異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百一話 都市長ドレファス・ライネル

 

「げぇっとは何だよげぇっとは。よぉヒース。しばらくぶりだけど元気そうじゃないか!」

「は、はい。お、お久しぶりです。アシュ先生」

 

 アシュさんが戻るなりヒースの様子がおかしい。先ほどまでの勢いが嘘のように鳴りを潜め、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。

 

 あっ! ラニーさんがこっそり笑ってたぞ。確かにここまでの変わりようは少し笑える。

 

「あの、せ、先生はどうしてこちらに?」

「ここにいる面子から聞いてないのか? そこのジューネが今の雇い主でな。ちょうど調査隊が潜るダンジョンに先乗りしていたんだ。それで中で色々あって、町に向かう途中調査隊とバッタリ会ってな。丁度良いから同行することになったんだ」

「へ、へぇ~。そうだったんですか」

 

 なんかさっきからヒースが冷や汗をかいている。察するところアシュさんが苦手らしい。以前何かあったのかね。

 

「アシュ先生は一時期ヒース副隊長の家庭教師を務めていたんですよ。主に護身術などですが。その縁で今の調査隊の皆さんも様々なことを教わりました」

 

 ラニーさんがこっそり俺達に聞こえるように話す。なるほど。ヒースにとっては頭の上がらない相手って訳だ。それからもアシュさんが話しかけ、ヒースが固まりながら返すという微妙な会話が続く。

 

「そうだ。せっかく会ったんだ。腕がなまってないか少し見てやるよ」

「い、いえ。アシュ先生もお忙しいでしょうから。それはまたの機会にということで……」

「良いではないか。見てもらいなさい」

 

 そんな声がまた部屋の外から聞こえてくる。今度は誰だと思い視線をそちらに動かすと、部屋の入口に一人の男性が立っていた。

 

 四十代半ばくらいの落ち着いた雰囲気を醸し出す紳士。口ひげも綺麗に切りそろえられていて、服装も地味な色合いの物だが俺が見ても良い生地を使っていると分かる。

 

「ドレファス都市長!」

「おっと。どうも都市長殿」

「父上っ!」

 

 どうやらこの人がさっきまで話していた都市長さんだったらしい。ラニーさんが素早く椅子から立ち上がって一礼する。アシュさんもどうもとばかりに頭を下げる。

 

 俺達もラニーさんに倣って一礼する。……っていうか今ヒース父上って言わなかったか?

 

「待たせてすまなかったな。お前達が来るまで屋敷で溜まった書類を片付けようと思っていたのだが、急に出かける用事が出来てしまってな。急いで戻ってきたのだが……間に合わなかったようだ」

「いえいえ。お忙しいのは存じています。ただ間が悪かっただけですから。お気になさらずに」

 

 都市長さんが謝罪すると、ラニーさんが慌ててそんなことはないと首を振る。

 

「この詫びは後ほどさせてもらおう。それよりもだ。……ヒース。最近鍛錬にも勉学にも身が入っていないそうだな? 昨日もいちゃもんをつけて逃げ出したと教官達がぼやいていたぞ」

「いえ父上。いちゃもんも何も、もう僕はあの程度の奴らに教わることは何もないのです。ならばそれよりも、その時間を自由に使った方が得策というものではありませんか」

「またお前はそんなことを。教官達はこのノービスにおいて指折りの者ばかりなのだぞ。……だがそれならば、その成果をアシュ殿に見てもらっても問題はないのだろうな?」

「そ、それは……」

 

 その都市長の言葉にヒースは言葉を詰まらせる。というかやはりヒースと都市長は親子だったらしい。しかしあんまり似てないな。茶髪と青色の瞳くらいしか共通点がない気がする。母親似かな?

 

「どうやら話は決まったみたいだな。ジューネ。悪いが少しばかりまた席を外すぞ。久々にコイツをいっちょ揉んでやる」

「だから用心棒が勝手に離れないでくださいって! ……こういう縁は大事にするものです。さっさと行ってきなさい」

「おうよ! さあて許可も出たし久々にビシビシ行くかヒース。まずは肩慣らしに軽く実戦稽古からだ。俺に一撃でも当てられるまで続けるからな」

「や、や~め~て~」

 

 そうしてアシュさんに引きずられていくヒース。どこからかドナドナが聞こえてきそうな雰囲気に、俺はよく知らない相手だというのについつい合掌してしまう。

 

 さらばヒース。お前のことは忘れるまで忘れない。……地味にセプトがボジョと一緒に小さく手を振っているのがまた哀愁を誘う。

 

「我が愚息もこれで少しはマシになれば良いのだが。……さて、そろそろ本題に入るとしよう。君達がゴッチの言っていた協力者かね?」

 

 急に話を振られて内心ドキリとするが、これはまだ自己紹介に過ぎない。落ち着け俺っ!

 

「は、はい。トキヒサ・サクライと申します」

「ジューネ……と申します。交易都市群を回って商いをしております。以後、お見知りおきを」

 

 一瞬ジューネが名乗る際に躊躇した気がするが気のせいだろうか? その後は各自で自己紹介を済ませていく。

 

「ふむふむ。トキヒサにジューネ。エプリにセプト。それに先ほどのアシュ殿の五人だな。ラニー。簡単な報告は少し前にゴッチから聞いたが、今回はこちらの協力者も交えてより詳細な報告があるということだったな?」

「はい。順を追ってご報告します。トキヒサさんやジューネさんも、報告を補完する形で発言をお願いしますね」

 

 おう……って口達者なジューネはともかく俺もっ!? よりにもよってこんな偉い人の前で!?

 

 心臓がチタン合金で出来てるみたいな“相棒”じゃないんだから、俺みたいな小市民には荷が重いっての! ……まあ出来る限り話すけどさ。

 

 

 

 

「ふむ。ダンジョンコアとの共闘。そしてヒトの人為的な凶魔化か。ゴッチから連絡を受けてはいたが……なるほど。厄介なことになっているようだな」

 

 一通り話を聞き終わると、ドレファス都市長は指を組んで難しい顔をする。それを見計らったかのようにお茶のおかわりを用意するメイドさん達。さりげなく自然な動きだ。……只者じゃない。

 

 都市長はラニーさんの報告を静かに聞き、しかし要所要所で的確に質問をしていった。バルガスが凶魔化していた時の状況はとか、マコアとの共闘で無理をしている様子はなかったかとか。

 

 ラニーさんだけでは分からない所に、俺やジューネが実際に見たこと、感じたことを踏まえて補完していく。

 

 エプリも俺と一緒にいたんだから大体話せると思うのだが、都市長相手だというのに相変わらずフードを目深に被ったまんまの状態。

 

 下手に話をさせるとフードを取れという流れになりかねないので、なるべく静かにしてもらっている。

 

「…………結論から言おう。まずダンジョン調査はこのまま継続。そのマコアとの協力関係も同様。つまりは現状維持という事だ」

 

 都市長の発言は驚いたものだった。俺は正直こんなややこしい状態のダンジョン調査からは手を引くという事もあり得ると思っていたのだ。

 

「よろしいのですか?」

「なに。元々ダンジョン調査には高いリスクがある。そのリスクを少しでも軽減するために、調査隊は日々鍛錬を積んでいるはずだ。何があっても生き残って情報を持って帰る為の鍛錬をな。それは想定外のことが起ころうとも変わらない。それにだ」

 

 そこで一呼吸貯めると、ドレファス都市長はニヤリと笑みを浮かべた。ほんの一瞬だけ紳士的な落ち着いた雰囲気が消えうせ、獣のような獰猛さを見せる。

 

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 やはりラニーさんの言った通り、この都市長はかなりのやり手らしい。普通の人じゃこうは言えない気がする。それに一瞬だけ見せたあの笑み。……ただの紳士じゃないってことか。

 

「……まあこうは言ったが、ラニーやゴッチの所感から、そのマコアが今の所裏切る素振りが無いから言えることでもあるがな。マコアの話が正しければ、このダンジョンを長期的に放っておくことは危険だ。多少無理をしてでも調査を進めれるだけ進めておきたい。……引き際は調査隊に一任する。戻り次第ゴッチにそう伝えろ」

「はい。了解しました」

 

 ラニーさんは一礼してその命を受ける。

 

「よろしい。……さて、次はヒトの人為的な凶魔化についてだが。これに関しては少々長い話になりそうだ。お茶のおかわりは如何かな?」

 

 都市長はそう言うと、自身のティ―カップを軽く持ち上げてみせた。程よい茶飲み話になれば良いんだけどな。

 




 綺麗なだけでは為政者は務まらない。汚いだけでは認められない。そういった面が伝われば幸いです。

今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?

  • アンリエッタ
  • エプリ
  • ジューネ
  • セプト
  • (今はいないけど)イザスタ
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