吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第4話

バス通りを歩いて正解だった。

 

特に迷うことなく学校の近く待て来ることが出来た。もし、迷ったら大鷲の姿に変身して空から近くに行こうと思っていたから。

 

やっぱりあれだ……変に近道とかを行こうとしなければ迷うことはないんだ……きっと。

 

叔父の臭いもしないから叔父の手の者はこの付近にはいないのだろう。叔父は諦めて海鳴市から離れたのだろうか?

 

でも、叔父は変に諦めが悪いと聞いているので決めつけることは出来ない。

 

学校の中も調べるべきか迷う。でも、学校に部外者は入ってはいけないらしいので何かしらの動物に変身すべきなのかとも考えたが動物だと保健所の人を呼ばれてしまう上に捕まえようと追いかけられることも考えられるので却下だ。

 

う~ん……どうしよう。

 

すずかに協力を頼むか……いや、止めておこう。元々、氷村家の問題だし、すでに叔父が迷惑をかけているのでこれ以上迷惑をかけたくない。それに、俺も居候しているし……。

 

仕方がないかなこれは。諦めよう。叔父の臭いがしないから多分、この学園にいる人は誰も叔父と関わりがないのだろう。

 

ただ、学校に入る外部の人物だけには注意しておかないと。叔父も洗脳の魔眼は使えるから外部の人間を洗脳して学校内の情報を手に入れることは容易いはずだ。

 

そこだけには注意しておかないといけないだろう。

 

今さらなのだが叔父はどうやって生活しているのだろうか? ずっと前にお父さんから聞いたヒモと呼ばれる生活なのだろうか……。

 

絶対にヒモにはなるなと言われたが……その言葉を言うときのお父さんの様子はまるで実際にその経験があるように感じさせた。

 

お父さんは若い? 頃と言うかそのときのことをあまり話したがらなかったからやっぱり……ヒモだったのだろうか?

 

ヒモか……叔父はそう呼ばれる生活をしているのか? それ以前にヒモとは一体……。

 

お父さんはヒモについて詳しくは教えてくれなかった。ただ、金魚の糞のような惨めな存在とだけ言っていた。

 

忍さんはヒモについて何か知っているだろうか? 今度と言うか家に帰って来たら忍さんに訊いてみようと思う。

 

きっと忍さんなら知っているはずだヒモがどんな意味を持っているのか。

 

とりあえず、学校の周りをうろちょろしてると怪しまれちゃうからここから離れよう。

 

家の方には今はノエルさんとファリンさんしかいないはずだから家に戻るのは忍さんが帰ってくるであろう夕方ぐらいかな。

 

変に遅く帰っても心配されるかもしれないし。でも、もし、本当に心配してくれるなら嬉しいな。

 

今はもう誰も心配してくれないから……。

 

最悪……殺されてもいいから送り出されたんだろうな……。氷村の家で俺のことを心配してる人なんて一人もいない。

 

皆が皆、俺のことを恐れている。

 

俺のお父さんが死んだ日からずっと……俺は氷村の家で化物として認識されている。お父さんのような竜公(ドラクル)ではなく悪魔公(ドラクル)として……。

 

はぁ……少し歩いて気分を変えよう。

 

 

● ● ●

 

 

陰鬱な気分を晴らすためにトボトボと適当に道を歩く。

 

「はぁ~」

 

それでも気分は晴れずに溜め息が漏れる。

 

考えなければいいことなのに考えるからこうなる。分かっていても勝手にそうなってしまうのだ。

 

人は考える生き物だと言うのがこのときばかりはそれが煩わしい。

 

心にどんよりとした暗雲が立ち込める。

 

その暗雲を払うかのように頭を左右に振るがまったく意味をなさない。

 

あぁ……なんかダルい。こんなんじゃいけないのにダルい。本当にどうしよう……。

 

俺は周囲に人目がないのを確かめると姿を大鷲に変えて空へ飛び立った。

 

「……ふぅ~、少し飛んでよう。その方が歩いてるよりも気分が晴れそうだ」

 

翼を大きくはためかせて高度を上げる。

 

海鳴市が一望出来る高度まで上がるとその場を旋回飛行する。下を見ると人の姿が蟻のように小さく見える。まるで自分が大きくなったみたいだ。

 

本当はそんなことないのにね。そう感じてしまうのが不思議だ。お父さんなら何て言うだろうか?

 

…………分かんないや。でも、もし一緒に飛べていたら楽しかっただろうな。

 

そんなあり得たかもしれない夢のようなことを考えてしまう辺りだいぶ参っているのかもしれない。

 

「ははっ……少しくらいなら叔父の捜索を止めてもバチは当たらないよね?」

 

乾いた笑い声を上げると俺は山の方へと飛んでいった。

 

そこなら人目もないし……少し落ち込んでても誰にも気なされないから。

 

 

● ● ●

 

 

山奥の鬱蒼と木々が生えている場所に降り立つ。

 

思い出されるのは「お前に役目をやろう……一族の者へのメッセンジャーとしてのな」と言われて氷村の家から叔父への使者として送り出されたときのこと。

 

そのときに俺が家からいなくなることに対しての安堵の声が思い出される。

 

「……好きで化物なんて言われてるわけじゃないのにね」

 

誰だって好きで化物なんて言われてるわけじゃない。でも、様々な異能を持つ夜の一族の者の中でも俺だけは違う。一族全体を見ても確実に化物と呼ばれる力を持っている。

 

本当……本物の化物になれた方が楽なんだろうな……。

 

誰からも恐れられ、そして命を狙われるような化物に……。

 

でも、なれないんだよね。その方が楽だと分かってるのに。お父さん……俺は……。

 

「……俺のことを受け入れてくれる人っているのかな?」

 

いたら嬉しいな。例え嘘でもいいから。

 

 

● ● ●

 

 

「……もう、夕暮れか」

 

気がついたら日が暮れそうになっていた。

 

どうやら、寝ていたらしい。体のあちこちに葉っぱが付着している。

 

その葉っぱを払い落とす。それから自分の顔を両手で掴んでグニグニと動かす。

 

「暗い表情をしてたら何かあったのか気にさせちゃうからなるべく明るくしておかないと」

 

無理矢理表情を動かして笑顔を作ってみるが……若干ひきつったものとなってしまった。

 

叔父の捜索が中々うまくいかなかっと言うことにしておこう。嘘はついてないし……。

 

体を大鷲の姿に変えて空へ飛び上がると俺は家に向かって飛んでいく。

 

そう言えば……ヒモについて訊かないとと思いながら居候先の月村の屋敷に向かって少し急いで翼をはためかせた。

 

 

● ● ●

 

 

「ただいま戻りました」

 

屋敷の扉の前に着くと体を元の状態に戻して扉を開けて屋敷の中に入る。

 

「お帰りなさい。どうだった?」

 

玄関には忍さんがいたなにやら機嫌がいい。良いことでもあったのだろう。

 

「いいえ。これと言って特には」

 

「そう……とりあえず、手を洗ってきなさい」

 

「そうですね」

 

汚れたまま家具に触ると家具が汚れてしまうし雑菌が繁殖してしまう。

 

「じゃあ、手を洗ってきますね」

 

「ええ」

 

忍さんと別れ洗面所で手を洗う。

 

あ……ヒモについて訊いてなかった。次会ったら訊けばいいか。同じ家の中にいるんだからそこら辺ですれ違うだろうし。

 

そういえば……すずかはヒモと言う言葉の意味を知っているのだろうか? もし、知っているならすずかに訊いた方が早いかな。

 

なんか忍さんは誤魔化したりしそうだし。すずかなら知っていたら素直に教えてくれるはずだ。

 

色々な本を読んでるみたいだしきっと俺よりは物知りだ。俺も何か本を読もうかな……。後で部屋にあった本を読んでみようっと。

 

洗面所から出て一旦部屋に戻る。ヒモについては夕食を食べるときに訊けばいいのでとりあえず、本を読もうと思う。

 

どんな本が置いてあるのかな? 楽しみだ。

足取り軽やかに俺は部屋に戻っていった。

 

 

● ● ●

 

 

「なんなんだろう……これは?」

 

部屋にあった本棚を調べてみるときわどい姿の女性が写った写真集が幾つも見つかった。

 

…………すずかはこういうのを見ているのか? てっきり小説だと思っていたのだが……。

 

それよりもこんな本も世の中には出回っていたのかと感心する。本屋を見ていたときにこんな本は置いてなかったし。多分、特別な本か何かなんだろう。

 

後で訊いてみるか……。

 

きわどい姿の女性の写真集は一旦脇に置いておき、小説の類いを探す。

 

ミステリーからアドベンチャーさらには体験談を載せたものまで見つかった。

 

色々種類があるみたいだ。

 

沢山あるから迷う。どれが面白いか。帯を見ると映画化決定! とかドラマ化決定! とか書いてあるから映画化やドラマ化する作品は多くの人に楽しまれているのが分かる。

 

それらを読んだ方がいいかな? でも、それらは当たると分かっているクジのようなものだし……うう~ん、迷うなあ……。

 

首をひねりながらどれを読むか考える。

 

なら、ここは十万部突破のベストセラーとなっている本にしよう。

 

これなら映画化やドラマ化した作品に負けず劣らずの作品のはずだ。

 

合わなかったら合わなかったで別のに変えればいい。

 

わくわくした気持ちで本を開くと目に飛び込んできたのは……別の本のタイトルだった。

 

アレェ? 何で表紙と中身が違うわけ? 誰かのイタズラか? 仕方がないから他のを読もう。だって『堕ちる学園~狂気の薔薇』なんていかにも怪しいタイトルだし。

 

これも脇に置いて、映画化した方の本を手に取る。今度はちゃんと中身が表紙と一緒か確認する。

 

……よし! これは大丈夫だ。

 

早速読もう。

 

………………重い。いきなり話が重かった……。主人公の寿命が残り1ヶ月って……。

 

ちょっと……もう少し明るく軽い感じの話にしよう。

ドラマ化した方の本を手に取る。

 

今度こそと思い表紙と中身が一緒か確認してから本を読む。

 

………………よかった。これなら読めそうだ。

 

探偵もので軽いノリで話が進んでいくのであんまり本を読んでいなかった俺でもスラスラ読める。

 

読んでて分かることだがすずかが読書が好きな理由が分かった気がする。楽しんで読める作品との出会いは楽しいし、新たな発見がある。それに、作品ごとに一つ一つの世界がある。

 

ベストセラーや映画化、ドラマ化する作品はそれだけ多くの人を魅了した作品なのだろう。改めてそれらの作品を生み出した作者の皆さんに尊敬の念を覚えた。

そして今日、俺の好きなことに読書が含まれるようになった。

 

 

● ● ●

 

 

夕飯の時間になり、食堂に全員が集まったので早速訊くことにした。

 

「ねぇ、すずか訊きたいことがあるんだけど」

 

「何かな?」

 

「ヒモって何?」

 

その瞬間、「ぶっ!!」と噴き出す音が三つ聞こえた。

 

「紐? それって紙を縛るときに使うような紐じゃなくて?」

 

「それじゃなくて……一つの生活手段らしいんだけど」

 

「う~ん……なんだろう? ごめん、私には分からないかな」

 

「ううん。知ってたら教えて欲しかっただけだから気にしないで」

 

そっか……すずかは知らないか。じゃあ、忍さんに訊こう。

 

「忍さん……ヒモって何?」

 

すると忍さんは助けを求めるようにノエルさんとファリンさんに視線を向けた。

 

それほど説明しにくいものなのだろうか?

 

「え~とね、蓮君は誰から聞いたのかな? その言葉は」

 

「お父さんから。お前は絶対にヒモにはなるなよって……」

 

「そ、そう、お父さんからね」

 

ひきつった顔をしてるが何か不味かったのだろうか? 不安になったのですずかの方に視線を向けるが特にすずかの様子は変わっていない。

 

俺は心配し過ぎなのだろうか?

 

「……実は叔父を探してるときに思ったわけで……どうやって叔父は生活をしているのか考えたときに浮かんだのがヒモって生活だったので」

 

「……ぶっ!? あの氷村がヒモって……くっ……」

 

何がツボに入ったのか分からないが急に笑いだす忍さん。ノエルさんとファリンさんも同様だ。

 

何か面白いことを言っただろうか? そう思いすずかを見るがすずかも何で忍さんたちが笑っていたのか分かっていないらしく疑問符を頭に浮かべていた。

 

「くく……ごめんなさいね。あまりにもおかしくってあの氷村がねぇ……ヒモだなんて……」

 

そんなに面白かったのか?

 

「ああ、ヒモって言うのはね働いてる女性に養ってもらってる人のことを言うのよ」

 

……そうだったのか。お父さん……昔はヒモだったのかな? 何か残念だな……。

 

叔父さんは働いてないだろうからヒモが一番有力なのかな……。きっと叔父さんは何にも不思議に思わず当たり前だと思ってるんだろうな……俺に貢ぐのは当たり前だとか。

 

後、本のことも訊くかな。

 

「忍さん……この本はなんなの?」

 

本を取り出して見せるとピシッと本を凝視して固まる忍さん。ノエルさんとファリンさんの視線が忍さんに突き刺さる。

 

「こ、これは何処にあったのかしら?」

 

「部屋の本棚にありました。これってなんですか?」

 

「いいですか、蓮君。その本はまだあなたには早いですからね」

 

ノエルさんにたしなめられるようにそう言われた。

 

まだ早い? 本にもゲームと同じように年齢制限があるのか……。

 

初めて知った。これでまた一つ新しいことを知ったな。

 

「分かりましたか」

 

「はい」

 

「いい子です」

 

ノエルさんに頭を撫でられる。

 

撫でられるのはお父さんが死んでから初めてだ。嬉恥ずかしい感覚に頬が緩む。

 

「……」

 

その姿をニヤニヤと忍さんに見られていたが頬が緩むのは止められなかった。

 

そして、その日の晩。

 

俺は部屋から幾つもの流れ星が流れるのを目撃した。

 


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