「さて。これからの予定を立てるのですが……本当に行ってしまうんですかアシュ」
「すまないなジューネ。こっちでもヒースの鍛錬の予定を立てなきゃならんのよ」
都市長の屋敷の一室。都市長に用意してもらった部屋に集まっていた俺、エプリ、セプト、ジューネ、アシュさんの五人だが、いきなり問題発生のようだ。
「俺だけが教えれば良いんならともかく、他にも教えている人が居るとなるとそちらとも話し合いが必要だからな。昨日は都市長殿のコネで無理に時間を譲ってもらったし、またこっちの都合で話し合いを伸ばすって訳にもいかない」
確かにな。ヒースは都市長の息子なんだから、その分多くのことを勉強しなきゃいけないはずだ。
つまりそれだけ科目ごとに教師が居る訳で、当然それぞれ時間の都合とかもあるだろう。話し合わないといけないことは沢山あるだろうな。
「…………確かに必要だという事は分かります。しかし貴方は私の用心棒であって、そうホイホイ離れてもらうと困ると言うか」
「なあに心配すんな。離れるといっても基本的にこの屋敷にいるし、打ち合わせとヒースの鍛錬の時以外は傍にいるって。……今日はちょっと長引きそうだが」
「今日が肝心なんでしょうにっ!」
二人はなおも言い合うがなかなか収まらない。二人の話をまとめると、ジューネは今日いくつかの所に交渉に出向くのだが、その際一人だけだと不安だからついてきてほしいという事だ。
「そんなんじゃありません。ただその……アシュがいるといないとでは交渉のやりやすさが全然違うと言うか。最悪荒事になるようなことになっても安心と言うか」
やっぱり不安なんじゃないか。……だけど気持ちは何となく分かる。アシュさんがいるとなんかこう安心感が半端ないもんな。大抵の無理難題は力技で解決してくれそうな感じの。
「護衛と言う点なら大丈夫だ。どうせトキヒサ達も一緒に行くだろうからな。……そうだろ?」
「えっ!? そりゃあまあセプトのことも急を要するものじゃなくなったし、金を稼ぐためにも一度じっくり町の様子を見てみようとは思ってましたけど」
「それなら話は簡単だ。ジューネが交渉に行く時一緒に行けば、道すがら町の様子も見れる。エプリやセプトもいるから多少の荒事も問題ない」
「……あくまで
「
なんかもうウチの護衛と奴隷が真面目過ぎるんだけど。もうちょっとゆる~くいっても良いんだぞ?
「で、ですが……」
ジューネはまだどこか渋っている。なんとなくだけど、理屈では分かっているけど感情では納得していないという所か。ジューネとアシュの関係も用心棒と雇い主というだけではないのかもしれない。
そんなジューネに対してアシュさんは、
「とまぁ色々言ってはみたが、肝心要の交渉自体はジューネに任せるぜ。ただ儲ければ良いってもんじゃない。
「……っ! あ、当たり前じゃないですか。商人たるもの、自分だけでなく相手も儲かるように交渉できてこそ一流。アシュがいなくともそのくらいどうってことありませんともっ!」
ジューネはアシュの挑発に乗ってそう力強く宣言してみせる。…………いや、挑発であることはジューネも分かっていただろう。それでも今の言葉の中には、何か譲れないものがあったのかもしれない。
「では改めて、これからの予定を立てたいと思います。
「そのくらいの時間はあるさ」
結局アシュさんは今日はこの屋敷に残ることになり、俺達はこれからの予定を話し合うことになった。
「まずですが、それぞれの目的から話し合いましょうか。まずはトキヒサさんから」
「俺? って言うか予定じゃなくて目的?」
いきなり話を振られたので自分を指差して確認すると、ジューネはうんうんと頷く。
「それぞれが
「……私達も?」
「はい。一応で良いですから」
ジューネはそう言ってこちらの方を見てくる。……目的か。最終目的はアンリエッタの課題である一億円分の額を稼ぐことだけど、それは言うべきかどうかちょっと悩む。
何と言うか、神様とかそこら辺の事情をジューネに話すと問題がありそうだ。下手に話したりはしないだろうけど、商人だから適正な価値を付ける相手にはバラしそうで怖い。……となると、
「さしあたって俺の目的はイザスタさんとの合流かな。……約束したんだ。必ずまた会うって」
あとイザスタさんがデートがどうとか言っていたような気もするけど…………そこはまあ会ってから考えよう。イザスタさんの性格からして俺をからかっただけかもしれないしな。
それとアシュさんが何やら困ったような顔をしている。会いたくないのだろうか?
「それに色々事情があって金を稼がないといけない。これからの生活費とかエプリに払う分とか……あと俺の魔法にも使うしな」
「なるほど。そのイザスタさんとの合流及び資金稼ぎと。……資金の方は問題ないのでは? トキヒサさんの持っている時計。私に任せてもらえれば、昨日も言ったように上手く皆が儲かるようにさばいて見せますよ?」
ジューネは昨日俺の腕時計が高値で売れるといっていた。嘘を吐くとは思えないし、実際に高く売れる可能性は高いのだろう。だけど、
「……いや。これは売らない。少なくとも本当にどうしようもなくなるまではな。お気に入りなんだ。……それに」
「それに?」
「毎回困ったら自分の物を売れば良いってだけだと、結局最後には何も残らないと思うからな。売り払うだけじゃなくて自分でも稼げなきゃいつかジリ貧になる。……だから売らない」
自分の愛着の有るものが無くなっていくのは少し寂しいしな。それに、下手に異世界の物を売り払って技術革新を引き起こすっていうのもマズいし。自分で金を最低限稼げるようにならないと。
「……そうですか。持ち主の許可が貰えないのでは仕方ありません。しかし気が変わったらいつでも言ってくださいね」
「気が変わったらな」
まだ未練たらたらのジューネにはそう言っておく。実際本当にどうしようもなくなったら売り払うからな。そうならないのが一番だけど。
「コホン。え~。話が逸れましたので戻しますが、トキヒサさんの目的は分かりました。次はエプリさん。如何ですか?」
今度はエプリの方に質問の矛先が向く。これは良い機会だからエプリの目的も聞いておきたいな。
「……別にこれといった目的は無いのだけど。と言うより……
予想以上に重い言葉が返ってきたよっ!! 本当にこの世界において混血の扱いは酷いらしい。そんな言葉が普通に出るくらいに。
「エプリさん……」
ジューネも心なしか表情が沈んでいる。この世界の住人であるジューネなら、俺よりも混血の扱いについて詳しいはずだ。それなのにこの言葉を予測できなかったことに自分を責めているのかもしれない。
アシュさんも同様だ。セプトもなんとなく悲しそうに……してるのかどうか無表情で分かりづらいな!
「……フッ。冗談よ」
じょ、冗談!? 唖然としているジューネ達の前で、突然エプリがニヤリと唇の端を吊り上げて悪戯が成功したかのように微笑む。
「……私も
「え、えぇ。理由までは。つまりはエプリさんも資金集めが目的と」
「……そうとってもらって構わないわ。今はトキヒサと護衛の契約を結んでいるけど、それも根本の理由は金を稼ぐため。…………幻滅した?」
「えっ!? 何で?」
最後の方の言葉は俺に向かって言ったようなので答えるが、何で俺が幻滅しなければならないんだ?
「理由はどうあれ助けてもらっているのは事実だろ? ならこれまでと変わらないじゃないか」
「…………そう。アナタはそういうヒトだったわね」
エプリが呆れたような、それでいてどこか笑っているような顔をする。何だかよく分からないが、俺は思ったことを言っているだけなんだけどな。
「じゃあエプリさんは金稼ぎをしつつトキヒサさんの護衛と。ふむふむ。……では次はセプトさんですね」
「……? 私は、トキヒサに従うだけだけど?」
「い、いえ。そうじゃなくて、セプトさんがやりたいことって何かないんですか? 奴隷の身分から解放されたいとか?」
あっ!? その話題はマズイ!
「……私は、生まれた時から奴隷。だから、奴隷じゃなくなったら、私は私じゃなくなる」
セプトはどこか強い口調でまっすぐジューネを見据えながら言った。魔力暴走の時もこんな感じだったからな。
「わ、分かりました。奴隷から解放されるつもりは今のところ無いと。それじゃあ他には何かないですか?」
「他? う~ん」
セプトが目を閉じて考え込む。なんだかこれは少し時間が掛かりそうだ。
時々こうやって目標を確認しないといけません。……そうじゃないと書いているこっちもうっかり忘れそうになるので。
今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?
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アンリエッタ
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エプリ
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ジューネ
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セプト
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(今はいないけど)イザスタ