異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

106 / 272
第八十八話 魔力の受け皿

 

 セプトは一度大きく深呼吸すると、頭上に両手を伸ばして精神を集中させる。すると、急に幕の外側の気配が変わった気がした。

 

 これまではめったやたらに目的もなく暴れまわっているという感じだったが、何か指向性を持ったと言うか。なんとなく魔力の流れみたいなものが上に向かっている感じだ。

 

 見ればセプトから漏れる黒い光も、靄のようになって上に伸びていく。これまではその場で霧散していくだけだったのに。幕は上の方で閉じているのだが、そこに向かって靄が吸い込まれていくようだ。

 

「なんかよく分からないが……良いぞっ! その調子だ」

「分からないなら静かに」

 

 怒られた。……だが着実に物事が良い具合に進んでいるのは分かる。このままいってくれば……。

 

「…………うっ!?」

 

 そんな簡単にはいかないよなやっぱ。セプトがまたふらりと一瞬体勢を崩しそうになるが何とか踏ん張る。しかし腕が下がると同時にまた魔力の流れが止まったように感じた。どうやら腕の向きと魔力の流れは同期しているみたいだ。

 

 しかし一瞬身体から出る黒い光の靄が一気に放出された。つまり自分から放出する量よりも、制御できずに溢れだした分の方が一瞬多くなったという事。そして幕の内側に靄が溜まり始めている。

 

 ここでふと思った。この幕の内側には外の影たちは一切手出しをしなかった。それが以前首輪で強制された命令、つまり使い手であるセプトを傷つけないための行動であったのなら、ここに溜まっていく靄は何だ?

 

 もしかして……これがこの内側に溜まり切ったら爆発するという事か? 内側からこの靄が幕を圧迫し、いずれ幕を吹き飛ばして外へ放出。そうなったら完全に制御を失った魔力が爆発。……なんか想像したらあり得る話だ。

 

 最初に俺がここに入った時にはまだ靄がほとんど溜まっていなかった。それに裂け目もすぐに閉じたので大事には至らなかったという所か。

 

「セプトっ!? 大丈夫かっ!?」

「大丈夫。まだ、できる」

 

 そうやって強がってはいるが、セプトの顔色が悪いのは簡単に見て取れる。何でも良い。何か俺にも出来ることは何かないのか?

 

「何か俺に手伝えることはないか? 何でも言ってくれ」

「……じゃあ、倒れないように支えてて」

「分かった。任せろっ!」

 

 セプトは俺の方を横目で見ると、言葉少なにそう言った。俺はセプトの後ろに寄り添うように立ち、バランスを崩しても咄嗟に受け止められるように身構える。俺にはこんなことしか出来ないからな。いつでもドンとこいだ。

 

「次、いく」

 

 セプトは再び両手を頭上にかざした。あとどれだけやれば暴走を抑えられるのかは分からないが、ガンバレセプトっ! 応援してるぞっ!

 

 

 

 

 それから数分程、見守ることしか出来ない歯がゆい状況が続いた。しかし、俺よりもっと辛いのは確実にセプトだ。

 

 これまでにも何度か先ほどのように、身体から出る黒い光の靄が急に勢いを増してセプトの内側から放出される。その度にセプトは苦しみ、崩れ落ちそうになるが、俺が後ろから支えているのでそのまま立ち続ける。

 

 ……いや、()()()()()()()()()()()()()()と言った方が正しいのかもしれない。

 

 いくらこのままだと魔力が限界を迎えて爆発するとは言え、美少女にこんな苦行をさせなきゃならんとはっ! 俺は歯ぎしりをしながらセプトを支え続ける。

 

「もう少し。あと少しで、安定する」

「よしっ! もうちょっとか。もう少しだけ頑張ってくれセプト」

 

 その言葉通り、さっきから影全体の動きが明らかにおとなしくなってきていた。この調子なら確かにもう少しで収まるかもしれない。だが、

 

「…………っ!? あぁっ!」

 

 呻き声をあげながら、セプトはまた踏ん張りがきかずに崩れ落ちかける。これまでと同じように後ろから支えるのだが、これまでとは明らかに様子が違う。

 

「セプトっ!? お前身体がっ!」

「……もう限界、みたい。ごめん、なさい」

 

 そう答えるセプトの身体から吹き出す黒い光の靄は、もはやちょっとしたスモークのように勢いを増していた。発光量も格段に上がっている。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「溜まっていた、分が、まとめて、出てこようとしている。これは、抑えられない」

 

 途切れ途切れに話すセプトの微かに見える目は焦点が合っておらず、腕を上げようとするももう力も入らないようだ。その俺の首元までしかない小柄な身体は自分の力で立つことも出来ず、俺に寄り掛かっているだけと言った感じだ。

 

「おいっ!? しっかりしろっ! もう少しなんだろっ?」

「多分、これを乗り切れば、終わる。……だけど、もう抑えきれない」

 

 セプトの身体から出る光はますます強くなり、どんどん靄は幕の内側に溜まって視界も悪くなってきた。気のせいか幕から軋むような音も聞こえてくる。

 

「ごめん、なさい。もう、逃げるのも、無理みたい」

 

 だろうな。もし俺の推測通りなら、これはガスがパンパンに溜まった風船から少しずつガスを抜く作業みたいなものだ。

 

 ちゃんとした穴からガス抜きするならともかく、下手に別の場所に穴をあけたらそれだけで破裂する。仮に今俺が幕を壊して外に出ようとすれば、その瞬間ドカンだ。

 

「諦めるなって。じゃないと外で頑張っているエプリやアシュさん、それに俺やお前だって死んじゃうんだぞ。だから…………」

 

 しかしどうすれば良いんだ? このままでは……。考えろ俺。バカはバカなりに頭を使え。……そう言えば。

 

「…………一つ教えてくれセプト。本来魔力暴走って言うのはどうやって止めるんだ? 今のやり方は限界を迎える前の緊急措置的なやり方だろ。エプリは以前魔法の熟練者が数人いれば止められるって言ってた。つまり正攻法のやり方があるってことだ」

「やり方は、ある。でも、貴方では無理」

「無理でも何でもいいから話してくれ。時間が無い」

 

 セプトは何故か言いよどんだが、無理やり教えてくれるよう頼みこむ。数秒経って根負けしたのか、セプトはポツリポツリと話し始めた。

 

「溢れ出す魔力を、他の誰かが、受け皿になって抑える。その間に、使い手が魔力を、制御する」

「……何だ。意外に簡単じゃないか」

「その魔力と、同じ属性持ちじゃないとダメ。もしくは、違う属性でも抑えられるだけの、達人じゃないと。そうじゃないと、今の私みたいに、溜まっていって、爆発する」

 

 成程。エプリが話した時難しいと言ったのはこのためか。セプトの属性はどう見ても闇属性。エプリは闇属性も使えるみたいだったけどメインは風属性。

 

 それに連戦で体力も魔力も消耗していたから自信が無かったんだ。アシュさんも魔法は苦手だって言ってたしな。

 

「…………よし。話は分かった。()()()()()()()()()()()()()

 

 闇属性の適性は持っていないが、他に受け皿になれそうな人もいないしな。俺がやるしかなさそうだ。気分は人間ポンプ……いやタンクか? こうなりゃやったろうじゃないの。

 




 仮にエプリがやっていたとしたら、成功率は万全の状態で五分五分といった所でしょうか。

 ちなみに普通の人では同属性なら三割いけば良い方ぐらい。違う属性では一割あるかないかといった具合です。

 本来それだけ魔力暴走を無理やり抑え込むのは難しいです。

うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • 一応ヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
  • いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。