5/19:改訂。旧4、5話をくっつけて足しただけ。
昼休み。
織斑一夏は幼馴染である篠ノ之箒にとっ捕まっていた。
本来であれば一人で取るはずだった織斑一夏の昼食は、
ちょっとしたイレギュラーの余計な茶々入れによって幼馴染同伴に
早変わりしてしまったのである。
「で、あの女は一体何だ? どういう間柄だ?」
「何故に訊問調なんだよ。」
対面に座った箒に睨みつけられている織斑一夏は取調室の一室で
尋問を受けているかのような錯覚に陥っていた。
これで昼食がかつ丼なら完璧だっただろうと思えるくらいに。
そう言えば最近の取調室は可視化が進んでるんだよなぁと
ちらちらとどころかガン見でこちらを見ている生徒達を横目に
余計な事を考えてしまう訳で。
「決まっているだろう!相手は子供でも聞いた事のある大富豪………と言う範疇を超えている
超資産家だ!!言ってしまえば私達とは全くの縁のない世界に住んでいる人間だぞ?
何故そんな女がお前と馴れ馴れしくしてるのだ!?」
バン、と叩かれる食堂のテーブル。
誰がどう見ても嫉妬以外の何物でもないのだが、そこに気づかないのが朴念仁織斑一夏である。
「そりゃ知り合いだからだよ。」
「知り合い、だと?それにしてはやたら軽いようだな?」
ぐっと乗り出すように織斑一夏に詰め寄る篠ノ之箒。
きちっとしたことをさっさと吐け、と言わんばかりである。
「何だ、嫉妬か? 余が羨ましいか?」
そんなセリフを吐きながら現れたのは話題に上がっていたネロ・ウルクその人である。
いつの間に着替えたのかごく普通のIS学園制服に身を包み、両手にはラーメンの乗ったトレイ。
それも超大盛りのとんこつラーメンである。
「う、羨ましくなど………。」
「そうか、ならば貰ってしまって構わんな?」
「ふざけるなっ!!」
どかっと近くの椅子に座りながら聞き捨てならないセリフを吐くネロ・ウルクに
篠ノ之箒の怒りは頂点に達しようとしていた!
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。
「お、落ち着けよ箒?な?」
「これが落ち着いていられるか!? と言うかお前の事なんだぞ一夏!!」
周りの目が修羅場よ、修羅場が発生しようとしてるわ、とざわざわし始めたのを感じて
二人を抑えようとする織斑一夏。正直昼飯くらい静かに食べさせてほしい。
「ウルクも頼む、あんまり悪ふざけはよしてくれよ。」
「くくっ、余は本気だぞ………と言ったらどうするつもりだ?」
そろそろ本気で噴火しそうな篠ノ之火山を横目にラーメンを啜りながらそう言うネロ・ウルク。
げんなりした顔になる織斑一夏。
「そんな気なんて全くないんだろ………。」
「無論だ。好ましくは思っているがLoveと言う感情からは程遠い。
だから心配しなくていいぞ、篠ノ之箒。」
ネロ・ウルクにとっての織斑一夏は<原作の主人公>と言う認識が最初にあって、
その次にある認識が<咄嗟の時に自分を顧みず動ける男>である。
織斑千冬とガチで対峙したあの時もそうだ。
まさに殺し合いとなろうとしていたあの場に飛び出して二人の間に立ち入ったのだ。
中々できる事ではない。
だからこそあれからこれまでの短い間、目をかけて来たのだ。
もしお前が強くなりたければ余に連絡するとよい、と念の為に放り込まれた病院で
連絡先を渡したり連絡を入れてきた一夏に長期休暇を利用する形であれこれと
叩きこんでみたり。
戦う時においての立ち回り方や、銃の撃ち方、効率的なトレーニング法、
基本的な学力の向上などなど。
流石にISに関係する事を教えるのは不自然だったので断念したのだが。
まぁ、動かせると分かった時点で家庭教師として押しかけてやったが。
単純に一夏魔改造計画とも言う。
「何を心配するんだ?」
「お、お前には関係のない話だ!!」
首をひねる一夏に、怒りとは違った方向で顔を赤くする篠ノ之箒。
どう頑張っても朴念仁だけはどうにもならなかったのである。
こればかりは当人が自覚しないと仕方がないわけで。
まぁ、そっちの方が見てる分には面白いだろうと積極的に直そうとも
しなかったというのも事実である。
「さて、与太話はこの辺にしておいてだ。
少し実のある話をしようではないか、織斑一夏。」
「何だよ一体?」
居住まいを正して向き直るネロ・ウルクに真剣な顔を向ける織斑一夏。
何を考えているのか未だによくわからない彼女であるが、少なくとも今は
真面目な話をぶつけてくると確信している。
「勝算はあるのか?」
「あろうがなかろうがやるしかないんだろ?」
相手は代表候補生、かたや自身はISが動かせるだけの素人である。
本来ならば勝負にもならない戦いだ。
それでも戦うことになった以上は、最善を尽くさなければならない。
「だが、今の貴様には圧倒的にISの操縦経験がない。
そこでだ。余自らが貴様にISと言う物を徹底的に………。」
「ちょっと待て! それは私がやらせて貰う!!」
教えてやろう、と言いかけた所で割り込みを掛けたのは篠ノ之箒である。
ネロ・ウルクは「Loveではない」と言う物のどこまで本当なのかは分かったものではない。
そもそもにして「私は織斑一夏が好きだ」などとこんな公衆の面前で公言する人間はいない。
仮に杞憂だとしても、彼と同じ時間を共有できるならばそれに越したことはない。
ある意味取り越し苦労な事を考えてこの結論に至ったのである。
「ほう? 貴様がやると言うのか篠ノ之箒?」
「そうだ。私は篠ノ之束の………妹だからな。」
できるのか?と言った面のネロ・ウルクに複雑な表情でそう言い返す篠ノ之箒。
彼女が姉である篠ノ之束に抱いている感情からすれば当然の話ではあるが。
都合のいい時だけ姉の名前を出す自身の疚しさもあるのだろう。
そんな彼女にニヤリとした笑みを向けるネロ・ウルク。
「ならばお手並み拝見と言わせて貰おうか。精々頑張るといい。」
一級お手並み拝見士のようなセリフを吐くと空になった丼の乗ったトレイを持って立ち上がる。
少し歩いた後に立ち止り。
「まだ1週間あるが敢えて言わせて貰おう。貴様と戦うのを楽しみにしているぞ、織斑一夏。」
「お、おう。」
もうちょっと気のきいたセリフは吐けんのか戯け。
そんな事を言いながら、今度こそネロ・ウルクは立ち去ったのである。
そして夜。
はぁ、とため息を吐いて日本代表候補・更識簪は女子寮の廊下を歩く。
原因は一つ。
自らの専用機となるIS<打鉄・弐式>についてだ。
開発元である倉持技研が「唯一の男性IS搭乗者である織斑一夏の為の専用機を急ピッチで
完成させる為に<打鉄・弐式>の開発を一端凍結します。」(要約)と通告してきたのだ。
とは言え、<打鉄・弐式>はその前から開発していた機体である。
最大の難問とも言えるマルチロックオン・システムを初めとしたプログラミング関係や
スラスターの調整など細かな部分だけが残っているだけであるが。
一番ややこしい部分が残っているとも言う。
それを(半ば無理矢理)引き取り、今日も一人でちまちまとあれやこれややっていたのだが
一向に進んだ気がしない。
所詮自分は姉に及ばないのかと劣等感を引きずりながら自分の部屋の前に立ち。
「………何これ。」
部屋に入ろうとドアを開けて締め直し、改めて自分の住む部屋であることを
ルームナンバーで確認してから入りなおしてしまったのである。
それも仕方のない事だろう。
学園案内の冊子によればごくごく普通の内装だったはずだ。
それがまるでビフォー・アフターのごとく様変わりしてしまっている。
まさに「何という事でしょう!」と言う状態だ。
肯定的なのか否定的なのかは置いておいて。
豪奢なシャンデリアに足首まで埋まってしまいそうな絨毯、そして天蓋付きのベッド!
いずれもが煌びやかな光を放ち輝き、目が潰れてしまう………!という事は流石にないが
それなりにいいとこの出を自覚している彼女にしてもこのクラスの豪勢さは目にしたことがなく。
そして思い出す。
自分のルームメイトが一体誰であったか………。
「ふむ、貴様が余のルームメイトか。」
シャワールームのあったであろう方角から現れたネロ・ウルクその人であった。
ついさっきまでシャワーを浴びていたのかバスタオル一枚の姿である。
その湯上りの有様は神々しき美の女神を見ているかのようで。
「これは、あなたが………?」
「余に相応しいだけの場所を整えただけだ、気にせず寛ぐといい。」
(それなりにある)胸を張って自慢するかのように認めるネロ・ウルク。
金持ちパワー全開と言う奴である。まさにマネーイズパワー!!
「ぜ、絶対に無理………。」
などと小声で呟きつつも改めて辺りを見渡せば、
自分が使うベッドも天蓋付きの豪勢な仕様になっており、
そこに事前に送り込んでいた自分の荷物の段ボールがちょん、と乗っかっていると言うのが
何というか申し訳ない気持ちになってくる。
「まさか余だけがこのような振る舞いをするわけにもいかん。
と言うより、この部屋の調和に合うだけの舞台を整えただけだ、気にする必要はないぞ?」
などと言うネロ・ウルクに対して「はぁ」と言った感じの気の抜けた声しか返せない。
どう考えてもこれはやり過ぎな気しかしない。
「ちゃんと許可は取ったの?」
「許可?無論ちゃんととったに決まっているだろう。」
勿論、これらにかかった費用は全て自腹だ。
正直な話、女子寮自体を建て直す事も吝かではなかったのだが、
その辺は自重したのである。
後、単純に「そこまでするのは止めて!」と言われたと言うのもある。
そんな事まで許してしまえばIS学園が私物化されてしまう!!
「で、メシは済ませたのだろう?風呂に入るか?それともガールズトーク、と言うのをするか?」
余は一度パジャマパーティなる物をやってみたかったのだ!
とテンション高めに言うネロ・ウルク。
しかし、更識簪としてはそれに答える前に聞かなければならない事があった。
「風呂?」
確か寮の風呂は大浴場が一つだけのはずだ。
各部屋にはシャワールームが取り付けられてるだけのはず………そこまで考えて。
「ちゃんと浴室も完備してあるぞ、むしろしない理由がどこにもないな。」
「………そう。」
何かを諦めたかのような顔で項垂れたのである。
その辺の空気を読まず、余は湯あみが大好きでな、いずれは大浴場も使うぞ………などと
一人トークを展開しているネロ・ウルクであったりする。
その大浴場の方ではあまりの豪華さに目をくらませている利用者が多数いたりする。
「いずれ余も入るのだ、それに相応しい場所でなければならん!」と考えた某バ金持ちが
まさに王侯貴族か皇帝が使うような黄金の大浴場を現出させてしまったのである!
「これ、入らないとダメなの?」
「むしろ入っていいの、これ?」
「何触っても弁償させられそうで怖い………」
「私、部屋に帰ってシャワーにしようかなぁ………」
以上、主な利用者のお言葉でした。
なお後に浴室を使わせてもらった簪さんも同様の意見の模様。
話を元に戻そう。
「………悪いけどやらないといけない事があるから。」
一人盛り上がるネロ・ウルクを置き去りにするように荷解きを始める更識簪。
本来ならうっちゃっておいても良いのだが、
流石にこれから同じ部屋で寝起きを共にするルームメイト。
しかも、<あの>ネロ・ウルクとなれば無碍な対応を取る訳にもいかず。
「ふむ、<銀河刑事シリーズ>か。」
「知ってるの………?」
荷解きした中から転がり出てきたDVD-BOXを見て呟くネロ・ウルク。
それに反応する更識簪。同好の志がここに!と。
しかしよく思い出してみればこのネロ・ウルクと言う女。
相当の親日家である。それもオタク文化と言われる方面で。
コミックマーケットに彼女の姿を見た!と言うのは毎年の恒例行事で。
それもご丁寧に何らかのゲーム・アニメのコスプレで登場である。
本人曰く「お忍び」らしいのだが全く忍んでいないのは周知の事実。
さらに言えばここ最近の特撮作品・映画のスポンサーには必ずと言っていいほど
彼女の名前がクレジットされていたりする。
「スポンサーがいないなら彼女を頼れ」はある意味合言葉だ。
むしろそっち関係の話なら頼まれなくても口を突っ込んでくる。
ただ、金は出すが口も出すスポンサーではある。
口を出す分の金はきちんと出すし視聴者目線の意見を心掛けているとは
某雑誌のインタビューであるが。
ともかく、一しきり特撮談義が花咲く訳である。
年頃の若い女性が二人で。
更にアニメ談義に発展し、謎の盛り上がりを見せる事になる。
結果。
「………やらなきゃいけない事があったのに。」
「ちゃんと計画を練らんからだ、戯け。」
「それを貴方が言うの………?」
気が付けば既に夜も深く。
間もなく消灯の時間である。
「確かに無節操に盛り上がった余にも責任があるな。
よし、ここは余がその<やらなきゃいけない事>を手伝ってやろう。
何心配するな、ただし真っ二つだとかそんなふざけた事は言わん。」
光栄に思うといいぞ、とふんぞり返るネロ・ウルクに申し訳なさそうな顔で更識簪は告げる。
「………嬉しいけど、これは私がやらないと行けない事だから。」
「まぁそう言うな。ヒーローも言っているだろう。
『俺たちは一人じゃない、俺たちは一つだ!』と。
何でもかんでも一人で抱えていては持ちきれなくなって二進も三進も行かなくなるぞ?」
余のような完璧超人はそんな事はないがな!
どうしてもと言うならその3倍は持って来い!と自画自賛。
そんなネロ・ウルクを横目に何かを考え込む更識簪。
彼女のいう事はもっともだ。
しかし自分にも姉を見返してやりたいという目的がある。
それは自分が成し遂げないといけない事だ。
「だが、それは本当に貴様一人でなければならんのか?」
「………!?」
まるで心を読んだかのようなネロ・ウルクの言葉に驚きの表情を見せる更識簪。
「知って………るの?」
「ふん、余を誰だと思っている?同室の人間の事くらいは調べていて当然であろう?
その辺はお互い様だと思うがな。」
かたや世界レベルでもトップクラスのお金持ちの少女。
かたや日本における対暗部用暗部の家系に生まれ、日本代表候補になった少女。
多少あれやこれやに差はあるが、重要人物であることには間違いはない。
当然、身辺の人間と言うのはある程度調査する訳で。
勿論調べられる方もその辺は承知した物で。
まぁ通過儀礼と言うかお互いの(裏の)挨拶みたいなものである。
「なら………あの人の事も知っているんでしょ?」
「話程度にはな。」
その内、顔を突き合わす羽目になるだろうがと予言めいた事を言うネロ・ウルク。
そしてその予言は近いうちに当たるかも知れない。
「自分に酔うな、戯け。」
「………っ!?」
頭部に衝撃を受けたかのような一言。
「そんなつもりは………」
「ない、か?本当にか?
たった一人、誰にも理解されず戦う悲劇のヒーロー………などと自分を偽っていないか?
本当の自分を隠してはいないのか?」
何故にそこでネタを混ぜるんだろうこの人は、などと考えながらも効果的な反論が浮かばない。
嘘だと言えばそれこそ嘘になる。
「自分の殻に閉じこもって一人で自己完結しているのが今の貴様だ。
同情はしてやらんし、共感もできん。貴様もそんなものはいらんだろうからな。
まぁ何だ、まずは余から頼ってみよ。こんな事はそうそうない事だぞ?」
何しろ余と交友を結び、その恩恵に預かれるのだからな!!
と胸を張るネロ・ウルク。
「………どうして?」
そんな事をしてもらう理由なんてないはずだ。
少なくとも更識簪には思い浮かばない。
「人を助けるのに理由はいらん!などと言うのは余のキャラではないのでな。
そうだな、金持ちゆえの気まぐれだと思っておくといい。」
などと言うネロ・ウルクに苦笑してしまったのである。
「さて、まずは夜討ち朝駆けで倉持技研の株を買い占めるところからだな。
2日もあればコガネムシの巣で財を築いたような所など、一捻りにしてくれる。
大株主になった時点で名義を貴様の名前にしてやるから後は好きにするといい。」
「やめてっ!?」
FAQ
Q:どうして三人称っぽくなったの?
A:なんとなく
Q:一級お手並み拝見士って何?
A:「それではお手並み拝見と行こうではないか」と言って見てるだけの人の事。
当然ダメだったら「この件は皇帝陛下にご報告させてもらう!」とか言い出す。
例)クライシス帝国の某皇帝陛下の代理人
あるいは「やはり奴を倒せるのはこの俺だけのようだな!」でも可。
例)ゴルゴムの世紀王候補になれなかった某倉持さん
Q:簪さんの同室はのほほんさんじゃね?
A:学校に私情を持ち込むんじゃありません(壮絶ブーメラン)
後、公式にそう決まっているわけではない。
Q:簪さん、いいとこの出なの?
A:対暗部用暗部なんて更識さん家が普通の家なわけがない。
少なくとも昭和の下町情緒あふれた人情味のありそうな長屋住まいとかじゃないだろう
Q:天蓋付きベッド二つとか明らかに部屋のサイズおかしくね?
A:でもオルコットさんもなんかベッド持ち込んでませんでしたっけ?
………きっとそれなりに広い部屋なんですよ!今決めたそう決めた。
Q:元男なのにパジャマパーティにはしゃぐとかおかしいんじゃない?
A:今は女なので問題ありませぬ。むしろ女になったからできるんだろ!!
男のパジャマパーティとかキモイだけやん!!
Q:大浴場まで改修したなら建て直しちゃえよもう!
A:俺も正直そう思うけど、それをやるとひどい事になるので
Q:もう十分大惨事の件。
A:何 それは本当かね!? それは………気の毒に………。
Q:てかここまで無茶通すなら制服と机も通るんとちゃうん?
A:それは織斑千冬って奴の仕業なんだ。
Q:更識簪さんは誰と戦う悲劇のヒーローなの?
A:姉の幻影。
Q:倉持技研って株あるの?
A:正式名称は「倉持技研株式会社」なのかも知れん。
「倉持技術開発研究所」の略なのかも知れん。
と言う訳で株式会社だと今決めたそう決めた。
Q:コガネムシの巣?
A:仮面ライダーBLACKを参照の事