Fate/Sirius Garden   作:watazakana

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前章のあらすじ

ある日、聖杯戦争に巻き込まれてしまった天城と千代田。彼女らは紆余曲折の末、セイバーのマスターになり、聖杯争奪戦を生き抜くことを誓った。
そして、それに合わせてセイバー陣営殲滅令が各陣営にもたらされる。初手から大ピンチが、彼女らに忍び寄ることになる……


一章:穂群原カイ談
穂群原事変(1)


穂群原学園中等部、2-C教室

 

「ハーイ皆さんオッハヨー!今日はアナタ達の担任がお休みで急遽私が担任代理を務めます藤村大河だぜぇ……ヨロシクぅ!」

 

やけにハイテンションな高校の英語の先生が担任代理として来た。

 

「タイガーせんせー、黒田先生どうしたんですかー?」

「タイガーじゃねえ虎でもねえ、藤村先生だ覚えとけ!黒田先生……あ、ここの担任ね。黒田先生はねぇ入院中よ。なんか重度な貧血らしくって。あ、これ大事なお知らせ。ニュースで知ってるかもしれないけど、この前の土曜日に冬木教会で発砲事件があったから、当分5時完全下校ね。部活動も休みになるからよろしく」

 

教室がざわめく。発砲事件のことで騒ぎ出す人、部活動が休みになって嬉しがる人や、逆にブーイングを展開する人、帰宅部だから関係ないと言わんばかりに窓の外を眺める人、色々な反応が教室を満杯にした。

 

「千代田さん、どう思う?」

「うーん……あのセイバーが最初に戦ってたあのサーヴァントかなって思う」

「やっぱり?」

「でも私たちを殺そうとしたのは神秘を守るためでしょ?」

 

あれほど神秘が漏れることを嫌っていた風だったのに、そんなに簡単に世間に広まることするかな?と千代田さん。

 

「確かに、サーヴァントは霊体化できるしね」

 

銃を持った軍人の英霊、多分アーチャーだろう。けど、千代田さんの言う通り彼のこととは考えづらい。推理するにも手掛かりの足りない私たちは、ドツボに嵌りかける。そんなとき、授業開始のチャイムが鳴った。ありがとう授業、貴方のおかげで一旦中断できる。

 

「この話は後にしよ。授業あるし」

「そうだね、昼休みにセイバーも呼んで話そうか」

 

こうして、学校の1日が始まった。

 

昼休み、校舎裏

 

「藤村先生理不尽すぎない???」

「理不尽というか何と言うか、まあ分からなくもないんだけどね……」

 

1時間目はのっけから藤村先生の授業だった。倒れてしまった黒田先生が英語の授業を担当していたので、藤村先生が担任代理のついでに英語もやることになったそうだ。で、最初に行われたのが英語の小テスト。成績に絡むとか言い出して、みんな必死にやっていたわけで。

『みんなの実力を把握できてないと、ちゃんとした授業はできないのよ〜?提出物一つチャラにするから、さー皆の者、頑張って解くのダァ!』とは言うものの、提出物で何とか成績を取ってる人からしたら地獄では?黒田先生が帰って来ると大変なことになりそう……

 

「で、朝の話なんだけど……」

「うん、あのサーヴァントかな」

「いや、それはアーチャーではない」

「ぅひっ⁉︎」

 

突然男の人の声がして、私たちの心臓が跳ね上がった。そんな私たちの顔を見た男の人は、金の髪の頭を掻き、バツが悪そうに立っていた。

 

「あ、セイバー……」

「驚いたぁぁ……」

「あぁ、やはり驚いてしまったか。すまない」

「いつからそこに?」

「霊体化してずっといたぞ。トオサカからの命令でな」

 

なぜかは分からないが、トオサカには頭が上がらないとぼやくセイバーは、私たちの推理に新たな情報を積み上げた。

 

「発砲事件の話だが、それはアーチャーではない。事件が起きたのは冬木教会だ。サーヴァントが立ち入れない領域での話だからな」

「じゃあ魔術師?」

「魔術師って音を消す魔術とか使えないの?」

「そこは分からん。できるだろうが、何しろ魔術は専門外だからな」

「でも、サーヴァントじゃない。そこは分かったから丸儲けじゃない?」

「そうだね。でも、遠坂さんはこれ放置するの?」

 

再び沈黙。冬木市を荒らそうとする人は許さない的なこと言ってたし、セカンドオーナー?とか言ってたし、放置する様には考えられないんだけども。

 

「放置よ、放置。私が関与するのは魔術がらみの話。今回は銃撃ったってだけだから問題の把握に留めるわ。魔術に触れそうになったら伸して警察に突き出すけどね」

「わ、遠坂さんまで」

 

フェンス越しに声をかける遠坂さん。周りに人が居ないからいいけど側から見たら不審者でしかない。

 

「聖杯争奪戦関連ならともかく、ただの犯罪者なら私が出るわけにもいかないわ。魔術が社会に漏れる原因にもなるし、何より犯罪者対処は警察の仕事よ。私人がやることじゃないわ」

「私もトオサカと同じ意見だ。魔術に近づく者が現れれば俗世へ追い返すだけに留めたほうがいい。発砲事件は教会も調べているが魔術がらみという証拠はまだ出ていないということだ」

 

そう言われればおしまいだ。しかし、一つの疑問が残る。

 

「そういえば、第四次のときに高層ホテルが倒壊したのは聖杯戦争が原因だってカレンさんが言ってました。それはどんな魔術を……?」

「冬木ハイアットホテルの話ね。残念だけど、第四次の記録はほとんど無いわ。知っているとしたら、第四次の生存者……エルメロイ先生かしら」

「公の記録では『ガス管の爆発による基礎破壊』……トオサカ、これは調べたほうが良いかもしれん。魔術にせよ別の手段にせよ、この事件が聖杯戦争がらみだとしたら相当な魔術か、もしくは用意周到さだ。なにかの参考にはなるだろう」

「その辺は私も調べておくわ。第四次は私も思い入れがあるし」

 

遠坂さんは腕時計を確認する。

 

「もう少しで昼休みが終わるんじゃないかしら?」

「あっ」

 

運動場を見れば皆ボールを返しに行っている。ボールの貸し出し時間は昼休みの終わる5分前だから、そろそろ帰らなくてならない。

 

「遠坂さん、第四次のことお願いします」

「ええ、頼まれたわ」

 

千代田さんと一緒に校舎へ入ろうとすると、遠坂さんから「最後に一つだけ」と呼び止められた。

 

「私もできることはするから、放課後は何がなんでも生き延びなさい」

「?……わかりました、ありがとうございます!」

「ありがとう遠坂さん!」

 

そうして私たちは午後の授業へ向かった。

 

 

放課後

 

「清掃委員の人ー?」

 

私のことだ。藤村先生の声に反応した。

 

「はい、なんでしょう?」

「ごめんねー、ちょっと手伝って欲しいことがあって。ちょっと来てくれない?」

「わかりました」

 

千代田さんに「ごめん、待ってて」と伝え、藤村先生について行った。

 

 

藤村先生は気のいいお姉さんのような先生だ。穂群原学園でも古参になりつつある先生は面倒見が良く、学校内でも姉貴分になりつつあるようだ。

 

だからだろうか。

 

「ねえ、天城さん」

 

普通に、今まで通りに生活してたのに。

 

「あなた、マスターですってね」

 

実習棟の誰もいない教室で放たれた一言で頭が白けた。視界は抽象的な絵画のようで、心臓の鼓動は跳ね回る。肩が一瞬上がって、言い訳なんて浮かぶはずもなかったし、とぼけるにも驚きが態度に出過ぎていた。

 

「……正解か」

「どう、して」

 

藤村先生の口調は豹変した。

 

「人間よ、我ら神秘を穢さんとする冒涜の子よ、我らは貴様を生かしておけぬ」

「藤村……先生……?」

 

藤村先生は、ゆらゆらとこちらに近づいて、手を私の首の方へ伸ばした。

 

「い、嫌っ……!」

 

後ずさる。詰められる。後ずさる。詰められる。背中は窓のサッシに触れる。

 

「女。諦めよ。ここからは出られぬ」

「だ、誰か!来て!助けて…!」

「誰も来ぬ。皆眠っている」

 

催眠系の魔術……!確かに静かだと思ってたけど、魔術だったなんて……!いや、そもそも学校の中で魔術師が殺しに来るなんて考えてなかった。教会にも学校にいる間は狙わないようにって言っていたはずなのに。

 

私の首に手が触れる。払い除けようとしたけど、女性のものとは思えない力で気道を塞いできた。

 

「ぐ……ぅッ!あっ……!」

 

息ができない。もがけばもがくほど苦しい。頭が痛い。視界が暗くなっていく。

 

「セ……い……バ……ぁ」

 

あぁ、もうダメだ。もがく手の力が入らない。セイバー、来てよ……。

 

「あーちょい遅かったかな?それは困る。わざわざ学校とかいう警備厳しいとこに潜って成果なしじゃあ冗談キツいよ」

 

突然、別の女の人の声がした。

 

「ちょっと?もしもーし、そこな綺麗なお姉さん?聞こえてます?」

 

女の人の動きはわからないけど、藤村先生の手を引き剥がしてくれたのは、それまで圧迫されていた気道に空気が通い始めてから分かった。

激しく咳き込むところに、女の人に背負われる。

 

「ごめんね、お嬢ちゃん。訳わかんないでしょうけどそこは後で。今はあの憑かれてるお姉さんの目を醒まさなきゃだから」

「……?」

「貴様、その人の子を生かすことがどういうことか、わからぬわけでもあるまい。聖杯争奪戦の参加者ならば、神秘の重要さはわかっているだろう」

「へ?知らんスよ、そんなの。神秘がなくなったって別に私は困りませんが」

「……穴蔵の引き篭もりか」

「やだ、引き篭もりだなんて人聞きの悪い!現に私、今学校にいるから!不法侵入だけど。それより、アナタのそれ。アニミズム?シャーマニズム?まあなんでもいいけど、憑依系魔術としてかなり洗練されてらっしゃる。悪霊使いは趣味が悪いけど、ここまで来たらむしろ感嘆ものだね。何代目?どこ住み?」

「黙れ。貴様も我ら神秘を脅かすものならば、まとめて死に晒せ!」

 

視界が開けてきて、最初に目に映ったのは、襲いかかる藤村先生の眉間に女の人が拳銃の銃口を突きつけているシーンだった。

 

「……!」

「いいのかな?この人死ねば、神秘が漏れるかもだよ?そしてアナタも死ぬよ?」

「待って……!藤村……先生はぁ…!」

「わかってるよ。この人は巻き込まれただけだ。だから、妖精は追い出さないと……ねッ!」

 

女の人は銃床で藤村先生の頭を殴りつけ、怯んだ隙にお札を貼り付けた。

 

「これぞアトラス院の至上礼装!生体と霊体を仕分け、邪念を持つ霊体のみ変換する錬金術の触媒!『ロゴスリアクト・ゴーストハック』!お前らみたいな悪い妖精を、ただの水に変えてやる!」

「何ッ⁉︎そんなものを……!いかん、脱出しなければ!」

 

藤村先生から何かが抜け出た。藤村先生は倒れ伏し、幽霊のようなものが顕れる。女の人はにまりと笑った。

 

「なーんちゃって!アトラス院が世界を7度滅ぼせると言っても、さすがにそんな器用なマネはできません!嘘でーす!」

「貴様……ッ!我ら神秘を愚弄するなど……!」

「本体顕したね。確かに生き物に憑いた霊体を変換するのはリスクが高すぎるから無理だよ。でも、()()()()()()()()()()()()()。ウチの防衛機構はゴーストも使ってるから、その辺の錬金術と七大兵器の合わせ技を私は編み出した。門外不出の穴蔵の兵器だ。本来出しちゃダメだけど、アトラス院も知らないからオッケーだよね」

 

彼女はライフルを新しく取り出す。

 

「なんだ……それは…!我でもわかる、そんなものがあったら、聖杯争奪戦は成り立たない!サーヴァントなんて塵芥だ!聖杯も手に入らないぞ!」

「やっぱり、天敵だと解っちゃうか。大丈夫だよ。これはサーヴァントには使わない。英霊には、そんなことしたくない。ただ、魔術師なんて外道どもの手下には使う。そう決めてるんだ」

 

彼女はライフルの安全装置を外し、銃床を肩に当て、照準を合わせる。

 

「存在規模・実数値化完了。逆説→真説。Δ完了。弾丸設定。1970年、5.56x45mm NATO弾、存在否定背理法焼き付け完了」

「やめろ……!貴様の魔術回路もただでは済まないぞ!」

「これ、私が作ったんだから。さよなら。悪い妖精さん」

 

かくして引き金は引かれ、銃弾は撃ち出された。いや、銃弾は見ていない。私には、一瞬反転した色彩と、大きく抉れた霊体しか見えなかったから。

 

「よし、討伐完了。えっと、セイバーのマスターだね」

「助けてくれて、ありがとうございます……」

「うん、さっきまで命が危なかったのに、えらいね。藤村先生だっけ?あの先生は大丈夫。多分頭にたんこぶできてるだけだし」

 

女の人はさっきまでのことをなかったかのように接してくる。いや、それよりも───

 

「えっと、あの、貴方は……?」

 

と尋ねたら、「あっそっか、自己紹介まだだったね」と慌てて少し姿勢を正した。

 

「おっほん、私はマリナ・ソラリス・ヘルベスタ。アトラス院から来たライダーのマスターにして、君のヒーローさ!」

 

 

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