Ex/project diary   作:カリン

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Ex/project - Diagonal

「恋人の話って、なんで御法度なんだろうね」

「出来たんですか?」

「まさか。でも恋人弄りをしてくるくせに、本当にいたら燃えるって面白いと思わない?」

「相手をからかうのに余程都合がいいですからね、交際の話は」

「からかうためのツールでしかないってのは、まぁ、そうだね」

 

 一息。

 別に、わたしがどう、って事じゃないんだけど。

 

「面倒だな、とは思うよね。恋人弄り」

「セクハラですからねぇ。セクハラだと思っていたらそもそもやっていないんでしょうけど」

「そういう所をウリにしてる配信者なら、別にいいんだけどね」

 

 残念ながら。

 

 

 ●

 

 

「さすが。モテモテだね」

「こんなに貰っていいのかなぁ、って思っちゃいます……」

「いいんだよ。彼らの送りたいって気持ちを無下にする方が失礼でしょ?」

「うーん……」

「ま、せめて配信で開けるとかすればいいんじゃない?」

「そう、ですね」

 

 配信者というのは、思ったよりプレゼントを貰える。配信という文化に触れてこなかったわたしからすると、スパチャもプレゼントも結構な異文化で、だけど好きなもののために、好きなものを喜ばせるために、喜ぶところを見たいという理由でお金を使えるのは凄いな、と。

 考えてみれば、確かにそれほどお金の使い道って無い。メンバーの皆はゲームや配信機材の購入費に結構カツカツなようだけど、ゲームにも高価な配信機材にもあんまり興味のないわたしは存外貯金がたまっていくばかりで、なんだろう、"良い"使い道を見つけたな、と思った。

 

 わたしも結構な量を貰うけど、同じくらい、良いな、と思った人にプレゼントを贈るようにしている。

 同じくらいというのは嘘。

 

「実用品が多いのはありがたいよね」

「このアイマスク系が、特に使いやすいです。動画編集の後とかよく使います」

「そういうのも配信で言ってあげるといいよ」

「あ、はい」

 

 "自分が贈られて嬉しいもの"を贈るには、配信者と視聴者の需要が違い過ぎる。わたしのように配信者視点での選択ができるならまだしも、視聴者のすべてにそれを求めるのは難しいだろう。一部想像力の働く人達がこうして合致するものを贈ってくれているけれど、大多数にはこっちが求めているものなんて不透明だ。

 不明瞭だと億劫になるのが人間である。

 プレゼントが欲しいから、ではなく、彼らの贈りたい欲を解消するために、何が嬉しいか、何が嬉しかったかを配信に載せるのは有用な事だと思う。

 

「それは……フィギュアですか?」

「あ、うん。贈られてきた時はセクハラだなぁって思ってたんだけど、裏面に刻まれた名前が思いっきり見覚えのある造形師さんでさ。今度会ったときにお礼言っておこうと思って」

「へえ。すごい、良くできてる」

「わたし達の3Dモデルが配布される前に自力で作り上げて愛で……遊んでた人だからね。その変態性(ぎじゅつりょく)は折り紙付きだよ」

「あ、3Dモデルといえば、参賀さんが次のMVに使う衣装について相談したいって言ってました」

「り」

 

 行き過ぎた愛はなんとやら。

 執心過ぎれば凄いを通り越して怖いだよね、なんて思いながら。

 

 わたしはスタジオの上にあるオフィスへ向かった。

 

 

 ●

 

 

 ガチ恋、という呼称は、元はアイドルオタク界隈の、そして2009年の春頃からSNSに現れた言葉であるが、そのまま広く浸透し、同義語としてリアコ、なんて昭和の時代から存在する用語よりも台頭してくる程度には一般的な言葉となっている。

 アイドルをしてただファンであるのではなく、恋愛対象として見る──という、なんだかなぁ、という話。

 

 アイドルに対して視聴者が得られる情報なんて、容姿と声色くらいだ。性格は作れるし、経験は騙れる。それに対して恋をする、というのは、一目惚れとほとんど変わらない。わたしは一目惚れを恋愛だとは思っていないから、それは単純に作品への好悪なんじゃないかと──アイドルの成果に惹かれているだけなんじゃないかと、苦言を呈したいところ。

 つまり、ガチ恋なんて概念は、存在しないんじゃないか、と。

 

 それがVtuber相手ともなれば、さらに、である。

 

 得られる情報は声色だけ──表情も容姿も性格も仮初のもので、それに対して恋をする、など。そこに何の想いが乗るというのか。そこにどんな真剣さが伝わるというのか。

 向ける想いが重いからといって、それがそのまま愛情に変わるかと言えばそんなことはない。

 画面で隔てられたらそれまで。そこまで。

 

 だと思うんだけど。

 

「んー」

「随分と熱の籠った……ラブレターかな?」

「んー。」

 

 気持ちの籠ったお手紙はまぁ、嬉しい。嬉しいんだけど、なんだろう……ちょっと熱が籠りすぎというか。なんか、呪いの手紙みたいなのがちらほらと。三単語に一回は愛が出てくる手紙とか、なんか体の部位を一つ一つ品評してくる手紙とか、声の湿り気が好きとか直接的に性的ですとか行ってくる手紙もあった。

 

 うーん。

 

「セクハラ過ぎて……。こういうの、企業勢だったら検閲入るんだろうけど」

「そんなにですか?」

「あぁ、見ないで見ないで。子供が見ていいもんじゃないよ」

 

 勿論普通の、といって良いのかわからないけど、頑張ってください! とか応援してます! とか、凄く純粋な激励や、いつも元気を貰ってます、かわいい、歌が好きです、みたいなメッセージはとても嬉しい。嬉しいし力になるし、わたしにもファンがいるんだな、って思える。

 

 ただセクハラ紛いの手紙が……メンバーの中でも些か多めかな、って。

 

「おっぱい大きいからじゃないですか?」

「砂川さんに小さくして貰うか……」

「多分リスナーさんすぐに気付くんじゃ? それで、また弄られますよ」

「反応に困るよね、小さくなっただの大きくなっただのって」

「3Dモデルは成長しないですもんね……」

 

 容姿は弄りやすいからなんだろうけどね。アイドルユニットだから、そういう所に媚びるのも需要ではあるんだろうし。そういうのを弄って、恥じらっている所が見たいから追っている、って人も少なくは無いんだろう。

 

 このユニットの中で、一応、わたしが一番……スタイルの良いモデルを使っている。年少組は幼さを、リーダーはあどけなさを、年上組の二人も同じようなプロポーションだけど、片方は炎上しがち、片方は胡散臭いことから、相対的にわたしが"性格の良い子"にみられがちだ。

 そんなことは全くないのだけど。

 

「ホラーゲームやっててコメント欄がそういうので埋まるとちょっと怖くなるよね……」

「……わたしの場合はまっすぐ進むのが大変だからあんまりそういうのは来なかったりする」

「そのゲーム下手、本気で直した方が良いと思うよ……?」

「直せるものなら」

 

 悲鳴を上げただけで、驚いただけで。

 恐ろしくなるよね。

 

「あ、でも……その、ヘンな事は嫌なんですけど、可愛いとか好きとか、その……学校じゃ絶対に言われない事を言われるのは、少し嬉しいかな、って」

「得があるならよかったね」

「ただよくコメントされる"可哀想は可愛い"っていうのは……ほんとなの?」

「それもセクハラだから、まともに考えなくていいと思うけど」

「……可愛いって言われるなら、ホラーゲームもいいかなぁって」

「好きにすると良いよ」

 

 配信者側がそれを売っているというのなら、セクハラコメントも意味合いが変わって、ただの応援コメントになる。求めているか求めていないかの違いを判れ、というのは酷な話だとわかっているし、メンバー内での方向性が一定ではないのも事実だから、他方でそうだったから此方でもそう、というノリを持ってしまうのも仕方がないのだろう。

 

 まぁ中高生を前にそういう態度なのは、どうかとは思うけどね。セクハラ以前の倫理の問題で。

 

「ということで、今日明日コラボしませんか」

「すごくいやだ」

「操作はやってもらって、私が驚く係で」

「操作……うっあたまが」

「ゲームパッド用意しましたから、キーボード操作よりは簡単なはず」

「操作が下手過ぎて荒れることが懸念されるがよろしいか」

「まさかぁ~」

 

 あるんだ、本当に。

 でも信じてくれそうにない。これは実演するしかないか。

 

「でも、こっちが操作だと……驚かないですよね」

「そうだね。驚いたな、とは思うけど、驚かないね」

「ちなみに私はめちゃくちゃ叫びますので」

「知ってる」

 

 耳栓用意しておかないと不味いかもしれない。

 

「どうせだったら、椅子に縛り付ける? 体が動かない方が恐怖も増しそう」

「それは怖すぎませんか!?」

「セクハラコメントは増えるだろうけど、嬉しいんでしょ?」

「気のせいでなければ、なんか棘があるような……」

「物は試しだよ」

「……うぅぅ!」

 

 わたしだったら絶対にやらないし、どんなコメントが来るか想像するだけでちょっと寒気がするけれど。

 嬉しいんだったら良いよね。仕方ない仕方ない。

 

「今夜やろうか。帰りは送ってくから、スタジオで。めいっぱい騒げるよ」

「ほ、本気過ぎませんかぁ!?」

「簡単に言えばストレス発散だから」

「ストレートが過ぎるぅ」

 

 わたしの操作下手は、そっちに流してもろて。

 

 

 ●

 

 

「ぬぅ……難しいわね」

「ィャァアアアアアアア!!」

 

 ──"替えの鼓膜あってよかった。今日3枚目だ"

 ──"うるさすぎて草"

 ──"いきなり画面回転させるのやめろww"

 

「インタラクト……A……」

「ひ、ひゃ、ぁっ! う、嘘、やめ、だめェ!」

 

 ──"えっっっっ"

 ──"えっど"

 ──"喘ぐな喘ぐな"

 ──"なんでドア開けるのにそんな時間かかるんだ……"

 

「その……ごめんなさい、インベントリ? を閉じるのはどうしたらいいのかしら」

「前来てる前来てる前来てる無理無理無理無理!」

 

 ──"インベントリ開いて時止まるタイプじゃなかったら死んでたな"

 ──"時が動いたら死ぬけどな"

 ──"Eキーだよインベントリ開くのも閉じるのも"

 ──"ゲームパッドじゃね?"

 ──"インベントリ開いたボタンと同じボタンのはず"

 

「あ、出来たわ。ふふ、ありがとう」

「首っ、首に噛みつかれた! 絶対首噛まれてる今噛まれてる死んじゃう死んじゃう助け、無理!」

 

 ──"知ってた"

 ──"知ってた"

 ──"見えていた未来"

 ──"おかしい……1stで30分かかるとかおかしい"

 ──"良かった、閉じれたね"

 ──"頑張って!"

 

「えーと、ライトを取り出して、照らす……これ、明かりがつかないわ」

「電池電池電池さっき拾った奴インベントリ入ってるから組み合わせて電池入れて早く早く!」

「組み合わせる……?」

「A押しながら左スティックで重ねるの!」

「A押しながら……左スティックで……」

「ドラッグ! &! ドロップ!」

「???」

「電池の上に手のアイコン持ってきて、Aボタン押しっぱなしで動かせるから、懐中電灯のところまで持って行ってAを離す!」

「……持って行って、離す。あ、出来たわ」

 

 ──"俺も年下の女の子に怒られたい。怒られたくない?"

 ──"年下ママいいぞ~"

 ──"ママというより介護じゃね……"

 ──"電池いれれてえらい!"

 

「これで、照らせばいいのね。あら、でもGAME OVERになってしまったけれど」

「私は死んだよ……」

「じゃあ、もう一回」

「ちょ」

 

 ──"下手なのにひた向きで不屈だから凄いんだよなぁ"

 ──"しかしやる気があるわけではない"

 ──"そろそろ漏らすんじゃないかと期待している俺がいる"

 ──"きも"

 

「まずインベントリを開いて、……電池がないわ。懐中電灯も」

「まだ拾ってないから! ちょ、前前前見て! 来てる来てる!」

「逃げて、ここに入る。ふふん、どう? ちょっとは成長したでしょう」

「うっわー、VR眼鏡で見えないけど振り返ってどや顔してるのが想像つくー」

 

 ──"正解"

 ──"トラッキング精度いいな"

 ──"こんな見事なドヤ顔ある???"

 ──"俺はドン引きした声も好きだぞ"

 ──"成長出来てえらい!"

 

「ここを避けて、やり過ごす。鍵を取ってターン、畳の部屋に戻る。押し入れで電池を拾って、ドアの横にかかった懐中電灯を拾う。懐中電灯と電池を組み合わせて、照らせるようにする」

「うぅ……今私は感動している……みんな、コメントのみんな。人って成長できるんだよ……」

「白いのが出てきたら顔を照らす。赤いのが出てきたら逃げる。……あ、ちょっとお花を摘みに行ってくるわ」

「は!? ちょ、ちょっとポーズしてって! お願いお願い!! せめてインベントリ開くとかきゃああああああ!!」

 

 ──"人は成長できないんじゃないかなぁ"

 ──"無理の体現者"

 ──"俺もついていく"

 ──"良い悲鳴だよなぁ"

 ──"悲鳴可愛い"

 ──"めっちゃ噛みつかれてて草"

 

「戻ったわ」

「……馬鹿憐」

「いきなり罵倒とは良い度胸ね。あら、なんでGAME OVERになってるのかしら。何かした?」

「今日中に1stはクリアしたいのに! もう一時間経つじゃん!」

「それは貴女の見通しが甘いせいよ。わたしは言ったもの。始めに。操作が下手過ぎて荒れるかもしれないわ、って」

「そんな難しい操作無いじゃん! ホラーゲームで操作が下手で一時間とか考えないし!」

 

 ──"抑えてもろて"

 ──"悲鳴聞けるから問題ない"

 ──"悲鳴が無かったら荒れていた可能性はある"

 ──"これ椅子に縛られてるんだろ? 構図えっちすぎんか"

 

「そう駄々をこねないの。もう夜なのよ? 静かになさいな」

「お前が言うかァ!」

「オマエ、って。……仕方ないわ。そんなに言うなら仕方がないわ」

「……え、何を」

 

 ──"どこ行くんだ?"

 ──"画面からはけたぞ"

 ──"残るは椅子に縛り付けられた少女が一人"

 ──"げっへっへ"

 ──"お友達がどっかにいっちまったなぁ嬢ちゃん"

 

「やばい、いつもはブロックも辞さないセクハラコメントが今は見せつけられるばかりでどうにもできない! 誰かぁ!」

 

 ──"誰も助けちゃくれねぇよぉ"

 ──"げっへっへ"

 ──"言わなきゃいいのに……"

 ──"説明口調過ぎて草。求めてんじゃんww"

 ──"あ、帰ってきた"

 

「ひょわぁあああ!?」

「これ」

「これ!? 何何!? なんで縄の間に何何何々何何!?」

「貴女の大事なサメのぬいぐるみ。これがあれば落ち着くんじゃないかと思って」

「馬鹿だよね馬鹿だよね本気で馬鹿だよね!」

「さ、再開するわ。9時半には終わるから、そこまで頑張りなさい」

「頑張るのはそっち! ひぃぃいいい!!」

 

 ──"ぬいぐるみそこ代われェ!"

 ──"俺も縄で括りつけられたい"

 ──"サメのぬいぐるみが大事って、可愛いな"

 ──"サメ好きなの?"

 

「サメは好き! 幽霊は嫌い!」

「あ、プレゼントにぬいぐるみはNGというのはわかっているでしょうけど。貴方たち。ファンアートにサメを絡めたりするとかなり喜ぶわよ、この子。サメ柄の衣服も喜ぶと思う。今のポーチとか、サメの刺繍が入っているし」

 

 ──"リーク助かる"

 ──"どんどん私物を晒していくゥ!"

 ──"パンツもサメですか?"

 

「今確認してあげましょうか?」

「馬鹿! そういうのは拾わなくていいって! ちょ、ちょっとなんで近づいてくる音が聞こえるんだけど待って待って」

「……へぇ」

 

 ──"あらぁ~"

 ──"えっっっっ"

 ──"てぇてぇ"

 ──"え、今マジで確認してるの?"

 

「本当にするわけがないでしょう。セクハラよ、確実に」

「でも見たよね……?」

「……言わなければわからない事を言う必要はないわ」

「見えないからって許されると思わないでくださいね……!」

 

 ──"りじれんてぇてぇ"

 ──"トラッキング技術の進化が望まれる"

 ──"本当は何柄だったんですか!"

 ──"教えて! 教えて! 教えて!"

 

「プレゼント、下着類は弾かれるから。変な思い付きをしないように」

「これ(ほど)けぇぇえ!! 見られたんだから見ないと気が済まないいいい!」

「ありがとう。それを聞いて解く気が無くなったわ。さ、再開しましょう」

 

 ──"てえてえ"

 ──"柄は自分たちで想像していいって事だろ"

 ──"今度サメのVRホラーゲームやりません?"

 

「それは興味あるけど! きゃあ! 最初の操作! 忘れてる忘れてる!」

「……雑談を挟むのはダメね。えーと、インベントリを……」

「だから前を確認してからインベントリを開けろォ!」

 

 ──"クリアはいつになることやら"

 

 

 ●

 

 

 配信を終え、一息ついた。

 

「ちょっと叫びすぎじゃない? そんな息切らしてさ。はい、水」

「まずは縄を解いてくれませんか。そして何も抵抗せずにショーツを見せやがれ」

「あれ、本当に見たと思われてる? しないよ、そんなこと。年下の子の下着覗くとか、変態じゃん」

「いーえ! 私は確実に膝に圧力を感じました!」

「膝に手をついたのは事実」

「証明の仕様が無いですね! 見せろください!」

「ヤだよ。恥ずかしいし」

「……ですよね」

 

 落ち着いたらしい。

 縄を解いてあげる。しかしこの縄、なんでスタジオに置いてあったんだろう。誰が使ったのか……心当たりは一人しかいないけど。

 

「それで、どうだった?」

「? 何がですか?」

「動けない状態でコメント見せつけられて。セクハラコメント多数。わたしは引くなぁ、っていうのいっぱいあったけど」

 

 それは。

 と、言い淀んで。

 

「……やっぱり、私は嬉しいみたいです。その、えっちだって言われるのも、嬉しいっぽいです」

「中学生でソレはヤバイね。将来大変そう」

「酷い」

「けどまぁ、承認欲求は大切だし。度が過ぎなければいいんじゃない?」

「度が過ぎる……ラインは、どう判断すれば」

「お姉さんに聞けばいいよ。わたしは全部セクハラに見えるから、参考にならないだろうし」

「わかりました。ちなみにですけど、サメ柄じゃないですよ」

「ピンクのリボンでしょ?」

「やっぱり見たんじゃないですか!! セクハラですよ!!」

「覗いた時じゃなくて、トラッキングスーツに着替えた時に見たんだよ?」

「あ」

 

 ロッカールームが同じで、互いに目の前で着替えているのだから、当たり前に。

 そもそもがスカートでなく、もし本当にショーツを確認するならお腹の方から見ないといけないから、わからないはずもなく。

 恐怖と興奮で混乱していたんだろうなぁ、という所感。

 

「……失礼しました」

「うん。じゃ、着替えよっか。帰る前にちょっとコンビニ寄るけど、何か欲しいものある?」

「あ、いえ、そこまでしていただくのは悪いので」

「じゃあ勝手にジュース買うよ。とりあえず着替え着替え。いっぱい汗かいただろうし、冷えちゃうよ」

 

 促す。

 わたしもそれなりに汗をかいた。いやだって操作わかんないんだもん。

 

 ゲーム下手を舐めるなよ、と言いたいよね。

 

「それと」

「? はい」

「サメのぬいぐるみ」

「……そういえば、どこに? 解けたときに近くにありませんでしたよね」

「うん、そんなもの持ってきてないからね」

 

 一瞬、天使が通る。

 というか空気が凍る。

 

「じゃ、じゃあ、私の縄に挟まっていたものは何……?」

「なんだったんだろうね」

「本気で怖いんでやめてくれませんか本気で」

「大丈夫大丈夫」

「何が大丈夫……!?」

 

 口に人差し指を当てて、ウィンクを一つ。

 恐怖と疑念の入り混じった顔の彼女に向かって。

 

「次回も何かを挟むから、頑張って」

「もうコラボしないでいいですか?」

 

 ダメだよ。だって需要があるからね。

 

 

 ●

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