吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第14話

その日の夜。

 

今日は遅くなりそうだから忍さんとお姉ちゃんはなのはの家に泊まると連絡があった。

 

「話が長引いたのかな?」

 

「どうだろ? でも、明日になったら会えるからその時に教えてもらえばいいんだよ。きっと聞かせてくれるだろうし」

 

俺とすずかにも少なからず関わりのあることだから。主に被害者として……。

 

「なのはちゃん……明日来るかな?」

 

「来るんじゃないのかな? さすがに学校は休まないと思うよ」

 

「そうかな?」

「うん。だってさ、病気じゃないし、怪我もしてるわけじゃないんだから」

 

それに、性格的にずる休みはしないと思う。しようとしてもユーノが止めるだろうし。

 

ジュエルシードの事があるのに現地の住人の事をちゃんと考えてくれている。そんなユーノだからこそジュエルシードの回収に無謀ではあるが一人で来たのだろう。

 

猫の姿から人の姿に戻った俺は膝にリリンを乗せながらすずかと一緒にテレビを見ている。

 

「……ところですずか」

 

「何?」

 

「……何でホラー映画なの?」

 

「ん~、気分かな」

 

そうなんだ……。

 

「……もしかしてホラー映画は苦手?」

 

「エイリアンって映画を見てからちょっと……」

 

あれはトラウマになる……。思い出すだけで手が震える。

 

「あ~……そうなんだ。何だったら変えようか?」

 

すずかがありがたい提案をしてくれるが俺はそれを断る。

 

「ううん。すずかが見たいやつでいいよ……」

 

俺にはリリンがいるか……ら……ってリリン!? リリンがどっかに行ってる! カムバック! リリン、カムバァァック!!

 

内心慌てていると映画が始まってしまった。

 

俺がホラー系の映画が苦手な理由は雰囲気と効果音の二つが原因である。

 

その二つが巧妙に合わさって俺の恐怖心を掻き立てるのだ。

 

 

● ● ●

 

 

「…………本当に苦手だったんだね」

 

「…………」

 

俺は苦笑いするすずかに頷く。

 

「まぁ、誰しも苦手なことはありますから、気にしなくていいと思いますよ」

 

ファリンさんの優しさが心に染みる。自分でもホラー系が苦手なのはエイリアンを見てから知ったのでどれくらいなら大丈夫なのか検討もつかない。

 

ただ分かっていることは現実で起きるなら怖くないということのみだ。

 

だって……映画みたいに効果音とか演出がないから……。

 

それがないだけで全然違う。

 

「蓮君がホラー系が苦手なことは意外だったけどね」

 

「ですよね。本当に意外です」

 

そうですか……意外ですか。

 

「……そんなに意外ですか?」

 

「うん。平気なイメージがあったから……でも、それはもう崩れちゃったけどね」

 

そう言いながらクスリと笑うすずか。

 

「そうですよ。だって蓮君ってあんまりテレビを見ないじゃないですか……自分から苦手な番組を見る人なんてそうそういませんよ」

 

ファリンさんの言うことも分かるけどね。これはただ単に俺の運と言うかタイミングが悪いだけなんじゃないかなとも思うわけでして……。

 

そこら辺はどうなんだろうか?

 

……運はすべて使いきっているのか? 俺を受け入れてくれる人たちに出会ったことで……。

 

あり得る。まったくもって否定出来ない。

 

だって……お金を払ってまで売られたし……。売られたことに関してはショックは無いけどお金を払ってまで売られたことにショックを受けた。お金を払ってまでという時点で相当運が無かったんだなと思う。

 

今ならおみくじを引いて大凶を出す自信がある……。自分で思った、嫌な自信だなと。

 

 

● ● ●

 

 

翌日。

 

学校に行く前にお姉ちゃんと忍さんは帰ってこなかった。なので、少し寂しい朝食となった。

 

バス停に着くとすでにアリサがいた。

 

「おはよう。すずか、蓮」

 

「おはよう、アリサちゃん」

 

「おはよう、アリサ」

 

挨拶を交わした俺たちはバス停の前でバスが来るのを待つ。

 

「それにしてもなのはは今日、遅いわね。寝坊でもしたのかしら?」

 

「う~ん……どうだろう? なのはちゃんの事だから単純に足が遅いだけってことも」

 

「そういう日もあるんじゃない? 信号待ちとかさ」

 

遅いといってもバスが来るまで後、十分くらいあるからそこまで気にする必要はないと思うんだけどな。

 

「そうよね……気にし過ぎかしら?」

 

「あんまり神経質考えるとストレスが溜まるから楽観的に考えた方がいいんじゃない? 仮に遅れたらなら遅れた理由を後で訊けばいいだけだし」

 

「そうだよ、アリサちゃん。蓮君の言う通りポジティブに考えよう」

 

俺とすずかの言葉を聞いてアリサは「そうね」と頷いた。

 

「まあ、遅れたら遅れた理由を問いただすわよ……その時は手伝ってね、すずか、蓮」

 

「……何で俺まで」

 

切実にそう思う。俺は別に聞きたいわけじゃないんだけど……。

 

「付き合いよ……付・き・合・い! いいわね?」

 

どうやら俺に拒否権は無いようだ。アリサが不敵に微笑んでる。何処から来るのだろうか? その自信は……。

 

「もう……アリサちゃんったら」

 

すずかはすずかでしょうがないなぁと笑ってるし、俺もこのノリに慣れるべきなのだろうか?

 

「分かったよ……でも、何か出来るとは思わないでよ」

 

「当たり前よ! 訊くのは私がやるんだから。蓮はなのはの説明で思った事があったらそれについて追及してくれればいいのよ。私だと訊けないようなこともあるかもしれないし」

 

なるほど……。

 

「……つまり俺は空気を読まない発言を望まれていると」

 

「あからさまに曲解したわよね!」

 

「ううん。アリサちゃん、あれは蓮君の素だから勘違いしたら駄目だよ」

 

「あれって素なの……? 何か初対面の時よりも色々と緩くなってる気がするのは気のせいかしら?」

 

「多分、気のせいじゃないよ。蓮君の叔父さんの事が解決したから気を張る必要が無くなっちゃったんだよ」

 

「そうだとしても……変わり過ぎよ」

 

何か色々と言われている。そんなに変だろうか?

 

でも、前と比べると心に余裕が出来ているからそのせいかもしれない。

 

「ちょっと引き締めた方がいい?」

 

「うーん……私としては蓮君の楽な方でいいと思うよ」

「それは同感ね。ただ……あんまり緩みすぎないでね。気になるから」

 

「分かった」

 

少し気を引き締めよう。

 

最近嬉しいことがあったから色々と緩んでるかもしれない、それに……緩みすぎて致命的な事を見逃したんじゃ後悔することになる。

 

「それからもう一つ」

 

まだ、何かあるのか?

 

「……髪が少しボサついてるから漫画出るような吸血鬼の髪型にそっくりよ」

 

「……そんなに似てる?」

 

確かに髪がボサついてるが漫画のキャラに似てるほどなのか? すずかに訪ねる。

 

「アリサちゃんの言いたいことは分かったけど……長さが足りなくない?」

 

「いいのよ、すずか。そっくりなだけなんだから」

 

細かいことは抜きにしてそっくりなのね……。

 

「俺は漫画とか見てないからどんな感じなのかいまいち分からないんだけど」

 

「そうなの?」

 

アリサが意外そうな表情をする。そんな表情をされてもね……事実なんだし。

 

氷村の家では漫画を読む機会なんて無かったし、こっちに来てからは小説ぐらいしか読んで無かったから漫画は読んだことが無い。

 

ま、読んで無かったことで苦労したことはないから気にしたことは無かったのだが読んでおいた方がいいのだろうか?

 

「読んでいた方がいいの?」

 

「絶対ってわけじゃないけど話題にはなるから話の種にはなるわね」

 

話の種にか……クラスメイトと会話するときは何を話したらいいか分からないからそう言う面では読んでおいた方がいいだろう。

 

「でも、読む漫画も選ばないと話の種にならないから気をつけてね」

 

すずかが補足するように教えてくれた。危なかった危うく適当に読もうとしていたから。確かに皆が知っている作品にしないと話の種にならない。

 

だったらどんな漫画を読んでいるのかクラスメイトたちに確認しなくては……。確認しないことにはどんな漫画を読めばいいのか判断がつかないからな。

 

「分かった。ちゃんとどんなのを読んでいるか訊いておく」

 

「そう、それでいいのよ。クラスの皆だって蓮とは話してみたいと思ってるだろうしね」

 

そのアリサの言葉に疑問を覚えた。何で俺と話したいのだろうか?

 

「何で?」

 

「何でって……あんたねぇ」

 

アリサが呆れたような表情をしながら額を右手で覆う。

 

すずかは何で俺が訊き返したのか、その理由について分かっているのか複雑そうな顔をしている。

 

「アリサちゃん……蓮君にも色々とあるんだよ」

 

その言葉だけで察したのかアリサは一度だけ大きく息を吐く。

 

「は~、なるほどね。理由は分からないけど……何かあるのね?」

 

「うん……詳しいことは私の口からは言えないけど……ね」

 

「……無理に訊こうとは思ってないから安心して」

 

やれやれと言った様子で肩をすくめるアリサ。その動作が意外と様になっている。将来は人の上に立つような仕事をするのだろうか?

 

性格的にもアリサは人の上に立つような立場でもやっていけそうだから案外天職なのかもしれない。

 

少なくとも俺やすずかには出来ないと思う。あくまでも現段階の俺とすずかではという意味であるが。

 

将来の可能性なので現段階で否定する必要も無いだろうしね。

 

実際にどうなっているかなんて未来の俺たちにしか分からないのだから。

 

 

● ● ●

 

 

「それで……何で遅れたのかしら?」

 

結局、なのはは俺たちが乗ったバスが発車してからバス停に着いた。そのため俺たちはバス停に一人残るなのはの姿を見てしまった。

 

学園には遅刻しなかったが結構ギリギリに到着した。そして、現在は四限が終わりお昼の時間になったので屋上に来ているのだ。

 

……ユーノも一緒にである。

 

朝、アリサが宣言した通りなのはに遅れた理由を問いただしている。

 

それに対してなのははどう言おうか迷っているのか視線があちこちさ迷っている。その視線が時折ユーノやすずかに向かっているが誰も救いの手を差し伸べない。

 

「……アリサ、ここは俺に任せて」

 

「出来るの? 蓮」

 

俺はコクリとアリサに頷く。

 

それからユーノを捕まえる。とりあえず、痛くないように丁寧にであるが。

 

「さあ、なのは……素直に話すといい。さもなければ……」

 

「……さもなければ?」

 

「……ユーノが保健所に送られる」

 

「って! 何言ってんのよ、あんた!」

 

スパンとアリサに頭を叩かれる。

 

「アリサ。動物は基本的に学校内に入れるのは禁止されてる」

 

「だけどねぇ! 保健所はないでしょ!」

 

「……冗談だから気にしないで」

 

「あ、あんたねぇ~……」

 

プルプルと怒りを堪えるように震えているアリサを一別してなのはに言う。

 

「頑張れ、魔法少女。後、ユーノを借りてくね」

 

「ふぇ……!?」

 

魔法少女と言う単語に固まるなのはに背を向けて俺は屋上と校舎を繋ぐ扉に手をかける。

 

「あ、すずか。後は頑張ってね」

 

「……蓮君。私に丸投げしないでよ……」

 

「……後でお詫びに何かするからそれで勘弁して」

 

そう言うとすずかははぁ~と溜め息を吐くと仕方がないとばかりに苦笑いを浮かべた。

 

「……約束だよ」

 

「勿論」

 

それから俺は屋上を後にした。

 

 

● ● ●

 

 

「蓮……キミは話を聞かなくてもよかったの?」

 

裏庭に来ると同時にユーノが俺の手のなかでそう言ってきた。

 

「いいんだよ……俺は友達じゃないし」

 

「それは……どういうこと?」

 

「恩人と叔父の被害者とその友人……がすずか、アリサ、なのはだから」

 

すずかは恩人。アリサは叔父の被害者。なのははすずかとアリサの友達。それが彼女らに対する俺の認識。

 

「それを聞いたらなのはたちは怒るよ」

 

「そうかもね……でも、きっと怒っても俺の認識は変わらないよ」

 

「……どうしてだい?」

 

「危ないからだよ」

 

そう……危ないからだ。俺は過去の事で恨まれてるから……。

 

ここで俺に対する何の行動も起きていないのは月村家の影響下にある土地だからだ。

 

「危ないって……」

 

「本当の事だよ、ユーノ。俺が忌み嫌われるだけで済んでいた理由はもう無くなってしまったんだから」

 

「忌み嫌われるって……キミは……」

 

「それは……秘密だよ。聞いていても愉快な話じゃないから」

 

それに……知らない方がいい話で、夜の一族の事を話さないといけない話であるから。そしたらユーノの記憶を奪うか誓いを立ててもらわないといけなくなる。

 

「……分かった。訊かないでおくよ」

 

「ありがとね、ユーノ」

 

本当は訊きたいのだろうけど訊かないでくれるのはありがたい。

 

「それと、この前は悪かったね。無理矢理脅しながら拉致して……言い訳でしかないけど余裕が無かったんだ」

 

「ううん。それは仕方がないよ。ボクはこの世界の人たちからしたらわけの分からない存在だったんだから……それに、厄介事を持ち込んでしまった責任もあるし」

 

シュンと落ち込むユーノ。そんなユーノに俺は言う。

 

「例えそうかもしれなくてもユーノが来てくれたお陰で被害が少なくなっているのは事実だから」

 

「ありがとう。なのはのお父さんにも似たようなことを言われたよ。君が来ていなかったら沢山の被害が出ていただろう。無謀な事だがその無謀な事をしてくれたお陰で助かった人がいるんだってね」

 

その後、お説教されちゃったけどと付け足すユーノ。

 

「無謀だと言うことは否定出来ないからしょうがないと思う」

 

「うん……だよね」

 

「でも、来てくれて助かったのは事実。そこは自信を持っていい」

 

これは本心から思うことだ。


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