では、どうぞー。
フェイト達は帰る家でもある時の庭園に帰ってきていた。
だが帰ってきた早々にフェイトは母親であるプレシア・テスタロッサによって鞭による虐待を受けていた。
アルフはフェイトのいう事を聞いて我慢していたけど、
(どうして!? どうしてだい!?
フェイトはこんなに頑張っているのになんで…!?
あいつは実の娘にあんな酷いことをできるんだい!!?)
アルフの嘆きは、だが言葉に出すことは叶わない。
出したらより一層フェイトに虐待の鞭が飛ぶ可能性が上がってしまうから。
ただただ我慢し続け…少しして鞭の音が聞こえなくなった。
アルフはフェイトがやっと開放されたと思い、主のもとに急いで走った。
だが、気絶しているフェイトの傍らにはまだプレシアの姿があった。
いつもなら気絶したらすぐにどこかへ引きこもるというのに…
アルフは憎しみの表情を晒しながらもただフェイトを抱きしめなんとか耐えた。
「…アルフ、答えなさい。あの少女はなに…?」
「あの少女ってのはどいつの事だい…?」
「あの赤髪の謎の魔法を使う少女のことよ…!」
「シホの事かい? なんだ、今更興味を持ったのかい…?」
アルフは手を出さない代わりに痛烈に皮肉を込めた言葉を発した。
だがプレシアは挑発には乗らずにただただその少女の情報が欲しいという感情だけが優先されていた。
そしてその手に鞭を顕現させ、
「…知っているだけでいいのよ。
教えてくれないとまたフェイトをこの鞭で痛めつけるわよ?」
「ぐっ…!?」
最後通告なのだろう…アルフに鞭を一度だけ叩き付けた。
その為、アルフは「こいつにだけは…」という想いがあったが、主がまた傷つけられてしまうという恐怖が上回った。
そして断片的ではあるがアルフからシホの情報を聞き出したプレシアはその表情に笑みを浮かべる。
が、それだけ。「そう…」とだけ言ってもう用はないとばかりに踵を返してどこかへ行こうとした。
だがそこでついにアルフの我慢が限界を越えてしまい絶叫を上げた。
「なんでフェイトにここまで出来るんだい!? あんたの娘だろう!?」
「何を言い出すかと思えば、当然の事じゃない? こんなに猶予を与えてあげたのに成果はたったの七個。
出来の悪い娘を叱るのは当たり前のことよ」
「キサマアァァァーーーッ!!!」
アルフは怒りの声を上げてプレシアに何度も殴りかかり、魔法障壁まで破ったがそこまで…。
強力な魔力弾を腹にもろに受けてしまい吹っ飛ばされる。
そこに追撃の手を緩めないプレシアは、
「…使い魔の躾がなっていないようね」
感情のこもっていない台詞を言って、アルフはフェイトのしている事を説いたが聞いてもらえず、
「消えなさい!」
「ッ…!」
最後とばかりの一撃を放ったプレシアに対してアルフは転移魔法でどうにか逃げ出した。
「…逃がしたわね。でももう必要のない駒。
それよりそのシホ・E・シュバインオーグという少女…次元世界ではなくまったく別の異世界の住人。
それがもしかしたらアルハザードに繋がる鍵になるかもしれない…フフフッ…」
そしてプレシアはフェイトを起こし再び戦場に送り込むのだった。
◆◇―――――――――◇◆
…一方、アースラに収容されたシホ達は現在医務室にいる。
そこではまだ眠り続けているシホの看病がなされていた。
傷の中で右手が特に酷く真っ白な肌に対して手だけは黒くなってしまっていた。
それを医務室の関係者やユーノ達が必死に治療している最中である。
「んっ…」
そこでシホがやっと目を覚ました。
「シホちゃん! よかったぁ…」
「お姉様ぁーーー!!」
「なのは…フィア…」
まだ覚醒しきっていないのか意識が朦朧としている中、かろうじて泣きながら抱きついてきた二人の名を呼ぶ事が出来た。
少し固まってしまっていたがようやく意識が正常に戻ってきたのか、
「二人とも安心して…私は大丈夫だから」
「でも、お姉様の手が…!」
そこでシホは自身の右手を見てやっとその事に気づいた。
だけど別段驚くことではなかった。
「これならまだ大丈夫…少し待って」
シホは目を瞑り集中をしだした。
そして心内で「
するとシホの体が発光しだして周囲は驚きの声を上げる。
同時に先程まで黒く焦げていた右手の傷がまるで逆再生のように塞がっていった。
それで完全とはいかないものの黒みは抜けて元の白さを取り戻した。
ついでに千鳥の影響で少しばかり下半身が麻痺していたがそれも修復しておいた。
だがそれで魔力は枯渇気味になり力尽きたのかまたベッドに横になってしまった。
シホは後は接続してあるアヴァロンの恩恵でこれ以上怪しまれないように少しずつ癒していくことにしたのだ。
「すごいな…君の体にはなにか秘密はあるのか?」
「さすがに教えられないわ。でもこれで当分は残った魔力を自己治癒にしか回せないから約一日は安静にしていないと…」
「そうなの。でももうこれで大丈夫のようね?」
そこでリンディが笑顔ながらもシホ達を説教した。
四人はそれで素直に謝ることにした。
それからなのは達は一度様子見で家に帰されることになったが、シホは一日絶対安静の罰を与えられてしまったのでアースラに残り組みになった。
それならとフィアットが一緒に残ってくれたのでシホは安心した。
なのはは桃子達にそれとなく伝えておくという事で話はついた。
◆◇―――――――――◇◆
Side 高町なのは
あれから家に帰ってお母さん達に心配かけた事を何度も謝った。
リンディさんも着いてきた事には驚いたけどシホちゃんの事情もうまく隠しながら話しているリンディさんの手腕に驚きました。
でもやっぱりシホちゃんの話題になるとお母さん達は過敏に反応するので少しリンディさんも苦しかったらしい。
…シホちゃんってみんなにも事情を話しているのかな?
それから翌日になりすずかちゃんとアリサちゃんにもすごい心配されたけど元気そうでよかったと励まされた。
その分、シホちゃんがこの場にいない事で色々聞かれたけど事前にシホちゃんに伝えてと言われた内容を言って二人には安心してもらった。
嘘ついてごめんなさい…!
そして今日一日はいられる事を伝えたらアリサちゃんが「うちに遊びに来る?」と誘ってくれたのでいく事になったけど、アリサちゃんが怪我をした大型犬を拾ったという話を聞いてどういった容姿かを聞くとある人に似ていたので放課後、すぐにアリサちゃんの家に向かった。
そしたら案の定、その怪我をした大型犬はアルフさんでした。
それで思念通話で事情を聞いてみたけどアルフさんはそっぽを向いてしまった。
ユーノ君の提案で仕方なく一度その場を離れることにした。
それからユーノ君が事情を聞きだそうとしたけど、
「時空管理局も見ているんだろう?
だったらシホを映してくれないかい?
他の奴は信用できないけどシホになら全部話せる…」
「…わかった。エイミィ、シホをここに連れてきてくれ」
「はいはい」
しばらくしてシホちゃんが会話に参加してきた。
◆◇―――――――――◇◆
Side シホ・E・シュバインオーグ
クロノの突然の呼び出しでフィアに急いでもらいモニター室に向かった。
そこでは怪我を負ったアルフの姿があった。
「アルフ! どうしたの、その姿!?」
「シホ! あんたこそやっぱりあの時怪我をしていたんだね!?…すまないね、あたし達の為に…」
「そんな事、今はいいわ。それでどうしたの…?」
「シホ! フェイトを…フェイトを助けてやっておくれ!」
「フェイトを…?」
それからアルフはフェイトの母、プレシア・テスタロッサについて語った。
その内容に次第に私は腹が立ってきた。
「でも今私は安静にしてなきゃいけないから…なのは。あなたがフェイトを助けてあげて」
「私が…いいの?」
「フェイトと友達になりたいんでしょ!? だったら最後までその意地を貫き通しなさい!」
「! うん。私はやります。フェイトちゃんとお友達になりたいし、それに助けたい!」
「…なのは、っていったね? 頼めた義理じゃないけどシホの変わりにフェイトを助けてやっておくれ…! 今、フェイトは本当の意味で一人っきりなんだよ。だから…!」
「うん、任せて!」
なのはの元気な声とともに私も安心した。
それと同じくしてアースラではプレシアを拿捕する作戦が立案した。
…色々な思いが交差する中、翌日の朝になり私は完全とはいかないけど体調は回復してもしもの場合のクロノと同じく待機になった。
そしてアルフと合流したなのははまるで待ちわびていたかのようにフェイトと対峙する。
するとなのははなんとお互いのジュエルシードをかけた本気の勝負をフェイトに申し込んだ。
それから二人は一進一退の攻防を繰り広げている。
互いに同種の魔法の打ち合いや誘導弾での遠隔攻撃、バスターやサイススラッシュなど他にもなのはには禁じていた近接戦闘など。
「ああ…なのはには地獄の特訓で近接戦闘はあまりしない方がいいと言っておいたけどやっぱりやったわね…」
「地獄のって…シホ、なのはのあれは独自のものじゃないのか?」
「なのはさんの使うほとんどの魔法や動作などはレイジングハートや兄さんの助言もありましたけど、そのほとんどはお姉様が考案してレイジングハートに逐一シミュレーションや魔法の種類をインプットさせてそれをお姉様が文字通り特訓相手になってあげていたんですよ」
「なにかこそこそと隠れて特訓していたらしいけど、ほとんどは私が心構えや覚悟…それに無駄がつかないように変な癖がつきそうになったらすぐに指摘してやってあげていたわ」
「…なるほど。魔法を取得して間もないのに扱いが上手いのはシホの教えもあったからか。なら強くなるわけだな」
「そんな事ないわよ。きっと私がいなくても一人で勝手に強くなっていったと思うわ。なんせあの娘は私にはない才能が満ち溢れているから」
「才能がない、か…シホちゃんってやっぱりクロノ君に似てるね。必死に修練や経験を積んできた辺りなんか特に」
「「そうか(しら…?)…?」」
「ほら、息もピッタリなところとか」
返す言葉もないわね…。
「っと、話をしていたら展開が変わったわね。なのはの強さを認めたフェイトが大技を仕掛けるみたいよ」
「バインドで捕まえて一斉発射か」
そこでアルフが警戒し、ユーノが援護しようとするが「これは決闘だから入ってきちゃダメ!」というなのはの言葉に止められた。
そしてフェイトのフォトンランサー・ファランクスシフトが一斉に放たれた。
これで決まりか? と思ったがなんとなのははすべて受けて耐え切った。
フェイトは大技を使ってかなり消耗してしまって攻勢に転じたなのはの攻撃を耐え切るしか他無かった。
「受けてみて。ディバインバスターのバリエーション!」
フェイトはそれで危機を感じ離脱しようとしたがすでに両手足にバインドがかけられていて逃げ出せない。
そこになのはが叩き込むように周囲に散っていた魔力を一点に再度集めて、
「これが私の全力全開! スターライト…ブレイカー!!」
それで私も存在を知らなかった集束砲撃は見事フェイトに直撃して、勝利をその手にした。
「うわ! シホ、君はあんなものも教えていたのか!?」
「…いいえ。でも、あんな無茶な事は教えたつもりはないんだけど…体にも負担大きそうだし。
後でいざという時だけに取っておきなさいと釘をさしておかなくちゃ…。
それとクロノ、そろそろ…」
「ああ。わかっている」
するとやはり私達の予測どおりまたいつぞやの雷光が降り注いできた。
その為に私がすぐに出動して子狐丸を使い稲妻の軌道を逸らして二人に直撃だけはさせなかったが、それとは別にジュエルシード七つを奪われてしまった。
だがもう仕方がない事で疲弊しきっている二人をアースラに回収した。
ユーノとアルフも別でアースラに乗り込んできた。
フェイト達も含めた全員がブリッジに入っている。
そしてモニターには場所の特定が出来た時の庭園というプレシアの本拠地に乗り込んでいく武装隊の面々がいてプレシアを包囲していた。
それとは別の武装隊が玉座の奥へと進んでいくとそこには…
「え…?」
それは誰の声だっただろうか?
フェイトより少し幼げだが瓜二つの少女がなにかの培養液の試験管のようなものに入っていた。
混乱している間にプレシアは武装隊を鎮圧していき、
「私のアリシアに近寄らないで!」
そう言った。
負傷した局員達はエイミィさんが回収したがそれとは別に私は嫌な予感がした。
だからフェイトをここから離脱させようとしたがもうフェイトはその光景に魅入ってしまっていた。
そしてプレシアは真実を語りだす。
「…もうダメね。たった七個のジュエルシードでは、アルハザードにたどり着けるか分からないけど。
でも、もういいわ。これで終わりにする。
この子を亡くしてからの暗鬱な時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも…これで終わり。
聞いていて? 貴方の事よ、フェイト。
せっかくアリシアの記憶を与えてあげたのにそっくりなのは見た目だけ…ちっとも使えない私のお人形…」
そこでエイミィさんが語りだす。
それでも私の心はどんどん冷えていく一方だけど、
「最初の事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。
彼女が最後に行っていた研究は、使い魔を超える人造生命の精製…開発コードは『プロジェクトF.A.T.E』。
そしてその目的は……」
エイミィさんは沈痛な表情で語っているけど最後の一線は踏みとどまった。
それは、フェイトの完全否定。言葉にできないのは当然だ。
だがプレシアはその最後の一線を越えてしまった…!
冷めていく感情が逆にぼうぼうと燃え始める…
「よく調べたわね。私の目的は、アリシアの蘇生、ただそれだけよ」
燃え始めたものは止まることを知らずどんどん膨れ上がっていく。
プレシアはまだなにか言っているようだけどもうあまり聞こえてこない。
「でも駄目ね、ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は、所詮作り物「黙りなさい…!!」……ッ!?」
『!!?』
膨れ上がったものがついに爆発した。
気づいた時には殺気と殺意、その他諸々の感情が込められた呪詛にも近い言葉が自然と私の口から発せられていた。
ブリッジにいた面々は自我を失っているフェイト以外が一斉にこちらを振り向く。
「フェイトの何処が人形? 作り物? 戯言を言うのも大概にしなさい…」
「あなたに何が分かるというの…?」
「ええ、なにもわからないわ。ただの愚者の言葉なんて…。
それにプレシア…あなたはただフェイトにアリシアの幻影を、理想を押し付けただけ。
見た目が似ている? それは当然よ。フェイトはアリシアを基に創られたのだからそれは必然。
そして中身や仕草が違うのもまた必然…だって宿っている魂そのものが違うんだもの。
同じ人間なんて生まれてくるわけがないでしょ。
世界の理は世界を傷つけようとするものを真っ向から否定する。そして抑止力が動き出し、きっとあなたは世界に邪魔されて辿り着けやしないわ」
「…すごいのね、異世界の魔術師さん。それならあなたならどうやって死者を蘇生できるかわかるのかしら?」
「術式は知らないけど知識だけなら知っているわ…」
するとその場の全員とプレシアは驚愕した。
プレシアだけは次に歓喜の表情を浮かべたが、
「…だけど残念ね。あなたではもうそれは不可能よ」
「どうして!?」
「だってそこにあるのはただの器だけ。肝心の魂がもうこの世にはなく根源に帰ってしまっているもの。
死者の蘇生にはね…私の世界の五つの魔法の一つ。最低でも『魂の物質化』が必要になってくるわ。
だからそもそもの魂が存在しない以上、一生アリシアは蘇らない…」
「なら…!」
「…私の世界にいきたい? とうてい無理な話よ。
世界の理や神秘すら理解できていないあなたは本当の魔法に至るなんて不可能。
それにもし行けたとしても何百、何千年の時をかけなければ辿り着けないわよ…?
どうせその時もまた抑止力に邪魔されるけどね…」
私は皮肉を込めながら肩をすくめた。
それにまだ大事なことを言っていない。
「それに言わせてもらうわ。死者は決して蘇らない! 起きてしまった事はやり直しは効かない。
あなたの願いは、アリシアはきっと望んでいない!
あなたはアリシアを失った時に流した涙も、その記憶も、胸を抉る悲しみも、すべて嘘にしようとしている。
世界には多くの死と悲しみに耐えて乗り越えてきた人はたくさんいる。その歳月をもあなたは無意味にしようとしている。
…失ったその痛みを抱えて前に向けて進んでいくのが唯一の失われたものの残す道だというのがどうしてわからないの!?」
「うるさい…! 黙りなさい!」
「いいえ、言わせてもらうわ。
さっきもいったけどあなたはフェイトやアリシアに理想を押し付けているだけ。
どれだけあなたがアリシアの事を理解しているのかは私にもわからないわ。
だけどどこまでいっても真には迫れない。真に本物なんて一生に一度だけの命そのものなんだから。
だからあなたの理想はどこまでいっても都合のいいものでしかない!
そしてこれが最後…あなたはその歪んだ理想で今もアリシア・テスタロッサを苦しめ殺し続けている。
あなたのその悲しい想いに同情すべき点は確かにあるわ…。
でも、だからこそ私は…あなたの身勝手な理想を止めるために、あなたを…プレシア・テスタロッサを倒すわ」
そう宣言した。
「…いいたい事はそれだけ? そう。それなら来なさい。相手になってあげるわ。
未知の魔法というものにも興味はあったけど…もういい。
管理局より、そこの人形よりも…真っ先に殺してあげるわ…このガキが!」
そこでモニターが一瞬だがぶれてしまいプレシアは後ろを向きアリシアの体が入っている容器を引き上げて玉座まで歩き出した。
私は一息つくとフィアが近寄ってきた。
「お姉様…これを」
「フィア…?」
フィアがハンカチを差し出してきた。
何事かと思って…ああ、今の今まで気づかなかった。
私は泣いていたんだ。
「ありがとう、フィア…」
「いえ。それよりお姉様…無茶をしないでくださいね?
お姉様の心の叫びがリンカーコアを通して私にも伝わってきました」
「ごめんなさい…そこまで気が回らなくて…」
でも、こんな事をプレシアに言ったけどこの先、私は言った言葉を返上してプレシアと同じ事をしようとする事になるなんて思いもしなかった。まだ、先の話だけどね…。
◆◇―――――――――◇◆
Side リンディ・ハラオウン
シホさん、すごいわね…。
冷静な娘だと思っていたけど心のうちはとても激情なところもあったのね。
泣きながらもプレシアと遣り合っていた姿はクルー全員の涙を誘うほどだった。
そしてシホさんのいう神秘という概念や本物の魔法…。
そしてプレシアに語った残された者の悲しみの数々…あれはきっとシホさんにも当てはまる言葉。
こちらに飛ばされる前にどれだけ彼女は失ったのだろうか…?
クロノよりも見た目歳は下だというのに彼女はどのような地獄を見てきたのか…?
考えるだけで私の涙腺が緩む。
でも今は現場指揮官として泣くことはできない!
「…艦長。後で少しですが艦長のタイムスケジュールをあけておきます」
だけどエイミィは気づいていたようで気を使ってくれたのかそう言ってくれた。
それで「ありがとう」とだけ言って頷いた。
…さて、それでは気持ちを切り替えていかなければいけないわ!
プレシアの言葉で自我を喪失してしまったフェイトさんの事も気がかりですし…。
だけど事態は急変した。
モニターに移っているプレシアが七つのジュエルシードをかかげて、
「私達は旅立つの…忘れられた都、アルハザードへ!」
プレシアはジュエルシードに強くそう願ってしまった。
そして起こる次元震の波。
クロノはそれを阻止するためにエイミィに転送の許可を取って駆けていった。
「さぁ…きなさい! 小生意気な魔術師が! 私達の旅の前に殺してあげるわ!」
「…ご注文を受けてしまったわね。さて、それじゃ私も準備をしなくちゃ…
シホさんが独自の呪文を唱えた瞬間、
靴はタラリアと呼ばれる鉄のブーツに変わり、スカートとスパッツを履いている腰に赤いマントが装着され、上半身に黒い鎧…そしてその上に手の甲まで及ぶ赤い外套。
バリアジャケットにも似通ったその姿はまさに騎士…そう彷彿させるような姿をしていた。
その姿にクルー全員…なのはさん達も魅入っていた。
約一名はその姿に盛大に頬を染めていたけど誰かとかは敢えて上げない事にする。
そして崩れ落ちているフェイトさんに近寄り、
「フェイト…あなたはどうしたい?」
「私は………人形……」
やはり精神に異常をきたしているわ。
でもシホさんはフェイトさんの頭に手を乗せて、
「あなたは決して人形なんかではないわ。もう意思を持つ一人の独立した人間。
プレシアは人形といったけど私は…私達はあなたをそう思っていない。
だって、プレシアの為に必死になっていたフェイトが人形なんてもののわけがないわ」
「………」
「フェイト…あなたはプレシアに伝えたい事があるのでしょう?…どう?」
「私は…………それでもかあさんが大好き……」
「そう…。それならその気持ちをプレシアに思いっきり伝えなさい…露払いは済ませてあげるわ。
私達は先に向かわせてもらう。…先に行って待っている。フェイトが来るまでプレシアの足止めは任せなさい」
シホさんはまるで聖母のように優しい笑顔を向けてフェイトさんの頭を優しく撫でた後、その手を離し、腰のホルダーにまるで剣のような宝石を差して赤いマントを翻して踵を返し、
「なのは、ユーノ、フィア。あなた達も行きたいでしょう?」
「うん!」
「当然だよ!」
「どこまでもついていきます!」
「そう…それじゃアルフ。フェイトの事はお願い。先に行って待っているから…」
「うん…うん…!」
そしてシホさん達はブリッジを出て行った。
それにしても逞しい娘だわ。
なのはさんをこの短期間で強く育てあげた指導力。
冷静に周りを見回して状況を把握する戦術眼。
ずば抜けた魔術という神秘の使用。
そしておそらく才能がないというクロノと同じ境遇でありながらも、ひたすら鍛え上げ一線を凌駕する様々な実力。
なによりリンカーコアの魔力値がすでにSランク。
どれをとっても文句の付け所のないような程の将来有望な人材。
是非管理局に欲しいわ…。
でも今はその事は棚上げしておく。
まずはこの事件を解決するのが大事だから…!
…そうして最後の決戦の幕が上がろうとしていた。
次回は戦いになります。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
では。