吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第3話

ちょっとしたハプニング? にも見舞われたがすずかと忍さんが食堂に来る頃には夕食の準備が終わって後は全員で食べるだけとなった。

 

「あ、血をもらってもいいですか? 出来ればO型の血でお願いします」

 

「いいけど……何でO型なの?」

 

「……クセが無いので好みなんです」

 

特殊な血液型以外の全部の血液型に輸血出来るのが関係しているのか分からないがO型の血はまったくクセが無いのだ。

 

「変わった好みね」

 

「半吸血鬼なもので」

 

半吸血鬼だからなのか血の味や臭いに敏感なのだ。それも血の僅かな残り香にも反応するほどに……。

 

「蓮君って半吸血鬼だったの!?」

 

「そうだよ。俺のお父さんが純血の吸血鬼でお母さんが少しだけ吸血鬼の血を流してる人間だから」

 

今はいないけどね……。この事を言って食事の雰囲気を悪くするのもなんだから話を変えよう。

 

「すずかは血を飲まないの?」

 

「あんまり飲まないかな……でも、定期的に飲んでるから健康には問題ないよ」

 

「それならいいよ。最低限飲んでいればある程度の健康は保てるしね」

 

夜の一族は定期的に血を飲まないと徐々に衰弱していく上に寿命が短くなり、体の成長にすら影響を及ぼす。

 

俺の場合は半吸血鬼であるが故に血に飢えると人間が血の詰まった餌に見えてしまうので血の定期的な摂取は欠かせない。ただでさえ異能を使うと血が欲しくなるのだから。

 

それに……血も人によって味が違う。健康な人であればあるほど美味しい。なので、飲むとしたら健康な人の血が一番なのだ。

 

「どうぞ」

 

「ありがどうございます」

 

血を用意してくれたノエルさんにお礼を言う。

 

「それじゃ、いただきましょうか」

 

忍さんのその言葉に続いてこの場にいる全員が「いただきます」と言って食事を始めた。

 

大人数とは言わないが他の人と一緒に食事をするのはいつ以来だろうか……。

 

料理が美味しいのもあるが普段一人で食べている料理がひどく味気無いものに感じた。

 

「どうしたの? 食べないの?」

 

「ん? ああ、ごめん。ちょっとボーとしてた」

 

俺の返事にそうと特に気にした様子もなくすずかは食事に戻る。

 

そうだよね……考えるのは後でいいよね。今は食べるのに集中しよう。考え事に夢中になって食事をおろそかにするよりも満足するまで食べた方がいいよね。せっかく俺の分も作ってくれたんだし。

 

夕食は美味しかった……。そして、一人で食べているよりも美味しいのを久しぶりに実感した。

 

 

● ● ●

 

 

夕食が終わったので泊まる部屋に戻ってきた。

 

部屋の中あるものは自由に使っていいと言われているが、部屋の中にあるものは本にラジオ、空の洋服ダンスに照明、机である。

 

本は小説から図鑑まで幅広くある。ただ、気にしないようにしていたが改めて思う。ここは猫屋敷なのか? と。

 

屋敷のいたるところから猫の臭いがするし、鳴き声も聞こえる。

 

遭遇してないのは多分……警戒されてるからだろう。元々、動物には好かれにくいからなぁ~。

 

その事実に少し悲しくなる。人であろうがなかろうが嫌われるのは悲しい。

 

窓の側に移動して空を見上げる。そこには星空と少し欠けた月が夜空に輝いていた。

 

「……お父さん……俺は……」

 

脳裏を過るお父さんが死んだ日の事。俺が厄介払いの意味も含めて海鳴市に送られる理由になった事件の事を……。

 

「知られたくないなぁ……」

 

知られたらきっと……嫌われる。嫌だ、それは……せっかく仲良くなれそうな人たちなのに……。

 

人だろうが人外だろうが異端は疎まれ嫌われる。

 

「はぁ……」

 

溜め息が漏れる。この事を考えるのも思い出すのも止めよう。心が重くなる。それよりも、明日の事を考えよう。

 

明日は今日行ってない場所に行こう。市内すべてを回ったわけじゃないし、もしかしたら叔父の拠点が市内にあるかもしれない。

 

それと叔父の手の者が見つかる可能性もある。

 

きっと叔父のことだから今頃誘拐が失敗したので何か新しい手段を考えているだろう。

 

そんなことを考えるよりも真面目に職に就いて欲しいのだが……。ただでさえ、不老長寿である夜の一族は社会的に一定以上の立場にならないと暮らしていけないのに、叔父ときたら働かずに金ばかりを消費していく。

 

将来的には夜の一族は人の社会の中では暮らせなくなる可能性もあるのに何をやってるんだか。

 

なるべく早く叔父を見つけないと……。

 

でも、そしたら彼女たちともお別れか……その事だけが心に引っかかる。

 

会ってそんなに時間は経ってないけど、俺にとって初めて仲良くなれそうな人たちだからもう少しここにいたいと思ってしまう。

 

 

● ● ●

 

 

翌日。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

食堂に来たらすでに忍さんがいた。でも、すずかの姿が見当たらない。まだ、起きていないのだろうか?

 

椅子に座ると忍さんが話しかけてきた。

 

「蓮君、今日はどう過ごす予定?」

 

「とりあえず、市内を回って叔父の手がかり探しですね」

 

叔父を探すのが目的なのだからこれ以外にない。

 

「そっか……」

 

「何か?」

 

「ううん……こっちの話だから気にしないで」

 

「はあ……」

 

何を考えているのだろうか? 忍さんのことだから……余計に何を考えているのか分からない。

 

叔父についてなのか、俺なのか、すずかのことなのか、恋人のことなのか見当もつかない。一番可能性がありそうなのは叔父についてだが……何か違うような気がする。

 

結局、分からないままだ。人が何を考えているのかその内を考えるだけ無駄か。

 

「あ、おはよう、お姉ちゃん、蓮君」

 

すずかが学校の制服を着て食堂にやって来た。そう言えば学校は土日以外は毎日あるんだっけ……。

 

「おはよう、すずか」

 

「おはようございます。すずか」

 

朝の挨拶をするとすずかは椅子に座った。

 

「すずか、学校って何時ぐらいあるの?」

 

「六時間目まであるから大体三時過ぎまでかな」

 

三時過ぎか……昨日誘拐が失敗して今日また誘拐は無いだろうから大丈夫かな?

 

「そっか……」

 

「どうかしたの?」

 

「ううん。昨日の今日で誘拐なんて起こらないよねと思って」

 

そう言うとすずかが表情を若干ひきつらせた。

 

「……どうだろう」

 

そこに忍さんが話に割って入ってきた。

 

「大丈夫よ、今日は迎えにノエルを寄越すから」

 

「そっか……なら、安心だね」

 

昨日の仕事ぶりから見てノエルさんって出来る人だし。少なくともファリンさんよりも安心出来る。

 

ドジする人よりもそつなくこなす人だ。

 

「……アリサちゃんはどうなんだろう?」

 

アリサか……どうなんだろう? 普通に登校してそうなイメージしかわかない。

 

「執事の鮫島さんが迎えに来るんじゃない? 昨日の誘拐があったから」

 

執事か……どんな人なんだろうか? アリサの執事だから若い人を雇ったのかな? それだと新人になっちゃうし……。

 

どんな人なのかは会わないと分からないか。

 

 

● ● ●

 

 

朝食を食べ終わった後、俺は街に出た。

 

すずかや忍さんたちよりも早く家を出たので街を歩いている人のほとんどがそれぞれの会社に向かう人たちや学校に向かう人たちでいっぱいである。

 

こうも人が多いと臭いが消えるし、香水なのどの匂いが混ざりあって臭い。

 

一時的に嗅覚の感度を抑える必要がある。とりあえず、この時間帯は地理の把握に勤めよう。

 

叔父の手がかりを得られたときに最短ルートで移動出来るようにするために。

 

通行する人の邪魔にならないように人の流れに任せて移動する。

 

「……やっぱり臭いがキツイ」

 

嗅覚の感度を抑えてはいるがそれでも臭うものは臭う。

 

彼らはよく平気だと思わずにはいられない。これも慣れなのだろうか? だったらそんなのに慣れたくはない嗅覚がバカになってしまいそうだ。

 

俺は途中でその流れから抜け出すと近くにある雑木林の中へ向かった。

 

「スーっ……ハーっ……スーっ……ハーっ」

 

数回深呼吸をして綺麗で新鮮な空気を吸い込む。

 

「はぁ~……生き返る。うん、香水は苦手だ」

 

決して嫌いではない苦手だ。吸血鬼がニンニクの匂いを嫌うのも単に嗅覚がいいからである。なので、ニンニクの匂いを気にしない吸血鬼もいる。

 

しばらくと言っても人の通行が少し少なくなるまでこの場所で休憩していこう。

 

近くにある大きな木の枝に向かってジャンプする。

 

「よっ……と」

 

ジャンプして掴んだ木の枝を起点に遠心力をつけてさらに上の方に上がる。

 

「ここでいっか」

 

座るのに最適な大きさの枝の上にこれたのでそこに腰を下ろす。

 

「おぉ! 中々にいい眺めだ!」

 

偶然とは言え眺めのいい場所を見つけたのでテンションが上がる。

 

そのまましばらく眺めていると金髪と紫がかった髪と栗毛色の髪の毛をした少女の一団を見つけた。

 

「あれは……すずかとアリサと後は誰?」

 

金髪はアリサで紫はすずか……栗毛色は? 昨日すずかが言っていた友達のなのはと言う少女か?

 

バス停の前で止まって話してるからバスで通学するのか。バスとか生まれてこのかた乗ったことなかったな……。電車には乗ったことあるけど。

 

今度機会があったら乗ってみようか。

 

「まあ、何はともあれアリサとすずかはいつも通りなのかな?」

 

昨日の誘拐の事が尾を引いてるようには見えないから大丈夫かな?

 

叔父も彼女たちを見習っ欲しいな……いい方にだけど。

 

今度は叔父の企みを事前に防げればいいけど……。

 

出来るか不安だ。昨日の誘拐の件だって偶然に叔父の臭いがしたから行けたんだし、今度また似たような事が起きたときに駆けつけられるか分かったものじゃない。

 

本当に魔法でもあればいいのに……。そうすれば叔父なんてすぐに見つかるだろうし。

 

はぁ……魔法なんてあるはずないのにね。すでに俺の使ってる異能自体が魔法のようなものなのにね。

 

溜め息を一回短く吐くと俺は木の上から飛び降りた。

 

音を立てないように着地をするとパッパとズボンの表面を払う。

 

それから俺は海の方へと歩き出した。昨日、海の方へは行っていないのを思い出したからだ。それに、この時間帯なら海に人はほとんどいないはずだ。

 

それに海を生で見るのは数年ぶりなので若干ワクワクしているのは否定出来ない。微妙に頬が緩んでいるのを自覚した。

 

 

● ● ●

 

 

ザザァーン!! と音と共に打ち寄せる波。遠くまで青く染まる景色。

 

これぞまさしく海だ!

 

いい天気でよかった。天気が悪いと海の色も悪くなるから。お陰で綺麗な海が見えた。

 

海独特の磯の香りが漂ってくる。

 

にらんだ通り海水浴客はいない。まあ、季節的にいないのは分かっていたが……それでも海岸を独り占めにしていると思うとなんとも言えない気持ちになる。達成感のような珍しいものを手に入れたときのような気分だ。

 

悪い気分ではない。夏場はここに人が集まることを考えると閑散とした光景は寂しく感じる。

 

ゴミも落ちてないし、もし野宿をするならこの付近になっていただろうと思う。

 

野宿するにしても汚い場所は嫌なのだ。廃ビルとかは埃っぽくて……。それに、不審者とか来そうだし。

 

野宿してたら自分もその不審者の仲間入りしてたんだろうけど……。その代わりに現在は居候中だけどね。

 

「……叔父さんは海には来ないか」

 

叔父さんのことだし海よりも街のお店かな。お酒を置いてあるようなお店に限るだろうけどね。

 

なんの関係もないけど確か光も粒子の波なんだよね。この波みたいに寄せては返すことはなく寄せるだけの一方的な……。

 

「そろそろ街の人通りも少なくなるだろうし街の方に戻るかな」

 

海はまた見に来ればいいしね。幸いなこと海鳴市は海に近いからすぐに来れる。

 

そう言えば、すずかが通ってる学校の方ってまだ行ってなかったからそっち方面へ行こうかな。

 

それに、もしかしたら叔父が何かしらの罠とか張ってるかもしれないし……。

 

そんなことはないと思うけど、叔父の手の者がすずかのことを監視してる可能性はある。

 

いないならいないで構わない。それそれで安心出来るし。いたら叔父が何処にいるのか訊く! 魔眼から何から使える手をすべて使って話させる。

 

それじゃ……私立聖祥大付属小学校に行きますか。

 

俺は海の方に背を向けると学校の方に向かって歩き出した。

 

とりあえず、バス通りを歩いていけばいいよね?

 


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