異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百二話 都市長の頼み事

 

「実を言うと、ヒトの人為的な凶魔化は今に始まったことではない。少なくとも数十年前から研究されていたことは確かだ。無論大っぴらにではないし、表向きはどの国でも完全に禁止されているがね」

「…………えっ!?」

 

 ドレファス都市長の言葉は、俺の心にガツンと衝撃を与えるには十分だった。あんなのが何十年も前からあったってのか? そう思うのと同時に、やっぱりかという気持ちも少しだけあった。

 

 以前牢獄で巨人種の男がクラウンに凶魔にされた時、ディラン看守が何か知っているような口ぶりだったのを思い出す。

 

 つまりアレが最初ではなかったということ。流石に何十年も前からとまでは考えていなかったけどな。

 

「研究の目的は様々だ。兵士、あるいは兵器と言い換えても良いがその量産。ヒトから一段階上の生物、超人に昇華するため。……幾分かマシなお題目として、生まれついて腕や足などの動きが悪い者に使う事で健康な体にするためなどというものもあったな。ただしどう綺麗に言い換えようが、()()()()()()()()()()()()()()()という事に変わりはないのだがね」

 

 そう話す都市長の表情は、どこか苦々しいものだった。まるで実際に自分が体験したことのように。

 

「表向きは禁止された後も、僅かに残された資料を基に手を出す者は後を絶たなかった。それでも出回っている情報も少しずつ風化し、ここ数年はその手の事件も少なくなってきたのだが……今回また新たに凶魔化の案件が発生したという訳だ。それも立て続けに」

 

 そこで都市長はセプトをじっと見つめる。セプトはその視線に気づいてもどこ吹く風だが。そしてドレファス都市長は軽く目を細めて、安心させるようにニコリと笑いかける。

 

「ゴッチから報告を受け、すでに検査の用意をしてある。先に医療施設に搬送されているバルガスも現在治療中だ。……安心しろ。凶魔化などさせるものか」

 

 そう力強く断言するドレファス都市長。セプトもつられてうんうんと頷いている。……良かった。凶魔化する可能性があるってことは、ある意味で不発弾を抱えているようなものだ。

 

 当然俺は危険があってもセプトを見捨てるつもりは無いが、都市長のような上に立つ者としてはこういう場合見捨てるという選択肢も多いにあり得たからな。

 

「良かったな。セプト。これなら何とかなりそうだぞ。……ありがとうございます。ドレファス都市長」

「うん。ありがとう。都市長さん」

 

 俺は深々と頭を下げる。助けてもらう相手には当然のことだ。セプトも俺を真似て一緒に頭を下げる。

 

「……ただ都市長様。当然タダという訳ではないのでしょう?」

「そうだな。出来る限り手を尽くすが、無償という訳にはいかないな」

 

 ジューネが確認のためにそう問いかけると、都市長はそう言って頷く。

 

 やっぱりか。ここまで上手くいきすぎると思った。しかし高額の治療費を請求されても今は手持ちがないぞ。ちょっぴり落ち込む俺にドレファス都市長がゆっくりと声をかける。

 

「敢えて言っておくが、私個人としては無償でも良いと思っている。しかし都市長が個人に肩入れしすぎるというのも外聞がよろしくない。そこでだ……代わりに一つ私の頼み事を聞いてはくれないかね?」

 

 それは優しい口調だったが、非常に断りづらいものだった。こうなったら仕方ない。さあ何でも言ってみてくださいよっ!

 

 

 

 

「せやあああっ!!」

 

 ヒースが訓練用の両手木剣を力強く振るう。見た目は華奢なくせにその剣筋は鋭く、並の相手なら受けることも難しいだろう一撃。

 

 だが今の相手はアシュさん。並の相手ではない。アシュさんは軽く身を引くことで木剣を紙一重で回避する。

 

 ここはドレファス都市長の屋敷の中庭。中庭と言っても小さな公園並みの広さがあり、簡単な模擬戦や走り込みぐらいなら普通に出来る。

 

 ここでアシュさんはヒースをしごいていた。アシュさんの身体に一撃でも当てないと終わらないその試合を、二人はもうかれこれ三十分は続けている。

 

「まだまだっ!」

 

 一度躱されてもヒースの攻めは止まることはない。身体ごとぶつかっていくように再度斬りこんでいく。しかし、アシュさんは全ての斬撃を紙一重で回避していく。

 

 ……そう。()()()でだ。つまり完全に間合いを見切られている。

 

 そして攻め続けたヒースにも疲労の色が見え始めた。アシュさんが必要最低限の動きしかしていないのに対し、ヒースは一度も休まずに攻め続けていたので体力の消耗も激しい。そこを見逃すアシュさんではない。

 

「……よっと!」

「がはっ!?」

 

 一瞬の隙をついてカウンター気味に繰り出された木剣の一撃が腹に決まり、そのままヒースは地面に崩れ落ち…………なかった。

 

 閉じそうになる瞼を無理やり見開き、ガクガクと震える足を踏ん張り、力を振り絞って横薙ぎに木剣を振るう。

 

 これは予想外だったのかアシュさんも反応が一瞬遅れ、バックステップで回避したのだが服の一部に木剣がかする。

 

「…………ようし。今の一撃はなかなか良かったぞ。一応合格だ」

 

 服のかすった部分をチラリと見て、アシュさんはにっかりと笑いながらそう言った。それを聞いたヒースは今度こそ崩れ落ちる。

 

 今の一撃は本当にギリギリの一撃だったのだろう。仰向けに転がってはぁはぁと息を荒げたまま動かない。

 

「しかし身体がなまっているのは間違いないぞヒース。このくらいで動けなくなるなんて、最近鍛錬をさぼってたんじゃないか?」

「そ……そんなこと……ありません」

「本当か? 何となく嘘の気配がするぞ」

 

 ヒースは息も絶え絶えに返すが、アシュさんは先ほどとは違うちょっと悪い笑みを浮かべる。それを見たヒースはうっと言葉に詰まり、少しして小さな声で「……少し、さぼっていました」と呟く。

 

「まったく。しょうがない奴だ」

 

 アシュさんは苦笑しながらヒースに近寄っていくと、額を軽く指でピンっと弾く。ヒースは一瞬痛そうにしたものの、疲労困憊という感じでそのまま動かない。

 

「それではしばらく休憩だ…………で? そろそろ休憩に入るから、こっちに来ても良いんじゃないか?」

 

 アシュさんは途中からヒースにではなく()()の方に向けて話しかける。……やっぱりバレてたか。

 

 俺達……俺とエプリ、セプト、ジューネ、ラニーさんは、ゆっくりとアシュさん達の前に進み出た。さっきまで外に出ていたボジョも、今は再び俺の服の中に引っ込んでいる。

 

「そんなこそこそ見なくても堂々と見ていれば良いのに。咎めたりはしないぞ」

「いやその、なんと言うか出るタイミングが掴めなくて。だって……あの激しい試合に割って入るなんて出来ませんって」

「…………戦ったら厄介そうね」

「凄かった。どっちも」

 

 エプリもセプトも言葉こそ違うが称賛の声を上げている。正直言って今の試合はかなりレベルの高い戦いだった。アシュさんが強いのはこれまでのことから当然分かっていたが、予想外だったのはヒースの方だ。

 

 第一印象が態度の悪いナンパ男というものだったので予想していなかったが、こちらも相当強かった。

 

 少なくとも俺だったらあそこまでアシュさんと戦えるとは思えない。伊達に調査隊の副隊長なんて役職に就いていないってことか。

 

「ヒース副隊長。大丈夫ですか?」

 

 ラニーさんは倒れているヒースの所に駆け寄っていく。木剣とは言えあれだけの一撃を食らったんだもんな。怪我していないか心配になったのだろう。

 

「ラ、ラニーっ!? …………情けないところを見せたかな」

「そんなことはありません。今の試合は見事な物でしたよ」

 

 動けないながらも顔を赤くして恥ずかしがるヒースに、ラニーは労わるように優しく話しかける。それを聞いてヒースもまんざらではなさそうに口角を吊り上げた。……結構素直でおだてに弱そうだな。

 

「それで? もしかしてもう別の場所に出発で呼びに来たのか?」

「いえ。それもあるのですが、それだけではないんですよアシュ」

 

 ジューネはそう言うと、背伸びしてアシュさんの耳元にぼそぼそと呟く。それを聞いていくうちにアシュさんの顔が困ったようになっていくのがはっきり分かる。…………俺だってそうだよ。内心どうしたもんか頭を抱えてる。何故なら都市長さんに頼まれたことはとても厄介な内容だからだ。それは、

 

『私の愚息、ヒース・ライネルが最近どうもたるんできている。なので一つ喝を入れてやってくれないか』

 

 なんて、もろに家庭内の問題を押し付けられてしまったのだから。こういう事は家庭内で解決してくださいっての。

 




 ヒースが最後の一撃をアシュに当てられたのは、半分は手加減によるものですがもう半分は間違いなく本人の実力です。並みの剣士では手加減有りでも当てられません。




 活動報告にも載せたのですが、本日六月五日は実験的に、これまで貯めたストックをまとめて投稿して読者数を増やし、ランキングに載れるか試してみようと思います。十話くらいはいけるかな。

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今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?

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