吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第24話

俺があちらこちらの街を転々としながら記憶探しの旅を始めてすでに一ヶ月が経過した。

 

その間にあったことはと言えば……。

 

俺のことを知っている人物に遭遇した途端に命を狙われたりしたことだろう。

 

記憶を失う前の俺は相当な恨みを買っていたらしい。本当に何をしたのだろうか?

 

なんとか俺の名前を聞こうと訪ねるも"化物"としか言われずにいるためいまだに名前が分からない。

 

とりあえず、俺の命を狙ってきたは全員返り討ちにした。一応、死者はいないはずだ。限界ギリギリまで血をもらいはしたが……。

 

そんなこともあって俺の記憶探しの旅は難航している。何を切っ掛けにノイズが走るか分からないので手当たり次第色々な場所に行っているが、大抵邪魔が入るので上手く進まない。

 

ただ、一つだけよかったと言えるようなことと言えばノイズが走る毎に少しずつ何かを取り戻している感覚があることだ。

 

最近は表情を作れるようになった。でも、作っているだけなのですぐにバレてしまうほどお粗末なものでしかないが。

 

「いたぞ!」

 

追っ手に見つかったようだ。

 

こっちに向かって駆けてくる追っ手の手から逃れるため闘争を選択する。

 

向かって来る追っ手に向かって俺も駆け出す。

 

自分から近づいてくるのに驚いたのか追っ手はトンカチを投げてきた。

 

それを霧化して避けるとそのまま追っ手を霧の中に閉じ込める。

 

そして、そこに火を入れると……。

 

大きな爆発を起こした。

 

これぐらいじゃ死なないと分かっているので俺はそのまま場所を移動する。

 

大きな音が出たので誰かしら野次馬が現れて少しの間ではあるが時間を稼げるだろう。

 

今のうちに距離を稼いでおかなければ。

 

足早に移動していたら船着き場に到着した。時間帯も夜になっているので何処かで休もうと思った矢先、ちょうど荷物の摘み入れ作業をやっている船があったのでその船のコンテナの中に侵入して休むことにした。

 

しかも、侵入したコンテナの中の積み荷は食品等ではなく家財道具だったので尚更ちょうどよかった。それに……コンテナの中まで追っ手も来ないだろうし、久々にゆっくりと休める。

 

 

● ● ●

 

 

「…………何処だここは?」

 

目が覚めて人の気配が遠ざかってからコンテナの外に出ると真っ昼間であり、尚且つ日本ではなかった。

 

何故、日本ではないと分かったのかと言うと……話している人の言葉が分からなかったからだ。

 

一応、現地の人の顔を見る限り東洋の人なので、アジア圏内だと言うことだけは確実。問題はどうやって日本に戻るかだ。記憶を失う前は日本で生活をしていたらしいから日本に戻りたいのだが……。

 

でも、追っ手がいないことを考えると海外の方が安全なのか?

 

まあ、日本に戻るには日本に向かう船や飛行機を探さなければない。

 

……気長に行くか。時間が立てば色々と思い出すかもしれないし。

 

 

● ● ●

 

 

「……日本に戻れない」

 

船や飛行機を使い国々を転々として一ヶ月が経過したが全く日本に戻れなかった。

 

そして、現在はイギリスにいる。

 

詳しい場所は分からないが……山の近くの自然が豊かな山荘に潜伏中だ。

 

幸い? なことに山荘の持ち主が不在なのと街が近くにあるので血を飲みに行くのにちょうどいい場所なのだ。他にも本が置いてある。

 

魔法についての……。

 

魔法と言う単語を目にしたときノイズが走ったので魔法に関わりがあったのだと思う。

 

しかも、日本語で書かれているのでスラスラと読めた。

 

一応、英語の辞書もあったので何か分からないやつは英語の辞書を使って翻訳しながら山荘の中を散策した。"デュランダル"と呼ばれるデバイスの設計図とか八神はやての調査資料等が見つかった。特に八神はやての調査資料とかストーカーでもしてるんじゃないかと思う限りだ。

 

後、この山荘の主の名前はギル・グレアムと言う名前らしい。デバイスの設計図のところに書いてあった。

 

それよりも……デバイスが何なのか分からないから"デュランダル"の価値がどれくらいなのか全く分からない。

 

量産型なのか、オーダーメイドなのか。

 

まあ、どちらにしても俺が使うことはないだろうからどうでもいい。

 

……ギル・グレアムとやらに暗示を掛けて日本に行くための手配をしてもらうつもりでギル・グレアムが山荘に来るのを待ち構えているわけなのだが……。一向に来る気配がない。そのうち来るだろうしその間に山荘にあるものを読んで待つとするか。

 

八神はやての調査資料。

 

八神はやて:小学三年生。闇の書の侵食により足が不自由なため現在、休校中。

 

家族構成:父母共に故人の独り暮らし。

 

…………小学三年生で独り暮らしか。よく生きていられる。それよりも闇の書の侵食か……闇の書と言う名称からしてろくなものではないな。

 

八月現在の状況:六月に起動した闇の書の守護騎士プログラムの守護騎士と家族のように生活をしている。烈火の将シグナム、鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎士シャマル、盾の守護獣ザフィーラとの仲は良好であり、収集活動はされていない。なお、それぞれが何かしらの役目をにない始めた。

 

烈火の将は剣道場の講師のバイト、鉄槌の騎士は近所の老人たちとゲートボール、湖の騎士ははやての補助、盾の守護獣も泉の騎士と同じ役割を担っている。

 

なお、八神はやてに友人が出来た模様。名を月村すずかと言う。月村家次女である。

 

…………月村すずか。

 

何故だろう? とても懐かしく感じるのは……。俺は月村すずかを知っているのか?

 

それにしても、ゲートボールは役目なのか? 単なる近所付き合いでしかないように思えるのだが……。

 

やっぱり、この山荘の主であるギル・グレアムは叔父と同じように酷い人間か……。

 

ん? 叔父? 叔父って誰だ? 何故、ギル・グレアムと叔父が同じように酷い人間……ッ!

 

頭の中にノイズが走る。

 

一人の男が戦闘用の自動人形の背後で金を請求している。それを断る女性。

 

だけど、そこでノイズが止まってしまった。

 

叔父は……強盗だったのか? だとしたら今叔父は刑務所の中……。

 

だから、追っ手が……いや、でも……それだったら俺を狙ってくるとは考えづらい。となるとやっぱり、俺個人に対する恨みとなる。

 

部分部分で中途半端に思い出すから正解が分からない。何があっていて何が間違っているのか。

 

 

〇 〇 〇

 

 

「……お姉ちゃん、どう?」

 

「……駄目ね。全く足取りが掴めないわ」

 

はあ~、と肩を落とす忍。

 

蓮らしき人が最後に目撃されてから一ヶ月近くが経過したからだ。

 

「……蓮君、大丈夫かな?」

 

「そうね」

 

全く足取りが掴めないため何とも言えない。

 

「……私たちは蓮君の居場所にはならなかったのかな」

 

ポツリと小さく消え入りそうな声ですずかがそう呟いた。

 

「そうだったら、とっくの昔に出てったと思うわよ。多分……記憶喪失か戻れない理由があるんじゃないかしら」

 

「戻れない理由……」

 

すずかは蓮が戻って来ない理由について考える。

 

家の誰かが嫌いになったわけじゃない。誰かが出ていけと言ったわけでもない。なら、記憶喪失かと思ったがどれも推測の域を出ないので、これが正しいとは言えない。

 

何故、蓮が家に戻って来ないのかその理由を考える、すずかの足元に手足の白い黒猫である、リリンがやって来た。

 

「どうしたの?」

 

そう言いながらすずかはリリンを抱き上げて顔を覗き込む。

 

「にゃ~」

 

と、リリンは一鳴きする。

 

「……そう、ありがとね」

 

気にするなと言わんばかりににゃんと一鳴きするとリリンはすずかの手から身動ぎ一つで床に降りると部屋から出ていった。

 

「すすか……リリンの言ってること分かるの?」

 

ちょっと驚いた様子でそう訊ねてくる忍にすすかは少しだけ笑みを浮かべながら答える。

 

「分かるってよりも……何となく何を伝えたいのか分かる感じかな」

 

「そ、そうなの」

 

意外なすずかの能力に忍は冷や汗を流す。何故なら……この家にはたくさんの猫がいる。すなわち、すずかは知ろうと思えば色々と忍の隠している物の在りかを知ることが出来ると言うことだ。

 

「どうしたの?」

 

「な、何でもないわ」

 

純粋に心配してくれているであろうすずかの心遣いが忍の心には痛かったのである。

 

そんなことを知るよしもないすずかは一人首を傾げるのであった。

 

 

● ● ●

 

 

ストーカー(ギル・グレアム)の山荘に滞在してからすでに数日が経った。

 

その間にいかばかの記憶が戻ってきたが名前はまだ思い出せない。

 

でも、好物は思い出せた。ブルーベリーだ。

 

ブルーベリーが好きになった理由はお父さんがブルーベリー好きだったのが一番の理由だった気がする。

 

後、デュランダルと言うデバイスの設計図を間違えて燃やしてしまったが……大丈夫だろう。

 

大抵、写しの設計図があるはずだし、問題ないはずだ……きっと。

 

ストーカーの証拠である、八神はやての調査資料は燃えないように離れた場所に保管してあるので間違って燃やすことはないだろう。

 

一応、写真で八神はやてを確認したが動物で言うと狸みたいだった。

 

それに、図太そうでもあった。将来は立派な狸になれると思う。

 

見た感じ薄幸ではなさそうだし、意外と胆が据わってそうな雰囲気だった。

 

小学三年生で独り暮らしをしているとこうなるのだろうか?

 

前例はまずないと言えるから八神はやてが特別なのだろう。

 

その八神はやてを調査しているギル・グレアムは誘拐でも企んでいるのか?

 

家族構成とか調べてあるし、これでもし、異性として見ているのであれば……完全にアウトだと言える。

 

ギル・グレアムの年齢が分からないから何とも言えないが少なくとも大人であることは確か。犯罪者予備軍と呼ばれる存在なのだろうか?

 

だとしたら……俺も対象になるのでは……。いや、八神はやてをピンポイントで調査しているから俺の方に穂先が向いてくることはないだろう。……多分。

 

まあ、それは置いといていいだろう。

 

もし、本当にアブノーマルな趣味だったらどうしようかとも思うが人気がないので支配下に置けばいいかと納得する。

 

独り暮らしの小学三年生である、八神はやてを調査しているストーカーなのだから遠慮する必要はないだろう。

 

誰かが言っていた気がする"変態死すべし"と。

 

名前からして八神はやてとは何の関係もなさそうなのだから変態であることは確定と見ていいはずだ。

 

「……本も燃やすべきか?」

 

魔法関係の本も燃やすべきか迷う。

 

でも、これがもし数少ない希少な本であった場合のことを考えると燃やすべきではないと思う。どうするべきだろうか。

 

…………………………。

 

……………………。

 

…………うん。とっておくか。

 

熟考とは言えないがもしかしたらの可能性のことを考えて残すことにした。

 

すでに、デュランダルの設計図が燃えてしまったそれはしょうがない。諦めてもらうとしよう。

 

過ぎてしまったことだからしょうがない。

 

さて、血を飲みに街へと行くか。

 

 

● ● ●

 

 

血を飲んで街から山荘に戻ってくる頃には夜になっていた。

 

「……明かり? もしや……」

 

明かりが点いている。それはすなわち誰かが山荘にいると言うことだ。

 

俺はゆっくりと足音を立てないように山荘に近づいて、窓からそっと中を覗く。

 

するとそこには……。

 

「何処にいった……」

 

ガサガサとテーブルなどを散らかしながら必死に何かを探している体格のよい男性がいた。

 

彼が……ギル・グレアムなのだろうか?

 

まだ、本人と分かったわけではないが、山荘の中の物の位置を把握している辺り彼がギル・グレアムであることは間違いないだろう。

 

「何故だ!? 何故見つからない?」

 

何を焦って探しているのだ?

 

「くっ……ようやく開発に必要な物が揃ったと言うのに」

 

開発に必要な物…………。

 

……まだ、そうと決まったわけではない。

 

「何処にいったんだ……デュランダルの設計図は」

 

ビンゴ……俺が燃やした設計図だった。

 

さて、どうやって説明したものか……。

 

どうやってデュランダルの設計図を燃やしてしまったことを伝えるか悩んでいると鋭く尖った声が聞こえてきた。

 

「誰だ!? 出てこい!」

 

険しい表情をしたギル・グレアムの手にはいつの間にか機械的な杖が握られていた。

 

その杖の先端には青白い光が集まっている。

 

「出てこなければ撃つ……」

 

脅しではなく本気だろう。声からしてそう感じた。

 

撃たれても全く問題はないが。日本に行けるように手はずを整えてもらうためには直接会う必要があるか……。

 

なので俺はギル・グレアムの前にゆっくりと出る。

 

「子ども……だと!?」

 

何故か驚かれた。

 

何故だ?

 

もしかして、子どもではなく大人もしくは泥棒の類いだと思っていたのだろうか?

 

泥棒だと言われたらそれはそれで否定出来ない。

 

 


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