Fate/Sirius Garden   作:watazakana

8 / 8
穂群原会談

「良かった!本当によかった、千歳が無事で……」

 

ゴーストが一通り駆逐されて、不審者(マリナさん)から下ろしてもらった私を待っていたのは、千代田さんの抱擁だった。

 

「うぇあ、っちょっと、千代田さん⁉︎」

「あなたのこと、えらく心配してたのよ。千代田さんは」

 

あぁ、うん。まあ、そうだよね。私は藤村先生に憑いた妖精に殺されかけたんだ。おまけにこんな異常事態。

 

「ありがとう、千代田さん。ごめんね、心配かけて……」

 

そして、ふと気になった。

 

「そういえば、セイバーは何してたんだろ」

「セイバーは教室のみんなを守ってくれたの。そのために宝具も使わなきゃいけなかったんだけど……そこは、ごめん」

「そっか……」

 

少し胸に違和感を覚えたが、気にしないことにした。セイバーは間違いなく正しいのだから、私は咎めるつもりはなかった。だというのに、セイバーは頭を下げる。

 

「助けに行けなかったのは、単に私の力不足だ。即座にマスターを殺し、アーチャーを仕留める実力があったなら……その力を持つ英霊だったなら……」

「え、いや、そんなことないよ!みんなの安全を想っての行動だっただろうし、ないものをねだったって何にもならないよ」

 

それに、ね?それは私たちの魔力が足りないせいだし……

 

喉まで出かかった言葉を理性で必死に押さえ込みつつ、口ではそう言ってのけた。その言葉はなんだったのかはわからなかったが、言ってしまえば確実に私は悪者になってしまう。そんな気がした。

 

「それはそうと、この女誰よ」

 

遠坂さんは親指をクイっと縛られているマリナさんに向けて指した。

 

「指差すんじゃない!アンタ日本人のいいとこのお嬢ちゃんのくせに、マナーもなってないの⁉︎」

「あら、いいとこのお嬢様なんて、私なんてそこまでじゃないですよ」

「褒めてないしー!言いたいこと前半なのわからない?記憶領域みすぼらしすぎない?追加の記憶領域いる?あっごめん今フロッピーディスクきらしててHDDしかないんだわー」

 

酷い物理的な衝撃音が響いた。

 

「で、何よコレ」

「えーっと……」

 

マリナさん……名前だけじゃダメだよね。ライダーのマスター……は言ったら遠坂さん何するか分からないし、通りすがり……は無理があるか……なら……

 

「私の命の恩人です」

「ないすぅ……ちとせちゃん……あとでたくさんお礼しちゃうからねぇ……ヴッ」

「何かの間違いじゃないの?」

「いえ、ホントに助けてくれて……」

「そうそう、ほんとだよ⁉私がいなかったら千歳ちゃんの首は今頃五時を指してたよ」

 

割と冗談抜きでそうなっていたかもだし思い出したくないから言わないでほしいけど……

 

「……」

 

遠坂さんの疑惑の目はいまだ変わらない。まじまじと私を見つめ、「催眠術や洗脳魔術を使った形跡なし」と確認して、やっとしぶしぶ認める方向になるだけだった。そんな遠坂さんを放って、マリナさんは自己紹介を勝手に始めた。

 

「私はマリナ・ソラリス・ヘルベスタ。アトラス院生にしてライダーのマスター。使える魔術は有機物を無機物に変える錬金術くらい。武装はさすがに秘密。ただ魔術由来のものはお任せしてもいいよ」

「え、言うんだ⁉私言わないようにしてたんだけど!」

「え、そうなの⁉ごめんね考えなしで!」

 

遠坂さん達の方を見ると……あ、だめだ。みんな呆然としてる。

 

「敵だよね?え?味方?敵?」

「トオサカ、これはやはり殺した方がいいのでは」

「アンタねえ、子供の前でなんでそんなことが言えるのかしら」

「あ、令呪見る?」

「見ないわよ!」

「おいマスター、あれだけ啖呵切っておいてその有様はなんなんだ……しっかりしてくれ……」

「「「!!?」」」

 

双方ぐだぐだし始めた雰囲気の中、いきなりイタリアな男の人が姿を現した。

遠坂さんは半世紀モノの宝石を取り出し構え、セイバーは適当に剣を顕して男の人の首に当てる。

 

「……マスターちょっといい?」

「なに?」

「この方々思いっきり私を殺そうとしてるのだが」

「うん」

「予想はできてたけど何か余計なこと言ったか?」

「別に?」

 

ライダーのサーヴァントだろうか。それにしてはかなりフランクな物言いだ。

 

「『別に?』な訳ないだろ!説得が成功してればこうはならないぞ!!?大抵は!!」

「ホントだよぉライダー!信じてよぉおお!私チトセちゃん助けてチトセちゃん抱えてゴーストから逃げてきたとこを縛り上げられたんだよぉ!あのポンコツ感出てる赤いのは聞く耳持たないし、味方がチトセちゃんしかいないんだよぉおお」

 

瞬間、遠坂さんの手から発された黒い弾丸がマリナさんの耳をかすめて壁をえぐった。泣きそうなマリナさんに対して遠坂さんは微笑んでいる。とても綺麗だけどめちゃくちゃ怖い。

 

「あら、誰がポンコツでしょうか?どうやら私たちには相互理解が足りていないようですし、ちょうど良い機会です。お互いに理解を深め合いましょうか」

「ごめん待って聡明な赤い麗人!話せばわかる!だかrあっやめてっホントガンドだけはぎゃあああああ!!」

「……見ての通り、マスターはこんなのだ。セイバー、我々はセイバー陣営と敵対する意思はない。その剣を置いてくれ」

「嘘ではない証拠は?」

「マスターの令呪だ」

 

セイバーの目がマリナさんに向く。

 

「ぜぇ、ぜぇ、だから『令呪見る?』って言ったのに……トオサカ、拘束といて。令呪見せられないでしょ」

 

遠坂さんの目は懐疑のそれだ。しかし、ここまで味方すると言うその態度には嘘を感じないようで、遠坂さんはガンドの構えをマリナさんに向けたまま手首の拘束を解いた。

 

「……妙な動きしたら殺すから」

「わかってますって」

 

そう軽口を言って左手の甲をみんなに見せた。手綱のような令呪は、一画だけかすれている。

 

「これから実演するね。令呪をもって命ずる。ライダー、現界している間は、私の殺生にかかわる命令に対する一切の反逆を禁じます」

 

マリナさんの令呪はもう一画弾けて消えた。

 

「ライダー、セイバーを殺しなさ」

「ッ!!やっぱり!!」

「ぐぇっ」

 

最大出力のガンドをマリナさんに打ち込む遠坂さん。対するセイバーはライダーの喉に当てていた剣をそのまま切り裂くわけではなかった。ライダーの異変に、彼はいち早く気付いていたからだ。

 

「ライダー、貴様……!」

「ガフっ……」

 

ライダーの口からはありえない量の血が溢れてやまない。

 

「ライダー⁉︎」

「えっ、ウソ、どういうこと⁉︎」

「ぐっ……ガンドきもちわる……まぁみたでしょ…?()()()()()()()()()()()()()。矛盾した令呪の縛りが魔法に近い負担を霊基にダイレクトでかける……うぅ吐きそう……一方向からの命令は、霊基を加速させるだけだけど……」

「そうか!魔法級の魔力が霊基に直接干渉する。それが真逆の方向でぶつかり合うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「マ゛スタァ゛……そろそろ゛……ゴはッ」

「うん、先の命令は取り消す……ごめんライダー……」

 

とめどなく流れていた血はマリナさんが口を閉じて3秒ほどで止まった。マリナさんは申し訳なさそうにライダーをちらりと見ては顔を落とした。ライダーはひどい顔色でも「気にするな」と言いたげな目でマリナさんを見ていた。

みんなが絶句していた。2画の令呪を私たちのために使って、さらにライダーの霊基を壊した。遠坂さんも、千代田さんも、セイバーも、目を剥いていた。

 

……そんな二人を見て、私の中に疑問が生まれた。

 

「……マリナさん、どうしてそこまでして私を助けたんですか?セイバーたちと一緒に戦おうなんて思ったんですか?」

 

マリナさんは苦しげに笑う。

 

「えへへ……ごめんね、完全に君たちのためってわけじゃない。私の計画に君たちが手頃だったから利用するに過ぎない。ただ、『理不尽に巻き込まれた、まだ好きに生きてない君たちは生き残るべきだ』っていう思いは本当だよ」

「まだ好きに生きてない……?」

「そう。理不尽な死は、本来好きに生きた人が受けるもの。じゃなきゃ満足できないでしょう?未練残して幽霊になるとかみてられないし、何より好きに生きることを知らないまま死ぬなんて可哀想じゃん?」

「……つまり、アンタはこのマスター達に死んで欲しくない目的があって、感情的にも目的と一致してるから助けるってこと?」

「……そういうこtウップ……ちょっと吐きそ……」

 

ガンドの影響で吐きそうになっているマリナさんをよそに、遠坂さんは顎に手を添えて考え込む。損と得を勘定しているのだろうか。

 

「アンタ達、このライダーのマスターを信じられる?」

 

私は信じると伝えた。

 

「そ。千代田さんは?」

「私も信じるよ。あそこまでされちゃ、信じない理由もないし」

「……はぁー……」

 

一体何回聞いただろうと思える遠坂さんの大きなため息は、一種の踏ん切りのようにも聞こえた。遠坂さんはマリナさんに向き直る。

 

「ライダーのマスター。今のところはあなたを信用します。ただし、危害を加えるような素振りを見せれば即刻殺すから」

「……了解。何はともあれ同盟は成立。今日のところはめでたしめでたしだね。ライダー、帰るよ」

「了解した」

 

短く答えたライダーは青い粒子になって見えなくなった。

 

「霊体化……」

「さっきのであらかたゴーストは片付いたし、私たちも撤退よ。警察も来る」

「わかりました。セイバー、行こ」

「了解した」

 

 

かくして、穂群原学園中等部で起きた第一の事件は幕を閉じた。

 

戦闘結果は、次の通りである。

 

聖堂教会陣営:ランサーがアサシンの攻撃を受ける。明確な被害は両者ともに無かったが、穂群原学園中等部への奇襲に乗り込めず、今回はアサシン戦として引き分けに終わった。

 

アトラス院陣営:ライダーがセイバー陣営と同盟を組む。これには全ての陣営が目を剥いた。

 

魔術協会:アーチャーとそのマスターがセイバー陣営を奇襲するが、宝具を発動され、失敗に終わった。置き土産として大量の霊をばら撒くも、あらかたがライダーのマスターとセイバー陣営を顧問として保護している遠坂の手により浄化された。アサシンのマスターも加勢するつもりだったが、遠坂と戦闘に入っていたため不可能だった。

 

セイバー陣営:先述の通りの結果。ライダーと組んだことにより、四面楚歌の状態から抜け出せたと見られる。

 

 




次回のシリウスガーデン
あの後、学校の七不思議が13不思議くらいにまで増えていた!ってか今ドキ七不思議とかそうそうないんですが!いや待てしかし被害者も出ている状況ではあのゴーストの生き残りかもしれない、そんな疑問という名の確信を抱えて私たちは学校の奥地へと向かった!

次回、Fate/Sirius Garden
「穂群原怪談:第一理科室の海」

聖杯争奪戦、ろくなもんじゃないよ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。