吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第29話

翌日。

 

早速俺はヴィータに付いていくことにした。

 

その際に明らかにヴィータは嫌そうな顔をしたがはやてが「そんな顔したらアカンで」と注意した途端に嫌そうな顔から仏頂面に変えた。はやての言うことならすぐに従うらしい。

 

多分ではあるがヴォルケンリッターの中で一番はやてに近しいのは背丈からしてヴィータだろう。

 

はやてがもう少し大きければシグナムかシャマルであったと思う。

 

性格のことも考えると……はやてからしたらヴィータは妹のような存在だろう。シグナムは出来る方の姉で、シャマルはドジな方の姉、ザフィーラは……番犬? ポジションか。

 

ん? 出来る方の姉とドジな方の姉……。そのことに既視感を覚えた。

 

俺は……似たようなのを知っている?

 

「……………………」

 

思い出せそうで思い出せない。

 

なので、一旦保留にした。ふとしたタイミングで思い出すかもしれないからだ。

 

「おい、行くぞ! 来ないなら置いていくからな!」

 

ヴィータはそう言うと早歩きで行ってしまった。

 

その小さな後ろ姿を見失わないように歩き出す。

 

「……楽しそうだね」

 

ヴィータのあとに追いつきがてらそう声をかける。

 

「当たり前だろ! じーちゃんやばーちゃんとやるのは楽しいからな」

 

「……そっか」

 

声が弾んでいることから本当に楽しみにしているのが分かる。

 

「大会でも目指してるの?」

 

「いや、趣味だぜ。大会に出るよりも気楽に皆でワイワイやりたい人で集まってるからな」

 

「へぇ~」

 

そんなことを話しているうちに中々に広い公園に到着した。

 

俺はすぐさまベンチに座り、ヴィータはそのまま公園にいるお爺ちゃんお婆ちゃんたちのところに向かっていく。

 

「にゃ~」

 

「ん?」

 

突然猫の鳴き声が足元から聞こえてきたので見てみると……()()()()()のみが白い黒猫が俺のことを見上げていた。

 

何故かその猫を見ていると……何かを思い出しそうになる。

 

猫はもう一度一鳴きするとピョン! と俺の膝の上に飛び乗り伏せた。

 

そして、マーキングするかのようにその体を擦り付けてくる。

 

「……どうしたんだ? ()()()……え?」

 

リリン? この猫の名前……?

 

っ!? ……ノイズが走る。

 

廃ビルの中に誰かに抱き抱えられた状態で現れる瞬間やどっかの屋敷の中でこの猫と同じように手足の部分だけが白い黒猫の子猫が俺の膝の上に乗っている場面が頭の中に流れる。

 

……ああ、思い出した。この子はリリンだ……俺になつてくれた最初の猫だ。

 

他にも色々と思い出してきた。

 

「……ありがとう。見つけてくれて……やっと思い出すことが出来た」

 

名前と感情を……あとは人だけだ。

 

リリンの背中を撫でる。今までいなくなっていて撫でれなかった分と記憶が戻ってきたお礼の気持ちを込めて優しく撫でる。

 

俺は……少しの間だけだったけど確かに愛されてはいた。そして……憎まれてもいた。

 

今なら分かる……何で追われたのか、何で化け物と呼ばれたのか。

 

でも、もう少しですべてを思い出せる。記憶の中に霞みがかっている部分……そう、俺の名を呼ぶ人の顔と名前……そして、家について。

 

「にゃ~」

 

気持ち良さそうに鳴くリリンの声を聞きながら目を閉じる。

 

久々に穏やかな気持ちになった。

 

今まで色褪せていた世界に感情と言う色が付いたからだと思う。

 

今日は……いい日だ。

 

 

● ● ●

 

 

「…………どうしたんだ? 笑ってるぞ……もしかして、記憶が戻ったのか?」

 

リリンを撫でるのに夢中になっていたらいつの間にかヴィータが近くにいてちょっと驚いたような様子で気を使うように小さな声でそう言ってきた。

 

声が小さいのは近くにいるお爺ちゃんお婆ちゃんに余計な気を使わせないようにするためだろう。

 

「うん。全部じゃないけどね。粗方は戻ったと言ってもいいぐらいにはね……」

 

「なら、全員がいるときに話せよな」

 

「分かってるよ。元々、言うつもりだったからね」

 

「なら、いいけど……ちゃんと話せよな」

 

まるで話さないような言いぶりだ。やはり信用されてはないようだ。

 

そのことに苦笑が漏れる。

 

「何笑ってんだよ……気味悪いな」

 

「気味悪いはさすがに酷いと思うんだけど」

 

本当に苦笑しか出来ない。

 

「ふん! それで名前は何て言うんだ?」

 

「蓮って呼んで」

 

「……蓮だな」

 

「うん」

 

確認するように訊き返されたので頷く。

 

「じゃあ、休憩が終わりみたいだから行くぜ」

 

「頑張ってね」

 

「おう!」

 

グッと握りこぶしを握ってニヤリと得意気に笑ってヴィータが答える。

 

自信満々のようだ。

 

確かに……数ヶ月も続けてるはずだからそれなりに自信がついているのだろう。

 

ゴロゴロと唸るリリンを喉元を指先で擽るように撫でる。

 

最後に触った時と変わらず毛並みはいい。ちゃんとお手入れはされているようで安心した。

 

「……ふふ」

 

自然と笑い声が漏れてくる。

 

今感じているポカポカとした陽光を浴びている時のような気持ちにしてくれる、リリンの存在が愛しくてたまらない。

 

やがて満足したのか「なぁ~」と鳴くとリリンは俺の膝の上から飛び降りて別の場所に向かって歩き出した。

 

「またね、リリン」

 

俺は去っていくリリンにそう声をかける。

 

次会うときには玩具か何かを用意しておかなきゃな。

 

次会えるときを楽しみにしながら俺は去っていくリリンから視線を外すのだった。

 

 

● ● ●

 

 

「と言うわけで改めてよろしく」

 

ヴィータがゲートボールを終えて、一緒に家まで戻ってくると他のヴォルケンリッターの面々とはやてが戻ってくるのを待ち、戻ってきたところである程度記憶が戻ったのと自分の名前を告げた。

 

まあ、特筆すべきことはなかった。

 

あるとすれば……。

 

「なあなあ! 本当にニンニクは平気なん?」

 

吸血鬼だと知られたことぐらいか。

 

原因はザフィーラ。あまりにも血の臭いが濃いので危険ではないかと疑われていたのだ。

 

そして、記憶が戻ったのを境に訊かれたわけだ「何故、血の臭いが濃いのだ?」と。

 

でも、吸血鬼であると言うことを教えると同時に違和感がない程度に暗示をかけておいたのではやてたちが俺が吸血鬼であると言うことを俺が吸血鬼であると知っている人たちしかいない場所でしか話せないようになっている。

 

お互いの目を見ながら話したので簡単に暗示をかけることが出来た。

 

「平気だよ。そもそも伝承にある吸血鬼の弱点のほとんどはその吸血鬼特有の弱点だと考えた方がいいよ」

 

「そうなんか?」

 

「うん。ニンニクの臭いで逃げ出すのは鼻がいいからだし、杭を心臓に打ち込まれて死ぬのは杭が心臓に打ち込まれたままで再生が出来ないからだし」

 

「せやと……弱点なんてあんまないんやな」

 

個人レベルの弱点なら色々とあるんだけどね。

 

「まあ、腕を千切られても千切られた腕をその部分にくっ付ければ個人差はあるけど治るしね」

 

「……ゴキ以上の生命力やね」

 

「一緒にしないで欲しいんだけど」

 

ゴキはないだろゴキは……。

 

頭を取られても2週間は生きていけるなんて生命力はさすがに持ってないし。

 

「そもそも、再生能力が高いだけだからね」

 

吸血鬼の血が濃ければ濃いほど吸血鬼としての能力は強くなっていくから……。

 

「ふーん……他にはどんなことが出来るん?」

 

「伝承通りのことと他にも色々と出来るよ」

 

……人によって得意不得意はあるけど、最低でも魔眼は全員が使える。

 

「へ~、そうなんか」

 

感心したように頷くはやて。

 

そのはやての袖をヴィータが軽く引っ張った。

 

「なあ、はやて……蓮が吸血鬼ってことは昨日飲んでたあれって……」

 

「そうやないんか? で、どうなん」

 

「普通に血だけど……ちなみに好みの血液型はO型」

 

「そこまでは訊いてないで」

 

「いやいや、ついね。久々に会話が楽しくて」

 

何も感じない会話は楽しくも辛くもないただの言葉の羅列にしか過ぎなかったから。

 

それから好物の話とかで雑談をしつつ過ごした。

 

 

● ● ●

 

 

「あ……もうこないな時間か」

 

時計を見てはやてがそう言った。このあと何か予定があるのだろうか?

 

「何かあるの?」

 

「今日、定期検査の日やねん」

 

「そうなんだ」

 

「せやよ。だからそろそろ行かないと」

 

定期検査か……。

 

ちょうどはやてにはあまり聞かせたくない話があるからちょうどいいかな。

 

「何時ぐらいに帰ってくる?」

 

「そやなぁ……いつもと同じくらいやと……夕食に使う食材の買い物もするから、六時くらいやな」

 

それくらいなら、はやてが帰ってくる前に話が終わるから何の問題もない。

 

「そっか……気を付けてね」

 

「うん。ほな、行こかシャマル」

 

「ええ、シグナムあとはお願いね」

 

「ああ」

 

「じゃあ、行ってくるで」

 

そう言うとはやてはシャマルと一緒に定期検査に出かけていった。

 

ガチャリと鍵の閉まる音がしてから俺は口を開く。

 

「さてと……ちょっといいかな?」

 

「ああ」

 

俺の雰囲気が変わったのを理解したのかシグナム、ヴィータ、ザフィーラの雰囲気ががらりと変わった。

 

「真面目な話をするけど……闇の書の収集はやってる?」

 

「何故それを?」

 

「それは、あとから答えるから先に教えて欲しいんだ」

 

「それならはやてに止められてるからやってねーぜ」

 

そうか、やってないか。

 

「それがどうしたのだ?」

 

「注意しておいて欲しいことがあってね」

 

「注意だと?」

 

「どういうことだ?」

 

俺は一白おいてから話す。

 

「ギルは……君たちが闇の書の完成に向けて動くと確信している」

 

「なんだと!?」

 

「はぁ!? どういうことだ? 何でそんなことが分かんだよ!」

 

「落ち着けヴィータ。蓮の話はまだ終わっていない」

 

「だってさ……ギルって時空管理局の人間なんだよ」

 

ギルの山荘にあった資料の中にちゃんと時空管理局提督 ギル・グレアムって記載されたのがあったから。

 

「何っ!?」

 

「はぁ!?」

 

「…………」

 

驚くシグナムとヴィータを他所にザフィーラは沈黙を保っている。

 

「夏にはもうヴォルケンリッターがはやてと一緒に暮らしているのを知ってたんだよ。それなのに監視するだけで何のアクションも起こさなかった」

 

ギルは何を企んでいるのか……復讐かはたまた別の何かなのか。検討もつかない。

 

「……何故、そのことを我々に教える?」

 

ザフィーラが低い声で訊ねてきた。

 

「何故かってそれは……ちょっとした意趣返しだよ。感情が戻ってきたらギルとの生活の記憶で苛ついてさ」

 

「そんな理由かよ!?」

 

「当たり前じゃん! だってさ、ぐっすり眠ってるところに突然砲撃魔法やってくるしさ」

 

うん……思い出すだけ苛立ってきた。

 

眠ってあるところを砲撃魔法で外にぶっ飛ばされて地面を転がったり、魔力が回復した途端に訓練と言う名の虐めのようなことを始めてきたり……。

 

「……あ~、苛ついてるのは分かったから落ち着け」

 

「……ごめん」

 

そうだった……今は苛ついてる時ではない。

 

「話を脱線させちゃったけど……ギルが闇の書の完成を望んでるのは確かだから気をつけて欲しい」

 

「分かった。注意しておこう」

 

「はやてには指一本触れさせねぇ」

 

「主の周りは常に見張っていよう」

 

これでいいかな。俺の意趣返しは……。もし、ギルがここに来たときは苦労するといい。

 

「とりあえず、話はこれぐらいかな」

 

ヴォルケンリッターの面々が俺の言ったことを信じようが信じまいがギルが警戒されるのはこれで確定だ。

 

あ、デバイスのことを忘れてた。

 

「あ、そうそう。デバイスのことなんだけど、今持ってる?」

 

「ああ、持っているが」

 

「ちょっといい」

 

「…………まあ、いいだろう」

 

ちょっと考える仕草をしたのちシグナムが俺がギルから渡されたデバイスを取り出してテーブルの上に置いた。

 

「ありがと……えいっ!」

 

テーブルに置かれたデバイスを手に取ると力を入れてバキッとデバイスを壊す。

 

とてもいい気分だ。ギルの資産を減らしたと思うと清々しくなる。

 

「……こいつ、デバイスを壊しやがったぞ」

 

「あ、ああ……」

 

「……それだけ苛立っていたのだろう」

 

スッキリした。ギルが壊さないでくれと言ってたのを壊したので苛立ちが沈静化してきた。

 

「……ふぅ」

 

「……やりきった顔をしてやがる」

 

「そう言ってやるな……ストレスが溜まっていたのだろう」

 

何も言わないザフィーラ。やっぱり、ザフィーラは寡黙だ。変に喋るよりも安心感がある。

 

それはさておき。

 

ギルは闇の書のことを何処まで知っているのだろうか? 何も起こらないといいんだけど……。

 

ふと沸き上がる漠然とした不安が目の前で形になるまでそう時間が掛からないのをまだ知らなかった。

 


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