吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第31話

「……………………」

 

「……………………」

 

さっきぶつかった少女は俺の手を離さず、ずっと握ったまま黙っている。

 

どうすればいいのだろう? と悩んだ末、とりあえず、声をかけることにした。

 

「「あの……」」

 

見事にタイミングが被ってしまった。

 

「………………」

 

「………………」

 

どうしよう……さっきタイミングが被ってしまったせいか余計に気恥ずかしい。

 

目の前にいる彼女もそうなのだろう。ちょっと恥ずかしそうに視線がさ迷っている。

 

次こそはタイミングが被らないと思って……。

 

「「その……っ!!」」

 

……また、被ってしまった。

 

お互いに目をそらすが……手だけは離れない。むしろ、握る力が強くなっている。

 

「えっ……と……その……」

 

とりあえず、何か言おうと思うが中々言葉に出来ない。どうしてしまったのだろう? こんなことは初めてだ。

 

落ち着け……まず何をするかを明確にすれば答えは出るはずだ。

 

まずは状況の確認だ。

 

ここは図書館の中の一角だ。そして、目の前にいる彼女とぶつかってしまい、床に尻餅を着いてしまった彼女を起こそうと手を伸ばしたんだ。そこまではいい。

 

じゃあ、これから俺がすることは彼女を起こすことだ。

 

全く……早くそうすればよかったのに。

 

「……立てる?」

 

「……うん」

 

グイッと彼女の手を引いて立つのを手伝う。

 

「……ちょっと、そこまで行かない?」

 

彼女がちゃんと立ち上がってから視線で人がいないベンチを指す。

 

「……いいよ。私も……そこに行こうと思ってたから」

 

「分かった」

 

立ち上がったのだから手を離そうと思ったが……何故か離すことが出来なかった。

 

その理由は分からないけど……ただ、一つだけ確かなことがある。

 

今この時が記憶がある程度戻ってきたなかで一番心が安らいでいると……。

 

それだけは確かだ。この手から伝わってくる彼女の温もりが俺の心を暖めてくれている。

 

そのせいか……今、少しばかり気分が良くて足取りが軽やかだ。

 

 

● ● ●

 

 

さて……いざベンチに座ったのはいいが……何を話せばいいのだろう?

 

「………………」

 

「………………」

 

最初の時と同じようにお互いに沈黙を保っている。

 

このまま黙っていては何も始まらないのは分かっているのだが……どうにも話せない。

 

こんな時はどうすればいいのか誰か教えてください!

 

そう叫びたくもなる。

 

実際にはそんなことしないが……助けを求めたくなる。どうすればいいのか分からないのだから。

 

チラチラとお互いに視線だけ向けあって目が合うとそらすを繰り返して、はや数分……よしっ! と意気込んでから話しかける。

 

「……えっと……キミは誰?」

 

そう訊くと目の前の少女はすごく悲しそうな顔をした。

 

え……!? 何……俺は何か選択を間違えた……?

 

目の前の少女の反応に内心で焦りながらも返事を待つ。

 

「…………冗談じゃないよね? 冗談だったら本気で怒るからね……」

 

「う、うん……」

 

目の前の少女の剣幕に押されすぐにうなずいてしまった。

 

「…………本当なの」

 

「…………うん」

 

「……そっか」

 

「…………」

 

本当にどう話せばいいのか分からない。

 

「……だったら……」

 

「だったら?」

 

だったら何だと言うとだろうか?

 

「……私の名前は月村すずか。……もう、忘れないでね」

 

「……分かった。もう、忘れない」

 

月村すずか。この名前をしっかりと心に刻んでおく。

 

「……約束だからね」

 

俺はその言葉に深くうなずいた。

 

「約束するよ」

 

そう言うと彼女は花が咲くような笑顔になった。

 

「すずか。キミが知ってる俺のことを教えてくれない?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

それから俺は、すずかの家で暮らしていた時の話を聞いた。

 

正直、記憶の中にある場面と重なる部分が多くあり、そこが補足されていくのと同時に、より鮮明な記憶に変わっていった。

 

そうなると話すのがどんどん楽しくなっていってあっという間に時間が経っていってしまう。

 

「あ、もうこんな時間……」

 

気がつくと日が沈み始めていた。

 

はやてに持っていく本を探しに来ていたのにすっかりその事を忘れていた。このままではいけない。

 

「そうだね。すっかり夕方だよ」

 

座っていたベンチから立ち上がると、すずかの方を向く。

 

「それじゃ……俺は行くね」

 

「……うん。また、会えるよね」

 

「会えるよ。じゃあ、また今度」

 

俺はそう言うと後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、はやてに持っていく本の物色を急ピッチで始めた。

 

 

● ● ●

 

 

「ごめん、はやて。遅れた」

 

謝りながらはやてが入院している病室に入る。

 

「むぅ、遅刻やで」

 

むっとした様子で頬を膨らませるはやて。

 

「ごめんね。ちょっと人と話してからさ」

 

「ふーん……誰と?」

 

「はやての知ってる人だよ」

 

「わたしの知っとる人?」

 

ギルの調査資料にその名前が記載されている……月村すずか。俺が記憶をなくす前に一緒に住んでいた人。

 

「すずかだよ。月村すずか」

 

「ああ! すずかちゃんか! ってことは図書館に行ったんか」

 

「そうだよ。はい、これ」

 

俺は持ってきた鞄から3冊の本を取り出してそれをはやてに渡す。

 

「お……ありがとな」

 

はやては本を受けとるとそれをの傍にある荷物を置くかごの中に置いた。

 

「ん、気にしないで。持ってくるって約束したんだからさ」

 

「そか。……なあ、シグナムたちはまだ戻ってきいひんのか?」

 

「まだだと思うよ。戻ってきてたら真っ先にはやてのところに顔を見せに来るだろうし」

 

「……そやな」

 

はやては息を吐きながらがっかりしたようにうつむく。

 

落ち込むのもしょうがない。はやてにとっての家族であるヴォルケンリッターが誰も自分のお見舞いに来てくれないのだから。

 

それこそ誰か一人でも来ていたら落ち込むことはないのだろうが……。

 

誰かいればその誰かから他のメンバーに念話ではやてが会いたがってるとかですぐに呼び出すことが出来るんだし。

 

そうすればはやての感じている寂しさも多少は紛れるだろうと思う。

 

俺は所詮居候の身だし、はやての家族ではない。ギルに頼まれたから癒えに置いているだけの他人。

 

そうでしかない。

 

「気長に待つしかないんじゃない。その不満は本人たちが来たらぶつければいいし」

 

「……せやけど、皆はわたしのためにやってるんやろ」

 

「そうだよ」

 

「だとしたら、ここでうちのわがままで皆を困らせたらアカンやろ」

 

そうは言いつつも表情からは自分のお見舞いに来てほしいなオーラがバリバリに感じられる。

 

「案外……はやてのためだったら気にしないような気がするけど」

 

「でもなぁ……」

 

「まあ、どうするかは……はやてとシグナムたち次第だから俺にはなんとも言えないよ」

 

これははやてたち家族の問題で部外者である俺が介入するような問題ではないのだから。

 

それにどう転んだところで俺がやることは何一つ変わりはしない。

 

闇の書の完成を手伝う。

 

収集するのがシグナムたちの役割なら俺の役割はシグナムたちが収集に集中できるようにはやての身の回りの警護と不満解消の相手、シグナムたちが収集活動をしていることがはやてにバレないようにすることだろう。それ以外には出来そうなことはないし。

 

それに収集活動をする上で最も大きい障害になり得るのははやてだろう。

はやてはヴォルケンリッターの皆が収集活動をしていることを知ったら確実に止めに入る。

 

何せはやてがやらないように止めていたのだから。

 

「それじゃ……今日は帰るね」

 

「うん。次はいつ来てくれるん?」

 

「また明日来るよ」

 

「ほな、待ってるで」

 

じゃあね、と手を振ってはやてが入院している病室から出る。

 

さて、どうやって……誤魔化そうかな。

 

そのうちにお見舞いの品を探してるは使えなくなるだろうから。

 

次は何を言い訳に使おうか……。

 

その事について考えながら病院を出て、帰路につく。

 

日はすっかり落ちて、すでに空は夜の闇に覆われている。

 

人通りもめっきり少なくなり、一人とぼとぼと歩く。

 

そんな中、ある看板を見つけた。

 

『クリスマスキャンペーン実施中!! 詳しくは店頭まで!』

 

クリスマスか……。

 

これなら時間をかけても文句は言われないはずだ。

 

中々帰ってこない理由にピッタリである。

 

気に入ったものが見つからないとかにすれば問題ない。

 

その代わりにちゃんとクリスマス用のやつも探さないといけないのがネックだが……変に疑われるよりは心労は少ないと予想している。

 

はやてもそこまで疑うことはしないだろう。

 

違う世界から日本のクリスマスに合う飾りを探してくるという名目なら。

 

……事実を知るまではやてはヴォルケンリッターのことを信じ続けるだろうしね。

 

さて、シグナムたちはどうなってるかな? ちゃんと順調に進んでいるだろうか……。

 

俺から知るすべはないから連絡を待つしかない。

 

なんとも暇だ……。

 

これといってやることがない。

 

家事炊事は当たり前だとして考えても暇になる。

 

ずっと図書館に入り浸るのもなんだし……。

 

「う~ん」

 

考えても中々良案が浮かばない。

 

結局……家に着くまでに良案が思い浮かぶことはなかった。

 

 

● ● ●

 

 

「本当に……どうしよっか」

 

夕食を食べ終わり、後片づけも終わったのでやることがなくソファーの上でごろりと寝転がっている。

 

一人しかいないのに風呂を沸かすのは光熱費の無駄になるのでシャワーで済ませる予定だ。

 

血の補給に行こうと思っても、まだストックは十分にあるので補給する必要はない。

 

何かの参考にはなるだろうと思って、リビングに置いてある雑誌を物色する。

 

「……………………」

 

しばらくの間、無言で物色し続けると、

 

「…………とりあえずこれにしようか」

 

そう思えるものが見つかったのでそれに必要なものを用意する。

 

……クロスワードの本を。

 

それから眠くなるまで数時間の間やり続けるも……飽きた。

 

長時間やっても飽きがこないものがいいのだが、当てはまるものがない。

 

「……どうしよう」

 

軽く息を吐きながらクロスワードの本を閉じる。

 

目を閉じて眉間を片手でほぐしながら考えるも、当然の如く良案は思い浮かばない。

 

ふと時計を見るとすでに時間は深夜を回っており、これ以上起きていると朝起きる時間がずれるので寝ることにした。

 

決してふて寝ではない。……ふて寝じゃないといいなあ……。

 

自分のことでありながら自信が持てなくなってきた。

 

客観的に見ると……明らかにふて寝みたいだし。

 

うん。やっぱり図書館に入り浸ろう。

 

それがいい。変になにかやるよりもそっちの方が安心出来る。

 

それに……図書館ならまた会えるかもしれないから。

 

その事を念頭に入れるとやっぱり図書館が安定だ。

 

これで安心して眠れる。

 

明日からの行動予定も決まったことだしね。

 

さあ、寝ようかな。

 

「ふぁ~ぁ」

 

本格的に眠くなってきたし。

 

部屋に戻ってベットの上に横になって目を閉じるとすぐに意識が遠のいていく。

 

その時に部屋の窓の外から部屋を覗いている誰かの視線を感じたような気がしたが、それもすぐに無くなったのでそのまま眠ることにしたのだった。

 




新しくデアラの二次創作を投稿したのでそちらの方もよろしければどうぞ。こっちと書き方が少し変わってますが……。

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