吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

16 / 36
第16話

「お帰りなさい」

 

家に着くと玄関の前に忍さんが一人で立っていた。

 

「ただいま、お姉ちゃん」

 

「ただいま、忍さん」

 

俺とすずかは忍さんそう返事を返す。

 

玄関の前に立っていてどうしたんだろうかと思っていると忍さんが口を開いた。

 

「昨日……話してきたことの説明をしようと思ってね。二人とも部屋に荷物を置いたら私の部屋に来てくれない?」

 

「うん。分かったよ、お姉ちゃん」

 

「はい」

 

すずかと俺はそれぞれ忍さんに返事をする。その返事に満足そうに頷くと忍さんは玄関の戸を開けて家に入っていった。その後をすずかと一緒についていく。

 

玄関で靴を脱ぎ、それから洗面所へ向かい手洗いとうがいを済ませてから部屋に鞄を置きにいく。

 

その後、忍さんの部屋に向かう。

 

その途中ですずかと合流する。そこから二人忍さんの部屋に移動した。

 

「お姉ちゃん、入るよ」

 

「失礼します」

 

そう言いながらすずかと俺は忍さんの部屋に入る。

 

中では忍さんとお姉ちゃんがおり、三人分の紅茶が用意されていた。

 

「ノエル……夕食の用意をお願いね」

 

「かしこまりました」

 

忍さんの言葉に頷くとお姉ちゃんは静かに部屋から出ていった。

 

「さ、二人とも座って」

 

忍さんに促されて俺たちは椅子に腰を下ろす。俺たちが座るのを確認すると忍さんが話を始める。

 

「話し合いの結果……なのはちゃんが時空管理局って組織が来るまでジュエルシードを集めることになったわ。時空管理局ってのは魔法文化のある世界が所属していて、日本で言う三権分立してない警察組織みたいなものね」

 

結構大きい組織だな……三権分立してないとか……ものすごい権力を持ってるし。

 

「はぁ……それで、俺たちは?」

 

「そこなのよね……私たちは関わるも関わらないも自由よ。恭也と士郎さんは関わる気満々らしいけど」

 

はぁ……と短く溜め息を吐く忍さん。

 

恋人とその家族が危険な目に会うのを承知でジュエルシードの捜索をするのだから心配なのだろう。

 

「私は……足手まといになっちゃうし……だから、なのはちゃんが日常生活を送れるようにサポートしたいな。きっと大変だから」

 

すずかはそうはっきりと力強く言い切った。

 

「俺は……自分からジュエルシードに直接関わる気は無いですけど……ジュエルシードを探してその場所を知らせるぐらいならしても大丈夫だと思ってます。なのはたちだけだと探すのだけでも大変そうだから」

 

万が一も俺がジュエルシードを発動させるわけにはいかないから。歪んだ状態で願いを叶えられたら……きっとなのはたちじゃ対処出来ない。

 

「そう……分かったわ。ところで蓮君はどうやってジュエルシードを探すのかしら?」

 

「数日おきに小鳥たちを支配下に置いて探します。大半がハズレ情報でもその中に一つでも当たりがあればいいな程度のものですので」

 

毎日やるよりも数日おきにやっていった方が小鳥たちの負担にならない。

 

「本当に蓮君って多彩な能力を持ってるわね……伝承にある吸血鬼の力は全部使えるんじゃないの?」

 

冗談混じりにそう言う忍さん。……意外とその冗談は的を得ている。

 

「若干形は違いますけど使えますよ。一部の能力は今後も滅多なことじゃない限り使いたくないですし」

 

特に洗脳系の上位は使いたくない……。もし、使うとすれば本気で相手に遠慮する必要が無いときだけだ。

 

「本当に多彩ね」

 

「そうだね、お姉ちゃん」

 

苦笑する忍さんに同意するすずか。

 

望んで得た力じゃないから色々複雑なんだけどね。便利だから異能の力は使っているけど……。

 

「それで……夜の一族としては基本的にジュエルシードに干渉するかしないかは個人の裁量で決めろって事でいいんですよね?」

 

「ええ、そうよ。下手に介入して事態を悪化させたらたまったものじゃないし……」

 

「そうだね……」

 

確かにそうだ……。本来なら専門家に任せるべきなのだが、その専門家がいないからこその現状なのである。

 

「とりあえずは……被害が広がらないようにすることを第一に行動する事を心がけてね」

 

「はい」

 

「うん」

 

それから、覚めた紅茶を飲んで忍さんの部屋から退出した。

 

すずかはこれから塾に行くようだ。なので今日の夕食の時間は若干遅くなる。

 

「それじゃ、いってくるね」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

玄関で塾へと向かうすずかを見送る。道中はファリンさんが付き添っていくそうだ。

 

なので……安心出来ない。身の安全と言う意味ではなく、とんでもないドジをするんじゃないかと言う心配ばかり募る。

 

一般人の人に迷惑をかけなければいいのだが……聞くところによると今まで一般人の人に被害は出てないとのことらしいが、それはすなわち一般人出なければドジの被害を受けると言う意味になるのでは……。

 

なのでファリンさんに対して俺は一つの疑惑を抱いている。ドジはわざとなのではないかと……。

 

だって一般人に対してドジを踏まない時点で疑う対象になる。

 

なので、なるべくファリンさんが物を持っているときには近づかないようにしようと思う。

 

ファリンさんには悪いけど……俺だって常に気を張っていたいわけじゃないのだ。

 

 

● ● ●

 

 

すずかを見送った後、俺は部屋に戻り本を読んでいた。

 

そこへ、リリンが窓から部屋の中に入ってきた。窓を開けているので部屋から出るときはそこから出ていくだろう。

 

「……どうしたの?」

 

擦り寄ってきたリリンを撫でながら問うが特に返事もせずにただ撫でられている。

 

癒されるのでそれでも構わないのだが……本が読めない。かまってあげないとリリンは気を引こうとイタズラをするのだ。そこが困りどころだが……それすらも可愛い。子猫なので余計に愛くるしいのだ。

 

読んでいた本を閉じてベッドに寝転がり両手でリリンを撫でる。

 

気持ちよさそうにゴロゴロと唸るリリン。

 

「……なのはたちはジュエルシードの暴走体かもしれないのに会えたかな?」

 

そんな俺の呟きにリリンは「にゃ~」と鳴きながら首を傾げる。

 

「ふふ……リリンには関係の無いことだよ」

 

俺は小さく笑うとリリンの頭を軽く一撫でする。

 

ジュエルシードがパッパと見つかって封印されればいいんだけど……それは望み薄かな。

 

俺はリリンを撫でながらそんなことを考えていた。

 

小さい上に宝石のようであるからその正体を知らないのであればついつい拾ってしまうだろう。

 

俺も何も知らなければ拾っていた可能性もある。

 

今はジュエルシードが危険なものであると知っているので触れようとは思わないが……。

 

まあ、リリンがジュエルシードを拾ってくることなんてほぼ無いか……小鳥たちを支配下に置いて探しても暴走体候補しか見つからなかったんだしね。

 

明日は巨大な魚はジュエルシードの暴走体であったか訊かないとな。

 

 

● ● ●

 

 

翌日。

 

お昼の時間になり屋上で話を聞くことにした。

 

「それでどうだったの?」

 

そう訊くとなのはが微妙な表情を浮かべながら言った。

 

「……当たりではあったけど……地面でビタンビタンと跳ねてたの」

 

あ~、うん……それは微妙な表情になるのも仕方がないと思う。シュール過ぎる光景だ。

 

「……しかも、昨日の晩御飯のおかずになったの」

 

乾いた笑顔でそう言うなのは。その傍ではユーノが遠くを見つめていた。

 

そんななのはとユーノに俺もアリサもすずかも何も言えなかった。下手なことを言うと地雷を踏み抜きそうで怖かったからだ。

 

「ま、まあ……簡単に終わったんだからよかったじゃない」

 

アリサが表情を取り繕いながらなのはにそう言った。

 

それに続くようにすずかも言う。

 

「そ、そうだよ、なのはちゃん。安全に終わったんだからむしろこの事を喜ばないと」

 

続いて俺も畳み掛けるように言う。

 

「そう……安全が一番大事。誰も怪我してないし被害も出てない」

 

「そ、そうだよね! 皆の言う通りなの!」

 

「そうだね……なのは」

 

何とかなのはとユーノが持ち直してくれた。その事に安堵の息を漏らす俺とアリサとすずか。

 

モチベーションが下がったままでジュエルシードを確保出来るならモチベーションが下がったままでもよかったがこちらはその筋の専門家ではないのでモチベーションを下げて失敗されたら困るのだ。

 

そんな思惑でモチベーションを下げないように言った俺と違ってアリサとすずかは純粋に友達として言ったはずだ。俺のそんな思惑には気がついていないだろうけど……気がつかれていたらきっと軽蔑されるなと内心苦笑する。

 

俺にとって大事なのはあくまでも月村家の皆であり、それ以外の人たちはすずかや忍さんにお姉ちゃん、ファリンさんと仲のよい人以外はどうでもよいとまでは言わないが積極的に助けようとは思わないし思えない。

 

お父さんが聞いていたら何て言っただろうか? 怒っただろうか……それとも……悲しんだだろうか。分からないがいい顔はされなかったと思う。

 

それでも……俺はそうとしか思えないのだ。

 

 

● ● ●

 

 

今週末に家でお茶会をする事になった。

 

俺としては全く問題ない。すずかがそれを望み、忍さんたちが許可を出したならそれでいい。

 

「ところで蓮君は仲のいい友達出来た?」

 

ふむ……まず、俺と友達になると危ないので友達は作らないように心がけているので友達はいない。

 

氷村とは無関係になってしまったため俺は俺を忌み嫌っている彼らに狙われる可能性があるからだ。

 

「う~ん……どうだろう? 分かんない」

 

これが無難な答えだろう。いないと断言するよりも分からないと答えた方が勘ぐられないだろうし……。

 

「そっか……蓮君……嘘ついてない?」

 

……勘が鋭い。

 

「……嘘は吐いてないよ」

 

向こうがどう思っているかは分からないから……。俺は別としてね。

 

「……なら、いいけど……」

 

とりあえず誤魔化せはしたようだ。でも、あんまり納得している様子ではないのでボロを出さないよう気をつけなくては……。

 

「……ところでお茶会をするって事になったけどユーノは大丈夫なの? 猫たちからしたら餌になっちゃうんじゃ」

 

ボロを出さないように話題をさりげなく今週末にやるお茶会の事に変える。

 

「……大丈夫なんじゃないかな? 魔法も使えるみたいだし、いざとなったらそれを使って逃げるんじゃないかな?」

 

「でも、俺は魔法を使わずに逃げ回ってる姿しか連想出来ないんだけど……」

 

「確かにそうかも……」

 

すずかも猫から逃げ回ってるユーノの姿を想像したのかクスクスと笑っている。

 

「でしょ。……だから、ユーノは大丈夫なのかなって思ってさ」

 

「食べられはしないだろうけど……遊ばれそうだよね」

 

「それは……ありえるね。ユーノの事だから逃げる以外の抵抗はしなさそうだし」

 

本当にユーノの安全を確保しないといけないんじゃないかと思い始めてきた。

 

「そうだね……本当にそうなったら助けてあげないと」

 

「だね」

 

下手に疲れさせてジュエルシードを発見したときには疲労困憊になっているとかマジで洒落にならない。

 

疲れをとってもらうための催しで疲れさせてしまったら本末転倒だ。そこら辺には注意しないといけない。月村家の皆の安全を確かなものにするためには……。

 

 

● ● ●

 

 

そして、数日が経ち……お茶会の日を迎える。

 

この数日の間にジュエルシードの暴走又は暴走体は発見されずに平和であった。

 

ただ、昨日からリリンの姿を見ていないので何処に行ったのか不安である。

 

怪我をしてないといいのだが……。

 

「さ、蓮君。そこにある卵を割ってボウルのなかに落としておいてください」

 

そんな事を考えていた俺は現在、ファリンさんがクッキーを作るそうなのでそのお手伝いをしている。

 

俺に指示を出しながらもファリンさんはさきに作ってあるクッキー生地の型抜きをしている。意外とドジがなければ腕のいいメイドなのだと感じた。

 

ただ、油断してると卵が飛んできたり、牛乳パックが飛んできたり、しまいには伸ばし棒すら飛んでくるので油断は出来ないのが難点だ。

 

お姉ちゃんはお茶会をする場所の掃除とセッティングをしているためここにいない。

 

そして、すずかはお姉ちゃんたちの代わりに猫たちに餌をあげにいっている。

 

全部で数ヶ所あるそうなので中々に大変だと思う。でも、油断出来ないと言う意味ではファリンさんの近くが一番だと俺は思っている。今現在も油断出来ずに気を張っているからだ。

 

重労働をしているわけじゃないのに異様に疲れる。

 

「ファリンさん……終わりましたよ」

 

「はい、それじゃ次は小麦粉と牛乳を入れて混ぜてください」

 

小麦粉と牛乳に関してはあらかじめファリンさんが分量を計っているので、別々のボウルのなかにあるのを混ぜるだけなのだ。

 

ちなみにさっきの卵はクッキーを焼くときに表面に塗るためのものらしい。

 

詳しい作り方とかは知らないので俺がやるのはファリンさんに指示された作業のみである。ただ、油断出来ないと言う言葉か付くが……。

 




今回でストックが切れたので更新が遅くなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。