Fate/Sirius Garden   作:watazakana

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断章外典
番外・聖杯争奪戦


「来たか、ジークフリート」

 

冬木教会前、神父のような初老の男は、修道士のような服装をした青年に声をかけた。

 

「……やられた……のですね、師匠……」

「あぁ。()()()の触媒を持った代行者は死んだ。サーヴァントは逃亡中に一般人をマスターにした」

「なっ……!あり得るのですか⁉︎魔術の素養もない一般人が、マスターなどと……!」

 

原罪者がどうこうというものは既にどうでもいい。聖杯争奪戦といえどもそれは公にチーム戦になっただけの聖杯戦争だ。それよりも聖堂教会が忌むべきは「神秘の漏洩」。魔術やサーヴァントなど、そんなモノは俗世に出してはならないのだ。だから聖杯の魔力を利用した固有結界の起動術式まで組み込んだ。だというのにこの始末。あの代行者にセイバーの触媒を与えるべきではなかった。纏う神秘で言うなら今戦最高クラスのサーヴァントを、みすみす得体の知れない「一般人」に渡してしまったのだ。不特定多数に知られるきっかけは、何が何でも潰さなくてはならない。それは聖堂教会の役割であった。

 

「そのマスターは二人。そして子供だ。こんな条件では、今すぐに一般人の陣営を仕留めるしかあるまい。一般人ならばどのようなクラスが来ても殺せる。私のランサーが駄目でも、お前のキャスターが十日かけて殺すだろう。私たちは代行者として、()()()()()()()()()()()()

「はい、師匠。このジークフリート、師たるヴァーレンハイトの名に恥じぬ貢献と共に主への献身を」

 

かくして聖堂教会代行者陣営、セルデル・フォン・ヴァーレンハイト及びその弟子ジークフリート・ハルトマンは、セイバー陣営、天城千歳及び千代田昌子に標的を絞る。

 

「『神秘の秘匿の危機を防ぐため、セイバーのマスターを殺した者には追加の令呪を与える』、そうカレンを通して伝えておけ。三陣営に囲まれさえすれば、セイバー陣営も確実に仕留められる」

「はっ」

 

 

「まぁこんなモノでしょう。二流のバーサーカーにしては、よく頑張りました」

「黙れぶっ殺すぞ」

「どうせ私を殺せないくせに口も態度も図体も大きいのですね」

 

過去の武将に対してこの言い草。世が世なら即切り捨てられていただろう。というか実際切り捨てられた。カレンの胴体は日本号で両断され、即座に教会の壇上に倒れ伏し血溜まりを作る。

 

「やめてください。面倒なんですよ。死臭とか血の臭いとか死体の処理とか、そういうの大変なんですから。願いが叶わなくなってもいいんですか?」

 

しかし途切れぬ声。カレンは生前と変わらぬ姿でバーサーカーの背後に立つ。

 

「あぁ……ホンっとイライラするぜェ!」

 

殺してもキリがない。その不死性のカラクリに見当がつかないのも腹が立つ。バーサーカー、福島正則とマスターとの相性は最悪であった。

ふと、電話のベルが一昔前の目覚まし時計のような金属音の連打を響かせた。

 

「あ、電話が鳴ってますね。私とってきます」

 

そして、聖堂教会陣営の提案を呑み、ここに『セイバー陣営殲滅令』が出されることとなった。

 

 

ウィリアム・ベルはご自慢の金髪をかきむしった。

 

「ああクソ!せっかくガス欠気味っつー最高のチャンスをよくもフイにしてくれたなアーチャー!」

 

彼は心底腹を立てているようだ。

 

「セイバーだぞ、セイバー!よりにもよって最優のセイバーを倒す絶好の機会を……!」

「……それはすまない。こちらとしても仕留めるつもりだったが、セイバーはその状態でも強かった。それに、子供など……!」

 

アーチャーも頭を抱えている。魔術のド素人とはいえ、マスターになってしまうと厄介なことは目に見えている。しかし無条件に子供を殺してしまうわけにもいかなかった。思えば、せめてものと思って与えた時間は失敗だった。

 

「何だよ、子供の一人や二人、殺したって誰も殺人たぁ気づきゃしねえよ!聖杯の結界に置き去りにすれば単なる誘拐事件で済んだんだ!」

「世間はな。しかしどこからともなく真実は漏れ出すものだ。魔術世界だって、この時代じゃあ俗世と近い距離にある。下手な行動でマスターと神秘を危険に晒すわけにはいかない」

 

ベルの眉間がわずかに動く。

 

「……っ!俺が一番じゃねぇのかよ……!」

「そうじゃないマスター、私は……」

 

だが、もう終わったこと。怒鳴っていても仕方がない。第一、怒鳴るのは三流の人間だと自分に言い聞かせる。一番になれなくても、絶対に「負け」たくない。そのために成すべきを為さなければ、時計塔のような場所では生きていけないのだ。

 

「……もうやめだ、こんな生産性のない叱責、俺が今することじゃない。すまないなアーチャー……さて、作戦立案だ。セイバーにマスターのいる今、聖堂教会は全力でガキ共の令呪を奪いに行くだろう。アトラス院はザコ触媒しかないだろうな。狙い目ならアトラス院のサーヴァントか、セイバーとやり合った後の聖堂教会だな。それかセイバーのマスター」

「マスター、魔術協会陣営のもう一人はどうなんだ?チーム戦において二騎対一騎では私も苦しいのだが」

「バルトラ先生とは戦闘面では協力しない。俺の魔術と噛み合わないんだよ、先生は。連携なんてせず、各個撃破が合理的だ。だが、各個撃破に持ち込むまでは協力する。敵の情報を出し合い、誰を狙うかを予告し合い、魔術協会を勝利に導く。順調にいけばアーチャーの宝具も使わない。使う時は多対一の状況においてのみ。アンタの宝具は完全な曰く付き(ジョーカー)だからな。ここぞという時しか使わないぞ」

 

そうだ。アーチャーの宝具は下手すると自分たちの首を締める結果になる。使いづらいので、宝具の無闇な使用は絶対に避けなければならない。

 

「俺は情報提供と情報収集、サーヴァントへの魔力供給と安全の確保が仕事。アンタの仕事は戦闘と作戦に従うことだ」

 

全く分業とは素晴らしい。

 

「そういえば、監督役からセイバー陣営殲滅令を出された。勝者には令呪一画を与えるらしい。こんなチャンスはそうそうない。最初はセイバーのマスターを狙うぞ。セイバーを相手するのは教会どもの役目だ」

 

 

「ライダーさん、ライダーさん、この戦略ゲームをやりましょう!」

「何だマスター藪から棒に」

 

黒髪の可愛げなキャリアウーマンっぽい格好をしている女性、マリナ・ハイト・ヘルベスタが持っているのは「指揮官の決断」という太平洋戦争をモデルとした据え置き型のゲームだった。

このマスター、全くと言っていいほど緊張感がない!

 

「軍師だったでしょ?アナタ」

「そうだが……見るからに近代の艦隊戦じゃないか。私の専門じゃないぞ」

「そんなこと言われたらイタリア中探し回った私と触媒とローマが泣くぞ」

「マスターはともかくあと二つはなんなんだ!ローマは偉大だから泣かないぞ」

「とか言って西洋史の本読んだら『ヒンッ!死゛ぬ゛な゛ロ゛ー゛マ゛帝゛国゛!』ってめちゃくちゃ泣いてたじゃん。西ローマ帝国滅亡した時とかめちゃくちゃ凹んで口きいてくれなかったじゃん」

「私はローマじゃない!私は栄えあるローマ市民だからな、故郷が滅んだなどと知れば泣きもする」

「えっやだかっこいい……!おじさんのくせに!おじさんのくせに!」

 

こんな下らないやりとりがここのところ毎日だ。チェンジと言いたい。転職したい。マスターのリコールできないかな。まだ8日も経ってないし。

 

と、そんな折、魔術で編まれた手紙が借宿の壁に刺さる。

 

「うわ、刺さってる。やめてよぉ壁薄いんだから!大家さんになんていうのさ!」

「まあマスター、この手紙は……聖堂教会?というものではないのかね?」

「え゛っ⁉︎」

 

あからさまにマズいという顔をした。

 

「おいマスター」

「えっ?ななな何?ライダーさん、わ、私なんかやっちゃいましたぁ?私、なな、な、なーんにもやってないですよおぉぉ……?」

「目を逸らすな敬語になるな声を裏返して変なイントネーションつけるな気持ち悪い。で?何を?やらかしたんだ?」

 

このタイプはなんでもないやらかしに見えて実はとんでもないことをやらかした奴だったりする。もうやだ。胃が痛い。痛くないけどそんな気がする。マスターってこんなのが普通なの?

 

「いや、ね?私とライダーで教会に挨拶に行ったじゃん?」

「ああ、私は外にいたけどな」

「あのときさ、監督役がめちゃくちゃ腹立つ人だったから……」

「……まさか」

「そのまさかです……錬金術で死体とか血とかそういう痕跡は速攻で岩と砂に変えて庭に埋めたからバレないかと思ってたけど……」

「……刺殺?」

「銃殺です……M1911(コルト)で胸に三発顎に一髪……」

 

思ったよりも入念だった……貴女マフィアか何かですか?

 

「マスター……アンタ本当に魔術師か?」

「仕方ないでしょ⁉︎私戦闘向きなものって言ったら動物の死体から弾丸を作るくらいしかできないの!魔術回路なんて二十本しか無いし、聖杯争奪戦で戦うには銃火器しか無いの!」

「そういうことじゃねーよ!なんで監督役を殺すんだよ腹が立ったとしてもさァ!」

 

おお神よ、サーヴァントはマスターを選べないのはわかりますが、これはあんまりじゃないですか?既に心が折れそうです。

 

「聖堂教会から来た手紙とかナイナイ、絶対呪術かなんか掛かってるよ……!」

「じゃあ私が開けよう。読み上げもするし、それでいいだろ!」

「あ、読むのは私がやる。聖堂教会というか、西洋の魔術は言語的に音が起動条件だから読み上げるのはマズいよ。ライダーさんは開くだけにしといて」

「お、おう。そうか……」

 

妙なところでしっかりしているのな。このマスター。

なにかと感心しているうちに、マスターは顔を綻ばせた。

 

「よっし!私がやらかしたってことはバレてなーい!」

「え、違う内容だったのか?」

「うん。内容はセイバー陣営殲滅命令。監督役が主導で一般人の子供マスターを殺すの」

「なっ……子供……⁉︎子供まで参加しているのか⁉︎この戦争は!」

「ライダーさんが驚くのも無理はないよね。でも可能だよ。魔術師は跡継ぎを潰す気にはならないから珍しいけど、第五次ではあの遠坂、間桐、アインツベルンが17歳と10歳のマスターを記録上は擁立してる。今回は14歳が最低年齢かぁ。うーん、趣味じゃないんだよなあ。無益な殺生はしたくないし」

「今すごいブーメランが……」

「いやいや、イライラも解消されないなら無益だよ!先代の監督役の件はイライラ解消になったから有益」

 

やはり魔術師は命が軽いものだ。私たちと同類で、異質なもの。しかしこの思考は魔術師でも珍しいのでは?とも思う。

 

「集団リンチは萎えるし濡れないんだよねえ。でも、マスターを殺せば令呪が一画貰えるって言われた以上、やるしかないっしょ」

「まぁ……そうだな」

 

ローマでもそうだ。負けたら女子供関係なく略奪される。男は皆殺しにした時もあった。それが当たり前だったな。戦いにしか目を向けなかったから、忘れかけていたよ。自らの手が女子供を殺すことは、別段普通のことだった。

 

「あれ、ライダーさんそんなに嬉しくなさげ?嫌だなあ、私がやりたいのはそんな唆らないことじゃないよ。私たちがやるのは、正義のヒーローだよ」

 

そう、覚悟を決めたつもりが、彼女はちっともそんなことを考えてないようで。

 

「正義のヒーロー?」

「そ。お子様マスターを守るの。私たちは一応この手紙に偽のギアスで応える。錬金術ならお茶の子さいさいよ〜。そしてその後どうするかはライダーさんにお任せ。一攫千金のチャンスじゃーん?戦略は考えるから戦術と戦闘はそっちでヨロシク!」

 

はぁ……

 

無意識にため息をついてしまった。

 

「ん?どしたのライダーさん?これも嬉しくなさげ?」

「いや、これは嘆息だ。確かにマスターの人格はクソだが、私とは気が合いそうだなと思っただけだ」

「世界で三本の指に入るか入らないかの軍師がそんなこと言ってくれるとは……!ありがとぉ、褒められた気が全然しないけどそこはそれだよぉ〜!」

「HAHAHAそれはお互い様だ!じゃあこれから作戦立案と行こうかクソ錬金術師!」

 

彼女らの夜は楽しげに続く。

 

 

「……そうか、ならば私は聖堂教会を牽制しつつセイバーを狙う。ああ、わかった。では、期待しているよ」

 

受話器を置いた。

 

「アサシン」

 

黒く体型がわかりやすいぴっちりな服を着た白仮面の女が姿を現す。

通常、聖杯戦争のアサシンはこの白仮面───暗殺教団の長、「ハサン・サッバーハ」が召喚される。今までに確認できたハサンは、多重人格者という精神障害を武器に百人の暗殺者に分裂する者と、魔神の腕を自らに宿し心臓を潰すことで暗殺を成す者。今回は、己のありとあらゆる身体を毒に変えた者である。

その吐息までもが毒であり、解毒結界をマスター自身にかけてもなお5分保つか保たないかというほどである。故にアサシンは常に霊体化しており、指示がある時以外は霊体化を解かなかった。

 

「セイバー陣営殲滅のお触れが出た。セイバー陣営殲滅を為した者には令呪一画が授けられるらしい。だが、授けられるのは一人のみ。競争の形になる。魔術協会陣営は必ず勝たなければならない。アサシン、君が歓迎してあげなさい。魔術用の鉱石は渡しておこう。君の戦闘スタイルに合った術式をこめている。使い方を見誤らず、適切に使いなさい」

 

バルトラ・シェフィールド・ファインドピースは魔力の篭った鉱石をアサシンへと渡す。

 

「えっ……⁉︎あっ、ダメですよマスター……毒が……」

「何、大丈夫だよアサシン。私は自分の体の状態がわからないほど愚か者ではない。ダメな時はダメだと言うさ」

 

 

バルトラは安心してと言わんばかりの穏やかな笑顔でアサシンを宥めた。陰謀渦巻く時計塔に勤めている以上、毒対策をいつもしているが、このひと触れでさえ確実に体を蝕んでいた。そのことはその毒となっているアサシンにも手に取るように伝わる。少し触れるだけでも怯えた顔をし、申し訳ないように目を逸らしてしまった。

その顔は、アサシンの心をさらに疲弊させた。

 

 

 

かくして2戦目が動き出す。次なる戦の舞台は放課後の穂群原学園中等部。次回より、「探偵編」、開始。

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