異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百話 口説かれるラニーさん

 辿り着いた目的地は、これまでの建物と同じように大部分が石造りの屋敷だった。ただし周囲の建物に比べて確実に二回りくらい大きく、外から見る限りでは少なくとも部屋が十以上はあるみたいだ。

 

 偉い人ともなると家も大きくなくてはならないという事だろうか? 客人用の部屋とか色々と必要になるだろうしな。しかし決して城という訳ではなく、あくまで屋敷の分類に入る建物なのが少し気にかかった。

 

 都市長と言うくらいだからおそらく貴族かそれに連なる血筋。そしてそういう人が住むと言ったら城であるという勝手なイメージだったのだが、どうやら違っていたらしい。

 

 馬車は屋敷の入口にある少し広い場所に停車する。どうやらここは俺達のような馬車や荷車で来た人用のスペースのようだ。停車を確認すると俺達は次々と馬車から降りる。

 

「一応私達がこの都市に来ることは調査隊の拠点から連絡しているので、普段ならこの屋敷にいるはずですが」

 

 ラニーさんはそう言いながら屋敷の扉の前に歩いていき、扉に備え付けられたドアベルを数回鳴らして待つ。すると少し経って扉が開き、どうやら使用人らしき人が数名出てきて深々と一礼する。

 

「ダンジョン調査隊副隊長代理、ラニー・クレイルです。調査の経過報告のために参りました。都市長はご在宅ですか?」

「ラニー様ですね? お話は伺っております。しかしあいにく主人は所用で席を外しておりまして。その間に来た場合は中でお待ちいただくようにとのことです。どうぞこちらへ」

「分かりました。……皆さん。行きましょう」

 

 ここで初めて知ったが、ラニーさんも名字持ちだったらしい。まあゴッチ隊長もそうだったし、そこまで驚くことでもないか。ラニーさんは俺達を伴いながら屋敷へと入っていった。どうもお邪魔します。俺も軽く呟きながらおっかなびっくり入っていく。

 

 後ろを見ると、御者さんは馬車で待っているようだ。長くなりそうだったら使用人の人に馬車を預けて後から来るという。留守番よろしくお願いします。

 

 

 

 

「主人はもうしばらくしたら戻られますので、皆様はこちらでお待ちください。御用があれば何なりとそこの者達にお命じください」

 

 そう言われて案内されたのはどうやら客間のようだった。外観が石造りだったから中も全て石造りかと思ったが、壁や床はともかくテーブルや他の家具などは基本木製だ。

 

 先ほどの使用人さんは部屋を退席し、部屋付きのメイドさんが二人残る。

 

 そう。メイドさんである。よくライトノベルなどで見かけるフリフリの可愛らしさ重視の服ではなく、丈の長く汚れなどの目立たない機能性を重視した物を着ている。

 

 俺はあまりメイドに詳しくはないのだが、クラシックメイドと言うタイプだったかな?

 

 まあそれはどうでも良いのだ。マニアでも専門家でもない俺みたいなにわかから見れば、服装などはそこまで気にすることではない。どちらかと言えばメイドさんの存在は中世よりも近世よりじゃないかということも些細なことだ。

 

 問題なのはその所作、仕える者としての在り方だとも。

 

 俺達は椅子に座りながら都市長が戻ってくるのを待つことに。待っている間、俺はチラリと視界の端にメイドさん達を捉えるのだが……まったく微動だにしない。

 

 椅子に座ろうとした時にさりげなく椅子を引いてくれたり、いつ終わったのか分からないほど静かに各自に紅茶の配膳をしたりした以外は、部屋の壁際にビシッと立って動かない。……なんか気になるけど今はこっちを優先するか。

 

「待っている間に聞いておきたいんですが、都市長ってどんな人なんですか?」

「……そうね。相手のことを事前に知っておくのは大事だわ」

 

 またもや暇になったので、今の内に少しでも情報を得ようとラニーさんに聞いておく。エプリもその話題に食いついてきた。アシュさんとジューネはすでに知っているらしくあまり反応しない。

 

 この都市には前にも来たことがあるようなので驚かないが。セプトに至ってはどうでも良いとばかりにちゃっかり俺の隣に陣取っている。

 

「どんなヒトですか? そうですね…………ご立派な方ですよ。このノービスは交易都市群の中では出来てまだ歴史が浅い方なのですが、それでも他の都市に決して見劣りしません。それは都市長や町の方達の努力のたまものだと考えています」

 

 ラニーさんはその後も都市長についてのことを語ってくれた。それをまとめると、都市長のドレファス・ライネルさんは相当なやり手らしいという事だ。

 

 この都市は地理的に魔族の国デムニス国に最も近い。ヒト種と魔族が相当種族的なわだかまりで仲が悪い中、あえてドレファスさんは魔族とも交易を進めることにしたという。

 

 そのためこの町では、他の都市に比べて魔族の数はかなり多いという。それでも色々なしがらみがあるから全体で見れば一割もいないらしいが。

 

 また町の発展や整備にとても力を入れていて、町人からの人気もとても高い。話だけ聞くと出来過ぎじゃねって言うくらいスペックの高い人のようだ。そういう人もいるんだな。

 

「なるほど。確かに立派な人みたいですね」

「はいっ! ただ多忙なため今回みたいに急に出かけることもしばしばで。はっきりとこの時間に行くという連絡を事前にしておかないと居ないこともしょっちゅうです」

 

 フフッと笑うラニーさんを見て、どうやらそのドレファス都市長さんは本当にいろんな人から慕われているんだなと感じる。出来過ぎた人には疑ってかかるのがお約束だが、どうやらその心配はなさそうだな。

 

 

 

 

「っと、ちょいと飲みすぎたな。待ってる間にトイレに行ってくる」

「用心棒が雇い主の傍を離れてトイレって……すぐ帰ってきてくださいよ」

「へいへい。分かっておりますよッと」

 

 待つこと二十分。仄かにリンゴのような香りのする紅茶を飲みながら待っていた所、アシュさんがそう言って席を立った。そのままジューネとメイドさん達に一声かけて、部屋の外に出てスタスタと歩いていく。

 

 ……おやっ? アシュさんを見送って少ししたところで気になることに気づいた。

 

「ジューネ。アシュさんってこの屋敷に以前来たことあるのか? トイレの場所も聞かずに行ったけど」

「……そう言えば妙ですね」

 

 どうやらジューネも知らなかったらしい。

 

「ああ。それは私から説明します。アシュ先生は以前」

「おやっ!? そこに居るのはラニーじゃないか?」

 

 事情を知っているらしいラニーさんが話をしようとした時、部屋の外から割り込むようにそんな声が聞こえてきた。何かと思ってそちらを振り返ると、一人の男がアシュさんが行った方とは反対側の通路から部屋に入ってくる。

 

 見たところ俺と同じくらいの歳だろうか? しかし僅かに俺より背が高い。……くっ! 羨ましくなんかないやい。いかにも仕立ての良さそうな服を着こなしていて、少し長めの茶髪をかきあげながらラニーさんに向かって歩いてくる。

 

 ……誰この人? もしやこの人が都市長じゃあるまいな。

 

「どうしたんだいラニー。もうダンジョンの調査が終わったのか? それなら僕に連絡をしてくれればすぐに迎えを寄こしたというのに」

「いえ。まだ途中経過の報告ですから終わった訳ではありませんよ。ヒース副隊長」

 

 副隊長っ!? もしかしてこの人が今ラニーさんが兼任している調査隊の本来の副隊長!? 見えないなぁ。

 

 俺が内心驚いていると、ヒース副隊長が今気づいたかのようにこちらを見る。

 

「誰だい君達は? 見たところ調査隊という訳でもなし、貴族という風にも見えないな」

「その方達はダンジョン調査の協力者です。今回の報告に同席してもらうためにお呼びしました」

「……ふん。まあ良いさ。それよりラニー。せっかく戻ったんだ。あとで僕と一緒に食事にでも行かないか? つい先日良い店を見つけたんだ」

 

 協力者と聞いても特に態度を変えることもなく、そのままラニーさんに話し続ける副隊長。な~んか態度悪いな。

 

 エプリは何も言わずにフードを深く被り直し、ジューネは何か知っているようで微妙に苦い顔をしている。

 

 セプトは……無表情でイマイチ分かりづらいが気にしていないようだ。前の主人がクラウンだからだろうか、こういう態度には慣れているみたいだ。

 

 しかしヒースはそんなことお構いなし。どこ吹く風とばかりにぐいぐいラニーさんを誘い続けている。周りからの態度を分かっていないならただの鈍感で済むが、分かっていてやっているのなら大した面の皮だ。

 

「なあ。良いだろう? 食事が要らないと言うならどこかに遊びに行くというのでも良いさ。ダンジョンの調査はかなりの心労があるはずだ。たまにはそんなことは忘れて休まないと身が保たない」

 

 ヒースは話しながらドンドン距離を詰めていって、もうラニーさんとは互いに顔に息がかかるくらいの距離だ。そしてさりげなくラニーさんの手を取っている。

 

 これはアレだな。完全に口説きにいっているな。しかしラニーさんも押されっぱなしという訳ではない。優しく諭すように話しながら手を離していく。

 

「いえ。結構です。これでも薬師ですからね。自分の体調くらい管理していますよ。……それよりヒース副隊長。そろそろ離れてもらえませんか?」

「そんなつれないことを言わないでくれ。ここしばらく会えていなかったからな。せっかくゴッチの奴もいないんだ。今の内に二人だけで友好を深めようじゃないか」

 

 しかしヒースも諦めない。再度ガンガン押し込もうとする勢いだ。だが、

 

「いやぁスッキリした。待たせたな。……ってあれ!? そこに居るのはヒースじゃないか!」

 

 そこへアシュさんがトイレから戻ってきた。部屋に入るなりヒースを見つけて声をかけるアシュさん。すると、

 

「この声は……げぇっ、アシュ先生!!」

 

 ゆっくり振り向くと、なんかどこぞの三国志で使われそうな声を上げながら驚くヒース。

 

 そう言えば調査隊の人達から先生と言われているんだから、こうしてヒースとも面識があって当然だよな。都市長が来ていないのにどんどんややこしいことになってきたぞ。

 




 副隊長登場。こんなのですけど何か嫌いになれないんですよねこの人。

 こんな調子ですが記念すべき本編百話目です。

今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?

  • アンリエッタ
  • エプリ
  • ジューネ
  • セプト
  • (今はいないけど)イザスタ
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