異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第八十四話 消えた貯金と三角関係(嘘)

 

「結論から言うと…………手が無いこともないわ」

「本当かっ!?」

 

 通信機で呼び出したアンリエッタの機嫌は最悪だった。さっき俺との通信が終わった後、間の悪いことにシャワーを浴びていたらしい。おかげで途中で切り上げることになったと怒り心頭だ。

 

 しかし状況を思いっきりかいつまんで手早く説明すると、渋々ながらも落ち着いてくれる。

 

 アシュさんは通信機に映し出されたアンリエッタの姿を見て何か言いたそうだったが、空気を読んでくれたのか何も言わずに俺達の動向を見守ってくれていた。すみません。あとで諸々説明します。

 

「確認するけど、話を聞く限りそのクラウンがセプトの主人ってことで良いのね?」

「確証はないけどな。状況的に見て命令が出来る立場にあるっていうのはまず間違いない。そうじゃなきゃわざわざ置き土産なんて言わないだろ?」

「そっか。じゃあやはり手はあるわ。……ただ理論上は可能なだけで確実ではないし、危険だから無理しないでさっさと逃げた方が良いわよ。ワタシの手駒。そこまでして助ける必要あるの?」

「助けたいから助ける以外の理由は無いな。……アンリエッタだって助ける気が有るから俺に話してくれたんだろ? じゃなきゃ何も無いって言って終わりのはずだ」

 

 そう言うと、アンリエッタは軽く鼻を鳴らしてプイっと顔を背ける。

 

「……まあ富と契約の女神としては、不当な契約には色々罰を下してやりたいところもあるからね。それくらいはサービスしてあげるわ。……エプリを呼んできなさい。あまり時間が無いから全員まとめて話すわ」

「よし分かった。エプリっ! ちょっと来てくれっ!」

 

 俺は瞑想中のエプリを引っ張ってくる。……力づくでも俺を連れて逃げようとしていたエプリだが、自分が連れていかれるのは予想外だったらしく目を白黒させている。すまないけど時間が惜しいんだ。早く来てくれよ。

 

 そのままアシュさんの所に戻り、適当な岩の上にケースを置いて開き他の人にも見えるようにする。

 

「……成程。アナタが以前トキヒサが話をしていたヒトね?」

 

 エプリはケースを一目見るなり察しがついたようで、鏡に映っているアンリエッタに話しかける。

 

「アンリエッタよ。本来ならワタシの凄さをしっかりと知らしめてから話をするところだけど、今は時間が無いからあとでワタシの手駒たるトキヒサからじっくり聞きなさい。……じゃあトキヒサ。今から手短に説明するわよ。セプトが生きたまま魔力の暴走を止める方法を」

 

 

 

 

「……以上よ。方法は提案したけど、危険なことであるのは事実。するしないはアナタ達の判断に任せるわ。じゃあそういうことで」

 

 その言葉を最後に、アンリエッタとの通信は途絶える。……やり方は分かったけど。俺はアンリエッタの提案した方法に頭を抱える。なんでよりによってこんな方法なんだよ! 

 

「理屈は分かったけど、本当に出来るのか?」

「話した限りでは嘘は言ってなかったな。少なくともさっきの奴は出来ると思って言っているみたいだった」

 

 俺の疑問にアシュさんが何故かそう断言する。そう言えば前もこんなようなことがあったな。マコアの話の時とかゴッチ隊長への説明の時とか。……何故かアシュさんが言うと説得力がある。

 

「トキヒサ。今のヒトは信用できるの? アナタの知り合いでしょう?」

 

 知り合いと言ってもまだ十日しか経っていないんだけどな。だけど、

 

「信用できると思います。ここで嘘を吐いてもアンリエッタには何の得もないですから」

「……私としてはアンリエッタという名前を名乗っているだけで胡散臭いけどね。わざわざ女神の名を騙るなんて、余程の嘘つきか物好きだけだもの」

 

 一応本物(自称)なんだけどなぁ。まあ地球でもいきなりアマテラスとかゼウスとかそういう名前を名乗る相手に会ったら胡散臭いと思うか。わざわざ本物だって説明するのも面倒なのでそのままにしておこう。

 

「アシュさん。万が一に備えて、近くに来ている調査隊の人達に事情を話して離れてもらってください。俺とエプリはその間にあの影をどうにかする準備をしますから」

「分かった。すぐに戻ってくるからな」

 

 アシュさんはその言葉を聞くと、そのまま走り出してすぐに見えなくなってしまった。しかし調査隊の人達が何処にいるのか分かっているんだろうか?

 

 協力を頼もうかと考えたが、何処にいるのか分からない以上間に合わない可能性もある。それなら下手に来てもらうよりも、離れてもらった方が安全だ。

 

 俺なんかが心配しなくても良いとは思うけど念の為だ。あのクラウンがわざわざ置き土産として残したセプトの魔力暴走だからな。ここら辺が更地になるとかもあり得そうで怖い。

 

「……ばらしてしまっても良かったの?」

 

 エプリはアシュさんが走っていった方を見ながら言う。……ああ。俺の『万物換金』のことか。確かにこの方法ではこれが要になるし、さっきもアンリエッタの説明の中でチラッと出ちゃったからな。

 

「別に良いよ。どうせアシュさんのことだから、ジューネ経由で知っている可能性もあったし。それなら今ここで言ったって変わらないって。それに知っても悪いことをするタイプじゃない」

 

 エプリはそんな俺達を見て小さくため息を吐くと、そのままキッと表情を引き締める。

 

「……じゃあ本題に入るわよ。さっきの方法だと、どうしてもトキヒサがセプトの至近距離まで近づく必要がある。あの荒れ狂う影の刃の中をかいくぐってね。……細切れになるのはほぼ確実ね」

 

 確かにな。さっきエプリも言ったように、俺は多少頑丈だけどそれだけだ。無理やり突入してもすぐにボロボロにされてしまうだろう。まずあの影をどうにかしないと。

 

「また私が影を操って止めるにしても、あれだけ広範囲のものを完全に止めるのは難しいわ。……トキヒサ。さっきのはまだ使える?」

 

 さっきの? ああ。一万円分の銭投げのことか。確かにあれだけの爆発ならまた上手くいけば影を切り離して弱められるかも。今回はセプトが気絶しているから避けられる心配もなさそうだし。

 

「もちろん使えるとも。一回千デンはきついけど人命がかかってるもんな。この際大盤振る舞いだ。今の所持金から考えて残り……」

 

 そこで俺は貯金箱を取り出して残金を確認した。したのだが、そこで俺の思考はフリーズする。

 

「…………………………なん、だと!?」

「……何が?」

 

 呆然と呟いた言葉にエプリが反応する。

 

「貯金箱の残高が、残り百デンくらいしかないっ!」

 

 おかしい。俺が最後に確認したのは調査隊の拠点で夕食を食べる前辺りだが、その時は確かにまだ二千デン近くあった。

 

 あれからエプリを探しに出た時にモンスター相手に使ったり、スカイダイビング中のブレーキでかなり使ったが、それでもまだざっと千デンくらいは残ってるはずだ。それなのにどうして…………いや、今は原因よりも他の確認をしないと。

 

 ポケットの中を確認すると、そちらの方は無事のようだった。しかし全部かき集めてもおよそ六百デンほど。これではさっきの威力の半分くらいしか出なさそうだ。かくなる上は……。

 

「結局こうなるのか。……『査定開始』」

 

 これまで何かに使えるんじゃないかと思って持っていたが、待てど暮らせど使う気配もなくそのままだった物。この世界に来た当初からあった文明の利器。そう……スマホである。

 

 スマートフォン(やや傷有り)

 査定額 五百デン

 

 と言っても長くほったらかしにしていたからバッテリー残量も残り僅か。ライトノベル的に町に行ったら高く売れるんじゃないかと思っていたが、いつかの大金よりも今の五百デン。仕方なくこれを換金する。

 

「これで、何とか千デン分だ」

 

 何とか千デンを捻出し、心身及び懐に多大なダメージを受けながらも予備の袋に詰めた俺にエプリが一言。

 

「……クラウンが落としていったナイフを換金すれば良かったんじゃないの? 奴がここに居ないのなら換えられるのでしょう?」

「……そうだった!」

 

 それはもっと早く言ってほしかった。しかし今更スマホを買い戻すのも何と言うか気が退ける。一割の追加料金も地味にかかるし。

 

 え~い今はそのことは忘れよう。切り替えろ俺っ! 俺が自分の頬をはたいて気合を入れていると、アシュさんが物凄い勢いで戻ってきた。……なんかニヤニヤしてるな。

 

「調査隊の奴らに知らせてきたぞ。エプリは無事見つかったが、今トキヒサと別の女とで修羅場だから先に戻っていてくれと言っておいた」

「な、なんちゅう事言ってくれちゃってんですかあぁっ!?」

 

 予想外の展開に口をあんぐりさせていると、アシュさんはからかうように続ける。

 

「いや嘘は言っていないぞ。修羅場とは元々激しい戦いや争いの行われる場所を指すからな。お前が(セプト)を助けるために激しい戦いに行く訳で、エプリもそれに参加する気だろ? 何にも間違ってないな」

 

 だからってそんな言い方をわざわざする必要はないでしょうに。それじゃあドロドロの三角関係みたいに聞こえるじゃないですか。そう食って掛かろうとするが、次のアシュさんの言葉にその言葉は止まる。

 

「それに、本当のことを言ってはいそうですかと帰る奴らじゃない。俺が一時期鍛えた奴らだから分かる。調査隊の大半は善人だから、お前を助けに来かねないからな」

 

 そう真面目な顔で語るアシュさんの言葉には真実味があった。確かにダンジョンに潜った時の調査隊の人達のノリならそのまま助けに来てくれるかもしれない。しかしそうなったら下手をしたらより厄介なことになる。

 

「分かったみたいだな。だからここは笑い話で誤魔化したんだ。……あとでこの笑い話を本当にするくらいの気概を見せろよ。心配させたくないのならな」

「はい。……だけど他の話題は無かったんですか?」

「そりゃあこっちの方が面白ゲフンゲフン……いや、咄嗟に思いつかなかったんだ」

 

 忘れてた。アシュさんも人を良くからかっていたってゴッチ隊長も言っていたじゃないか。こういう所はイザスタさんに似てるかもしれない。やはり身内という事だろうか。

 

 エプリの方を見ると、ジト~っとした目でアシュさんの方を見つめている。流石に無言の抗議の視線に耐えられなくなったのか、アシュさんは話題を変える。

 

「それよりもだ。トキヒサ達はあの影を何とかする準備は出来たのか?」

「一応は。エプリの方はいけそうか?」

「……こちらも短時間なら抑えられそうね」

 

 エプリは身体の調子を確かめながら答える。魔力はなかなか回復しないらしいが、体力回復のポーションと瞑想で少しは補えたようだ。これなら少しは成功の目途も立ってきた。

 

 待ってろよセプト。敵だろうが何だろうが、そうホイホイ俺の前で死なせないからなっ!

 




 時久の金が急に無くなったのは当然理由があります。ヒントを挙げますと、金属性魔法は全てが任意発動ではない……といった所でしょうか。

うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • 一応ヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
  • いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ
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