ちなみにライゼルは戦闘時は私、普段時は僕で分けているそうです。
Side アヴェンジャー
衛宮士郎と一緒にいた女性を誘拐してからしばらく経ち、僕は少しばかり後悔していた。
アヴェンジャーのクラススキルである【復讐概念】。
これがある限り僕は復讐者が近くにいると狂気が増し思考が単純化してしまうからだ。
あの衛宮士郎は私の知るエミヤシロウとは違うようだった。
だから悩む。
もしかしたら僕はあの時のエミヤシロウと同じことをしているのではないかと…。
そこで連れの女性が目を覚ました。
「ここは…ッ? 貴様は!」
「落ち着け…今お前をどうにかしようとなどは考えていない」
「どういう事だ…?」
誘拐してきた女性は僕に警戒心を顕にして睨んでくる。
まぁ、それもしょうがない。
信用してくれとは言わない。
だが、
「少しばかり僕の昔語りを聞いてくれないか?」
「なぜだ…?」
「聞いてもらいたいんだ。かつてエミヤシロウの手によって狂わされた僕の過去を…」
「…いいだろう」
女性は何度か表情を変えたが、でも聞いてくれるようだ。
「感謝する…そう、昔に一つの混血の家族がいた」
◆◇―――――――――◇◆
僕の生まれは中世イギリス、人間の母と吸血鬼の父、そして妹のアイリス・S・クロウリーの四人家族。
吸血鬼という身分を隠しながらも静かに暮らしていた。
母は人間であり寿命で早く死ぬ運命であったけどそれでも幸せに暮らしていた。
だが僕の18歳の誕生日の日に急に吸血鬼としての殺人衝動が目覚めてしまいまずは母を、次には抵抗してきた父を、そして…最後には愛しの妹を、この手にかけてしまった。
正気に戻った時にはもう手遅れで僕は一夜にして全部を失ってしまった。
それから僕は誰の血も吸わずに己の罪を償うために旅に出た。
世界各国を旅してふと一つの想いが生まれた。
この力は人々を救うことに使おうと。
それが贖罪の道につながると思った。
そしてその間に何度も戦を経験し義がある方に参入し勝利をもぎ取って力をつけていった。
人助けも続けていき次第に僕は名も知れ渡り僕の考えに賛同してくれた吸血鬼や死徒、人間の同志達も増えた。
しかし、そんなものは増やしてはいずれ破滅を招くと思い現代社会に入る前に解散した。
そしてまた一人旅を続けていきその間に一人の少女と出会った。
「君の名を教えてくれないか…?」
「カレン…カレン・シュタットフェルト」
愛しいと思う人との出会いであった。
最初はどうして付きまとうのか不審がられたがしだいに僕に心を開いてくれるようになり、とある事件…。
そうだな。誘拐事件といえばいいか。カレンは名家の生まれでお嬢様だった。
それで誘拐され僕がそれを助けた事によってカレンの家族にも気に入られて付き合い出すようになった。
当然僕は人間と吸血鬼のハーフだという事も教えた。
それでも彼女は僕のことを受け入れてくれた。
でも僕はやはり怖かった。
所詮は吸血鬼。
だからいつ血を欲しがってしまうかもしれないという恐怖で。
それで彼女に別れ話を持ちかけた。
「カレン……僕と別れよう」
「え…………? ちょっと待って!……どういう事!?」
「カレン……前に話しただろう? 僕が……人と吸血鬼のハーフで…………化け物だということを」
「たしかにそう聞いたけど……でも! 私はそんなことは気にしてないって言ったはず「だからだよ!!」……え?」
僕は彼女に背を向けて、
「僕は今でも君が好きだ…だからこそ僕は怖いんだ! いつか君の血を吸って君を同じ吸血鬼に…………化け物に変えてしまうのではないかと思うと僕は怖くてたまらないんだ!!」
そう言った。でも彼女はそっと背中から僕を優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫。貴方がどんな存在でも貴方は貴方。私はライだから好きなんだよ……」
「カレン…………」
「それに貴方は化け物なんかじゃない。優しい人よ」
「っ!!」
「だってそうでしょう? 貴方は家族を失って傷ついても誰かを助けようとしたり、今も私を守ろうとしている!
何度でも言うわ。貴方は心優しい人だからっ…だから…うっ…化け物なんて…言わないで………自分を……傷つけないで………」
「カレン………」
僕が振り返り、彼女と目を合わせる。
「だったら、此処で誓う」
「ライ?」
「僕はこの先、我が生涯を懸けて誰の血を吸うことは決してしない。僕は人として君を護り、君と共に生きていく」
「ライ………」
そして僕と彼女は抱きしめ合った。
「カレン……愛してる」
「ライ……うん。私も……貴方を愛してる」
そして僕達は相思相愛になり結婚も認められて彼女が学校を卒業したら結婚しようという約束さえした。
その後、何事もなく彼女は学校を卒業して僕と一緒に故郷のイギリスへと旅行にいった。
それまでは幸せだった。
でも運命は残酷だった。
突如として襲いかかってくる衛宮士郎。
彼は僕に言った。
「お前は違法な人体実験の研究をしている死徒だ。
魔術協会からもお前のせいで涙している人がたくさんいるとも聞かされた。
そしてそれによって表に出る事もない人の名前も出ている始末だとも聞いた。
だからここで見逃すわけにはいかない。ここで討伐させてもらう…!」
そんな事実はないはずなのに彼は僕達を襲ってきた。
おそらく彼も魔術協会に騙されて僕達に襲いかかったのだろうと誤解を何度も解こうと試みた。
でももう手遅れだった。
彼の目には僕を殺すとしか感じられない殺意しか映っていなかった。
だから僕は自衛手段として彼を殺す決断をした。
たとえまた魔術協会、聖堂教会から追われる羽目になろうとも。
そして戦いは続いていった。
彼は何度も剣を飛ばしてきては僕が打ち返すといった千日手とも言える戦闘を繰り広げた。
左目に傷を負ったがそれほど深い傷でもないから大丈夫だった。
だけどそんな戦いも僕が弾いた一つの剣によって状況が変わってしまった。
その弾いた剣はなんてことか彼女に向かってしまい突き刺さり彼女は地面に倒れた。
すぐに僕は駆け寄り彼女を介抱した。
でももう致命傷の傷で手遅れだと経験で悟ってしまった。
「はぁ…はぁ……ら…ライ…」
「カレン! しっかりして!!」
「もう…いいよ……ライ…ごほっごほっ」
「喋らないで! 絶対助ける! 絶対助けるから!」
すっと彼女が僕の手を握る。
「………カレン?」
「けほっ………私……貴方が好き…」
「っ!!」
「私ね………貴方と会えて……好きになって………ホントに……嬉しかったんだよ…私達…本当なら…出会うはずが……無いのに………コレって………運命なのかな…?」
「カレン…僕だって…!…僕だって君が好きだ!!
あの時、父上と母上、妹のアイリスをこの手で殺してしまったあの時から僕の心は凍り付いていた! 僕の時間は止まっていた!!
……でも、その心を君が溶かしてくれた!……僕にとって君は暖かい太陽だ! だから………カレン…僕を……一人にしないでくれぇ……」
「私…何度…生まれ変わっても……また…好きに…なるよ…何度も……何度も…」
「カレン!」
「……ラ…イ…」
僕は自分の耳を彼女の傍に近づける。
しっかりと聞き届けるために、
「うん!………何!?」
彼女が僕にそっと口づけをして、
「あり…が…とう……だい…すき………」
そのまま息を引き取った。
「か…カレン?……ハ…ハハ…何…眠っているんだ?
この旅行が終わったら一緒に暮らそうって……結婚しようって言ったじゃないか………。
だから……起きてくれよカレン………………カ…レ…か…うっ…うぅっ…うあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!!!」
僕は泣いた。声が枯れるほどに。
そしてその憎悪を目の前で挙動不審に陥っている衛宮士郎に向けた。
おそらく聞かされた情報はウソだったのだろうと気づいたのだろう。
でも関係なかった。
もう僕は狂気を解き放ち殺人衝動のままに衛宮士郎を殺そうとした。
彼の命を絶つ瞬間に、
「すま、なかった…」
という言葉が聞けたがそんなものは所詮その場限りのものだと下し首を切り裂き絶命させた。
今思えば彼も踊らされていた犠牲者の一人だったのだろう。
でももう手遅れだった。
狂気に身を落とし復讐し終えた僕に残ったのは守れなかった想いと、狂気に染まった想いだった。
そして僕は最初で最後の吸血をした。
「カレン……僕はこれから君の仇を取るために君の血を吸わせてもらう。
だからこそ此処に誓う。僕はこの先誰の血も吸わない。
君が言った『何度生まれ変わっても僕を探して好きになる』その言葉を信じて生まれ変わった君ともう一度会うまで何百年、何千年たっても………決して吸わない。
それが僕の正義で……愛だから」
その誓いと共に。
それから悪魔との契約で不死身の力も得た。
衛宮士郎を動かしていた魔術協会、そして聖堂教会に復讐するために同志を集めた。
過去、置き去りにしてきた鍛えて得てきた様々な技や術も復讐の一念で磨き直して過去以上の力を得た。
僕の武器である『紅蓮』と『月下』の封印していた特殊能力も解放した。
そして復讐を果たすためにまずは僕を外道という魔術協会の魔術師の違法を暴き、そして貶め最後には命を絶つ。
それを何度も繰り返した。
その都度で何度も追っ手をかけられたが迎撃して打倒してきた。
悪魔の力で強化された愛馬の“斬月”とも一緒に駆け抜けて敵をその蹄で殺してきた。
そんな事を繰り返してきて次第に同志は増えてきた。
恨みを持つもの、親や子供を殺されたもの、罪を擦り付けられたもの。
理由は様々だが共通する想いはただ一つ。
“復讐を…!”
それだけが僕達を突き動かした。
部下や配下も増え、僕達の組織は
「いくぞ! 我が同志達よ。今こそ決戦の時だ!!」
「「「「「イエス! マイ・ロード!!」」」」」
僕達は果敢に魔術協会と聖堂教会に戦いを挑んでいった。
だが所詮は少数部隊だった僕達は一人、また一人と志半ばにして倒れていき最後の一人となって、なんて無謀な戦いを挑んでしまったのかを後悔した。
しかし僕には不死性の力があった。
だから最後まで戦いぬこうと駆け抜けた。
が、
「狂王…ライゼル・S・クロウリー。埋葬機関第七位、弓のシエルがあなたを裁きます」
でかいパイルバンカーを持った女が僕へと向かってきた。
それでも僕には敵わない。殺してやる…!
その意気込みで挑んでいったがそのパイルバンカーを打ち込まれた途端、
「がはぁっ! なっ!!? さ…再生…できない!?」
「私の第七聖典にかかれば造作もありません」
「……おっ…おのれっ…ま…まだだっ…まだっ…わたし…たちは……ふく…しゅうを…はたし…て…いな…い」
「無駄です。あなたの魂はもう復元不可能です。静かに眠りなさい…」
「カ…レ……ン」
彼女の名前を最後に呟き、僕の魂は再生することを否定されたかのように消滅した。
それが僕の最後だと気づいたのは『座』に祭り上げられたと知った後だった。
そして座で僕はこの復讐劇はどうして始まったのかを自問自答した。
そしてついにたどり着いた。
“そうだ。衛宮士郎さえいなければ…”
それが僕が座で願った願いだった。
そして此度召喚され、衛宮士郎がこの世界にいると知った時は歓喜した。
また殺せることができると。
◆◇―――――――――◇◆
「…それが僕、ライゼル・S・クロウリーの過去だ。どうだ? 笑えるだろう?」
「…いや、笑いはしない。私もかつて闇の書というロストロギアとして色々な人の運命を狂わせてきた…だから笑うことはできない」
「そうか。まぁ、いい…ところであの衛宮士郎について聞かせてくれないか?」
「一体なにを聞くというのだ…?」
「今のやつはまだ踊らされている道化なのか、それとも芯の通ったまっとうな人間なのかを」
すると彼女は柔らかい笑みを浮かべて、
「…ああ。今の士郎のあり方はとても嬉しいものだ」
「なぜだ…?」
「お前は知らないだろうが、士郎はかつて“正義の味方”を目指していた」
「正義の、味方…?」
「そうだ。それは養父である衛宮切嗣から受け継いだという話だがな…」
それから聞く。
彼女が聞いた衛宮士郎の半生を。
その変わっていった心のあり方を。
そして『すべてを救える正義の味方』から様々な経緯をえて変り、今は『大切なものを守れる正義の味方』を心新たに志しているということを…。
「確かにお前の世界の士郎は正義の味方を最後まで突き通していたのだろう…。
だが今の士郎はあり方が変わってきている。主だけでなく私すらも助けてくれた。
そんな男だからこそ私は士郎に恋をした。そして結ばれた…」
彼女は幸せそうにそう話す。
「そうか…。もう、やつは僕が殺した衛宮士郎とは別人なんだな?」
「ああ。確かに並行世界を辿ればお前が殺したいと思う衛宮士郎も見つかるだろう。
だがこの世界の衛宮士郎はもう危うくない…。むしろ応援したいと思う。だから私は生涯を手助け出来たらいいと思った」
この話しを聞いて僕は悟る。
この世界で僕の復讐は意味を無くしたということを。
だがここまでやってタダで終わらすことなど僕のプライドが許さない。
だから衛宮士郎に問い詰めよう。
お前の覚悟は本物なのか? 本当に貫き通せるものなのかを。
「僕は衛宮士郎に問う事にする」
「なにを…?」
「お前を守るものとしてふさわしいかを…? お前の信念は本物なのかを。
それによって僕は見届けるか殺すかを決める。
それで…もし相応しいものだったのなら…僕は身を引こう」
「アヴェンジャー…感謝する。それでも士郎は必ず私の下にやってくる。だから…」
「ああ。騎士の誓いによって約束しよう」
そして僕は居場所がすぐに分かるように魔力溜まりを発生させて衛宮士郎を待つことにした。
でも、僕はこれから知ることになる。
僕の愛した彼女が僕の前に現れるなんて…。
これも運命だったかという気分にさせられる事を…。
今回、回想でシエルさんを登場させました。
ライゼルは次回士郎に色々と問いかけます。
そして意外な人物が次回も登場する予定です。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
では。