吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第36話

目の前を突き抜ける幾つもの閃光。

 

それは俺の顔面すれすれを突き抜けるとそのままアスファルトに風穴を空ける。

 

「……あ、危ないなあ」

 

突然のことに冷や汗が出てくる。

 

穴の大きさからして……即死を覚悟するレベルだ。なんたってバスケットボールぐらいの穴なんだから。

 

まあ……それが一般人であったらの場合であるが。

 

基本的に一般人でなければ問題ないだろう。例え何かあっても内々に処理されるだろうし。

 

俺がそんなことを考えている間に空の方では激しく閃光が飛び交っている。

 

まるで……映画の戦闘シーンのようだ。

 

ても、クライマックスらへんの戦闘シーンではあるが。

 

あんなに派手にやっているのに……結界外には被害が出ないのだから結界のありがたみを感じる。

 

ぶつかり合っている二人も結界を張っている人に感謝すべきだ。

 

さてと、それは置いといて……シャマルを探さないと。

 

適当なビルの窓枠を足場にして跳躍しながらビルの屋上へと上がる。

 

「……何処にいるかな?」

 

戦場になっている場所は三ヶ所。そのどれもあまり離れていない。

 

その中でも最も派手に戦っているのがシグナム、その次にザフィーラ、最後にヴィータだ。

 

ヴィータに関しては相手が搦め手を使ってくるタイプのようで直接的にぶつかり合っているわけではないので決着がつくまで今しばらく時間がかかるだろう。

 

ザフィーラは格闘戦になっているので天秤が傾けばすぐに決着はつく。シグナムはシグナムが本気で仕留める気になればすぐに決着がつくのは目に見えている。

 

技量が圧倒的に違うからだ。

 

「まあ……それはともかく、シャマルは何処かな?」

 

ビルの屋上から周囲を見渡すが見当たらない。

 

吸血鬼の目をもってしても見当たらないとなると俺が今いる場所からでは見えないところにいるのだろう。

 

「移動が面倒だけど、そうも言ってられないしな」

 

家で帰りを待っているはやてのことを思うと、なるべく早く戻るべきだと感じる。

 

あれで意外と寂しがり屋なのだ。

 

今もきっと皆が早く帰ってくることを望んでいるだろう。

 

ならば居候として俺ははやてのためにヴォルケンリッター全員を一秒でも早く家に帰るように促さなければならない。

 

「そのために……まずはシャマルを見つけないと」

 

唯一戦闘に参加していないシャマルはこの結界内の何処かにいるはずだ。

 

シャマルを見つけ出せば戦闘中の面々に念話で連絡がつく。

 

俺はこの結界内で最も高いビルの屋上を目指して移動を開始する。

 

素早く静かに戦闘区域の死角になる場所を移動しながら。

 

飛んでくる流れ弾を回避しつつなんとか一番高いビルの屋上にたどり着くことが出来た。

 

「はぁ……」

 

意外と精神的に疲れた。体力的には全然問題ないのだが誰にも見つからないようにだとどうしても精神的に疲れてしまう。

 

「……っと、それよりも早くシャマルを見つけないと」

 

こうしている間にも時間はどんどんと過ぎているのだから。

 

ビルの屋上から辺りを見渡す。

 

「お! いたいた」

 

今いる場所からそれなりに離れた場所にシャマルの姿を捉えた。

 

移動が面倒だが場所が分かってしまえばそれほど苦にならない。

 

終わりが見えているのだから。終わりが見えない方が何よりも怖い。終わりがない……それはたどり着く場所がないのと同じだからだ。

 

俺はビルの屋上から飛び降り、空中で身体を蝙蝠の姿に変化させてシャマルの元へと向かう。

 

そして、シャマルの近くにたどり着く。

 

「シャマル」

 

「わひゃあッ!?」

 

タイミングが悪かったのかシャマルはすっとんきょうな声を上げる。

 

その時、結界内にいた一人の少女の胸元からズボリと出てきていた。

 

「……れ、蓮君ですか……驚かさないでください……って、ああッ!」

 

驚かさないでくださいって言ったそばからシャマルが驚きの声を上げた。その表情は明らかに何かの失敗をしたときのような顔だ。

 

いったい何を失敗したのだろうか?

 

まあ、俺には関係ない……とは、言い切れないので一応聞いておく。

 

「何か失敗でもした?」

 

「……ええ。本当だったらリンカーコアから魔力を収集するためにやったんだけど……失敗して身体から手が突き出るって感じになっちゃった」

 

「それはそれは……ホラーだね」

 

誰だって突然自分の胸から腕が飛び出してきたらビックリしてその後には恐怖を覚えるだろう。

 

普通であれば絶対に経験しないことなのだから。

 

これで驚かなかったり恐怖を覚えなかったらどれだけ精神が強いのだろうか? ……いや、強いというよりも鈍いか。

 

「本当……悪いことしちゃったわ。トラウマにならなければいいのだけど……」

 

「それは本人次第じゃない」

 

それもそうよね、とシャマルは溜め息を吐きつつ言うと、それまでの空気を払うようにキリッとした表情になる。

 

「それで、蓮君はどうしてここに?」

 

「はやてが早く帰ってきてってさ」

 

「そう……なら、蓮君は先に戻ってて私たちもすぐに帰るから」

 

「了解。それじゃ、先に帰ってるよ」

 

俺はビルの屋上から飛び降りると、そのまま身体を大鷲の姿に変化させて、家の方へと飛んだ。

 

 

● ● ●

 

 

「ただいま」

 

「あ、お帰り~……あれ?、他の皆は?」

 

「ちゃんとあってきたよ」

 

シャマルだけだけど。この事は特に言う必要もないので言わない。

 

「先に帰っててって言われたから先に俺だけ帰ってきたんだよ」

 

「そか……ほんまにすぐ帰るって言ったんやな」

 

「シャマルはね……他の皆は忙しそうだったから分からないけどね」

 

そう伝えるとはやては顎に手を当てる。

 

「うーん……やっぱり何してるのか問いたださなきゃアカンかなあ」

 

「それは、はやての好きにするべきだよ。あくまでも俺は部外者なんだからさ」

 

八神家において俺は居候の身。

 

ギルの計らいで居るだけに過ぎない。所詮は……ギルの手駒でしかないんだしね。

 

「ええ~、蓮君はうちの味方やないのか?」

 

「う~ん……そう言われてもねぇ。俺ははやての家族じゃないしね」

 

記憶と感情が噛み合わない。だから、記憶は記録と変わらない。

 

この齟齬はいつになったら無くなるのだろうか。

 

「……なら、家主からの命令や! 蓮君はわたしの味方やで」

 

「仰せのままに家主さま」

 

恭しくお辞儀するとはやては車椅子に乗りながら胸を張る。

 

「うむ。よろしい」

 

なんだかんだノリノリである。

 

 

● ● ●

 

 

シグナムたちが帰ってくるのはそれから程無くだった。

 

不機嫌なヴィータとどことなく機嫌の良さそうなシグナム。シャマルとザフィーラはいつもと変わらない様子。

 

そんな彼らを出迎えるのは胸の前で腕組みして、私……怒ってますとばかりに不機嫌なオーラを撒き散らすはやてだ。

 

うん……シグナムたちが話を合わせろと視線で訴えてくる。

 

「……今日はみんなで何をしてたか、話してもらうで」

 

はやての口から紡がれる有無を言わさぬような気迫のこもった言葉にうっ、とシグナムたちが気圧される。

 

本当にはやてには弱いな。

 

「…………ちなみに蓮君はわたしの味方やで? この意味はわかるな?」

 

その瞬間、俺に向けられるのは裏切り者! という視線だった。

 

「さてと……俺は別室で待機してようかな」

 

俺はさっさと踵を返してこの場から逃げた。

 

逃げ場所は家の屋根の上だ。

 

別室と言いつつも屋根の上に逃げたのだ。だってねぇ……家の中にいると巻き込まれそうだし。

 

「……うわぁ」

 

屋根の上に出れば出たで早めのクリスマスプレゼントが届いてる。

 

明らかにデバイスだよ。

 

真ん中がピカピカ光ってるし。これ、絶対にギルからだよね……めんどくさい。

 

「……はぁ」

 

ため息を吐きつつ、ピカピカと光っているペンダント状のデバイスを拾う。

 

『次は壊さないように。そして、このデバイスについてはしばらく誰にも知られるな』

 

拾うと合成音声のような声がデバイスから流れた。

 

知られるな、ね。隠し持ってろということか。

 

……何をやらせるつもりなんだか。まあ、素直に従うのも嫌なんだけど、本当に大切な場所で裏切るのも手なんだよね。

 

さて、どうしようかな?

 

「……悩むなぁ」

 

手のひらでデバイスを弄びつつ、考える。

 

じっと見つめられるような視線を感じる。ギルからの監視だとすぐにわかるから問題ない。

 

シグナムたちは気がついてないようだが、監視されてること事態は知っている。

 

視線を感じられていないだけだ。

 

もしくは泳がされているだけか……。

 

「捕まえて……魔力を収集させるのもいいかもしれない」

 

そうしたら、ギルはどんな反応をするだろう。

 

デバイスを他の誰かにあげるのもいいかも。すずかにプレゼントしたら喜んでくれるかな?

 

喜んでくれたら嬉しいな。すずかの喜んでる姿を想像すると、どんどん頬が弛んでくる。

 

「……ふふ!」

 

駄目だ。頬の緩みが止まらない。

 

頬に手を当てると熱を持ってる。多分、赤くなってるんだと思う。

 

心臓がドクドク! と普段よりもずっと鼓動が早くなってる。

 

ああ……会いたいな……。

 

明日は図書館にいるかな?

 

 

● ● ●

 

 

「ん~、……今日は会えるかな?」

 

図書館近くの公園のベンチに座りながら、足をブラブラと動かし、空を仰ぎながら呟く。

 

ポケットには手提げの中にはラッピングしたデバイスを入れてある。

 

昨日はあの後、色々とあったのだがまるで気にならない。

 

今日のことを考えていたら全然平気だったのだ。むしろ、全然耳に入っていかなかったというのが正しいかな。

 

「ま~だかなっ!」

 

呑気にそんなことを呟きながら道行く人々を眺める。

 

こう……ウキウキワクワクした気分でいるのは我ながら新鮮な感じがする。

 

記憶の中にある自分により近いている感じがするのだ。

 

多分、俺は……すずか専用の下僕願望があるのだろう。記憶の中にある自分自身のことを自己分析するとどうしてもその答えが出てくる。

 

それが何かと自分の中でしっくりと来るのだ。

 

すずかに喜んでもらいたい。すずかに笑っていて欲しい。

 

その姿を見るだけで自分の心が満たされるのがはっきりと理解できる。記憶の中にある自分がまさしくそれなのだ。

 

カチリと自分の中で歯車が噛み合うような感覚がする。

 

自分自身のことを知れば知るほど記憶と感情が重なっていくのがわかる。だから、きっとこの思いは正しいのだろう。

 

ああ……これなのだ。自分に欠けていたものは……。

 

噛み合った歯車が回りだす。

 

「………~♪」

 

今……この時をもって、俺は全てを取り戻した!!

 

お姉ちゃん……今度会いに行くよ。

 

きっと、いっぱい心配させちゃったから……どう話しかけたらいいか全然わからない。

 

すずかに聞けばわかるかな? でも、う~ん……。

 

「……わからない」

 

心配されたことがほとんどないから全然わからない……。どうすればいいんだろうか?

 

本当にわからない。

 

「う~ん……」

 

首を傾げつつ、考えるも名案が浮かぶはずもなく、ただただ時間ばかりが過ぎていく。

 

「うん……相談しよう」

 

自分でどうすればいいのか考えつかないのなら誰かに意見を聞いてそれを参考に考えればいい。

 

……今じゃ相談することすら楽しみになってる。

 

ああ、早く会いたいな。




超久々の更新です。

今年もよろしくお願いします。

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