吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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25話

あの後、ちょっとした話し合いをした結果。

 

ギル・グレアムはストーカーではなく八神はやての後見人であると言うことを教えてもらった。

 

独り暮らしの小学三年生の生活を調査している変態呼ばわりされたことが存外、心にきたらしい。

 

それでも俺の中では変態なんじゃないかという疑念は払拭出来ていないが。

 

後見人と言ってもお金を渡してるだけこれでもし、付き合うようにってことだったら完全な犯罪者だったのに。

 

「キミのことは何と呼べばいいかな?」

 

ゆったりと紅茶を飲みながらギルが訊いてくる。

 

デュランダルの設計図のことは今は保留だ。俺の方が気になるらしい。

 

「記憶を失う前の俺のことを知っているらしい人たちはみんな化物って呼ぶ。極たまにドラクルかな」

 

「ふむ、ドラクルか……」

 

竜公と悪魔公の二つの意味を持つ言葉。どう考えたって俺に向けられた意味は悪魔公の方だろう。

 

自然とその方がしっくりとする。記憶を失う以前はよくそう言われていたのだと思う。でなければ意外としっくりとするはずがない。

 

「まあ、それは置いといてだ。日本に戻りたいから移動するための手はずを整えて欲しいんだ」

 

「そんなことすると思うのかね」

 

「いや、全く」

 

即答すると、肩の力が抜けたのかガクッとするギル。

 

「普通そこで受け入れたら単なる馬鹿もしくはアホでしょ」

 

「……確かにそうなのだが」

 

「俺は記憶を取り戻すために日本に戻りたい。ただ、それだけ」

 

「そう言われてもね」

 

困ったように思案顔で何やら考え事をしているギル。

 

何を考えていることやら。

 

「…………だったら、私のやることを手伝ってくれるならキミを日本に送ろう」

 

「……何が目的?」

 

「いや、何もそんなに怪しいことではない。まず、日本にキミを送る時期は私の方に任せてもらいたい。それは構わないかね?」

 

「うん」

 

日本に行けるのであれば何の問題もない。

 

「すでに、気がついているはずだが私は魔法が使える、魔導師と呼ばれる存在だ。そこでだキミに魔法を覚えてもらう」

 

「何故?」

 

「私の目的のためだ。ただでさえ予想外のアクシデントがあったのだから、それに対する備えをしておきたい」

 

予想外のアクシデントは多分、俺がデュランダルの設計図を燃やしてしまったことだろう。

 

「魔法って魔力が必要なんじゃないの?」

 

「ああ、そうだ。キミにはリンカーコアと呼ばれる魔法を使うために必要な機関がある。少なくとも魔力量はAランクはあるだろう」

 

「ふーん」

 

特に魔法に興味はないので聞き流す。

 

「おや? 反応が薄いようだがAランク以上の魔力を保有している魔導師は私が所属している時空管理局全体でも五%ぐらいしかいないのだが……」

 

「そう言われても特に興味がないので」

 

「そうか。……まあ、それでも魔法を覚えてもらうつもりだ」

 

「そうですか」

 

こうして、俺が魔法を覚えることが決まった。

 

 

〇 〇 〇

 

 

「……思わぬ拾い物をした」

 

グレアムはそう小さく漏らした。

 

デュランダルの設計図が無くなると言うアクシデントを帳消しにするとまではいかないがと心の中で付け加える。

 

その視線の先には杖型のストレージデバイスを持った記憶喪失の少年がいる。名前はない。

 

正確には自分の名前すら忘れている。

 

「…………」

 

グレアムは魔法の練習をする少年を見つめる。

 

一通りの魔法を使わせて適正を確かめたところ、身体強化系及び直射型、収束系の適正が異様に高くすべての魔法にバリアブレイクが付加されていた。さらに、バリアジャケットすらも無効化してダメージを与えられると言う予想だにしなかった力を持っていた。

 

この事はグレアムを驚かせたが、同時に嬉しい誤算でもあった。それは、守護騎士と相対しても技術さえあればそう後れをとらないからだ。

 

弱い魔法ですら脅威の一撃となる力を持つ少年は確実に初見殺しである。バリアジャケットで完全に防げるため避ける必要のない魔法でさえダメージを受けるのだから

。よっぽど勘が良いか、知られなければ確実にダメージを期待出来る。

 

自らの目的のために全く関係無い子を使うことに良心の呵責を感じるがそれを振り払いグレアムは今からやるべきことを行う。

 

デュランダルの設計図をもう一度作成するのと娘たちの手駒として日本に送り込む予定の子に訓練をつけることだ。

 

「……クライド。……キミは今の私を見ていたら何と言うんだろうな……」

 

ふと、一瞬だけ寂しそうに小さく笑うとグレアムは娘たちに連絡をとるのだった。

 

 

● ● ●

 

 

ボンッ!

 

「…………」

 

ギルに渡され俺が使っているストレージデバイスと呼ばれる情報処理速度が速いデバイスからプスプスと黒い煙が上がっている。

 

…………壊れたか。

 

意外と脆いな。

 

プスプスと黒い煙を上げるデバイスを見て最初に思ったことがそれだ。

 

「何事だね…………」

 

ギルが黒い煙が上がっているデバイスを見つめて固まった。

 

「壊れた」

 

そう簡潔に言うとギルは頭を押さえる動作をした。

 

「何で壊れるんだ? このデバイスはそれなりに頑丈なはずなんだが……」

 

多少乱暴に扱っても壊れないように特注したデバイスなのだがとギルは呟いた。

 

試しにデバイスに対して、分子運動をコントロールする力を使ったら壊れたのだ。反省はしてない、実験に犠牲はつきものだ。このデバイスは尊い犠牲となったのだから……。

 

「……仕方がない。次は壊さないでくれよ」

 

溜め息を吐きながらギルが新しいデバイスを渡してくる。

 

それを受け取り、起動させる。そうすると先程の杖よりも多少鋭角なフォルムの杖になった。

 

「……こっちの方が頑丈そう」

 

「その分……かかっているがね」

 

金か……。

 

「……壊さないでくれよ?」

 

「……分かった。善処はする」

 

迂闊なことは出来ないか……。

 

デバイスを使うよりも普通に能力を使っていた方が遥かに楽なのだが……ギルに俺の持つ能力を教える必要は感じないので教えておらず、ギルに渡されたデバイスを使っているのだ。

 

多少は面倒ではあるが手札は出来るだけ隠しておくことに越したことは無いし、何よりも詳しく説明するのが面倒だ。長い付き合いになるのなら話は別だが……。

 

山荘の中へと戻っていくギルの背をギルが山荘の中へと入っていったのを確認してから俺は杖に魔力を流し込む。

 

そして、俺を中心に半円形に数メートルほどの結界を張る。

 

こうやって、サーチャーと呼ばれる監視機器から姿を隠さないと血を飲めに行けなくなってしまったのが残念だがしょうがない。

 

面倒ではあるが持っている手札を隠しておくためにはしょうがない事だと諦める。

 

仕方がない。これも血を飲むためなのだ。

 

いくら面倒だと思ってもこればかりはしょうがない。

 

ギルが何らかの方法で監視をしているかもしれないが……実際に監視されているのかは不明なのでどうしようもないのが現実だ。

 

まあ、血を飲んでいるところを見られたところで姿をくらませればいい。ギルと俺はお互いに利用している関係なのだから。これと言ってお互いの目的が反目しあうことがない限り敵対することはほぼ無いだろうし。

 

なるようになるだろう。

 

ギルは見てみぬふりをして俺を使おうとするだろうし、その過程で日本に行けるのだから俺としてはどうぞ使ってくださいな状態だ。

 

「……早く、日本に送ってくれないかな」

 

俺はそう呟きながら街へ向かった。

 

 

● ● ●

 

 

「…………相変わらず何を話しているのか分からない」

 

街へ来て住民たちの声を聞くが何を言っているのか全く分からない。

 

仕草などで分かるのもあるがそれは、ごく少数でありそれ以外はからっきしだ。

 

それなりに時間が経っているのに何を言っているのか分からないのは何故だろうか?

 

やっぱり……特に覚える必要性を感じていないからなのか……それぐらいしか理由が分からない。

 

まあ、いいや。街に来た目的は血を飲むためだし、さっさと誰から血を吸うか見繕おう。

 

思考を切り替えて誰から血を吸うか考える。

 

基本は不意をついて相手を気絶させてから吸血を行うので相手が一人であることが条件だ。

 

これは外せない。

 

後は健康そうであるところかな。

 

痩せすぎても駄目だし太り過ぎても駄目。血の味が悪いから積極的に飲みたくはない。

 

「……誰にしようかな」

 

公園のベンチに座り、過ぎ行く人々を眺める。

 

単独で行動している人がほとんどおらず、大半が三人組で移動している。友人同士であったり家族同士であったり……。

 

「………………」

 

記憶が完全に戻ったら……あんな風に一緒に過ごしていた時があるのか分かるんだろうな。

 

でも、そんな記憶が無いようなするんだよね。……見ていて懐かしさとか感じなかったし。

 

ああ……本当だったらこのことに対して悲しみを覚えるんだろうけど、全く悲しくない。むしろ、何も感じない。

 

いいや、さっさと血を飲んで街から出よう。何が記憶を取り戻す鍵になるか分からないけど、この場で思い出して、その時の頭痛で動きが鈍るのは嫌だし。

 

それに……ちょうどよく、血の美味しそうな健康そうな人がいたしね。

 

俺はその人物の後をつけるためにベンチから降りてその人物の後をつけたのだった。

 

 

● ● ●

 

 

「…………ケプッ。……思ったよりは美味しかった」

 

恍惚とした様子で地面に座り込みぼんやりと宙に視線をさまよわせる男性を見ながら血のついた口元を拭う。

 

途中で喘ぎ声を出し始めたときは嫌悪感が生まれたが……しょうがないと諦めてそのまま血を飲んだ。

 

吸血されている側は一種の性的快楽を味わうからだ。そうやって吸血時に生じる痛みなどを感じないようにしているのである。

 

記憶が戻ってくる毎に少しずつ分かることが増えているが……大事な部分は思い出せずにおり、思い出している部分もまちまちなので、思い出した知識も完全には信用できない。

 

ザッ、ザッ……と近づいてくる足音が聞こえてきたので急いでその場を離れる。

 

記憶に関してはいつものように処置をしているので問題はないが……発見者次第では吸血行為が難しくなる可能性もある。だが、難しくなるだけなので何の問題もない。

 

とりあえず、ギルのところに戻るか。

 

吸血しているところをサーチャーで見られていた可能性もあるし、その事で何かしら訊かれるかもしれない。

 

聞かれない限り答えることはないが……。

 

「……………………」

 

ん~、つけられてるかな?

 

詳しい位置は分からないけど視線を感じる。

 

何処からだ? 視線を上下左右に向けて何者かを探すが一匹の猫しか見つからない。

 

…………猫?

 

………………あり得ないと思うが俺自身が他の生物に変身できるので同じように変身能力を持っている存在がいる可能性は大いにある。

 

少し試してみるか。

 

俺はちょうどあった曲がり角を曲がって猫の視界から外れるとすぐに鳩に変身した。

 

そして、少し高い位置にある窓枠に移動して猫が来るかを確かめる。

 

さて、猫は来るか……来たならばあの猫は何者かが変身した姿であると仮定する。その後、本当に猫ではないかを確かめるために一度襲撃を仕掛けるつもりだ。

 

……来た! 猫が曲がり角を曲がって来ると同時にキョロキョロと何かを探すように視界をあちこちに動かしている。

 

ビンゴ……。

 

これは猫に変身した何者かで確定だ。襲撃を仕掛ける必要すらない。

 

でも、何者かの正体を暴いておこうと思った。

 

鳩の姿のまま猫の背後まで飛び、そこで人型に姿を戻す。

 

そして、猫の襟首を掴み上げる。

 

「にゃっ!?」

 

驚いたように声を上げると猫は自由を求めて足をバタつかせる。

 

「フカァーッ!」

 

暴れても自由にならないとなると猫は毛を逆立てて睨んできた。

 

俺は()()()()を浮かべるとデバイスを起動させて猫にデバイスの先端を押しつける。

 

そうすると猫はビクッとしたのちに動きを止めた。

 

「…………ブレイクインパル――」

 

猫に対して魔法を使おうとした瞬間にガッとデバイスが蹴り飛ばされた。

 

デバイスを蹴り飛ばされるまで気がつかなかったことに少し驚いた。いつの間にこの距離まで接近されたのだろう?

 

仮面を着けているから分からないが多分この襟首を掴んでいる猫と同族もしくは仲間なのだろうでなければ助けようとしないだろうし。

 

「……っと」

 

仮面を着けた人物の手のひらがこっちに向けられ白い剣のようなモノが飛ばされてきたのでそれを背をのけぞらせることで回避する。そのついでに右足で蹴り上げるが避けられてしまう。

 

まあ、当たるとは思ってないので避けられたことに対して思うことはない。仮面を着けた人物が釣れたのでよしとする。

 

さて、どうやって口を割らせるか……。

 




遅くなりました。面倒事を後回しにしていたツケが回ってきたのが原因です。

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