Fate/Sirius Garden   作:watazakana

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オリジナル聖杯戦争とかいう強豪の多いジャンルに手を出してしまった……


序章:その日少女たちは運命に出会う
幽霊は


聖杯、それは、あらゆる願いを叶える願望機だ。過去の英霊を現代に召喚し、最後の一騎になるまで争う。そしてその勝者は、あらゆる願いを叶える権利が与えられる。あらゆる時代、あらゆる国のサーヴァントがその地に集い、最後の一騎になるまで覇を競い合う殺し合い、それが第5次までの聖杯戦争だ。

 

 

魔術協会は世界を滅ぼさんとした汚染された大聖杯、及び神秘の秘匿に重大な危険の起きやすい聖杯戦争そのものに異を唱えた。聖堂教会もこれには賛同した。しかし、第三魔法、根源への到達、魂の物質化、それによる不老不死の手段や神秘まで永遠に失われるのは双方本意ではなく、聖杯戦争と大聖杯をなんとか自分のものにしようと名だたる魔術師やそれを阻止し、神秘を独占したい腕の立つ代行者、果ては御三家の一つであるアインツベルン家が錬金術の家であるつながりでアトラス院も絡み、もはや混沌として形容のしようがない争いが起きた。

 

これが、トリガーとなった。

 

これは、ロード・エルメロイ2世が聖杯解体に赴かなかった世界でのお話。剪定された先の、あったかもしれない世界で起きた、些細だけれどもほんの少し大事なお話。

 

 

第5次聖杯戦争終結から10年後───

 

冬は、布団から出たくないものである。

天城千歳は目を覚ます。七時、いつもの時間だ。

寒い。布団から出たくない。そんな惰性とはサヨナラバイバイ、諦めてむくりと起きる。

 

2014年2月。ここ冬木に住む天城千歳は中学生である。定期考査も終えて、まあ叱られない結果であったので、もうすぐで最後の心おきなく遊べる春休みと毎日そわそわしている彼女は、長い黒髪を後ろ一つに結んで居間へと降りた。

 

「おはよー」

「おはよ。千歳」

「お父さんは?」

「今日は早めに行かないとダメだって、さっき出たよ」

 

へぇ、と明るい茶の木組み椅子に座り、朝のご飯を口へと運ぶ。

 

「いただきますは?」

「あっ、忘れてた。いただきます!」

 

まあ、このような会話が標準の、特に何ということはない普通の家庭。それが天城家である。

一方テレビは普段とは違う報道をしていた。

 

『冬木大災害から、今日で20年が経ちました。市民体育館が火元となったこの火災は、今も原因が分かっておらず、謎の多い火災事故となっています。また、10年前の2月では原因不明のガス爆発やガス漏れが頻発しており、今年も何かあるのではないかと冬木市の間では話題になっています───』

 

「ああ、もう20年かぁ」

「お母さん知ってるの?」

「知ってるけど、テレビで見たことしか知らないよ。ここに越してきたのも千歳がお腹にいた頃だし」

 

ありゃ凄かったよ。とお母さんは語る。ヘリが火事の現場を映してたけど、真夜中に街一つ丸ごと火の海で、500人以上亡くなったのに原因も何もわからないから連日ニュースやワイドショーのネタになったそうだ。生存者もほぼ皆無。千歳たちの住む新都も、1994年に焼け野原になった土地が復興したものらしい。

 

「ふーん……なんか焼け野原とか復興とか、戦争の話を聞いてるみたい」

「そうだねぇ、ねえ千歳、時間は大丈夫?今七時半だけど」

「げぇっ!40分には出なきゃなのに!」

 

千歳の今の生活にたいした不満はそうそうないが、そのそうそうない不満の代表格が「家と学校が離れてること」。冬木はそこそこ都市なくせして最も人口の集中する新都に学校がない。だから中央公園近くから深山の山の麓までバスでいかなければならない。交通は通勤ラッシュと重なるので大変辛い。そんなわけで朝食をかきこみ、消防官張りに急いで支度をし、大きな声で「行ってきます」を言ってから、天城千歳の1日が始まる。

 

 

バス停から地味に離れてるのも腹が立つものである。

 

「はぁ……はぁ……セーフ!」

「おはよー千歳。今日はまたぎりぎりですな」

 

教室に入り、席に座り、最初に声をかけてくるのは隣りの席の千代田昌子。黒の癖っ毛で天然ボブができている。活発で、誰とでも話せる子だ。

 

「いやー、テレビ見てたら遅くなった……」

「ZAP?」

「いや、私ん家IRHだからおはやう冬木」

「国営⁉︎かたっくるしーな、なんでそれで遅くなるのさ」

「冬木大災害についてちょっと気になったの」

「あぁ、新都のね」

 

千代田は何か言いかけたが、ホームルームのチャイムが鳴り出し、皆が席につくところで、「また後でね」と会話を中断した。

 

「じゃーホームルームはじめるぞ」

「きりーつ、れい、ちゃくせーき」

 

また、今日が流れだす。

 

 

数学ほど、つまらないものはないものである。

 

「あー、やっと終わった。給食万歳昼休み万歳」

「お腹空いてるときに数学はやばいわ。二分おきに時計見てたもん」

「てことは25回も見たの……」

「いや、後半になるにつれて速くなったから大体53回ほど」

「後半30秒に一回くらい見てるよね?勉強大丈夫?」

 

千代田さんはいい人だ。テストは良くはないようだけど、コミュ力はある。厄介ごとを頼んでも喜んで引き受けそうだし(実際部活の助っ人に毎日頼まれているし、それを愚痴ることはない)、キラキラしている人だ。

そして───

 

「ねえ、大災害の話なんだけどね」

「あ、覚えてたんだ」

「そりゃまあ私が後でって言ったんだし」

「妙に義理堅いね」

「照れますなあ。まあそれは置いといて、あの大災害、今年も来るんじゃないかって」

「今年も?」

「そう。20年前と10年前のこの時期、変な事件がいっぱいあったじゃん?20年前は大災害の他にも高層ホテルが倒壊したし」

「そうなの?」

「そうだよ。で、その変な事件が冬木で多く起ってるのは、10年周期。1994年から10年周期だよ。で、今年は2014年。今年も何かあるんだよきっと!って噂!」

 

無類の噂好きである。

 

「ガス事故がたくさん起きたって世間じゃ言われてるけど、調べると10年前だけで教会爆発に墓荒らし、ガスの昏倒にトラック事故。ビル屋上で何件もの室外機破損。20年前にはコンテナ損傷にホテル爆破、大量の児童失踪と未遠川のUMA出現に光の柱!ネットじゃみんな冷めた目で見てるけど、これは妖怪と幽霊の仕業かもっていう噂も!」

 

こういった噂話に人間弱いものだけど、ここまで食いつくのもそうないだろうな。ちょっと嫌な予感がする。

 

「これは確かめなきゃでしょ。明日土曜日だし、探検しようよ!」

「えぇ……私たちもう中学生だよ?来年受験生なのに小学生みたいなこと……」

 

悪い予感は見事的中。コミュ力は高いけど彼氏ができない理由はこれだと思うんだ。ちょっと幼い。いや、心は完全に子供だ。その上こうと決めたらもう逃げられない。この手の彼女はたちが悪い。

 

「何を言いますか!私たちは子供!受験生にもなろうというこの時期が思いっきりふざけられる最後のときなのだ!謳え思春期、天晴れモラトリアムぅううう!」

「こらー千代田。給食時間くらい静かにしろー」

 

先生の声にごめんなさーいと千代田は答え、そのまま黙々と給食を落ち着き無く食べ始めた。

 

 

放課後とは心躍るものである。

 

『土曜日の約束、忘れないでよ!冬木大橋に10時!』

 

しかしこればかりは、今日ばかりは、めんどくささ20g、気怠さ32g、わくわく15gほどであった。

 

(冬木大災害の話したのがまずかったな……)

 

ふと、千歳は外の景色を見る。冬木大橋に入ろうとしていたバスの窓越しに上を見上げた。そして、()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

 

冬木大橋の上に人がいた。冬木大橋には歩道もあるから人がいるのは当たり前ではあるがそうではない。高いアーチの骨組みの上にいるのだ。あんなところに普通の人は行かないし、行けない。

 

(いやいやいや見間違いでしょ、絶対)

 

すると、こちらを見た。気がした。

 

「えっ」

 

遠くてそう断言はできない。だが顔をこちらに向けたのは確かだった。冬木大橋の途中で角度的にしばらく見えなくなって、また見えるようになったときには、影も形もなくなっていた。

 

(見間違い…だよね)

 

千歳はなるべく気にしないようにして残りの帰り道をバスに揺られた。

 

 

当日も、そこまで気乗りしないものである。

 

「まずは教会で調べよう!」

「こういうのって図書館とかじゃないの?」

「幽霊がいたなんて図書館に記録があるわけないじゃん」

「そりゃまあ、そうだけど……」

「幽霊妖怪の話なら柳洞寺か教会でしょ?というわけでまずは教会ね」

 

まあぐいぐい引っ張ってくれるから楽ではあるけど。

 

 

冬木教会

 

教会とは、なんとも静かで荘厳なものである。

 

「───今日は土曜日ですが」

 

見ない方々ですね。なんの御用でしょう。と、壇上で白髪の綺麗な女性が振り向いた。

 

「幽霊のこと調べに来ました!」

「幽霊……?」

 

あ、なんのことって顔してる。絶対ハズレだコレ。

 

「10年前と20年前の騒動ですよ!あれ幽霊の仕業かもって噂なんですけど、それって本当ですか?」

「………」

 

女性は少し表情を変えた。しかしそれも一瞬。それもすぐに消え、元の表情に戻ると、「いえ、そういった噂なら知ってはいるのですが、生憎私が知っているようなことは何も。そういった話なら、お寺のほうに行けば何かわかるかもしれません」と、手掛かりを示してくれた。

 

「あっ、ありがとうございます」

「いえ、ひとつのことに苦労して奔走する人は大変面……美しいですよ。頑張ってくださいね。主の御加護があらんことを」

 

今不穏なことを言ったような気がした。きっと気のせいだろう。ということで私たちの次の目的地が決まった。次は───

 

「「柳洞寺!」」

 

 

「───行ったな」

「そうですか」

「幽霊、か。言い得て妙だな。殺さなくてよかったのか?」

「バーサーカー、少しは考えてものを言いなさい」

「殺すのは手っ取り早いぜ」

「柳洞寺には真相はありません。手掛かりはありますが、数手先で完全に詰みです。聖杯はおろか、サーヴァントすら知られません。そうして真相は有耶無耶になる。神秘は守られます」

 

柳洞寺

 

お寺は落ち着いているが、匂いは少し変である。

 

「どうもはじめまして、柳洞一成といいます」

「はじめまして、天城千歳です」

「はじめまして!千代田昌子です!」

「元気があるのはいいことだ」

 

だが、尋ねるときは事前に言って欲しい。私たち僧侶も、その日の予定というものがあると、優しく注意されてしまった。

 

「20年前と10年前の事件を調べていて、私としては幽霊かもって説が有力なんですよ!そんな話聞いたことあります⁉︎」

「20年前といえば冬木大災害の話か。深山町ではそういった事件はほとんど無かったからな。10年前は───あぁ、幽霊は関係ないが、事件というか、そういうものならあったな。宗一郎兄が、いや、この寺に居候していた教師が婚約者と一緒に失踪したんだ」

「失踪───」

「その後も手がかりがなくてな、生きていればいいものだ……」

 

すまん、少し湿っぽくなってしまったな。いやあそれにしても、変な一ヶ月だったのは記憶にある。と続ける。

 

「その話、もっと詳しくいいですか?」

 

千代田は食いついた。

 

「ああ。こんな僧侶の過去話でもよければ」

 

 

 

わからないことを探すのは難しいことである。

 

「で、教会と寺行ってわかったことは?」

「10年前、柳洞寺に居候していた教師が婚約者ごと失踪、同級生がどーたら、寺がガス爆発で半壊……」

「その同級生とは連絡が取れず、その同級生とは別の同級生は取れて、今深山町に帰ってきてるって」

 

幽霊と関係、あるのかなあ。一成さん曰く、「幽霊とかそういうのは、生憎見たことがないからわからないが、若い人が昔に想いを寄せる姿勢は感心感心。もっと知りたければ遠坂に訊いてみるといいやもしれん。私が知るのは僧侶、いや、学生としての景色から見て知ったことだ。だが遠坂なら、あそこは名士の家系だし、それ以外も知っているだろうて」なのだが、一成さん、幽霊関係から見事に地元調査に乗り換えさせたのでは?

 

 

遠坂さんの家は、とてもお金持ちの雰囲気がする。

 

『はい、遠坂です』

「さっきお電話しました、千代田です!」

「天城千歳です」

『まあ、お待ちしておりました。柳洞さんからもお話は聞いております』

 

遠坂さんはすぐに出てきて、門を開けた。

 

「紅茶くらいしか持てなせるものはないけれど、ゆっくりしてください」

 

 

事情を説明するにしても、この説明は少しどうかと思うものである。

 

「───という感じで、幽霊とか妖怪の仕業説を推しているんです!」

「……そうですねえ」

 

あ、これ困ってるやつだ。

 

「なんか、すみません」

「いいですよ。こういう噂はどこからともなく湧いてくるものです。流石にここに尋ねにきたのは貴女たちが初めてですけど。それに、私は妖怪や幽霊、信じてないというと嘘になります」

 

オカルトウーマンなのか、理知的な見た目からは考えられない。

 

「じゃあ!」

「ええ、でも、霊や妖怪の類が呪いや超常現象ではなくガス爆発をたくさん起こすだなんて、私はとても考えられませんね」

 

その口調は穏やかで、やんわりとしている。言葉には少々トゲが見え隠れするが、人当たりの良い人だというのが千歳には容易に想像できた。まあ、猫を何重にも被っているとまでは見抜けなかったが。

 

「私は幽霊だとか、妖怪だとか、そういったものには幻想を持っていまして、まあ願望なのですが。彼らにはひたすら静かであって欲しいのです。それこそ、爆発だなんてものではなく、呪いや落雷といった、自然とつながっていたり、魔術や呪術に通じていて欲しい」

 

遠坂さんはオカルト持論をそれと語るような口調とは思えないほど穏やかに話した。まあ教師の失踪についてはわからないですけども、と付け加えて。

 

「でも爆発する幽霊とかいるかもじゃないですか」

 

千代田の反論には、遠坂さんはこう返す。

 

「幽霊は、言い換えると『よくわからないこと』の象徴みたいなものです。私は爆発や昏倒に対するガス事故という答えは納得できますが、これに納得できない、説明がつかないと思う人にこそ、幽霊は出るものだと思います。幽霊や妖怪というのは、貴女たちのどこにでもいて、どこにもいないものですよ。その幽霊を感じるか否かは、自身の心でしか決められませんもの。それに───」

 

彼らは私たちじゃ手の届かないところにいるから求めてしまうのに、届いてしまえばつまらないでしょう?

 

「手の届かないからこそ……」

「求めてしまう……?」

「わかりにくかったかしら……まあ要は幽霊なんて見えないし、よくわからないからこそいいっていうことですよ。そういう曖昧さにこそ、幽霊は生きているのですから」

 

その後、いくつか冬木の街や10年前の話について訊いてみた。どれも魅力的で、面白くて。あっという間に時間が過ぎて。私たちは4時ごろにお暇した。

 

 

冬木大橋───

冷静になって考えると、幽霊説は皆から遠回しにNOと言われただけじゃないか?と心配になるものである。

 

「結局、何にもわかんなかったね」

「うん。でも遠坂さん、かっこいいというか、綺麗というか、素敵な人だったなぁ」

「わかるーマン。ああいう人はモテるんだろなー」

 

じゃあそろそろ。と、別れの挨拶をした直後、後ろから衝撃を感じる。

 

「うぉわっ⁉︎」

「千歳⁉︎」

 

誰かに押されたのだろうか。そのままつまづいて倒れ込み、千代田さんを押し倒す形で転んでしまった。

 

「……っ、すまない!」

「い、いえ」

 

どうやら誰かとぶつかったようだ。かなり切迫した雰囲気の男の人の声だった。

 

「逃さないぞセイバー。聖杯の掟に従い、この争い、この理に従うなら閉じよ」

 

すかさず、別の男の人の声が聞こえてきた。なんというか、かなり反社会的な何かを感じた。瞬間、追う男の人から光が現れる。

 

「バトルオープン、剣を執れ、しからば死せよ(sword or death)

 

光は私たちを飲み込み、もう一度目を開けると、一面の花畑が広がっていた。

 

「なっ……!」

「替のマスターはすでに確保済みか……しかも子供……なるほど、目立つが護身の考え方からすれば有効な手段だ。マスターは非人道的だがサーヴァントは子供を殺めるのを善しとしないものが多い。肉盾を用意するとは良い感性をしている。子供を使うとはかなり良い感性をしている。倫理を顧みない辺り尚更良い感性をしている」

「いや違う、この子たちは何も知らない!何をしているんだ君達……!」

「違うなら心が痛むな。一般人なら殺さなければ。何も知らない子供とはいえど、魔術世界を知られたからには尚殺さなければ」

「早く逃げなさい!」

「逃げ場はない。ここは隔絶された結界の中。聖杯の中と言っても過言ではない。それに、私から10m以内にいる時点で射程内だ。逃す暇など与えない、コンマ1秒あれば殺せる」

 

「殺せる」?「殺さなければ」?待ってよ、意味がわからない。ただぶつかっただけで、何かもわからないものに巻き込まれて、挙げ句の果てに殺されるの?

 

「ちょっと待ってよ、私たちを殺すっていったの⁉︎」

 

口を開いたのは千代田さんだった。

 

「ああ。だから質問には出来る限り答えよう。魔術世界の話でもいい。聖杯についてでもいい。時間は豊富だ。そのついでに現在進行形で消えかかってるセイバーには魔力切れで退場してもらった方がより良い」

「嫌だよ……死にたくないよ!何もわからないのに、質問に答えるくせに、こんな理不尽無いよ!私たち何もしてないのに、なんで私たち殺されなきゃいけないの⁉︎」

「この結界に入った者は殺さなければならない。それは魔術師なら尚更。サーヴァントならより尚更。一般人ならもっと尚更」

 

叫ぶ千代田に機械のように答える男は、近世のフランス軍人のような格好をしていた。片手には単発の歩兵銃を持ち、間違いなく哀れみを以って私たちと対面していた。

 

「……君達」

 

ふと、軍人ではなさそうな方の、古代ローマの人のみたいな服を着ている男の人が開口する。

 

「何⁉︎」

「こうなってしまったこと、本当にすまない。これは超常の戦争だ。人知れず戦争を私たちはやっている。本来ならば何も知らない人間は、子供たちなら尚更無縁なものなんだ。だから、巻き込んだことも申し訳ないと思っている」

「だから何?私たちこれから殺されるんだよ?そんなこと言われても遅いよ!」

「君達は生き残る!」

 

千代田さんの嘆きに、憤りに、男の人は強く答えた。いつもは人の話を聞かず、勢いで押し切る千代田さんが珍しく押されている。私は、その理由がわかった気がした。

 

「君たちは生き残る。私に力を貸してくれ。何、若僧に遅れを取るほど私は老いぼれちゃあいない。戦う力を貸してくれれば、私は君達を生かせる!」

 

圧があるのだ。貫禄があるのだ。それは、信頼できるお父さんやおじいちゃんのような───

 

「随分と考えなしなことを言う。セイバー、お前は自分の言っていることがわかっているのか?その選択は地獄か辺獄を選べと言うようなものだとわかっているのか?今ここで死んだ方が良いとわかっているはずだ」

「たとえそれが良い選択だったとしても、死ねと言うのはこの老獪にはきついんだ。私は心が老いているからな」

「お前は残酷だ。死よりも残酷だ。およそ人間を人間と見ないくらいに残酷だ」

「人間らしくなんて、どっかの誰かさんが描いた理想に過ぎない。さぁ、私が消えてしまう前に、早く!私の言葉を2人で、同時に繰り返して!」

「弾がもったいないが、ここでお前は死ね。その2人も死ぬべきだ。間違っても子供に悪夢を見せてはいけない」

 

そんな言葉をそばにいる男の人は無視して、「では唱えよう」と言った。

 

───告げる

「「告げる」」

 

汝の身は我の下に、

「「汝の身は我の下に」」

 

軍人の男の人は銃を構え、引き金を引く。それをいつのまに取り出したのやら、男の人が剣で弾いた。

 

我が命運は汝の剣に 

「「我が命運は汝の剣に」」

 

軍人の男の人は舌打ちし、軍服の袖から大量の銃を出し、次から次へと撃ち捨てる。それすらも、目にも留まらぬ剣技で捌いていった。

 

聖杯のよるべに従い

「「聖杯のよるべに従い」」

 

この意、この理に従うのなら

「「この意、この理に従うのなら」」

 

そしてふと、言葉が浮かぶ。なぜかはわからない。千代田さんも同じようで、互いに顔を見合わせ、互いにうなずき、目の前で銃弾を捌き続ける男の人に私は左手を、千代田さんは私の左手に繋いだ右手を、繋いだまま差し出し続きを言った。何故かはわからない。ただこの時は確信があった。千代田さんも同じことを言うと。

 

「「我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」」

 

そして、私と千代田さんの繋がれた手の甲に赤いタトゥーのようなものが刻まれる。

 

「契約成立だ、こうなったら、君達のために剣を振るおう!その命、私が預かろう!」

 

絶望を8割、希望を2割持ってきたこの男の人との出会いは、何かに仕組まれたほど偶然に満ち過ぎて、必然が致命的に足りなかった。でも、たとえ何かに仕組まれていたとしても、それは何だかわからない。だからこの何かは、遠坂さんの言葉を使うなら、幽霊だろう。そう、幽霊の仕業なのだ。もしこの幽霊に名前をつけるなら、私はそれを、『運命』と名付けたい。

 




8000字とか二度と書かん。つらい。多分次は4000字が限度だと思うのでよろしく
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