願い星のもとで   作:縞野 いちご

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1月18日
消えた少女(西木野真姫 Part1)


先月、私はある大会に出場していた。その大会とは、高校生が部活動としてアイドル活動を行うスクールアイドル、その頂点を決める祭典「ラブライブ!」全国大会の最終予選である。

大会当日、私は今までにない緊張を感じていたが、それと同じくらいの不安が渦巻いていた。ただでさえ厳しかった大会当日の私たちのスケジュールが大雪によってさらに酷い状況になっていたからだ。

 

私の所属しているアイドルグループμ'sは、東京千代田区にある国立音ノ木坂学院に在籍している高校生で構成されている。

メンバーは私と同級生の花陽と凛、1つ上の穂乃果と海未とことり、1番上の絵里、希、にこちゃんの9人だ。

 

その2年生の3人が大会前に学校説明会の挨拶に行かなくてはならなかった。

なぜなら生徒会役員としても、今や学校の看板になりつつあるスクールアイドルのメンバーとしても、3人が挨拶のために壇上に上がるのは廃校寸前だった学校には必須だったからだ。

元々、私たちは学院の廃校を阻止するためにスクールアイドルをしていたのだから、2年生の行動に不満を持つメンバーは誰一人としていなかった。

 

 

 

 

でも今となっては後悔していないメンバーは誰もいないはず。あんなことになるとは誰も想定していなかったのだから……。

 

 

 

 

 

 

悲劇はステージの上で起きた。

厳しいスケジュールを何とか乗り越え、吹雪いていた天候も回復したことで険しい峠を越えたのだと私たちは錯覚していた。

パフォーマンスも特に大きなミスはなく順調に滑り出せたことで会場の流れを味方につけることができた。

 

 

でも、最後のサビを迎えて踊りだそうとした瞬間に、私たちは地獄へと叩き落とされることになる。

 

 

何かが崩れ落ちる鈍い音が隣から聞こえ、割れるような高い音がスピーカーから鳴り、演奏が中止された。ダンス中だからハッキリとは見えてはいなかったけど、視界からフッと何かが消えたことはわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

演奏が止まってから改めて顔を横に向けると、ステージの上には左膝を押さえて蹲っていたことりがいた。

 

 

私は畏怖した。

ステージ上でのトラブルはこのときすでに経験している。オープンキャンパスの時にしたライブでも穂乃果が倒れた。

 

だからこそ恐ろしかった。

その事故で私たちはラブライブ出場を辞退することになり、責任を感じた穂乃果が心に深い傷を負ってしまったのだ。

 

今回はどうなってしまうのかと考えただけで震えが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今回、私たちを待っていたのは前回以上の地獄だった。

 

 

前回の事故と合わせて2度もステージ上で問題を起こした私たちは、理事長から今年度の活動を自粛するように伝えられ、当然にラブライブ本戦も棄権することとなった。

周りからの評判も日に日に落ちていき、みんなで行動していると白い目で見られることもしばしばだった。

それだけならまだ良かったけど、前回より予選を勝ち進んでいたことが仇になって、μ'sはネット上で大々的に晒し上げられることになり、地方のテレビ局にまで取り上げられることとなってしまった。その取り上げられ方には悪意があって、私たちのことだけに留まらず、スクールアイドルが不健全だとか、学校側の生徒への管理は間違っているのではないか、などと私たちの周りのことにも飛び火して批判の声が相次いだ。

 

 

想像より問題が大きくなってしまったためか、今回のラブライブの開催は延期され、私たちが守ったはずの学校はもう一度……。

 

 

 

SNSでは「スクールアイドルを貶した」、「ラブライブを壊した」のような容赦ない罵声を浴びせ続けられた。

 

その集中砲火を浴びたのは言うまでもなく転倒したことりだった。

 

 

私たちはできる限りことりのことを支えたくて、必死に事件のことから遠ざけようとしてきた。ただ、体も心もボロボロになっていた彼女には何をしても意味を成すことはなく

 

そして最悪な事件が起きてしまった。

 

 

 

 

『ことりの自傷行為』

 

 

 

 

一命を取り留めたものの、あまりにも衝撃的だったその事件が私たちの心を完全に壊してしまった。

 

 

 

3年生は大学受験に向けて切り替えたのか連絡がつかなくなってしまい、同じく頼りにしていた上級生の海未はことりを助けられなかったことから立ち直れなくなっていた。

 

凛と花陽は深く傷ついたことで笑うことがなくなった。

純粋な2人のことだからこうなることはわかってはいたのだけど、辛そうな顔をしている2人を見るのは相当に堪えるものがあった。

 

かく言う私もその事件からは笑った覚えがないのだから、感情豊かだったあの子たちにはこの地獄で笑顔を貼り付けることなんかできるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

でもそんなバラバラになりかけていた私たちの中でも、諦めていなかった子が1人いた。

 

 

 

 

 

穂乃果はくじけてなかった。

 

みんなに声をかけ続けて、何とかμ'sを繋ぎ止めようと奔走していたのだ。

 

私のところにも「また、一緒に歌おうね。」と説得をしに来た。学校で見かけては話しかけてきて、あの頃と同じような笑顔を私にしてくれた。周りから疎ましい視線を向けられても、冷たい陰口を言われたとしても、私がまた前を向けるようにと大切な場所を守ってくれていた。

 

 

 

 

そのことでどれだけ私の心は救われていただろう。μ'sに入る前の灰色だった世界を色彩豊かに変えてくれた彼女が、暗い世界へと沈もうとしている私を再び照らそうと支えてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況は一変した。

それが冬休みが明けてから1週間が過ぎた今日なのである。

自分の目を疑う出来事が目の前で起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

ことりが登校してきた。怪我していたはずの膝には何も処置した形跡がなくて、何よりもあのステージ後からは感じられなかった彼女特有のほんわりした雰囲気が今は感じた。

 

 

ことり「まきちゃん、おはよう。」

 

真姫「こ、とり……。」

 

海未「真姫?どうしたのですか?」

 

 

隣にいる海未も平然としている。困惑している私を不思議そうに見ている2人からはまるで異世界に放り出されたような気持ちになる。

 

 

 

ことり「真姫ちゃん、遅刻しちゃうよ?」

 

 

ことりのニコッとした顔には一切の陰りが感じられなくて逆にそれが恐怖心を煽る。

オロオロしていても仕方がないから自分の教室に向かうと、ニカッとした笑顔で凛が「おはよーっ」と挨拶をしてきた。その後ろにいた花陽も控えめではあるけど笑顔で挨拶をしていた。

 

 

あの時から止まっていた時間の針が動き出したんだ。夢のような、でも確かに目の前にある現実を私は心の底から嬉しく思った。

 

 

廊下には新入生募集要項の張り紙、活気付いている生徒たち、笑顔の凛と花陽。壊れてしまった日常が急に返ってきた。

 

 

 

花陽「真姫ちゃん、大丈夫……?」

 

真姫「えっ?」

 

教室から出てきていた花陽が心配そうに見ていたことに遅れて気がついた。

 

花陽「だって、泣いて……るよね?」

 

花陽に言われるまで気がつかなかった。

確かに頬には濡れた感触があって、喉から熱いものがカァッと上ってくる感覚は涙を流しているのと同義だ。

 

 

(嬉しくて涙が出てたんだ、私。)

 

 

凛「えーっ!?真姫ちゃん、大丈夫!?

どこか痛かったりするの?それとも何か嫌なことでもあった?」

 

花陽の後ろから駆けつけた凛がオロオロと心配していた。

 

 

 

真姫「べ、別に大丈夫よ!」

 

凛「でも真姫ちゃんが泣くなんてよっぽどだよ!」

 

真姫「本当に平気だし、恥ずかしいからこっち見ないで!」

 

花陽「は、はずかしいの……?」

 

 

そうやってしばらく2人と会話しながら返ってきた幸せを噛み締めていると、私にとってさらに衝撃的な光景を目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

にこ「なに騒いでるのよ、あんたたち。」

 

 

今まで顔を見せなかったにこちゃんが学校に来ていた。

 

 

真姫「にこちゃん?どうして学校に…」

 

にこ「どうしてって、部活に決まってるでしょ?」

 

真姫「部活って、だって今は!」

 

にこ「受験期なのにって言いたいわけ?

そんなものよりも私は目の前のラブライブに全力を注いでんの!前にも言ったじゃない。」

 

 

(目の前のラブライブ?前にも言った?)

 

 

何もかも話が合わないことに頭がパンクしかける。どういう状況なのか理解が追いつかない。

 

 

いつのまにか後ろにいた希はあっけらかんとした様子でにこちゃんのあとに続けて言った。

 

 

希「確かに3年生は受験に向けて自宅学習期間やから、ウチらが学校にいるのは違和感あるかもしれないね。」

 

にこ「でも、あんたたちの前で話したじゃない。ラブライブで優勝するために私たちも毎日練習しに行くって。」

 

 

明らかに状況がおかしかった。

夢ではない。でも、現実でもない。

ドッキリにしては悪質すぎるし、何よりも周りの世界が全て激変してしまっている。

 

そしてそのことをみんなが受け入れている。

 

 

 

希「どうにも様子がおかしいけど、平気?」

 

真姫「ラブライブって、私たちはもう敗退してるじゃない…。」

 

 

 

私がそう言うと、にこちゃんと希は顔を合わせてからこちらに向き直って

 

 

 

にこ・希「「なにを言ってるの。」」

 

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、部室に行くとみんなの姿がそこにはあった。

事件が起こる前のいつもと変わらない景色。

 

 

 

希が私や絵里、にこちゃんをイジって、それに凛が乗っかって、騒ぎ過ぎていたら海未に怒られる。

その様子をことりと花陽がニコニコしながら眺めていて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里「みんな揃ったかしら。」

 

海未「はい、みんな着替え終わっています。」

 

 

(みんなって…。穂乃果は?)

 

 

凛「早く練習に行くにゃーっ!」

 

花陽「あぁ、走ったら危ないよ、凛ちゃん!」

 

 

誰も穂乃果のことを気にしていない様子に唖然とする。

 

 

真姫「ま、待って!」

 

絵里「どうしたの?」

 

真姫「本当にこれで全員いるって言うの?」

 

 

絵里の目が点になっていた。

賑やかにしていた他のメンバーもみんな黙ってこっちを見ている。

 

 

絵里「だ、誰かいなかったかしら…。」

 

凛「えーと……みんな居るよ?」

 

真姫「8人しかいないじゃない!」

 

ことり「8人居るなら、全員…だよね?」

 

真姫「そんなはずないわ!μ'sは全員で9人よ!」

 

にこ「はぁっ!?あんた、朝から今日はどうしたのよ!?」

 

 

誰1人として私と同じ意見の子がいない。こんなこと信じられるはずがない。

 

 

真姫「の、のぞみ……。μ'sって全員で9人よね?」

 

 

 

希「真姫ちゃん…何言ってるの?」

 

 

私は疑念の視線を向けている希の様子を見て確信した。

 

 

 

 

 

希「μ'sは全員で8人や。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果の姿が消えた。

 

 

正確には消えたのではない、元からこの世界にはいない存在になっていた。

そんなこと信じられなかったけど、みんなの話を聞けば聞くほど私の考えが1つの答えにしか辿りつかない。頭の中の警鐘がけたたましく鳴り続けている。

 

 

 

 

穂乃果『また、一緒に歌おうね。』

 

 

 

 

この世界になって1番喜ぶのは間違いなく穂乃果なはず。

それなのに、当の本人はどこを探しても見つからない。

 

 

そんな状況がいつか希が私に話していたことを思い出させた。

 

 

 

 

『オトノキ七不思議』

 

夏頃に心霊話として聞かされたのを覚えている。

 

 

その7つ目の怪談話

 

『満点の星空が広がった日、学校の屋上で自分の思い描いた世界を強く望みながら眠るとその世界に行くことができる。』

 

 

 

ここまでは怪談話とは程遠いロマンチックなお話だけど、その続きが今までのどの話よりも怖かったことを覚えている。

 

 

 

『叶えられる思いの大きさと、その世界にいる時間は自分の差し出した代償の大きさによって変わる。』

 

 

 

そして、その世界にハマってしまえばハマってしまうほど自分の代償を支払い続けて、最後には

 

 

希『自分の命を差し出すらしいんよ。』

 

 

 

 

 

凛『とっても胡散臭い話だにゃ……。』

 

真姫『ばかばかしい話だったわね……。』

 

穂乃果『でも、本当だとしたら、ちょっと興味あるかも……。』

 

希『話しておいてアレやけど、興味本位に探るのは良くないよ。

屋上に向かってから、行方不明になったままの子がいるらしいから。』

 

 

 

 

 

 

信じられる話じゃない。

でも、穂乃果なら……やりかねない。

本当にやったのなら、私が止めないと誰も穂乃果を止めてあげられる状況じゃない。

 

 

 

今までの彼女を見ていればわかってしまう。

このままだと、彼女は自分の命を差し出しかねない。私ですら、この世界がもし夢なのなら醒めないでほしいと願ったのだから。

 

だとしたら、何としても止めないといけない。例えこのまま上手くいったとしても、穂乃果がいないμ'sではどこかで壁にぶつかったときに耐えられない。今回のことで嫌というほどその現実を突きつけられた。

 

 

(穂乃果を探さないと……。)

 

 

 

 

その日は体調不良ということで部活を休ませてもらった。学校や街中を隈なく探したけど、穂乃果の姿が無いどころか実家である穂むらですら有力な手掛かりを掴めなかった。そのまま1日かけて探しても穂乃果は見つけられず、打開案も思い浮かばなかった。

 

 

(放っておいて大丈夫なはずがないわ。明日になったらこのことを説明して、みんなに納得してもらうしかないわね。)

 

 

不安は拭えないままだったけど、グルグルと目まぐるしかった1日に疲れたせいで、私は夜ご飯も食べないままいつの間にか眠ってしまった。

 

 

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