吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第32話

「……うぅ~ん」

 

眩しい光によって目が覚める。

 

起き上がってその原因を探すとすぐに見つかった。

 

単にカーテンが開いていたので日光が直で入ってきていたのだ。

 

「ふぁぁ……」

 

欠伸をしながら腕を上にあげて伸びをする。

 

首を左右に傾けるとゴキ、ゴキキ、と鈍い音が鳴り、首の位置を戻しつつ時計の針を確認すると―――

 

「……八時過ぎ……やっば……!」

 

今日はゴミ回収車が来る予定なので、その回収車が巡回する場所までゴミを運ばなくてはいけないのだ。

 

しかも、回収車が来るのは九時頃なので余計に時間がない。

 

俺は慌てて着替えると、布団を畳むのを後回しにして急ぎゴミ箱の中の袋を回収するとすぐに家から飛び出した。

 

ゴミ袋を持ったまま走って回収車の来る場所に向かう。それも、全速力でだ。

 

幸いなことに人通りがなかったので回収車が来る前になんとか到着することが出来た。

 

「……あ、危なかった」

 

指定された場所にゴミ袋を置くと服の袖口で額を拭う。

 

冬なのに汗をかいてしまった。

ぐうぅぅぅと、お腹はならないがまだ朝食を食べていないのでお腹が減る。

 

幸いなことに買い置きしてある菓子パンがあるのでとりあえずそれを食べようと思う。

 

といっても家に戻らないことには食事にありつけないので帰路を急ぐ。

 

「……ぅう、寒……っ」

 

ビュゥと吹く風が汗をかいているぶん余計に寒く感じて体が震える。

 

「……ああ、もっと厚着すればよかった」

 

俺はそんなことを呟くが、今さらなので我慢することしかできない。

 

はぁ、と溜め息が漏れる。

 

いくら急いでいたとしてももう少し心に余裕を持つべきだったと反省する。

 

それから、気分を変えるために両手で頬をバシン! と叩いて活をいれたのだった。

 

 

● ● ●

 

 

「ただいまっと」

 

軽く跳ねるようにしながら靴を脱いで家の中に上がるとリビングに向かって移動する。

 

本来だったら洗面所で手を洗ってからいくのだが今回キッチンで手を洗い、すぐに朝食を食べられるようにリビングに行くことにしたのだ。

 

「ふぅ……さてと、何があったかな?」

 

手を洗い終ると俺は何の菓子パンがあったかを探った。

 

そして……あったのはメロンパンとピーナッツバターパン、カレーパンの三つだけだった。これはもう選択するのは一つしかないと俺はカレーパンを手に取る。

 

菓子パンの中に紛れていたが間違いなくカレーパンは朝食になるだろう。

 

特にメロンパンとピーナッツバターパンが紛れもない朝食になるのならそれを朝食にしているやつを見てみたいほどだ。

 

「さて、少し遅いけど食べますか」

 

時間は九時を過ぎているので少しばかり遅い朝食になったがごみ捨てに行っていたのだからしょうがないと受け入れる他なかった。

 

やっぱり多少面倒でも自分で作った方がいいかもと思ったのは内緒だ。

 

自分で作れば量をうまく調整できるのだから余計にそう思ってしまう。

 

「……お昼は何にしよっか」

 

遅めの朝食を食べながら昼について考える。

 

外で食べるか家で食べるかの選択しかないのだが……どこで食べようか?

 

「…………そういえば今、どれぐらい持ってたっけ」

 

財布の中身を確認する。

 

中には十分過ぎるほどのお金が入っていた。

 

これなら、全く問題ない。

 

別に高い買い物をするわけではなくお昼を食べるために使うのだったら十分である。

 

なら、適当にここだと思ったお店でお昼を食べようと決めた。

 

勘って大事だよね。

 

ここぞというときは勘に頼るのが一番だし。

 

まあ、そうやって幾多の失敗をおかしている人もいるにはいるだろうけどね。

 

そんなことを考えながら玄関に向かおうとすると、

 

「……あ」

 

リビングに魔方陣が現れた。

 

それから数瞬後にカッ! と光ると四人の人物がいる。

 

その人物たちの顔を見て俺は声をかけた。

 

「おかえり」

 

 

● ● ●

 

 

「それでさ……順調に進んでる?」

 

近場にあるファミレスで報告もかねてお昼を食べている。

 

ザフィーラは姿を人型に変えて耳を人と変わらない形にし、尻尾も隠しているので何の違和感もない。

 

「近場では……収集に時間がかかる。数は多いのだが……一回に集まる量が少なくてな 」

 

シグナムはそう言い終えると頼んでいたアイスコーヒーに口をつける。

 

「でも、近場だけで百頁は埋めたんだぜ」

 

百か……そうなると大体全頁の六分の一か。……先はまだまだ長いな。

 

「そっか……とりあえず、しばらくはいるのかな? 」

 

そう訊くとシグナムはいやと首を横に振った。

 

「主の様子を見てからすぐに収集に向かう。今回戻ってきたのも主の様子を見るためだからな」

 

「それならちょうどよかった。はやてはみんなに会いたがってからね」

 

本当にタイミングがいいとしか言えない。

 

はやてもヴォルケンリッターの面々と会えるのだ。それはとても嬉しいことだろう。

 

「そうか……」

 

はやてが会いたがっていたと聞いてヴォルケンリッター全員が柔らかい雰囲気を出す。

 

この光景を見るとはやての影響力がどれだけ高いかよくわかる。

 

闇の書の守護騎士は家族愛に溢れているようだ。

 

「だからさ、食べ終わったらすぐにはやてのところに向かって面会時間ギリギリまで一緒にいてあげなよ。本人は結構寂しがってたからさ」

 

「そうですか」

 

寂しがってたと聞いて表情を曇らせるも、実際には寂しがってもらえていることに嬉しさを感じているようにも見えた。

 

余所者の俺はいかない方がいいかな。

 

家族の団らんを邪魔しちゃ悪いだろうから。

 

はやてたちは邪魔じゃないと言うと思うけど……家族ではない俺がいたら気を使わせちゃいそうだしね。

 

それに、家族だけだからこそ話せることもあるだろうしさ。

 

その点俺は図書館で時間を潰すか、家で何となくテレビを見てるだけでもいいんだしね。

 

夕食の買い物もあったね……そう言えば。

 

探せばそれなりにやることはあるんだし、それでいいかな。

 

「……それじゃ、俺は図書館に行ってるから。家族水入らずで過ごすといいよ」

 

俺はお金をテーブルの上に置くとそそくさと店から出ていく。

 

肉体的には疲れてなくても精神的には疲れている可能性もあるだろうし、そうなると余所者はいない方が休まるだろうしね。

 

闇の書の完成にほんの少しでも貢献はしているんだから文句は言わせない。

 

文句を言うくらいなら自分でやれ。

 

それが一番だ。

 

手伝う=収集されるだろうけど……あ、俺も収集されんじゃね?

 

でも、収集された覚えはないぞ……。

 

もしかして……あれか、非常用の収集対象の可能性も……うん、捨てきれないな。

 

ま、それならそれで別に構わないんだけどね。

 

元々吸血鬼としての能力だけで十分だっんだしさ。手札が有りすぎても困りもんなんだよ。特別に頭が良いわけじゃないからあっても使いきれないし……。

 

本当……そこが悲しいところだよ。

 

内心でやれやれと溜め息を吐露しつつ、俺はまっすぐに図書館に向かう。

 

「あぁ~……たまには新鮮な血が飲みたい」

 

保存が効いていても新鮮でない血は美味しくない。

 

どっかの誰かを襲って血を飲んでもいいんだけど……そうなるとすずかと会えなくなるだろうし。

 

「はぁぁぁ……困った」

 

家に置いてある血は……分かりやすく言うと空気に触れて不味くなった牛乳と一緒だしなぁ。味という面で似たような感じなのだ。

 

ここで、ふと思った。記憶を失っていた間の俺って……相当つまらない存在だったのではないかと。

 

ほとんどのことに関心を示すことがなかった上に必要だと思ったことしかしない。

 

うん。完全につまらないな。

 

「まあ、それはおいておくとしてだ……マジでどうしよう」

 

ゆっくりと考えるべきなのだろうがまだ図書館に着くまで時間がかかる。

 

近くに公園などは見当たらない。

 

故に進むしか道は残されていなかった。引き返す選択肢もあるにはあったが……そうしようと思えなかったのだ。

 

 

● ● ●

 

 

「…………………………」

 

図書館に着くも今日は休みだった。

 

仕方がないのでどこか別の場所に行こうと思い海に向かっている。

 

冬なので寒いだろうがとりあえず、時間は潰せそうだ。

 

そう思っていたのだが……海に着くとそれはすぐに瓦解した。

 

「……ふぅ」

 

何故なら、

 

「……荒れ狂ってる」

 

海が滅茶苦茶荒れ狂っているのだから。

 

寒風吹きすさび、波は大きく、海が濁って見える。

 

「……よし、帰るか」

 

俺はすぐに決断した。

 

こんな荒れ狂った海をただ呆然と眺める趣味はない。

 

荒れてなかったら波の音に耳を傾けてぼーっとしててもよかったのだが。

 

もうそんな気も失せた。

 

なのでそそくさと海から撤退して、それなりに大きな公園のベンチに座る。

 

ベンチに座ってぼーっとしてたら……猫が一匹、二匹、三匹とどんどんやって来た。

 

「……暖かい」

 

やって来た猫たちがすぐ傍で丸くなるものだから本当に暖かい。

 

何匹かは俺に乗っかっているのもあるが、みんなでくっついてぬくぬくと微睡む。

 

冬なのに外で微睡むことができることにある種の感動を覚える。

 

「はぁ~……」

 

本格的に眠くなってきた。このまま寝たら凍死するんじゃなんて不安もあったが……まあ、猫たちが一緒にくっついているので大丈夫だと思う。

 

……そう信じたい。

 

まあ、俺って吸血鬼だから頑丈だし大丈夫でしょ。

 

種族の頑丈さに感謝しながら俺は目を閉じた。

 

それからどれぐらいの時間が経過したのだろうか。

 

目を開けると、

 

「……増えてない?」

 

周りにいる猫が増えていた。

 

太股は、猫に占領されて靴の方は紐を外されそれで遊ばれている。

 

頭には子猫が一匹。両肩には猫が一匹ずつ乗っかっていた。

 

俺の座っているベンチにはところ狭しと猫が寝転がっている。

 

下手にても動かせない状況だが……別に嫌ではない。

 

人でなくても誰かの温もりを感じると安らぐの変わらないから。

 

「…………何です? その状況は……」

 

そんなことを言いながらシャマルが現れた。その表情は困惑に満ちている。

 

それもそうだろうと俺は今の自分の状態を鑑みるにすぐにわかった。

 

誰だって気になる状況だということを。

 

「あ~……気にしないで。猫にたかられてるだけだから」

 

「そ、そうですか……」

 

「それでどうしたの……収集にいかなくていいの?」

 

そう訊くとシャマルはそうでした、と困惑に満ちている表情を元のおっとりしたような表情に戻す。

 

「えっと……まず、はやてちゃんが明日には退院することが決まったので迎えに行ってあげてください。時間はお昼ですから。あと、私たちは三日ほど家を空けますので覚えておいてくださいね」

 

「了解。明日ははやてを迎えに行けばいいのね」

 

「はい、そうです。よろしくお願いしますね」

 

明日、はやてが家に帰ってくるのか。

 

掃除の粗とかが無いように明日はいつも以上に注意して掃除をしなくちゃいけないな。

 

そんなことを考えていると。

 

「あ、そうそう……はやてちゃんが「後でお仕置きや!」っていい笑顔で言ってましたよ」

 

「……何故に?」

 

本当に何故だ?

 

「薄情な蓮君にはお仕置きしてやらなかあかんですって」

 

「ああ……つまりお見舞いに来なかったことを怒っていると」

 

「はい、大当たりです」

 

ふぅ……しょうがないな。……これが若さゆえの過ちか。

 

お仕置きって何をされるんだ?

 

「まあ、そのお仕置きは甘んじて受けるしかないけど……他には何かあった?」

 

「いいえ。これだけです。それではまた、しばらくの間のはやてちゃんのことをお願いしますね」

 

「いってらっしゃい」

 

ええ、いってきます、と答えるとシャマルは転移して公園からいなくなった。

 

明日、はやてが家に帰ってくるからそれに合わせて買い物する必要があるからエコバッグは持っていかないと駄目だな。

 

レジ袋にもお金がかかるようになってるから、エコバッグを持っていくとその分少しは安くなるしね。……ほんの一円、二円程度だけどさ。

 

そのほんのちょっと節約も積み重ねれば大きくなる。

 

まあ、それはおいといてだ。

 

明日はお昼に対象のだと聞いたが……昼食はどうするのだろうか?

 

食べてから退院するのかそれとも退院してから食べるのか。

 

その事をシャマルにちゃんと聞いておけばよかった。

 

わからないから明日は少し多めにお金を持っていく必要かありそうだ。

 

もし退院してから食べるのであれば必然的にその分多くお金を使うことになるんだし。

 

「……お仕置きのこと忘れてくれてたらいいんだけど」

 

今日のことだから絶対に覚えてるんだろうな……。

 

その事に思わず溜め息が漏れそうになった。

 

 


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