Fate/Sirius Garden   作:watazakana

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前回のあらすじ

教会にて聖杯争奪戦の参加の表明をするため、教会に向かったセイバーたちを迎えるのは、バーサーカーだった。バーサーカーは結界を貼ろうともせず襲いかかり、セイバーを押す。そして、両者が致命傷に王手をかけたとき、冬木の管理者、セカンドオーナーである遠坂がやめさせる。そして、教会における問答の末、聖杯争奪戦の参加を表明。教会を出たそばからバーサーカーが現れた。


初陣

花は散る。足はその土を踏み荒らす。その踏み込みで地面は砕け、その槍を振り下ろせば土は深々とえぐり取られる。花が舞い散るとはまさにこの状況である。土ごとではあるが。

 

「セイバーっ!」

 

戦況は互角、いや、ややバーサーカーが優勢。セイバーはその力に負け、技術でなんとか拮抗している。しかし助力などできない。速すぎて、助力しようとしげも絶対に足手纏いになる。

 

「まさか、バーサーカー……」

「遠坂さん?」

「……単純なステータスになるけど、バーサーカーの能力の平均値cは聖杯戦争中最強よ。私たちの時のバーサーカーはセイバーを上回り、実質不死身。世界最古の英雄ですら驚くほどの能力だったわ。二十年前の時のバーサーカーは、セイバーを圧倒できる勢いを持った英霊だった」

「それじゃあ、セイバーは……⁉︎」

「いいえ、天城さん。違うわ、逆よ。確かに今回、バーサーカーに全体的なスペックで劣っているのは事実よ。でも……」

 

今回のセイバーはバーサーカーの攻撃を一人で辛うじて防ぎ切っている。辛うじて?いや、そうではない。慣れていないだけだ。力では負けているが、着実にバーサーカーの動きに順応している。

今回、サーヴァントの格は神話級の化け物揃いな第五次とは違って、ピンからキリだ。魔術協会は良い触媒を持つゆえに一級の英霊を召喚できる。聖堂教会は神秘の独占を目指すだけあって主にまつわるものには困らないだろう。最低限は保証できる。だがアトラス院は?魔術回路の乏しく触媒すら足りない。バーサーカーの狂化のランクが低いのも当然。

 

───この戦い───!

 

「勝てるっ!私も援護するわ!セット!10番から8番!セイバー、いったん下がりなさい!」

「!」

 

遠坂の号令にセイバーは跳び下がる。そのセイバーと入れ替わるように躍り出るのは8つの宝石。

 

「宝石ぃ?ンなもん出されても俺には効かねえよォ!」

 

バーサーカーの槍の一振りで砂粒まで砕ける宝石たち。それらは魔力を帯び、重圧へと変わる。遠坂の笑みは、全身を地につけたバーサーカーを前に全開になった。

 

「ンぐゥっ!?」

「かかった!それはね、Aランク級の魔術を込めた宝石よ。かのギリシャの大英雄すら膝を付け、抵抗できなかった魔術!耐魔力も碌なステータスのないアンタじゃ、もう勝負はついたようなものだわ!」

「セイバー、今がチャンス!」

「了解した!」

 

セイバーは槍を捨て、新たな槍を虚空から出現させ、手にする。それは見るはずのない槍。朱色の槍。

 

「嘘……嘘よ!アンタ、何でそんな……!」

 

遠坂は狼狽る。無理もない。なぜならその槍を遠坂は見たことがある。担い手は赤い瞳に蒼髪の半神半人だ。だが、それを手にする目の前の男は、体格は似れど、青い瞳に茶の髪、人相も違う。

 

「これは、いつかの時代に使われていた、()()()()()()

「そんな、アンタまさか……!」

 

あり得ない。心の底からそう言いたい。その槍の担い手の真名は、クー・フーリン。光の神子にして、魔槍ゲイボルクを持つケルトの大英雄。そんな彼を子と言った。無理なのだ。神霊を召喚するなど、無理が過ぎるのだ。そんな話があってたまるか。

 

「百歩譲ってアンタが現界したとして、そのスキルは、そのクラスはありえないわ!アンタには剣の逸話が少な過ぎる!そしてアンタは、その槍の使い手じゃないわ!」

「遠坂さん、何言って……」

「ここじゃ言えないわ。でも、事実なら、()()()()()()()()()

「……は?」

 

2人のマスターの目に、遠坂は今までにないほど焦っていたように映った。

 

「私はそこまで大した存在じゃないよ。では行こう。『その心臓、貰い受ける』」

 

セイバーはバーサーカーへと歩み寄り、槍を構えた。朱色の槍はますます赤い輝きを持ち、今にも殺すという空気を作っていた。枝のように細い槍だが、その芯はどんな槍よりも強く見える。なんておそろしくて綺麗なんだろうと、天城はその目を離さずにはいられなかった。

 

「『刺し穿つ(ゲイ)────」

 

その時、魔力が膨れ上がった。バーサーカーにかかっていた遠坂の重力結界は易々と砕かれ、思わずセイバーは引き下がる。

 

「なにこれ……ちょっと天城さん、バーサーカーのステータス見てご覧なさい」

 

天城は目を凝らし、むくりと起き上がるバーサーカーに浮かび上がるステータスを読み取った。しかし、妙な点が。

 

「バーサーカーの狂化?のランクが変わってる」

「どのくらい?」

「今のバーサーカーの狂化ランクはB、A……A+」

「ちょっ……⁉︎A+⁉︎待ちなさいバーサーカー!それ以上はアンタのマスター死ぬわよ!」

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

「まずいわね……既に聞く耳なしか!」

 

狂化スキル、それはマスターの魔力とサーヴァントの理性を引き換えに圧倒的な暴力をもたらすスキル。故にステータスは高い水準でまとまり、最優なはずのセイバーを毎度苦しめた。4次では全てのものを宝具とする能力で、5次では12回生き返る不死身の豪傑として。今回は、際限のないランクが立ち塞がる。

 

「どうしよう遠坂さん、筋力と耐久がどんどん上がってるよ!」

 

千代田の言う通り、今のバーサーカーの筋力のランクは5次のバーサーカーを超え、耐久もAランクを超えた。こうなると最早災害。彼の槍の一振りが、簡易的な対人宝具の代わりになる。リーチはセイバーのそれよりも長く、ゲイボルクも当たらない。

 

持久戦に行くか?それともあの槍で早く決着をつけるか?遠坂の思考はフルスロットルで回転する。

 

Why done it?

 

師であるロード・エルメロイ2世の推理の根幹はここだ。「なぜやったか」、この場合は「なぜこんな過剰とも言える火力を持たせたのか?」だろう。確かに5次のバーサーカーすら抑え込めたあの結界はそうそう破れるものじゃない。だが固有結界の中とはいえ令呪を使えば脱出くらいわけないのだ。命と令呪、どちらが惜しいか。それで令呪を選ぶのは阿呆だ。しかし、このような選択がなかったら?命も令呪も温存できるなら?

 

「バーサーカーのマスターが魔力切れを起こす時間は考えないほうがいいわね、セイバー!決着つけなさい!」

「マスター、いいな⁉︎」

「うん、やっちゃって!」「お願いセイバー!」

「了解した!」

 

セイバーは遠坂の妨害もあり辛くも距離を取る。必殺の槍は使えない。ならば、とセイバーは助走をつけ、踏み込み、上半身を引き絞った弓の如くねじる。

 

「真名、限定解放───『突き穿つ(ゲイ)───」

 

バーサーカーは本能で察したようで、槍を後ろに構え、受け流す体制を取った。

 

これは、必殺というには心許ないが、『当たる』という結果を先に作り、投げ放つという必中の槍。投擲技に関しては本来一枚とて破らせない盾を6枚割り、使用者の腕を潰した、神の権能にあと一歩で届く魔槍。

 

「───死翔の槍(ボルク)』ッ!!!」

 

放たれた朱槍は、考えられ得る軌道全てを通っていた。どこに行こうと、どこへ避けようと、必ず当たる経路が、そこにはある。

対して、バーサーカーも声を上げた。

 

「唸れ、唸れ唸れ唸レ唸れ唸レ唸れ我ガ槍一の槍!!!こレは、人の造リし究極ナリ!『天辺に坐す究極の一(にほんごう)』ッ!」

 

放たれた槍を迎え撃つ槍は、白く輝く。バーサーカーの膂力を持って振り抜かれた槍は、朱槍を間違いなく弾いた。しかし、それでも軌道をわずかに逸らすだけが精一杯で、爆発だけは免れられなかった。

 

「……まさか、極東にこれほどの勇士がいたとはな。驚きだ。賤ヶ岳の七本槍が一本、三名槍の一本の担い手」

 

ゲイボルクの投擲も本来使うべき魔力の半分もつかっていないとはいえ、真正面から受けてたち、見事生き残った。それは目を見張るものだ。バーサーカーは仰向けに倒れて、すこし叫ぶ。

 

「あ゛ァ、クソ、痛えったらありゃしねえ!」

「あれ、狂化のランクがいつのまにかEまで下がってる……」

「もう腕が使い物になりゃしねえ。マスター、撤退させろぉ。ムカつくが、こりゃあ向かっても無駄死にだ。真名もばれたしなァ」

 

そう言った後、バーサーカーは消えた。

 

「はぁ……剣は置かれた(sword was put down)

 

遠坂もなんとかやり過ごせた安堵もあって、マッコウクジラくらいの大きさのため息をつく。視界は一旦歪み、元の坂道へと戻っていた。

三人に疲れがどっと出た。

 

「なんとか切り抜けられた……」

「ありがとう遠坂さん……」

「いいえ、私は私が助かる可能性が高い方法を取っただけよ……おかげで数百万ドブに捨てちゃったけどね……」

「すうひゃくっ……⁉︎宝石ってそんなにかかるんですか……⁉︎」

「当たり前よ……それに、さっき使った宝石は三百年モノの曰く付き…ああもう!これだから遠坂家は年中金欠なのよ!」

 

そんな宝石を躊躇わず粉砕できる遠坂も肝が座っているというか、覚悟が決まっている。

 

「……帰ろ、遠坂さん」

 

午後4時、夕焼けになりつつある空だった。

 

そういえばと、気になったことである。

 

「そういえばセイバーって槍の英霊じゃないんだよね?」

「ああ、剣の英霊だが……」

「どうして剣を使わないの?」

「それ、私も気になった」

 

セイバーは剣士というくらいだから、てっきり剣しか使わないものだと思ってたけれど、今日は槍しか使うところを見ていない。

 

「単に間合いの問題だ」

「間合い?」

「私は剣の英霊だが、戦闘は苦手でね。かの騎士王ほどの腕ならば剣でも槍と渡り合えたかもしれないが、基本的に槍は近接の武器では最強の部類だ。並の腕前では剣の間合いに入り込む前に霊核を貫かれておしまいさ」

「騎士王って、アーサー王のこと?」

 

騎士王、誰もが聞いたことのある御伽話の王子様。アーサー王物語の主人公。いろいろな物語の主人公の名前の元になっている人だ。

 

「ああ。セイバーの中でも最強の部類にある英霊さ」

「ところでアンタ、さっきまで聞かないでおいたけど、今、ここで事情聴取するわよ」

「む、唐突だな」

「唐突も何も、これくらいの唐突、アンタの情報量よりは全然マシよ!ねぇアンタ、本当に何者?」

 

冬木大橋はどんな場面でも画になる。容姿端麗な女性、遠坂さんに謎めいた渋くも若い男の人、セイバー。顔の半分が夕日の影だ。尚更画になるものだ。照らされた瞳の中で光が反射し、宝石のように輝いた。

 

「かの神について触れないあたり、よほど用心深い。なるほどどれだけお人好しでも魔術師のようだ」

「はぐらかさないで」

「私は神霊ほど立派なモノではない。今はそれだけしか言えない」

「純粋な人間、そういうことね」

「ああ」

「じゃあアンタの槍は?ゲイボルクに日本号。アレはもう偽物じゃない、本物のそれよ。でも本物は、原典を除けばオリジナル以外一つとして存在しないわ。その原典も、英雄王ギルガメッシュの所有物。手にできるわけがない」

 

セイバーは厄介だなって顔をして、「じゃあヒントを与えよう」と困り顔で指を立てた。

 

「「ヒント?」」

「そうだマスター。これはヒントだ。自分で察せたら、それでいい。私が真名を晒せば、皆私への対策を立てやすくなる。それを避けるためにも、皆がわかるヒントは与えないし、まして真名なぞ口には出さない。わかったね?」

「う、うん」

「わかった」

 

遠坂さんも不承不承了承してくれた。この人の言うことには、安心と緊張があるなあ。こんな感覚は初めてじゃないけど、私どこで感じたんだろう。

 

「そうだね、まずトオサカが言っていた『どれも本物』。それは当たらずとも遠からずだ。厳密な意味で言えば本物ではないし、では偽物かと言われればそうでもない」

 

次に沈黙。みんな次の発言を待っていた。セイバーは不思議だと首を傾げる。

 

「なんて神妙な顔してるんだ。む、続きが欲しいのか?」

「当たり前よ」

「終わりだったんだが」

「……だろうとは思った……」

 

マンガならズコーってなっていただろう。

 

「『ホワイダニット』……ここから進めるしかなさそうね。セイバー、天城さんと千代田さんを送ったら私の家へ来なさいよ、いい?少なくとも、アンタがもし見つかったら大変なことになるし、霊体化は魔力を要するわ。はい!今日はもう解散!早めに寝て、学校に備えなさい。最優先は学校なのよ」

「先生みたいなこと言うなあ」

「あら、聖杯戦争でも人生でも先輩の私に異論でも?」

「い、いえ!ありません!」

 

千代田のブーイングに向けられた笑顔は怖かった。

 

「ではアマギ、いくぞ」

「じゃあね、千歳」

「うん、また明日」

 

別れの挨拶を交わしたら、セイバーに突然抱き抱えられた。しかもお姫様抱っこで。

 

「うぇっ⁉︎」

「口は閉じなさい。舌を噛んでしまう」

 

それだけ言ってから、冬木大橋の鉄骨アーチの上を走り出した。しかもこれ……!

 

(セイバー速っ⁉︎)

 

車とほぼ同じ速さで走っている!お姫様抱っこの形でめちゃくちゃ恥ずかしいけど、そうも言ってはいられない。風が吹き付けて目もあまり開けられない。ただそんな中でも、冬木大橋の上で見る夕日は、何にも代え難く感じるくらいに美しかった。

 

「跳ぶぞ」

「えっ⁉︎」

 

ふわり。鉄骨が軋む音がしたが、そんなことはお構いなしにビルの上へと跳び移った。屋上伝いに冬木中央公園へ一直線。屋上から飛び降りた先に公園の植木。何か防壁を張っているのか、枝からセイバーを避けていく。

そして、1分も経たないうちに家の前まで着いてしまった。

 

「チヨダの送りもあるから私はこれでお暇しよう。ちゃんと寝て学校に行きなさい」

 

セイバーはそれだけ言って消えてしまった。

 

「すっご……」

 

これがサーヴァント。これが英霊。なんて力強くて、なんて凄まじいものなんだろう。普通に生きていれば、こんな世界も、こんな経験も無かった。私、聖杯争奪戦を降りなくて良かったかもしれない。

振り返ると、そこには見慣れた玄関口。ドアを開けて、帰還の宣言を。

 

「ただいま!」

 

 

 

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