「え~。皆さん。皆さんの目的をまとめた結果、一言で表すなら…………
「そうだな」
「……えぇ」
「まあ金は無いよりある方が人探しは楽になるな」
それぞれ思うように返事をする。セプトは目的を見つけることが目的という何だかよく分からないことになっているが、一応こちらの話には耳を傾けているようだ。
「ではそれを踏まえて、まずこの町でやることを挙げていきましょう。一つ目はセプトさんの治療。これには少なくとも七日はかかるとのこと。万が一器具が不具合を起こした時のためにも、その間はこの町に留まる必要があります」
それはそうだ。信用していないという事ではないけれど、物事に絶対はない。不具合が起きはしないだろうけど念のためにというやつだ。
「二つ目は私の商談。今日行うものですが、これも場合によっては数日に渡ってしまう可能性があります。……このことにつきましては、アシュの言う通りトキヒサさん達に同行してもらえると助かります」
「それは任せてくれ。俺じゃああまり役に立たないかもだけど、エプリとセプトがいるから護衛としてはばっちりだ。……ボジョだってついてるしな」
「……そうね。……護衛対象が増えるのはあまり気乗りしないのだけど、単純な戦力だけならそれなりのものでしょうね」
エプリはやや顔をしかめたが、出来ないとは言わなかった。仕事上難しいと判断したらハッキリと言うから、おそらく問題ないという事なのだろう。
セプトも何も言わずにこっくりと頷く。ボジョは……俺の頭を触手で撫でながら、さらに触手を一つ伸ばして了承したように上下に振っている。忘れてないから大丈夫だぞ。
「ありがとうございます。それでやることの三つ目ですが、ドレファス都市長の頼み事であるヒース・ライネルの鍛錬、及び彼のことを調べることです。鍛錬に関してはアシュのこれからの話し合いで期間などが決められるので何とも言えませんね」
この言葉と共にジューネが視線をアシュさんの方に向ける。その視線に気づいたアシュさんは、軽く前に出て説明を引き継ぐ。
「まあこちらも少なくとも数日くらいはかかると見た方が良いな。下手すると十日ぐらいはかかるかもしれない。鍛錬の方はそれで良いとして、その間ちょこちょこ鍛錬を見に来るという口実でヒースに近づくのか?」
「そうなります。今日は商談を優先しますが、明日からでもさっそく行動ですね」
半ば前払いで、屋敷に客人扱いで泊めてもらってるもんな。それとは別に成功報酬もあるみたいだし、これもきっちりこなさないとな。
それと都市長との細かい交渉はジューネがということだったけど、そこら辺はどういう風になったのだろうか? これは後で聞いておこう。今はこの町でやることの確認だ。
「ひとまずはこんなところでしょうか。これらが当面やることですが、まとめるとどれもそれなりに時間が掛かるものです。……それぞれの資金集めについても後で話すとして、他にやることや質問がある方はいますか?」
う~ん。この町でひとまずやることは大体分かった。後はその間いかに金を稼ぐかだけど、そこはやはりジューネに同行する道すがら町の様子をじかに見てみないとな。何が金儲けのヒントになるか分からないから。
……初めての異世界の町を観光したいという気持ちももちろんあるが。
「……ところで一つ気になったのだけど、ジューネの商談と言うのは誰とのものなの?」
「そういえば相手を聞いていなかったな。一体どんな人なんだ?」
ナイスだエプリ。もしおっかない人だったら事前の覚悟がいるからな。こういうのは先に聞いておいた方が良い。
「今日の商談の相手は三人です。それぞれ立場も居場所も違うのですが、どれも重要な商談であることに変わりはありません。ここで話すと長くなるので、それぞれのことは移動中に話すとしましょう」
まあ町を見ながら話をする時間くらいはあるか。じゃあ今は聞かないでおこう。
「……ふぅ。大まかな内容としてはこんな所じゃないかしら」
一通りこれからの方針を話し終え、誰ともなく軽く息を吐く。意外に内容の濃い話し合いだったな。いつの間にか三十分近くは経っているぞ。
「じゃあそろそろ俺も行くとするか。今から行けばヒースの鍛錬についての話し合いにも丁度良い頃合いだろう」
話し合いが終わるのを見計らい、アシュさんがゆっくりと席を立つ。
「はい。……ヒースさんのことはお願いしますね」
「おうよ。そっちもしっかりな」
背を向けるアシュさんに対してジューネが声をかけると、アシュさんも振り返って二カリと笑いながらそう返した。これだけでもこの二人が良いコンビだというのが分かるな。
「……さて、それじゃあ私達も出発しましょうか。一人目の商談相手が待っています」
アシュさんが行ったのを見送ると、ジューネはそう言って出発の準備を始める。いつもの大きなリュックサックを背負い、服装に乱れは無いか身だしなみを確認。どんな相手だか知らないが、俺達も身だしなみは整えておかないとな。
そうして全員の用意が出来ると、俺達は連れ立って屋敷の入口に向かう。……のだが、
「……あっ!? すっかり忘れてたけど、どうやって商談相手の所に行くんだ? もう馬車は無いんだぞ」
昨日使っていた馬車は調査隊の物。ラニーさんが乗っていってしまった以上もう使えない。もしかして歩いていくのだろうか? ……観光には良さそうだが、商談前に体力を使うのもなんだかな。
「フフッ。その点はご心配なく。ちゃ~んと用意は出来ていますとも」
俺の言葉にジューネは何やら含みのある笑みを浮かべる。代わりの馬車でも用意しているのだろうか? よく分からないまま屋敷の入口に出る俺達。するとそこには…………
「メエェ~」
「これは…………羊か?」
鳴き声は羊のようだが、その見た目からそう思うまで少し間が出来た。大きさは小型のバスくらい。全身モフモフの白い毛で覆われ、僅かに覗くクルクルの角が生えた頭と四本のひづめから何とか羊だと推測する。
しかしそれは近づかなければ見ることが出来ず、遠目から見たらまるで空に浮かぶフワフワの雲のようだ。
「……クラウドシープなんてよく用意出来たわね」
「エプリ。これが何だか知っているのか?」
このフワフワのデカい雲羊のことを知っているようなのでちょっと聞いてみよう。
「……クラウドシープ。上級指定のモンスターの一種よ。……気性こそおとなしいけど、体を覆う体毛は下手な武器では突破できないほどの防御力を誇る。その上簡単な魔法なら弾いてしまうの」
この雲羊がねぇ。こんなモッコモコでつぶらな瞳。頭から生えたクルリと巻いた角も意外に可愛らしいのだけど、そんな凄いモンスターとは。にわかには信じられない。
セプトなんかこのモッフモフの肌触りが気に入ったようで、さっきからずっとモフモフしているぞ。微妙に嬉しそうだ。
「都市長からこの町に滞在中の足として使うよう用意されたモンスターです。これに乗っていきますよ」
「これに乗っていくって……どうやって?」
見たところ掴まるような鞍も何もない。それなりに大きいから飛び乗るというのも大変そうだ。
「こうやって……です」
するとジューネは軽く雲羊の頭を撫でたかと思うと、なんと毛の中に両腕を突っ込んだ。すぐに止まるかと思いきやそのままドンドン沈んでいき、遂には身体がすっぽりと入ってしまう。
そして少し経つと、今度は毛皮の上の方から顔を出す。一体どうなってんだ!?
「クラウドシープの体毛は少しずつ力を加えると柔らかくなり、一気に力を加えると固くなるんです。だからこうやって
「……テイムされたクラウドシープは要人警護にも使われることがあるほどよ。……毛の中に入ってしまえばそう簡単には突破できないもの」
聞けば聞くほどビックリな羊だ。しかしなるほど。毛の中に潜り込めば良いのか。
「あ~その、羊くん。俺もちょっと入らせてもらって良いかい?」
急に入って機嫌を悪くしないよう、さっきのジューネと同じように軽く頭を撫でながら聞く。
「メエェ~!」
すると雲羊は一声鳴き、こちらの方に体を寄せてきた。どうやら大丈夫らしい。俺も意を決してゆっくりと手を押し当てる。
モフモフの触感。そのまま力を少しずつ込めていくと、ズブズブと手が沈み込んでいく。
そして手首、肘、二の腕と入っていくのだが、手を伸ばしても本体らしきものに触れる気配がない。実に不思議だ。そして俺の頭まですっぽり入ってしまう。
……羊毛なのでやはり暖かい。全身を高級な布団にくるまれているみたいだ。意外に息もそんなに苦しくなく、そのままジューネのように上へ上へと毛をかき分けていく。
「…………よっと!」
そのままこっちも顔だけ外に出す。……すぐ隣にジューネの顔があったので一瞬ドキッとするが、向こうはそんなに気にしていないようなのでこちらも気持ちを落ち着かせる。
「それにしても……これは良いや」
乗り心地は結構快適だし、エプリの言葉によると防御力もバッチリ。こんなすごい雲羊を貸してくれるなんて、ドレファス都市長も太っ腹だ。
「さあ。皆さんクラウドシープに乗り込んで! 全員乗り込んだら出発しますよ!」
ジューネの言葉にセプトやエプリもゆっくりと毛に潜り込んでいく。いよいよ出発だ。……それにしても、一体ジューネの商談相手はどんな人なんだろうか?
デカい羊さんです。フワフワモフモフは正義です。……異論は受け付けます。
今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?
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アンリエッタ
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エプリ
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ジューネ
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セプト
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(今はいないけど)イザスタ