異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百十話 気になるあの子のテーブルマナー

 

 異世界生活十七日目。

 

 俺はいつもの通り朝早く目を覚ます。半身を起こして軽く背伸びをし、頭をしゃっきりとさせるのだが……おや? 妙に足が暖かいな。買った布はあんまり質の良い物じゃなかったはずだけど。そう思って足元を見てみると。

 

「…………何やってるんだセプト?」

「起きるの待ってた。奴隷は、主人より先に起きて待つもの」

 

 俺の足にセプトがしがみついていた。道理で暖かい訳だ。……そこまでは良い。お前ベットで寝てただろとか、ここ床だけど寝づらくなかったかとか言いたいことはあるけど、それはまだ許容範囲内だ。しかし、

 

「それはそれは真面目な奴隷根性だ。関白宣言もビックリだな。だけどだ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何せセプトの今の格好は、寝間着の胸元がはだけて非常にアブナイ感じになっている。身体に取り付けられた器具は勿論のこと、チラチラと見えるか見えないかギリギリの所にある二つの膨らみが……。

 

「どうしたの? トキヒサ」

「な、何でもない。それより早く離れて……あと服はきちんと着てプリーズ」

「うん。分かった」

 

 イカン。一瞬胸元に目が吸い付けられて離れなくなるところだった。セプトの声でハッと我に返り、自身の理性を総動員して顔を背けながらセプトを引き離す。セプトはそのまま少し離れると、いそいそと服を整える。

 

「…………朝からお盛んね」

 

 その声はエプリか! そちらを向くと、すでに着替え終えて身支度を整えたエプリが扉の脇に背を預けて立っていた。

 

「お盛んじゃないってのっ! って言うかエプリ。先に起きていたんなら見てたんだろ? どうして起こしてくれなかった」

「……別に危害を加えようってことでもないし、トキヒサもぐっすりと眠っていたようだから」

 

 危害を加えないからって止めないというのもどうかと思うけどなぁ。しかし考えてみると、俺が眠っている間にエプリは横で着替えをしていたのか?

 

 想像すると胸の鼓動が速くなるのでまた頭をブンブンと振る。煩悩退散邪念よ消え去れ。

 

 ……もう良いかな。俺が振り向くと、セプトはしっかりと服の乱れを直し終えていた。ふぅ。危ない所だった。

 

 まだ十一歳の相手に何やってんだと思われるかもしれないが、いくら妹で慣れているとは言え女性と一緒と言うのはドキドキするものなのだ。

 

「……で? なんで足にしがみついてたんだ?」

「足が寒そうだったから」

 

 確かに上に掛けていた布はやや小さくて、足先が少しだけはみ出していた気がする。まあそれくらいなら特に気にもしていなかったが、セプトにとっては気になったらしい。

 

「そっか。それはまあ……ありがとう。だけど次からはわざわざくっつかなくても、適当に他の布を掛けてくれれば良いからな」

「うん」

 

 俺の言葉にセプトはすんなり頷く。また寝てる間にくっつかれていたら、俺の色々な何かがヤバいのでちゃんと言っておかないとな。エプリも何も言わず黙って俺達を見ている。

 

「それにしてもセプト。意外に寝相が悪かったんだな。寝間着があそこまではだけるなんてどんな寝方をしたんだ?」

「……? あれは、一緒に寝るならああした方が良いってアーメ達が言ってた。ダメだった?」

 

 あのシスター三人組なんちゅうことを教えてんだっ!? 次に行った時にはその点を厳重に抗議してやると心に決めながら、セプトにそれは違うと説明する。

 

 なんでこう朝っぱらからドキドキハプニングに遭わなきゃならんのよ。……決して嬉しくない訳ではないが。

 

 

 

 

 さっさと顔を洗って身支度を整え(着替えている間は二人には少し離れてもらった)、三人で昨日も夕食の時に来た食堂に向かう。すると、

 

「昨晩はお楽しみでしたね」

「そういう事はしてないってのっ!」

 

 着いて早々先に来ていたジューネからそんな言葉を言われるもんで、ついつい俺もムキになって言い返す。

 

 横ではアシュさんもニヤニヤしながら見ているし、何なんだ? そんなに俺はそういうことをしそうに見えるのか!?

 

 食堂にはまだその二人と、部屋の隅に控えているメイドさん数人しかいなかった。他の人はまだ来ていないのか。

 

「コホン。まあ冗談はここまでにして、席に座って待っているとしましょう。もうすぐラニーさんとドレファス都市長もいらっしゃいますから」

 

 そう言いながら席の一つに近づくジューネ。それに合わせてメイドさんが素早く椅子を引いてくれる。ジューネが席に着くと、アシュさんもそれに倣って隣の席に座る。冗談って……まあ良いか。俺達も座るとしよう。

 

 俺も席に近づくと、メイドさんが椅子を引いてくれる。なんか偉くなった気がするな。実際は何でもないただの客というだけなのだけど。

 

 セプトは昨日も今日も奴隷だからという事で座りたがらなかったが、ドレファス都市長は特に何も言わなかったじゃないかと強引に隣の席に座らせる。

 

 だって一人だけほったらかしにして食事をすると言うのも落ち着かないだろ?

 

「……へぇ」

 

 そしてエプリはと言うと、とても優雅な所作で席に着いていた。これはメイドさんの椅子の引き方だけではなく、本人にもちゃんとした動きが要求される。一瞬だけど俺はその姿に見とれてしまう。

 

「……何?」

「いや、エプリはこういう所に慣れてるのかなって思って。昨日もテーブルマナーとかしっかりしてたし」

 

 昨日の夕食の時、俺やセプトはナイフとフォークはあまり得意ではないので悪戦苦闘していたのだが、エプリやジューネは普通に使っていた。

 

 大きな音を立てたりもしないし、俺にはよく分からないがナイフなどを使う順番も迷いがなかった。

 

 ちなみにアシュさんは早々とメイドさんに頼んで箸を用意してもらっていた。箸も有ったんかいっ! とツッコミたくなったが、こっちは意地で最後までナイフとフォークで頑張った。

 

 ジューネの方は商人だから、こういう場でのマナーを知っているのは何となく分かる。だけどエプリは傭兵だ。俺の勝手なイメージだが、傭兵でこういう事に縁があるというイメージがない。

 

 貴族とかのお抱えなら話は別だが、エプリは混血と言うこともあって一か所に長居するという事はなかったらしいし、不思議な話だ。

 

「……別に。以前ある憎たらしい老人に仕込まれただけよ。今の時代は力だけではなくこうした教養も必要だってね」

 

 エプリはそう言いながら顔をしかめるが、それは心底嫌がっているというよりも困った相手への苦笑いと言う風に感じられた。

 

 ……エプリも大切な相手がちゃんといるんじゃないか。彼女が一人じゃなかったっていう事に少しだけ嬉しくなる。

 

「そっか。じゃあその人に会ったら礼を言っておいてくれ」

「…………今の流れで何故そうなるのかよく分からないけど、憶えていたらね」

 

 その後しばらくして、ヒースとラニーさんが一緒にやってくる。ただ一緒にと言うよりも、ヒースが勝手にくっついているという感じだ。ラニーさんが言うには都市長は少し遅れるらしく、先に食べ始めることに。

 

 朝食の間も食事の合間に不作法にならない程度にヒースがちょくちょく話しかけるのだが、ラニーさんにはどうにも脈がなさそうだ。なんだかヒースに少しだけ哀愁を感じてしまう。

 

 その途中ドレファス都市長も遅れてやってきて、朝食は和やかに進んだ。今度は俺も二度目だ。何とか昨日に比べて少しはまともにテーブルマナーを守れたと思う。……そのはずだ。

 

 そうして朝食が終わり、いよいよラニーさんが出発する時がやってきた。

 

 

 

 

「すみません。見送りまでしてもらって」

「いやいや何を言うんだいラニー。僕が君の出発に立ち会わない訳がないじゃないか。またいつでも戻ってきておくれよ。……出来れば今度もゴッチ達は置いておいて一人で」

「ありがとうございますヒース副隊長。次は調査を終わらせて調査隊全員で戻りますね」

 

 ラニーさんの見送りは、俺達や屋敷の人も加えた大人数のものとなった。当然ヒースもここぞとばかりに点数を稼ごうとするが、ラニーさんに普通に対応されてしまう。

 

 この明らかなヒースのアプローチにラニーさんは気付いているのだろうか? もし気が付いていてこの対応だったらちょっとヒースが気の毒に思える。

 

「ラニー。追加の物資は馬車に積み込んである。今回の事態はかなり厄介ではあるが、調査隊の行うことは変わらない。一時的な共闘と言うのなら、裏切る気の起きないようこちらの実力を見せつけろ」

「ご支援感謝します都市長。ご期待に応えるよう全力を尽くします」

 

 ドレファス都市長の言葉に、凛とした態度で礼を言うラニーさん。確かに馬車を見ると、行きには無かった荷物がいくつか増えている。

 

 昨日は結構な時間馬車を使わせてもらっていたが、いつの間に運び込んだのだろうか? 

 

「セプトちゃん。短い時間ではありましたが、とても楽しかったですよ。最後まで身体の調子を診られないのは残念ですが、治ったらまた会いましょうね」

「うん。じゃあねラニー」

 

 セプトに挨拶を終えると、今度は俺達の方に向き直るラニーさん。

 

「皆さんもお元気で。私は一刻も早く戻らなければなりませんが、皆さんのこれからが上手くいくことを願います。……それとアシュ先生。ヒース副隊長のこと、()()()()()よろしくお願いしますね」

「お、おう。じゃあなラニー。ヒースのことは任せておけ」

 

 こうして最後にあまりやりすぎないようしっかりと念を押しつつ、ラニーさんは馬車に乗り込んで再びダンジョンへと戻っていったのだった。

 

 ちなみに御者さんもまた一緒だ。今回なんだかんだで名前が聞けなかったので、次に会う時には聞いておくぞ。

 

「……さて。ラニーさんも出発したことですし、そろそろ我々もするとしましょうか」

 

 見送りも終わり、屋敷の人達が持ち場に戻っていく中、アシュさんを伴ってジューネが俺達に話しかける。

 

「する? するって何を?」

「決まっているでしょう? 今日の予定を立てるんですっ!! 今日はやることが盛りだくさんですからね。忙しいですよぅ!」

 

 ジューネはニヤリと笑うと力強くそう言った。そうだな。幸いセプトの方の目途も立ってきたし、エプリへ払う金も稼がなきゃいけないから文字通り時は金なりだ。早いところ予定を立てて動かなければ。よおし。やったるぜ。

 




 エプリはパーティーに出ても失礼にならない程度の礼儀作法も手ほどきを受けています。まあ基本的にそういうものに出ないので使いませんが。

今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?

  • アンリエッタ
  • エプリ
  • ジューネ
  • セプト
  • (今はいないけど)イザスタ
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