異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第十三話 出所は女スパイと共に

「一緒に行くって……」

「看守ちゃんの出した待遇表を覚えてる? 出所は方法により金額は応相談ってあったでしょう。あれでトキヒサちゃんを堂々と出所させるわ」

「ちょ、ちょっと待ってください。あれは確か一日釈放されるだけで一万デンが必要なはずです。出所となったらそれはもうどのくらいの額になるか」

「そうねぇ。少なく見積もって大体五十万デンくらいかしら。方法によってはもっといくかもしれない」

「五十万デン……」

 

 日本円にして五百万。紛れもなく大金だ。とても今の俺では払いきれない。一年で一千万デンを稼ぐのはまだやりようがありそうだが、こっちは数日で五十万デン。こっちの方が難しい気がする。

 

「その代金。アタシが代わりに支払うわ。トキヒサちゃんがアタシと一緒に来てくれるなら……ねっ!」

「………………いくつか質問しても良いですか?」

「良いわよ。どうぞどうぞ。ただし、次に看守ちゃんが来るまでに結論を出してくれると助かるわぁ」

 

 イザスタさんは椅子に座ったまま、テーブルに肘を置いて軽く頬杖をつく。かなりくつろいだ体勢だ。

 

「じゃあまず、何で俺なんかを誘うんですか? 仮に五十万デンも出してもらっても返せるかどうか」

 

 まずはこれ。相手の目的が分からないのに適当に流れに身を任せると大抵後悔する。“相棒”に何度も言われていることだ。

 

「う~ん。加護持ちだし、見た目や性格もアタシ好みだし、トキヒサちゃんのことが気に入ったから……だけじゃダメ?」

「それでも良いんですが……やっぱダメです」

 

 俺のことが気に入ったという部分は、多分間違いではないのだろう。それなりに希望的観測が入っているが、少なくとも嫌ってはいないと思う。だが理由はおそらくそれだけじゃない。

 

 イザスタさんは少し目を閉じて考え込むと、やがてふぅ~と小さく溜め息をついて立ち上がった。

 

「まぁ秘密は女のアクセサリーとは言え、秘密ばかりじゃ信じてもらえないわよねん」

 

 そのまま彼女は牢の周囲に軽く目を走らせると、「少し周りを見張っててね」と言ってスライムを軽くポンッと叩いた。すると、スライムはそのままずるずると牢の入口に移動する。……完全に言うことを聞いている。

 

 そして彼女は椅子に座り直したかと思うと、

 

「ねぇ。トキヒサちゃん。先に聞いておくけど、トキヒサちゃんは『勇者』だったりする?」

 

 いきなり俺の手を両手で握りしめてそんなことを聞いてきた。

 

 

 

 

「イ、イザスタさん!? 一体何を!?」

 

 なんだなんだ!? いきなり手なんか握っちゃって!? これはあれか? よくTVとかで見られる脈拍を測る嘘発見法とかか? イザスタさんはけっこうな美人だから、急に手を握られて心臓の鼓動が少し速くなる。

 

 いや待てよ待てよ。今はそうじゃない。召喚に乗って来たという意味では俺も勇者と言えないこともないが、実際はおもいっきし遅刻してるしなぁ。それに全く別の何かかも知れないしどう答えたら良いのやら。

 

「…………その反応。やっぱりまるで無関係って訳じゃないみたいね」

 

 俺がドギマギして押し黙っていると、イザスタさんはそう言ってにんまりと悪戯っぽく笑った。この人絶対こういうこと慣れてると思う。これまで何人の男心をもてあそんできたというのか?

 

「スイマセン。その『勇者』っていうのがどうにも分からなくて、そこから教えてくれると助かります」

「良いわよん。簡単に言うと『勇者』とはこの国に伝わる言い伝えの登場人物なの」

「言い伝え?」

「そう。“異世界から『勇者』が現れて人々を救う”っていうもの。それだけなら大なり小なりどこの国にもある昔話なんだけど、それを本気で実現させようとした人達が居たのよ」

「昔話を……実現?」

 

 昔話と言うと桃太郎とか浦島太郎が浮かぶが、そういったものとはまた違うのだろうか? というか実現と言われてもピンとこない。

 

「しかもマズイことに、そんな人達の中には国の中枢にいる人も混じっていてね。それこそ国教の中にさりげなく言い伝えをミックスしたり、国の主導で召喚の方法を試行錯誤したりとドンドンやることが大げさになっていって」

「その流れからするともしかして……成功しちゃったと」

「そ。本当に成功しちゃったの」

 

 ヤレヤレと困った風にイザスタさんは肩をすくめる。

 

「当然周囲の国は大慌て。……まあ何年も失敗ばかりだった召喚が成功したんだから無理もないけど。さっそく『勇者』のことについて調べろってあちこちから調査員がこの国にやって来たの。で、アタシもそんなとある国に依頼された一人。一応依頼主までは口に出来ないんだけど、ここまでは良い?」

 

 俺はコクコクと頷いた。そうか。イザスタさんは女スパイだったのか。頭の中でイザスタさんがスーツでピストル片手にポーズを決める姿が浮かんできた。……うん。カッコいいじゃないか。

 

「話を戻すわね。勇者召喚が成功したのは情報によると十日前。アタシは王都に入って情報を集めている途中、色々あってここに入れられちゃったの。ただ、最初はさっさと出所しようと待遇アップも兼ねて看守ちゃんにお金を払ってたんだけど、意外にここの方が情報が集めやすいことに気がついたのよ」

「それはまた……何で?」

「ここは城の地下に有るからよ。城の外への情報は上手く漏れないようにしてあるみたいだけど、同じ城の中であれば話は別。それに一人二人ではなく何人も『勇者』はいるみたいだから、どうしたって世話をする人が必要になるわ。そういった所から少しずつ探ってるの」

「いや、それにしたってここにいながらどうやって情報を?」

「それなら簡単よ。看守ちゃんにお願いして『勇者』に関する噂話を集めてもらったの。噂話は案外真実に近いものも多いのよ。大分高い情報料だったけど、質はともかく量はかなり集まったわ」

 

 そう言えば、俺がここに来て二日目の朝食の時に何かイザスタさんに渡してたな…………ホント何やってんのあの看守!! というか本当に看守? もはや何でも屋みたいになってるぞ。

 

「もう何度か情報を集めてもらったら出発しようという時にトキヒサちゃんが来たの。そこから先は知ってるでしょうから割愛ね。話の経緯はこんなところかしら」

 

 そう言い終えると、イザスタさんはコップから軽く水を飲んで舌を湿らせる。

 

「え~と、その『勇者』のことは何となく分かってきたんですが、それで何で俺がその勇者だと思ったんですか?」

「いくつか根拠はあるわよん。まず第一にその加護。『勇者』はそれぞれ珍しい加護を持っていたという話だから、トキヒサちゃんのもそれじゃないかな~って」

「ただの偶然ってことはありませんか? 加護持ちは珍しいけど居ない訳じゃないはずです」

 

 これはイザスタさん本人から教わったことだが、加護は基本先天的なモノだ。そして産まれた時に持っている確率は大体千人に一人くらいらしく、加護持ちというだけで様々な場所からスカウトされることも多いという。それならたまたま偶然ってこともあり得なくは。

 

「普通の加護ならね。だけどトキヒサちゃんの加護は見たことも聞いたこともないわ。凄く便利だしね。次に二つ目。アナタがやけに世間知らずだった点。『勇者』は異世界から来るということだったから、こちらのことを知らなくても無理はないかなぁって」

「そ、その、生まれも育ちもここからメチャクチャ遠い場所なもので、それで色々と知らないことばっかりでして」

 

 嘘は言っていない。何せ世界が違うくらい遠いのだ。

 

「それにしたって限度があると思うけど……まあ良いわ。三つ目。アナタが見つかった場所と時間。この城は『勇者』が召喚されてから警戒が厳しくなっているの。そんな中に突然トキヒサちゃんが現れたって言うじゃない。何か関係があるんじゃって思うわよ」

「それは……」

 

 確かに怪しい。一つ一つはまだ偶然で押し通せるかもしれないが、その偶然がこうも続いてはそれはもう必然に近い。

 

「最後に四つ目。…………女の勘。一目見たときからなんとなくそんな気がしたの。アタシの勘はよく当たるのよん」

 

 イザスタさんはどこか得意気な顔でニッコリと微笑んだ。勘って……流石にそれは誤魔化せない。世の男の秘密を暴く最終兵器だ。女の勘恐るべし。

 

「仮にトキヒサちゃんが『勇者』だとすると、この国が予期しなかったイレギュラーの『勇者』ということになるわ。それならここで仲良くしておくのも悪くないかなぁって。とまぁ色々理由を並べてみたけど、納得してくれた?」

「……はい。一応は」

 

 何か適当な理由を並べ立てているだけかもしれないが、とりあえずは納得した。

 

 話の流れを整理すると、彼女はどこかの国の依頼を受けて『勇者』の情報を集めている。色々あってここに入れられたけど、いつでも出所出来る状態をキープしつつ牢の中でも情報集めは継続中。

 

 その途中で俺に出会い、俺が『勇者』ではないかという考えを持つ。だけど俺はこのままだと特別房に入れられてしまう。それは困るので大金を払ってでも助けたい。という感じだろうか? う~む。情報が足りないな。

 

「イザスタさんはさっき、明日『勇者』のお披露目を行うって聞いてから急に出所の準備を始めました。じゃあ俺に一緒に行ってほしいのって」

「そうよん。そのお披露目の場。そこでトキヒサちゃんに『勇者』達を見てもらって、何か気づいたことがあれば教えてほしいの。それから後はアタシは『勇者』に張りついて情報収集に入るけど、トキヒサちゃんには時々仕事で必要になった時に力を貸してもらう。それ以外は自由行動でかまわないわ。以上がアタシの提示する条件なんだけど……どう?」

 

 話だけ聞くと良い条件だ。どのみちここを出なければ話にならないし、イザスタさんに着いていくことでこっちの情報も集まるだろう。時々というのがどのくらいの頻度かは分からないが、それなりには自分の時間もとれそうだ。しかし、

 

「最後に一つ聞かせてください。今までのイザスタさんの話は全て、俺がその『勇者』だという前提があってのことじゃないですか。俺は自分が『勇者』かどうかも分からない。それでも助けてくれるんですか?」

 

 正直な話、勇者召喚に割り込んだ俺は正式な『勇者』ではないと思う。これは能力を得たとしても変わらない。イザスタさんが『勇者』という点だけを評価しているなら、この話は断るのが筋だろう。イザスタさんの答えを、俺はほんの少し身構えて待つ。

 

「えっ!? 助けるけど?」

 

 イザスタさんの答えはひどく軽いものだった。何を迷う必要があるのってくらいの即答だ。

 

「言ったでしょう。トキヒサちゃんのことが気に入ったって。もし『勇者』だってアタシの勘が外れていたとしても、どのみちアタシ好みの子が一人助かるのだから結果として万々歳なのよねぇ。どっちに転んでも損はしないんだから助けるに決まってるじゃない」

 

 多分イザスタさんは良い人だ。それはここまでの言動から見てまず間違いない。これで中身が腹黒だったらアカデミー賞ものの女優だと思う。その人が俺に一緒に来てほしいと言っている。しかも自分が気に入ったからという理由で大金を払ってまで。となれば、

 

「………………参ったなぁ。そう言われちゃうと断る理由がないですよ」

 

 俺は承諾の意味を込めて握手しようと手を伸ばした。そしてイザスタさんは、

 

「引き受けてくれるのね!! ありがとうっ!!」

 

 握手……ではなく熱烈なハグ、抱きつきを敢行してきたのだ。

 

 俺の身長は一般男子高校生の平均よりはちょ~~っとだけ下じゃないかなぁと思わなくもない一五?センチ。対するイザスタさんは一七〇くらいの長身に、それに応じたかなり大きめの胸を持っている。当然俺の顔がイザスタさんの胸に押し付けられる感じになり、

 

「ちょっ!? く、苦し……息が」

「いやぁほんっとアリガトねぇ。やっぱり一緒に行くなら能力とかも大事だけど、自分が気に入るかどうかが一番だと思うのよ。ウンウン」

 

 一人納得してないで早く気づいてくださいよ!! その一緒にいく人が只今絶賛呼吸困難中ですって!! 世の大半の男性と一部の女性からしたら非常に羨ましいかもしれないが、個人的に言えば命の危険を感じる大ピンチ。そんな状況ではあるが、俺はこうして心強い(?)お姉さんと一緒に出所することを選んだ。

 

 

 

 

 …………選んでしまったのだ。

うちのイザスタさんはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • これはヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
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