異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百十八話 二人目はもろに……

 

「着きましたよ」

「おっ! おおおおおっ!?」

 

 雲羊から降りて辿り着いた場所を見て、俺はついつい驚きと感動の声を上げてしまう。

 

 この町の大部分の建物と同じく石造り。しかしその大きさは都市長の屋敷に匹敵し、今も様々な人達が出入りしている。

 

 その顔ぶれは十人十色。あのやけに耳の長くて金髪の美形はエルフかな? それとやたら髭もじゃでずんぐりむっくりしたおじさんはドワーフだろうか?

 

 ヒト種がいるのは当然として、明らかにそれ以外の種族もチラホラと見える。それもそうだろう。ここは俺が異世界に来たら行ってみたいと思っていた場所の一つ。

 

 異世界物の話において、その登場頻度はおそらく王城や冒険者ギルドに迫るものであり、場合によっては上回るであろう場所。

 

「…………あまり来ることはなかったけど、相変わらずヒトが多いわね」

「私は初めて。ヒト種以外も、たくさん」

 

 エプリは以前も来たことがあったようだが、少し目を細めて顔をしかめている。人混みとか苦手そうだもんな。セプトは初めてらしく目を輝かせているな。俺と同じだ。

 

「ふふんっ! そうでしょう! ここはいつもヒトの出入りが途絶えることなく、物と金の流れもまた然り。年齢性別種族を問わず、金を稼ぐという共通するただ一つの望みを持つ者達の集う場所」

 

 ジューネはいつにもなく芝居がかった態度で両手を広げながら語る。それもそうだろう。ここはジューネのような商人にとっての言わばホームグラウンドなのだから。

 

「正式名称は国家間総合商人互助組合。またの名を……商人ギルドノービス支部へようこそ!」

 

 ジューネはそう言うと優雅な仕草で一礼する。遂に来たぜ商人ギルド。金を稼ぎたい俺からすればある意味冒険者ギルドよりも重要だからな。ここで金稼ぎの手掛かりでも見つけたいところだ。

 

 ……まあ周りには海千山千の商人がゴロゴロしている訳だから、気を付けないと逆に諸々ぶんどられるかもしれないけどな。

 

 

 

 

 中に入ると、そこはいくつもの受付に分かれていた。それぞれの受付には人の列が出来ていて、担当の人と先頭の人がそれぞれ何か話している。どうやら目的に応じて決まった受付に行くみたいだ。

 

 ……区役所とか市役所を思い出すな。受付の文字がなんて書いてあるか分かれば良いんだけど。

 

「私達はこの受付です。少し並んで待つとしましょう」

 

 ジューネは迷うことなく端っこの受付に並ぶので、俺達も一緒に並ぶことに。前には数人ほどなのですぐに済むだろう。

 

「なぁジューネ。そのネッツさんって言うのはどんな人なんだ? ここの職員だというのは聞いたけど」

 

 並んで待つ間に、俺は次の商談相手について詳しく聞くことにした。先ほどここに来る途中では、ネッツという名前と簡単なプロフィールしか結局聞けなかったからな。

 

「ネッツさんは……そうですね。この支部において物の仕入れを担当している職員の一人です。今回の商談では商品の補充について交渉します。ここしばらくダンジョンに潜ったり調査隊の方々に売ったりと、品ぞろえが自慢の我が商品も在庫が少々心許なくなってきましたからね」

 

 考えてみれば、ダンジョンでは俺やエプリに数日分の食料や衣類を売ってくれたし、それまでにアシュさんと二人で何日もダンジョンに潜っていたらしい。

 

 ダンジョンから出た後も調査隊の人達とも商売をしていたようだし、補充なしなら品ぞろえが減ってきても当然か。……むしろ個人でそれだけを持ち歩けるのが凄いというか。

 

「……でも、単に物資の補給だけなら都市長にでも頼めば良いんじゃない? 滞在中の物資くらいならすぐに準備してくれるでしょう?」

「そう。確かにこの町にいる間ぐらいならそれで十分でしょう。しかし()()()()のことも考えると、事前にこちらでも物資は用意した方が良いです」

 

 エプリの疑問にジューネも冷静に返す。そうだよな。ずっとこの町に居る訳にはいかないし、俺も早いところ手元にある呪い付きの指輪を解呪しないといけない。

 

 そう言えばその解呪できる人の居場所は分かったんだろうか? アシュさんは時間が経てば分かるといっていたけど。

 

「あとはまあ付き合いという事もありますね。ネッツさんとは商品の仕入れで何度か世話になっていますし、商品も品質は保証します。……これはエプリさん風に言えば当然のことかもしれませんが」

 

 最後のは以前エプリに高価な転移珠をタダにされた時の皮肉だろう。と言っても商人からすれば軽いジャブ程度のこと。エプリも大して気にすることもなく、そのまま列は進んでいく。

 

 そしていよいよ俺達の番になり、ジューネが受付に座っている受付嬢の前に立った。

 

「すみません。ネッツさんと約束のあるジューネという者ですが」

「ジューネ様ですね。確認しますので少々お待ちを」」

 

 さっそく受付の女性に話をすると、女性は何やら手元の紙をめくっている。どうやら本当に約束が入っているか確かめているみたいだ。

 

「……確認出来ました。ようこそジューネ様。ネッツさんなら奥で作業をしております。すぐにお呼びしますのでもうしばらくお待ちを」

 

 受付嬢はそう言うと、受付に何か文字の書かれた板を置いてその場を離れる。エプリに聞いてみると板には『ただいま席を外しております。御用の方はしばらくお待ちください』と書いてあるらしい。本当に役所みたいだな。

 

 幸いというか何というか、そのまま俺達の後ろには誰も並ばないまま数分が経つ。どうやらこの受付はあまり人気がないみたいだ。

 

「この受付はあんまり人が来ないな。他の受付は結構にぎわっているのに」

「ここは担当の誰かを予約指名する受付ですからね。何度か取引をしている常連でないとあまり使いません」

 

 常連御用達の受付か。ジューネもさっき何度も世話になっているって言ってたし、そういう事ならこっちに並ぶのが正しいのか。

 

「……それにしても、ここも随分と騒がしいわね。以前見た冒険者ギルドにも劣らない」

 

 ジューネがそう言って僅かに顔をしかめながら辺りを見渡す。確かに周囲は中々にやかましい。ジューネとヌッタ子爵の商談を見ても分かるように、()()()()()()()

 

 静かなものもあるにはあるが、大抵は声を張り上げ自身の品の良さを宣伝し、相手の不安や心配をかき消して買っても良いという気にさせるのが基本戦術。

 

 見れば客が受付の人と話すだけではなく、列に並んでいる者同士でも何やら話に熱が入っているようだ。

 

「どこにどんな情報があるか分かりませんからね。並んで待っている間も情報収集は基本です。ここの受付には私達以外は並ばなかったので私はしませんでしたが」

 

 ジューネは平然とした態度で言う。どうやらこれがここでは平常運転らしい。これじゃあ冒険者も商人も変わらないな。隣の列の人達なんか特に話に熱が入って……。

 

「っ!? ジューネ後ろっ!?」

「えっ!?」

 

 突然隣の列の若い男性が一人、ジューネに向けて倒れこんできた。その方向を見ると、顔を真っ赤にした男の人が両手を前に出した状態だ。

 

 何が有ったか知らないが、どうやら怒りに任せて相手を突き飛ばしたみたいだ……なんて冷静に考えている場合じゃない! 

 

 ジューネは完全に後ろを向いていて、俺の言葉に振り向くも男の人は目前に迫っていた。このままではぶつかってしまう。俺は慌てて駆け寄ろうとして……すぐにその心配はないことに気が付いた。

 

「“強風(ハイウィンド)”」

 

 素早く状況を察知したエプリが、風を下から上に吹き上げることで倒れこんでくる人を浮かせたのだ。倒れこんできた人は何が何やら分からず目を白黒させている。

 

 ちなみによく見ると、セプトの足元の影が微妙に蠢いていた。セプトも何らかの備えをしてくれていたらしい。……俺本格的に要らなくない?

 

「あ、ありがとうございます」

 

 助けられたのが分かったのか、倒れかけた人がエプリに礼を言う。エプリは気にしないでと一言だけ返して押し黙り、ジューネもほっと一息つくと突き飛ばした相手を見据える。

 

「危ないじゃないですか! こんな所で」

「ふんっ! そいつが悪いんだ。俺はただここいらで簡単に儲けられそうな場所か仕事はねえか? と聞いただけなのによ。貴方のようなヒトが簡単に儲けるのは難しいなんてってぬかしやがるから」

 

 突き飛ばした男は赤い顔をしてそうわめく。ふと鼻にアルコール臭がした。どうやら目の前の奴は怒りでというよりも酔っぱらって顔が赤いみたいだ。

 

「そんなの当たり前ですっ! ここは商談のための場所。こんな昼間から酔っぱらっているようなヒトを誰が相手にしますか」

 

 もっともだ。交渉相手と軽く食事して酒を飲むってことはまだあるかもしれないが、それにしたってこんなになるまで飲む時点で交渉も何もあったもんじゃない。

 

 今のジューネはどちらかと言うと、ぶつかりそうになったことよりも相手の商人としてのだらしなさに憤慨している気がする。

 

 いつの間にかこの男を周りの人が遠巻きにし、何だコイツはと言う感じの冷たい視線を向けている。しかし男は気付く様子もなく、そのままジューネを睨みつけている。

 

「どうしても儲けたいと言うなら、まずその酔いを醒まして万全の態勢を整えてからここに来ればいいでしょう。その程度の労力を惜しんでいる時点で、簡単に儲けるなんて無理な話だと分かりなさいっ!!」

「……っ!? このガキがっ!」

 

 相手は今度こそ怒りで顔を真っ赤にしてジューネに掴みかかろうとする。今度こそ俺の出番だと前に出ようとしたその時、

 

「何の騒ぎですかねぇ」

 

 そんなのほほんとした声が割って入ってきた。決して大きな声ではないのに、その声を聞いただけで周囲のざわめきが少し小さくなる。何事かとその声のした方向に目をやれば、

 

「……キ、キツネ?」

 

 そこに現れたのは、黄色と茶色の毛並みを持つ一匹のキツネだった。しかし明らかにただのキツネではない。

 

 普通のキツネは着流しのような服を着たりしないし、頭に帽子を乗っけたり小さな丸眼鏡をかけたりもしない。ましてや二足歩行もしないだろう。これはもしや獣人というやつだろうか? よく見たら骨格とか顔の形もやや人っぽいし。

 

 キツネの獣人が来ると集まっていた人達がすぐに道を空ける。そうしてそのままホタホタという擬音が似合いそうな足取りでこちらにやってきた。

 

 急に現れたこの人を見て、掴みかかろうとしていた男も何事かと動きを止めている。

 

「これはこれは。お久しぶりですねぇジューネさん。元気にしてましたか?」

「お久しぶりですネッツさん!」

 

 ネッツ!? この人がジューネの商談相手なのか!? いくら一人目が何処かタヌキみたいな雰囲気のヌッタ子爵だったからって、二人目でもろキツネが来ることはないだろうに! どうなっちゃうんだこの展開!?

 




 タヌキが出たならキツネも居る……という訳で登場しました。

 まあ別に仲が悪いとかはないんですけどね。

今の所同行者の中でヒロイン力が高いのは誰か?

  • アンリエッタ
  • エプリ
  • ジューネ
  • セプト
  • (今はいないけど)イザスタ
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