしているのだ。

 だが、それでも決闘者は思いとどまらない。ディスクからカードをデッキに戻しシャッフルを繰り返しながら、力強く答えを返す。

 

「俺は試験にただ合格するためにここに居るんじゃない。 ヒーローになる為に、そして真のデュエリストでなるためにここに居る! だったら、助ける以外の選択肢なんかないぜ!」

 

「―――待て」

 

 真のデュエリストって何だ、という言葉を何とか飲み込み常闇は声を発する。それ以上に、その一言に感じ入る物があったからだ

 

「ただ合格する為じゃない、確かにそうだな……俺もそう思う。他人を見捨てた合格など認められない……救助には俺も付き合おう……ヒーローらしく、な」

 

 思えば試験開始前からこの男(決闘者)には気苦労をかけられていた。ならば、この際もう少しだけ気苦労を背負っても大して変わりはないだろう。

 同じヒーローを目指す者として、競うだけでは無く肩を並べて力を合わせるのも、一時なら悪くはない。

 背後の黒影も、心なしか嬉しそうに手を振っている。

 

「ヒーローらしく……うん、私も手伝うよ! ケガ人に肩貸すくらいならできるし」

 

「逃げながら点数稼ぎ、雑魚散らしなら俺たちにもできる……見ないふりしたら気分悪いしな」

 

 二人の発言に感化されたのか、他の受験者たちも徐々に気炎を上げ始める。皆思っていたのだ、できる事なら助けたいと。巨大な障害と譲れない目的のために足を踏み出せなかっただけで、心に正義の火は灯っていた。決闘者の言葉が薪をくべたのだ。

 

 膝を折っていた者たちが再び立ち上がる熱い展開に、決闘者の口の端が吊り上がる。

 一歩進み、激しく脈打つ鼓動、エンジン全開で敵(ゴール)目指し駆け抜ける事ができる。

 なにより、これだけの人数が揃っていれば、

 

「一つ誤解してるぜ……オレは、パーフェクト機械王を倒せないとは、一言も言ってないぜ」

 

 この困難に対し、二歩先を行く勝負(デュエル)を仕掛ける事ができる。

 

「なんだと……っ、可能なのか!? あの巨体を!」

 

 投げかけられる驚きと疑問に、決闘者は自信を持って返す。

 最初から負ける気で挑む決闘などありはしない。いつだって勝算と自信を胸に挑むのだ。

 そうすれば、きっとデッキも応えてくれるのだから。

 

「どんな局面にも絶対は無い。無敵のカードが無いようにな……速さで打って出れないなら、火力で受けて断つまでだ!」

 

 決闘者は荒々しく、ベルトのホルダーからもう一つのデッキを掴み取った。

 

 

 

決闘用意(デュエルスタンバイ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……これは、どういう事だ?」

 

 暗い部屋に、眩しい画面の光がさす部屋、雄英高校入学試験の監視ルームに困惑の声が響いた。

 困惑と驚愕、そして隠しきれない歓喜の表情で、試験監督――――雄英高校の教師たちはモニターに映し出される光景を食い入るように見つめていた。

 

 映し出されているのは、先程投入した試験の妨害を行う敵、ビルよりも巨大な敵ロボ。

 その巨大なボディが宙を舞っている。頑強な筈の装甲は大きくへこんで、身体を構成していたパーツがバラバラと吹き飛んでいる。

 

「受験番号2234……たった一人であの0ポイント敵を倒したというのか」

 

 視線を一身に受けているのは、正面ディスプレイで宙を舞う小柄な緑髪の少年。

 振り抜いた右腕は変色しひしゃげており、一目で重症である事がハッキリ分かる。

 そんなボロボロの、けれど目を引き寄せられる姿を見て、オールマイトは不敵に笑いながら小さくガッツポーズをした。

 己を顧みずに他者のために力を振るった少年に、自身の選択が誤りでない事を確信し笑みを浮かべる。

 

「0ポイントロボに立ち向かっていく者は過去何人かいたが、倒したのはそう――――いや待て、演習場Dを見てくれ!」

 

 各試験場のカメラ映像を見ていたスタッフが驚きと困惑の混ざった声を上げる。

 彼が指さす画面には先程と同じ様な、しかし異なる光景が広がっていた。

 

 

『させんっ! 此処より先は深黒の落とし穴と知れ!』『このーっ! 酸の嵐だぁー!』『ぶっ飛ばせ! 私のジャイアント・ハンド!』『鮫は食らいついたら離さない。噛み砕くまで!』『ここはオレにまかせな!』『うわああああ! チックショー! ヤケクソだぁあああ!!』

 

『俺たちはどうやったって試験に合格する事はできない……。だったらここで満足するしかねぇ! このどデカいロボをぶっ飛ばして満足しようぜ!』

 

 

「こ、これは一体……?」

 

「どうやら、巨大敵ロボの付近に数名の受験者が行動不能になっていた様で、それを守るためにあのような……」

 

「後はそれを見て、近くに居た参加者数人が参戦したって感じですね」

 

 十数名の受験者たちが、パーフェクト機械王に向かって攻撃を仕掛ている。巨体故の圧倒的体格差で有効打を与えられているとは言い難いが、それでも十分足止めの効果を果たしている。

 そしてその裏で数名の受験者が動けなくなった者を背負って避難させている様子が確認できた。

 競い合う試験では見られる事の無い連携に教師陣は目を見張って驚きの表情を浮かべる。

 

「競争相手と肩を並べて共同戦線を張る……いいじゃないの、青春ね!」

 

「だが、流石に戦力差があり過ぎる。対抗できて見えるのはプログラムによる手加減のお陰だな」

 

 際どい衣装で肌を大きく晒した女教員が興奮した面持ちで称賛する横で、相澤が冷静に分析する。

 

 

「だが今のところ足止めできている。これなら十分けが人を避難させる事が―――」

 

 できる、と続ける前その言葉は途切れた。

 足止めをする受験者が映されたディスプレイ。唐突にその画面端から謎の飛行物体が割り込んできた。

 飛来してきたのは、二股の機種を持った戦闘機型の敵ロボ。

 見る者が見れば、口を揃えてその機体名を答えるだろう。

 

 ―――強化支援メカ・ヘビーウェポンと。

 

『CALL! 〈パーフェクト機械王〉、〈ヘビーウェポン〉、combine!』

 

 ヘビーウェポンは大きく旋回しながらパーフェクト機械王の背面へと移動し、垂直に機体を起こす。同時に機械王の各部が変形し、ヘビーウェポンと結びつくように電気の鎖が迸る。

 二機は急激に距離を縮め、次の瞬間、大きな音を立てて合体したではないか!

 

『ヤロウ、ゲットライド!しやがった!』

 

 ヘビーウェポンのパーツを後ろ足にした鋼鉄のケンタウロスが顕現し、新たな脅威となって受験者たちに立ち塞がる。

 ほとんど棒立ちだった合体前から一転、各部からのミサイルや低出力レーザーを足元の受験者たちへと撒き散らす。

 

『このチカラ、相当なものだ……!』『くそっ、インチキ効果もいい加減にしろ!』『やばいって!』『オレはここまでだ……あばよみんな……』

 

『カッコ悪いよな……こんなんじゃ……満足……出来ねぇぜ……』

 

 拮抗していた戦線が崩れる。機械王の猛攻に受験者たちは倒れ、吹き飛ばされ、膝を突く。

 だが、それでも彼らは引く事をしなかった。

 それはまた戦闘不能になった受験差が逃げ切っていないからか。それとも意地や使命感のためか。

 

「……彼らの受験番号はしっかりと記録されているな? さっきの少年のように撃破はできないだろうが、それでもレスキューポイントは与えられてしかる行動だ。特に諍いを止めての共同戦線。感情的な贔屓はできないが、それでも選考に考慮されるべき行いだ」

 

 指示を受け、スタッフが戦闘や救助に参加している受験者たちを記録する。

 試験会場に多数仕掛けられている監視カメラやドローン、そして敵ロボからの映像とデータによって、試験中のポイントはもれなく換算されている。だけでなく、その試験中の行いすらも是非を問わずに記録されているのだ。

 撃破したポイントだけでなく、その行いに対しても配点項目になっている。それが雄英高校の試験の実態であった。

 

「ん? あれは……」

 

 一人のスタッフが、何かに気が付いたかのように画面の一点を見つめる。

 その視線の先、膝を突く受験者たちの中で、一人の男がゆっくりと前へ進み出ている姿があった。

 

「彼は、確かさっき妨害行為を働いた……受験番号573番か」

 

「腕についているのはデュエルディスク……あの男、もしやデュエリストか」

 

「いやあんなん付けてるのデュエリストしかいないでしょ」

 

 歴戦の教師たちに困惑の表情が浮かぶ。

 警告を受けた彼が何故そこにいるのか? そもそもなぜ妨害行為を行ったのか?

 そして、カメラ越しからも分かるその不敵な笑みをもって、一体何をしようと言うのか?

 

「妨害の意図も、何をしようとしてるのか分からないが、待機指示は出しています。ともかく、再度ドローンで待機指示を―――」

 

 アンバランスなシュールさに冷や汗をかきながら試験官は、画面に映る決闘者に警告を出そうとマイクを手にし――――――

 

 

 

「その通告、待ってもらおう!」

 

 

 

 勢いよく開かれたドアと共に飛び込んできた力強い声に、動きを止められた。

 

「な、なんですかあなたは!」

 

 振り返った試験官たちは見た。

 一人の男が戸を開け放った片腕を前に付きだし、入り口の真ん中で仁王立ちしている姿を。

 

 赤のインナーに黒のズボン。白のコートをマントのように翻すその姿はまさに威風堂々。

 その表情は推し量る事はできない。何故なら丸みを帯びた竜のようなマスクを被っているからだ。

 マスクから流れる赤の長髪は、彼の人の気質を表しているかのようだ。

 その姿はまさにヒーローそのもの―――そうでないなら変人そのものだ。

 

「面白い……そのまま続行させろ!!」

 

「ぞ、続行って何の権限で、そもそもここは関係者以外立ち入り禁止だ! 部外者は即刻―――」

 

 唐突に現れた男が居丈高(いたけだか)に言い放った言葉に試験監督は面食らって反論する。

 当然だ。どこの誰かも分からない男に試験の口出しを言われる筋合いはない。即刻身柄を抑えようと周囲の教員たちが身構えるも、それを根津が片手を上げて押し止めた。

 

「社長! 戻っていたのかい」

 

「社長?では彼が例の……」

 

「そう。彼こそが今回の試験用敵ロボの提供元の社長にして、つい先日までヒーローの本場アメリカで活動していた現役ヒーローさ」

 

 根津が話している間も、男、いや社長はツカツカと足を進めて正面モニターの前で立ち止まる。

 あまりに高飛車、あまりに横柄。

 吹きすさんばかりの高圧的オーラに、周囲は言葉を失い動きを止めてしまう。

 穴が開く程の視線を一身に受け、社長と呼ばれた男はフゥンッと鼻で笑いながら宣言する。

 

「真の実力は絶対的窮地にて発揮される! この俺直々に彼奴らが正しきデュエリストの力を持っているか見定めてやろう! そう――――――」

 

 

 

 

「この正義の使者、カイバーマンがなぁ!」

 

 

 

 

 

 フハハハハハ! と高笑いするヒーロー――――カイバーマンに向けて、試験監督主任は目を白黒させながら話しかける。

 

「いえあの、ヒーローの適性試験なんですが」

 

「戦術! 気概! そして運! デュエリストとは常に、最強のカードを引き続け相手を打ち砕く力が必要なのだ! この程度の困難で膝を屈し無様に逃げ出す雑魚共に先など無い!」

 

「いや、だからヒーローの、」

 

「見るが良い!! ただ選ばれるだけなら臆病者でもできるだろう! 戦う理由や信念ならどんな弱小デュエリストの胸にも秘められているだろう! 重要なのは……それに押しつぶされるか……それを守り抜けるかなのだ!」

 

「……だからぁ」

 

 監督主任は白目になりながら社長に話しかけるも、まともな答えは返ってこない。段々と増長していく男を前に、力無く項垂れる他なかった。

 そんな主任に対して、根津は席を立って優しく肩を叩いた。

 

「落ち着きなさい、牛尾君……今の僕たちはデュエリストじゃなくて、リアリストなんだ。冷静に試験を見極める事が必要、そうだろう?」

 

「デュエリストでもリアリストでもなくヒーロー! アンタら話聞いてます!?」

 

 青筋を浮かべる主任をオールマイトはなだめつつ、不安そに根津へと視線を向ける。

 自身の後継者はもちろんだが、今年から雄英の教師になる彼にとって生徒候補となる受験者たちを心配する事は当然の事だ。いや、例え受験者でなくとも、ヒーローとして猛威を振るわれる人々を守りたいと思うのは必然であった。

 

 根津はオールマイトの視線を受け、笑みを浮かべるのをやめて真剣な表情でこう返した。

 

「オールマイト、君にヒーローとはなんたるかなど釈迦に説法だから言う事は無い。けれど教師については我々の方が一家言あるつもりさ……僕ら教師はね、殻を被った雛を一人前に育て上げて世に送り出す使命がある。ただ温めて卵から孵すだけではない、歩き方から羽ばたき方。それらを見せ、伝え、教えなきゃいけない。養うんじゃない、育てるのさ」

 

「その道程を走り切れる実力が、個性が、何よりも意志があるかを見定める試験なんだよ」

 

 モニターの中の決闘者の歩みが止まる。受験者たちの先頭、機械王の目の前。

 無防備なその姿目がけて、機械王はその巨大な拳を叩きつけんと振り上げる。

 一瞬のち、冷徹に振り下ろされるその一撃を、決闘者はいつものように不敵な表情で見据えて―――そして、決戦の火蓋を切って落とした(デッキからカードを引き抜いた)

 

 

 

――――ドロー、手札より効果発動、《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚

 

 

――――更に《プロト・サイバードラゴン》を通常召喚

 

 

――――場に機械族モンスターが二体のみの時、《アイアンドロー》を使用し二枚ドロー

 

 

――――魔法カード《手札抹殺》、手札を全て捨てその枚数だけ更にドロー

 

 

――――魔法カード《パワー・ボンド》《サイバネティック・フュージョン・サポート》! 自分のフィールド・墓地から融合素材モンスターを除外し、機械族の融合モンスターを特殊召喚!

 

 

 光が、弾ける。

 

 

――――――咆哮せよ!

 

 

 

 

「《キメラテック・オーバー・ドラゴン》ンンンンンンッ!!!」

 

 

 

 

 応え現れたのは鋼鉄の魔龍。

 蛇腹となった鋼の鱗を纏った長く強靭な体躯。陽光を反射しぎらつくボディは20メートルはあるか。

 超重量のそれを機械音をあげてうねらす白銀のメタルドラゴン。

 特筆すべきはその六つの頭部。鋭い嘴を備えた龍の頭が鎌首を上げて絶叫する。

 

『な、なにィ!?』

 

「こ……これはっ!?」

 

 モニター内の受験者たち、それを見守る試験官と教師たち、全員が愕然として言葉を失う。

 その中で唯一、社長―――カイバーマンだけが鼻を鳴らしながら不敵に笑っていた。

 

「ふぅん、見せてみろ! 半人前のデュエリスト、ヒーローの門出に立とうとする者よ。貴様のデュエルを、貴様自身の正義を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 召喚されしキメラテック・オーバー・ドラゴン。

 六つの頭部を眼前の敵へと向ける巨大なそれは機械王の半分ほどの大きさであった。

 それでも、全く臆する事無く鎌首をもたげ威嚇を行う風貌は、決して見劣りするものではない。

 うねり咆哮する六ッ首の顎。その一つに決闘者は足をかけて立っていた。

 

「フォートレスが入っていれば生贄素材にしてやれた……が! 引けなかった物はしょうがない。それに、今回はやられた分はしっかりやり返さないと気が済まないぜ! ……おい、常闇君!」

 

「……っ、なんだ!」

 

 頭上から投げかけられた声に、思わず常闇は返事する。

 機械王を打倒する当てはあると聞いていたが、ココまでとは思っていなかった。興奮する黒影を宥めながら、見上げた先の決闘者は陽射しの所為かひどく眩しかった。

 

「試験開始前に言ったな。 大切な試験をゲーム感覚でやるなって」

 

 鉄製でツルツルする足場(とうぶ)から滑り落ちないように踏ん張りながら、決闘者は叫ぶ。

 

「確かに俺はこの試験をゲームだと思っている……だが! このゲームにかける魂ソウルなら誰にも負けないつもりだぜ!!」

 

『GYAOOOOOOOOOOOOH!!』

 

 決闘者の叫びにキメラテック・オーバー・ドラゴンも呼応するように咆哮を上げる。

 衝撃を伴ったそれに押されるように機械王が一歩後ずさる。

 だが、それは決して気圧されたからではない。それはタメを作るための構えだ。

 脚部を前後に開き、右腕を弓を引くように後ろにまわす。数秒後、最高技術の駆動機関から解き放たれる振り下ろしは、例え眼下の機龍が何で出来てあろうと、一切の抵抗なく粉砕するであろう。

 

 もっとも、それを黙ってみているだけの決闘者ではない。

 勝利の方程式(タクティクス)は既に完成しているのだから。

 

 

「何を勘違いしてやがる――――――

 

 俺のメインフェイズはまだ終わってないぜ!!」

 

 

 宣言に呼応し、キメラテック・オーバー・ドラゴンの全身が輝きだす。反射ではなく、内側から迸る閃光が辺りを照らしつける。誰もが目を眩ますなか、決闘者の戦術は風を切って走り出した

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴン! このモンスターは素材にしたモンスターの数だけ攻撃ができ、攻撃力はその数×800になる! 俺が素材にしたモンスターは五体……よって攻撃力は4000!」

 

 

 バリバリと紫電を纏いながら機械竜が金属音の様な鳴き声を上げる。その身が輝きが増し力が膨らんでいくのが分かる。溢れんばかりの力の奔流に、だが決闘者は勝利への叫びを止める事はない。

 

 

「更に! 融合する際に使用したパワーボンドの効果によって、召喚された融合モンスターの攻撃力は倍になる……攻撃力8000!!」

 

 

 輝きは強くドラゴンの体内から迸り、それに応じるように甲鉄の身体が物凄い勢いで巨大化していく。巨大ロボとの戦闘を遠巻きに眺めていた参加者、その姿に気が付き息を呑む。遠く離れていた参加者が見上げるほどに、その身体は大きくなっていた。

 

 

「続けるぜ! 手札から速攻魔法『リミッター解除』! 自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる」

 

 

 巨大化は止まらない。周囲の廃ビルを超え、パーフェクト機械王すらも超える程に巨大化したドラゴンはしかし、勢いそのまま更にその身を肥大化させていく。纏っていた紫電は今や轟雷となり甲鉄の鱗を照らし付ける。

 止まらない、止まらない、巨大化が止まらない。

 

 

「とどめだ! 俺は手札から二枚目の『リミッター解除』を発動! 攻撃力が更に倍!」

 

 

 止まらない、止まらない、止まらない――――止まった。

 見上げて、天高くから降り注ぐ太陽に陽射しに目を眩ませたところで、ようやく巨大化は止まった。

 

 

 

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は――――32000だぁあああ!!」

 

 

『KYAGAOOOOHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!』

 

 

 

 

 もしも、巨大ロボのAIに感情が宿っていたら、恐怖を覚えていただろう。ビルよりもなお、己よりもなお巨大な存在が目の前で獰猛に牙を剥いているのだから。

 受験者たちも、試験官や教員たちもが眼前の光景に絶句し、しかしどこか胸の奥で熱いものが生まれるのを感じていた。

 竜頭に立つ決闘者からあふれ出る熱気が、フィールが彼らに伝わっているのだ。

 

 

「戦闘(バトル)だ! サイバー流の火力、思い知れ!

 

 エヴォリューション・レザルト・バーストォオオオオ!!」

 

 

 六つ首の内、五つの口元にエネルギーが球状になって収束する。

 音を立てながら輝きを増していく光弾、砲口たる咢が狙うは無論パーフェクト機械王他ならない。

 させじと機械王が振り上げていた拳を叩きつけんとするも、どうして鈍重な一撃が何故光線よりも早く届く事があろうか。

 

 

「第一打!」

 

 全てを破壊する光線状のエネルギーが機龍の口から放たれる。振り落とした拳は途中で止める事はできず、防御も碌にとる事ができずに直撃を受ける、寸前に強化支援メカ・ヘビーウェポンが盾となって消し飛ぶ。素の状態になった機械王にダメージは無い。

 だが、苦し紛れの抵抗もそこまでだ。

 

 

「二連打ァ!!」

 

 連撃。振り下ろす途中の右腕を根元が根元から吹き飛ばされる。

 熱で溶け損ねた内蔵部品が花火のように飛散する。

 

 

「三連ダァア!!!」

 

 隙を見せたロボの足元に向け、熱戦で両足をまとめて薙ぎ払う。

 膝から下が粉砕され、文字通り膝をつく状態で機械王は行動不能になる。

 

 

「四レンダァアア!!!!」

 

 火花を上げる顔面目がけて、四本目の光線が直撃する。

 ほんの一瞬も拮抗する事無く、まるで紙細工のように頭部ユニットがひしゃげ跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

「グォレンダァァァァアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 トドメの一撃が、パーフェクト機械王の胴体に風穴をブチ開けた。

 むき出しになった内部ユニットが漏電して紫の絶叫をあげる。

 だが、それもほんの数秒の話。紫電の悲鳴は徐々に勢いを衰えて、機械王の全身が力無く、まるで壊れたおもちゃのようにゆっくりと後ろへ倒れていく。

 そして大きな音を立てて地面に激突し、そのまま動かなくなった。

 

 32000の五連撃――――計160000のダメージを受け、巨大敵ロボットはその身を二度と動くことが無いよう粉砕され、完全に機能を停止した。

 

 

 

『うぉぉおおおおおおおおお!!!!』

 

 周囲から喝采が上がる。

 まさか倒せるとは思っていなかった者、決闘者の勝算を話半分に聞いていた者……もしかしたら、と思っていた者。思っていた事は様々だが、その誰もが圧倒的な脅威を打倒した決闘者に賞賛の声をかけていた。

 誰もが平等に疲労し、傷つき、そして勝利の喜びを分かち合っていた。

 

 そう、受験者たちは共に大いなる困難を乗り越えたのだ。

 

「クク……クククッ、フッハハハ、ハーッハハハハハ! 凄いぞー格好良いぞォオオ!!」

 

 撃破した当人も、ハイテンションのあまり、キャラを忘れて高笑いをしている有様。切った見栄を裏切らず、全力の戦術となにより手札運の良さで大興奮待った無しだ。

 ここぞという時、デュエリストは運命すらその手で掴み取る。

 その言葉を体現した、渾身のデュエルだった。

 

「これが、これこそがカードの、デュエリストの力だ――――」

 

 ふてぶてしい笑みを浮かべ、右腕を天に掲げる。そして眼下の歓声に応えるように勝鬨を声を上げようとして、

 

 

 

 

 

 

 そして次の瞬間、決闘者はモンスターもろとも盛大に爆発した。

 

 

 

 

 

「―――カイザァアアアアアァアアアアアアアアア!!」

 

『なんでぇぇえええええええええ!!!??』

 

 謎の断末魔を上げて吹き飛ぶ決闘者。それを見て全力で突っ込む参加者と監督者たち。

 極一部のコスプレ参加者と教師のみが、あちゃーという顔で頭を抱えていた。

 

 同時、試験終了のブザーが鳴る。

 呆然とする受験者たちが見守る中、ライフポイント0、ボロ屑のようになった決闘者の手から、二枚のカードがこぼれ降りた。

 

 

 

 【パワー・ボンド】

 通常魔法

 ①自分の手札・フィールドから、機械族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。

 このカードを発動したターンのエンドフェイズに自分はこの効果でアップした数値分のダメージを受ける。

 

 【リミッター解除】

 速攻魔法

 ①自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる。

 この効果が適用されているモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。

 

 

 

 すなわち、つまりはそう、何事にも――――強い力には代償がある、という事であった。

 然もありなん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんだ、相棒」

 

「……ソレハヨカッタネ」

 

 夕方、雄英高校試験会場入り口付近。

 全ての試験工程を終え、赤く染まり始めた空の下で決闘者は隣に立つ少年に試験中に起こった事を説明していた。全てを伝え終わった後、抑揚のない返事を返す少年に視線を向ける。

 生気の無い表情、死んだ目で返事をする緑谷出久に、決闘者は少し気にした様子で言葉を投げた。

 

「一体どうした。試験で失敗でもしたのか? マインドクラッシュされたみたいになっているぜ」

 

 なお、気にしているが気を掛けている訳ではなかった。オブラードに一切包まれていないワードの弾丸に撃ち貫かれた出久は、死んだ表情そのまま胸を押さえて呆然と返す。

 

「ははっ……クラッシュしたのは僕の夢だったよ」

 

「そうか、そんな事もある。手札事故で魔法罠カードゼロ、全部上級モンスター先攻でデュエルが始まる事だってある。それでも、次のドローが逆転のカードだったりするんだぜ」

 

「それってフォローのつもりなのかな?」

 

「まあ大体始まってすぐワンターンキル食らうんだが」

 

「それフォローしてるつもりなんだよねぇ!?」

 

 大きく見開いた目から涙を零しながら食って掛かる出久に、決闘者は手で押さえながら謝罪する。

 毒のある言葉はしかし、僅かながら薬ともなったようだ。先程まで呆然と口を開き生気を失っていた顔は、少しだけ色味を取り戻している。

 それは良かった事かどうかは人によるとしか言えないが。

 

 そんな、人が出入りする往来で言い争いをする二人の元に、一つの、いや、二つの影が近づいていくのが見える。

 

「何故貴様はそんなに元気なのだ……あれほどの爆発を受けてそれだと……貴様、実は肉体強化系の個性ではないだろうな?

 

 察しの通り、常闇踏影と黒影であった。ひどく疲れた―――しかし何かをやり遂げた表情で荷物を片手に歩いてくる。

 

「オイ、戦士の帰還だぜ。もっと言い方ってのがあるだろう」

 

「貴様、さっきまで襤褸切れのようになっていたはずだが」

 

「さっきはさっき、今は今だ。俺はもう何ともない。完全復活、パーフェクトデュエリストだ!」

 

 顎を尖らせガッツポーズで健在をアピールする決闘者に、常闇は大きく溜息を吐きながら追求する事を止めた。たった一日の付き合いだが、それでもこの男の性格を把握するには十分すぎる濃密な一日だった。

 絶えず自分の世界を展開し、マイペースに物事を進める彼に付き合っていれば時間がいくらあっても足りない。

 その事を身をもって知った常闇は再度小さく溜息を吐きながらも、自分の用事を済ませるために口を開いた。

 

「……貴様が無事なのはたっぷり分かった。その上で……貴様に一つ質問をさせてくれ」

 

 そう口にした後、言葉を続けようとして口ごもる。数秒間、目を閉じて黙り続けた後、ゆっくりと問いかけた。

 

「何故お前は、この試験を受けに来たのだ?」

 

 それは、試験が始まる前に放った言葉であった。

 

「お前はデュエリストだった。徹頭徹尾にデュエリストだった。試験中にもかかわらずにカードを弄り、ゲーム感覚で事を進め、とても真面目に試験に取り組んでいるように見えなかった。まさに遊んでいた……例えそれが『個性』によるものだとしてだ。お前は試験中、ヒーローではなくデュエリストとして挑んでいた」

 

 だが、と言葉を切り常闇は決闘者を見据える。鋭い目は、決して偽りを許さないと雄弁に語っていた。

 

「それでも、試験中の貴様の姿は、まるでヒーローの様だった。カード遊び……決闘(デュエル)に夢中になりつつも敵を打倒し、真剣に遊びながら他人を助ける。ヒーローを目指す為の試験でデュエリストとして振る舞い、デュエルをしながらも全力で試験に取り組む……本気のデュエリストでありながら真剣にヒーローを目指している。その姿勢、矛盾している……何故、お前はデュエリストでありながらこの試験を受けたのだ」

 

「……矛盾なんかしていないぜ」

 

 間を空けずに、決闘者は答える。

 何を当たり前の事を聞くのか、と言わんばかりに堂々と胸を張って問い掛けに、少なくとも表情だけは真面目に言葉を返した。

 

「何故ヒーローを目指すのか? そんなの決まっている……デュエリストは俺にとってのヒーローだからだ。デュエリストとヒーロー、二つの道を目指しているんじゃない。ゴールが一つの一本道だ。そう、つまり――――」

 

 

 

「ヒーローを目指す事は、デュエリストを極めるという事だ!」

 

 

 

「それ言ったらヒーロー全員デュエリストなんだけど!?」

 

「俺のルールブックにはそう書いてある!」

 

 結局自分ルールじゃん、とツッコみながら出久は頭を抱える。

 そう、それは理路整然からかけ離れた結論。答えになっていないその答え。

 しかしそれを常闇は否定する事はできなかった。腕を組んで黒影と顔を見合わせ、やがて大きく溜息を吐いて肩を落とした。

 

「……つまりは自分なりのヒーロー像を目指している、という事で良いんだな」

 

「コンマイ語を読み解けばそう言う事になる。もっとも、失格になったがな」

 

「……その事だが」

 

 決闘者が皮肉気に言った言葉に、常闇は不敵に笑って切り返した。気の所為か、背中の黒影も同じように笑っていた。

 

「先程、試験監督の元へ行ってきた……お前の妨害行為に関してだ。……お前が行った妨害行為は、他の受験者を助けるためだったと伝えてきた。俺以外にも刺された当人や他の受験者も伝えていたようだが……ともかく、試験監督は了解と言っていたぞ」

 

 先程目にした光景を思い返しながら、言葉を続ける。

 

「俺は貴様に、ヒーローになる為の資格がないと言った。それを撤回させてくれ……あの試験中の貴様の振る舞いは、ヒーローたりえる姿だった……すまなかった。お前は……ヒーローになる為の資格を失ってなどいない」

 

 もっとも、合格できるかはお前次第だがな。そう付け加えて常闇はニヤリと口元を歪め背中を向ける。

 そして黒く伸びた二つの影を背負いながら、立ち去って行った。

 

 遠く離れていくのその背中を、決闘者は見つめていた。それは彼が離れて見えなくなるまで続けられた。

 誰もいなくなった街並みに向けて、やがて決闘者は独り言のように呟いた。

 

「ヒーローになる為の資格か……フッ、そんなもの、あそこにいた全員……いや、この試験に参加した全員が、今も変わらず持ってるぜ」

 

「今もって……もう試験終わったんだけど」

 

 唯一、その呟きを耳にした出久が疑問を浮かべる。心なしかその表情に生気が戻っているように見える。

 そんな出久に手を振りながら決闘者は続ける。自分が思う、なるべきものの資格というものを。

 

「何故なら、きっと全員信じてるからだ……自分の事を。俺は自分を信じてる……必ずヒーローになれるってな。他の奴らもそうだ、絶対にヒーローになれると信じてこの試験に挑んだ。そうでなきゃ、この門をくぐる事さえできなかったはずだ。自分を信じる事が、他の何かになる為の資格だと、俺はそう思っている」

 

 熱い、焼け付くような熱さを持った言葉。しかしそれは決して乾いた叫びではない。その言葉は熱を持ちながら、まるで液体のように出久の心に染み込んでいった。

 決闘者の心の熱が言葉を介して伝わっていく。それはデュエルの原動力、フィールの源。

 最初から負ける気で決闘(デュエル)に挑むデュエリストなど存在しない。どんなデュエリストも自分の勝利を信じて、運命を切り開くのだ。

 それがデュエリストの――――全ての挑戦者のあるべき姿なのだから。

 

「だからお前も信じ続けれよ相棒。奢ってやるから元気だぜ」

 

 ポンッと出久の肩を叩いて決闘者は慰めの言葉をかける。冗談の混ざっていない本気の慰めに空虚になっていた胸が温かく埋められるのを感じ――――そして同時に、本気の慰めを受けた事で自分が不合格確定であることを強く強く実感した。

 

「自分を信じ、信じ……なにを信じればいいんだろ……ハハハ」

 

「飯でも食って忘れようぜ……よしっ! サ店に行くぜ! パフェ奢ってやるよ、ブルーアイズ・アルティメットドラゴンパフェ。食って全部忘れようぜ!」

 

「……いや忘れちゃダメだって!」

 

 男たちは歩き出す。

 一人は肩を落として、一人は肩で風を切って。

 今日得た試練(デュエル)を乗り越えて、まだ見ぬ明日への道を行く。

 不安がある。後悔もある。しかしそれでも前へと進みだす。

 どんなに場が悪くとも、どんなに手札が悪くとも、どんなに引きが悪くとも。

 決してあきらめず(サレンダー)あきらめず、次なるカードを手にし立ち向かう。

 そうして生きていくのだ。

 

 そう、人生という決闘を。

 

 時刻は夕方。空は夕焼け。

 赤く染まった大空に向かって歩く二人の姿を、長く伸びた影が静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 まあ、つまりは、こんな風に、

 

 彼はヒーローになる為の資格を手に入れたのである。




受験番号573=コナミ
アンケートありがとうございました!

主人公の髪型を決めよう。

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  • サザエ頭
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