異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百二十六話 一円玉の底力

 

「ふ~~む」

 

 ジューネは一円玉を見ながら難しい顔をする。それもそうだろう。儲け話と聞いたらいきなりこんなものを見せられたのだ。困惑しているのかもしれない。

 

「……どう言ったら良いのか。なにしろ初めて見る品ですからね。この……」

「一円玉だ」

「はい。このイチエンダマですが、これはどういった用途で使われる物なんですか?」

「いや、だから見たまんま硬貨だって」

 

 そう言うとジューネは再び悩み始める。何かおかしなことでも言ったかな?

 

「いえ。最初は硬貨かなと私も思ったんですが、よくよく見れば非常に細かい造形ですし、ただの硬貨にしては芸術性がやたら高いというか」

 

 そこっ!? まあ確かに流石ジャパンクオリティーと言うか、やたら細かいところにこだわる国民性が硬貨にもろに出てしまったと言うか。

 

 一円玉なんてある意味その極みとも言える。なにしろ実は造る度に赤字になっているぐらいなのだ。

 

「どれどれ。俺にも見せてみな。……ほう。なるほどねぇ。こいつはよく出来てるな」

「よく出来ているどころじゃないですよアシュっ! 何かの植物の葉を模ったこの精密な彫り。意味は分かりませんが紋様のようなものも彫ってありますし、仮に硬貨だとしても相当な価値のある硬貨だと見ました」

 

 言いづらいなぁ。それ日本国硬貨で一番価値の低い奴なんだけど。ジューネが真剣に考察している中、俺はちょっと申し訳なく思う。

 

「ま、まあ硬貨云々は今は置いておいてくれ。どうせここらじゃ硬貨としての価値はあってないようなものだしな。今見てもらいたいのは……()()()()()()()()()

「素材として……ですか」

 

 ジューネが不思議そうな顔をして一円玉を見つめる。そう。別に一円玉を一円のままで売ろうなんて思ってはいない。硬貨としては一円にしかならなくても、素材としてはまた別だろう。

 

 今日までこの町を見て回っていくつか気付いたことを挙げると、まずこのノービスは基本石材を多く使っている。

 

 例えば建物や道路の大半は石造りで、次に多いのが木材だ。他にも鉄などの金属類も使われてはいるのだが、石材や木材に比べると相当少なかった。

 

 石材や木材が多いのは近くに森なり石切り場なりがあるからだとして、じゃあ金属類が少ないのは何故だ? 近くに鉱脈が無いからか? そんなことをつらつら考えていると、ふとこれは儲け話に使えるのではないかと頭をよぎった。

 

 つまり『万物換金』の加護で適当な硬貨を大量に出し、それを金属の素材として売りさばけるのではないかという考えだ。

 

 ちなみに一円玉にしたのは単にコストパフォーマンスが最も高いため。仮に失敗したとしても元の単価は安いので、損害はほとんど発生しないというのも魅力だ。

 

 さて。どうなるか。ざっと町を見た限り一度も見かけなかったし、それなりにここら辺では珍しい方だと高く売れそうなんだが。

 

 最悪ダメだった場合は次は十円玉でも用意してもみるか? だけど確か日本の十円玉って銅以外にも色々混ざってるって話だしな。そう色々考えながら固唾を飲んで見守るのだが、

 

「…………困りました。素材としても初めて見ますね」

 

 えっ!? ジューネはそんなことを言いだした。嘘だろっ!?

 

「そのぉ。アルミニウムって金属なんだけど、ここらへんじゃ使われてないか? 俺の故郷じゃわりと良く使われている金属なんだけど」

「少なくともこの町や近くの交易都市では見たことがありませんね。私が商人として未熟であるという事を差し引いても、相当珍しい金属じゃないでしょうか?」

 

 本当かと言う風にエプリとセプトの方を見ると、二人ともうんうんと頷いている。……しまったあぁぁっ!! 俺としたことがコストパフォーマンスのことばかり気にして、そもそもこっちにない場合のことを考えてなかった。

 

 昨日たっぷり二人に聞く機会はあったのに、うっかりしてた俺のバカバカバカ。数が少ないならともかく、無いんじゃあ値段のつけようがないじゃないか。心中で自分のことを殴りつけながら俺はがっくりと膝をつく。

 

「ちょっ!? 大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとうジューネ。ちょっと予定が狂って力が抜けただけだから気にしないでくれ。セプトも大丈夫だから」

 

 俺が膝をついたのを見て、ジューネとセプトが駆け寄ってきた。エプリはいつものように壁に背を預けながら額に手を当てている。まいった。呆れられてるみたいだ。アシュさんは……なにやら難しい顔をしているな。

 

「それはそうでしょう。私だってこんな品が出るとは思いもしませんでした」

 

 そうだよなぁ。これじゃあ売れないよな。何せ情報の一切無いものだ。そんな危なっかしいものを取引するなんて物好きは……。

 

「こんな…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………はいっ!?

 

「いや。俺が言うのもなんだけど、ジューネくらいの奴がこれ見たことないんだろ? つまりここら辺では一切無いってことだ。一切の前情報のない品なんてよく扱えるな」

「いえいえ。だってこれはトキヒサさんの故郷でよく使われている品なのでしょう? ならばそこまで危険ってことも無いでしょうし、トキヒサさんから性質なり何なりを聞けば良いだけの話じゃないですか。……それに」

「それに?」

 

 そこでジューネは一度言葉を切ると、目をキラキラさせて俺の顔を見つめた。

 

「初めてという事は、この品に自分達で適正価格を考え、付けていくということ。これほど心躍ることはそうはありませんよっ! ああどうしましょう。胸が高鳴りますねぇ」

 

 そうだった。ジューネはこういう奴だった。多少の危険を踏まえた上で、それでもなお儲け話に手を伸ばす根っからの商人だった。ここで安全策をとるような奴ならダンジョンにたった二人で潜るなんてことはしないもんな。

 

 何やら予想外の展開になってきたが、これはこれでオッケー……なのだろうか?

 

 

 

 

「フムフムなるほど。おおよそですが理解しました」

「り、理解してくれて助かるよ」

 

 それから二十分ほど、俺はジューネから根掘り葉掘り一円玉、というよりアルミニウムという金属についての質問攻めにあった。

 

 と言っても俺も滅茶苦茶詳しいってわけではないので、あくまで俺が教えられる一般常識的なもののみだったが。

 

「話を聞く限りでの特徴は、金属にしては軽く、そして比較的細工がしやすいという点ですね。まあ加工という点では本職の方に確認をとらないと何とも言えませんが」

「そうか。……それで、ジューネの目から見てこれは売れそうかな?」

「……そうですね」

 

 そう言うとジューネは目を閉じて少し考えこむ。

 

「…………素材としては良いと思います。何しろ未知の金属ですからね。商人ギルドに持ち込むにしても個人的に誰かに売り込むにしても、欲しがる者は多いでしょう。ですがいくつか問題があります」

「問題……と言うと?」

「まず一つ。出所の問題です。こちらはトキヒサさんの故郷で使われているもの。だけどトキヒサさんはあまりその辺りのことは明かしたくないのですよね? 先ほどのことから察すると」

 

 これはさっきの話し合いの中で話題になったのだが、流石に異世界のことはあんまり言いふらすわけにもいかず適当にお茶を濁すことにしたのだ。

 

 無論いざとなったら話すつもりだったが、ジューネもそこはあまり突っつかないでいてくれたので助かった。

 

「ああ。どうしても必要なら仕方がないけど、出来れば話したくない」

「何かさらなる儲け話の気配がプンプンするのですが……まあ良いでしょう。となるとこの品はどうやって手に入れたかという事になりますが」

「…………いっそのこと、ダンジョンの中で手に入れたとでも言えば良いんじゃない?」

 

 ここでエプリからの掩護射撃。何だ? 基本話し合いに口は出さないと言っていたが、良いアイデアを出してくれるじゃないか。

 

「そうかその手があったな。ダンジョンで新種の金属が出たとでも言えば何とか誤魔化せるんじゃないか?」

「……本気? 冗談で言っただけなのだけど」

 

 何故か言い出しっぺのエプリが驚いているが、ジューネは結構真剣な顔をしてこの提案を考えている。

 

「となると調査隊の皆さん。ひいてはドレファス都市長にも話を付ける必要がありますね。大分大掛かりになりますが、まあそこは何とかなりそうです」

 

 どうやら無事に済みそうだ。そう安堵しかけた時、

 

「ですが、まだもう一つ肝心な問題が残っています」

「もう一つ?」

 

 ジューネが真面目な顔をして再び俺の目を見据える。まだ何か凄い問題があるのか?

 

()()()()()()()()()()()。これだけでは新素材が見つかったという証明にはなっても、これそのもので交渉と言うのは難しいと思います」

 

 量か。確かに一円玉一枚くらいじゃどうにもならないよな。だったら、

 

「じゃあ大体どのくらいあれば交渉になりそうだ?」

「そうですね。……まあ素材としてみるなら同じものがざっと千枚もあればひとまずの交渉くらいは」

「千枚か。そのくらいで済むならお安い御用だ」

 

 俺は空間から貯金箱を取り出すと、通貨設定を日本円の一円玉に変更して通貨引き出しのボタンを押す。すると、

 

「…………なっ!?」

「これは以前ジューネには話したよな。俺の『万物換金』の加護は自分の物を金に換えられる。そしてこの一円玉は俺の故郷の硬貨。つまり金だ。なのでこの通り。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って訳だ」

 

 俺とジューネの間にあるテーブルには、一円玉がちょっとした山を作っていた。ちなみに枚数は奮発して二千枚。といっても二千円、こっちで言うと二百デンなのでそこまで凄い出費ではないのだが。

 

「出そうと思えばまだまだ出せる。……これでいけるか?」

 

 ジューネは一円玉を数枚手に取り、それぞれが本物であることを確認すると、無言でグッと拳を握りしめながら笑った。……答えはそれだけで十分だ。

 




 身近なものでも意外と知らないことってありますよね。時久もジューネに話せたのは大まかな特性だけです。化学式とかは言っても……ね。

 交渉はまだまだこれから。どうなりますことやら。

これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?

  • 金稼ぎ
  • バトル
  • 人間関係
  • 冒険
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