異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百三十一話 気になる相手にペアリングを

 

 自分でまともに動けないくらいにボロボロなヒースをひとまず壁沿いの影になっている場所に運び、俺達はしばらく休むことに。鍛錬の後の運び要員としても呼ばれたかなこりゃ。

 

「よし。さっき近くにいたメイドに頼んで薬師を呼びに行ってもらったから、それまでここで休んでいるとするか。ラニーではないからヒースはがっかりするかもしれんが」

 

 ヒースは明らかにラニーさんのことが気になっているみたいだもんな。あれだけ熱烈なアプローチもさらりとラニーさんはスルーしていたが。

 

「しかしアシュさん。休むったってこれからの予定とかはないんですか?」

 

 ちなみに今の時間は朝の九時前。朝食の後すぐに呼ばれてそのまま鍛錬に突入したので昼食までまだ大分時間がある。

 

 午前中はセプトの魔力消費に付き合ったり、エプリとの打ち合わせの時間に回すつもりだけど、アシュさん達はどうするんだろうか?

 

「そうだな。ヒースに関して言えばまだまだ予定が目白押しだ。これでも都市長の息子だからな。勉強だって鍛錬だってしっかり時間が決められている。まあこんな感じに思いっきり体を動かして回復させるまでの時間も込みで貰ってるから、もうしばらくはこのまま休んでてもいいだろう」

 

 なんだかなぁ。ヒースの第一印象はいきなりラニーさんを口説きだすナンパ男だったけど、こうして聞くと少しずつ変わってくるな。

 

「アシュ。ヒース様に関してはそれで良いかもしれませんが、こっちはまだいくつかやることがありますからね。忘れないでくださいよ」

「分かってるって。後でそっちも付き合うさ。それが終わったらトキヒサの件と……どうにも忙しいな」

「忙しいという事はそれだけ儲け話があるってことですよ。稼げるうちに稼がないと後悔しますからね」

 

 こっちの方も手伝ってもらってホント申し訳ない。そう思いながら二人の言い合いを眺めていると、ヒースがうぅっと呻き声を上げながら身体を起こした。

 

 まだダメージが残ってるみたいだ。俺の石貨は直撃していないはずだけど、さんざんアシュさんに木剣で打ち据えられたからな。

 

「大丈夫か? 怪我が残らないように加減したが、薬師を呼んでおいたので念のためにあとで診てもらうと良い」

「は、はい。先生。……と言っても今はラニーはいないんだけどな」

 

 後の方はポツリと呟くような感じだったので聞き取りづらかったが、アシュさんの予想通りの言葉を言っているな。……っと、こうしちゃいられない。

 

「はいはい。まだ安静にしていなさいよっと。……エプリ。アシュさんとヒースに“微風”で軽く風を起こして涼ませてくれ。セプトは見える範囲で良いから剣が当たって痣になっていないか確認。薬師の人が来るまでに場所くらいは把握しておこう。ジューネは痣に効く薬くらい持ってるだろ? 少し出して塗ってやってくれ。……いや待てよ? 一応薬は本職の人と相談してからの方が良いか」

「……アナタも何かしたら? 話の切っ掛けにもならないわよ」

「じゃあ……マッサージでもするか。だけどこういう場合下手にマッサージするよりも患部を冷やした方が良いか? ヒースはどう思う?」

「だからさんか様を付けろ。それで何をやっているんだ!?」

 

 ヒースが何やら困惑している。見て分からないか?

 

「何って鍛錬の手伝いだよ。石貨を投げるだけが仕事じゃない。こうして疲れたヒースのケアをするのも仕事だ。ところでどこか身体で凝ってる場所とかあるか?」

「別に凝ってない……って、何故お前達にそんなことされなければならない!」

「そりゃまあ頼まれたからだよ。あとは丁度良いから話がしたかったという事もあるかな」

 

 嘘は言っていない。鍛錬の方はアシュさんから頼まれたけど、何か隠していることを聞きだしてほしいというのは都市長さんからだからな。

 

「ともかく、別に何かしてほしいなどと僕は一切頼んでいない。だから放っておいてくれ。どうせもうすぐ薬師が来る」

「まあまあそう言わずに」

 

 そうこうしている内に、セプトに身体をちょこちょこチェックされたりエプリの微風で火照った身体を冷まされたりと、ヒースもだんだん落ち着いてくる。こうなったらもうこのまま薬師が来るまで待っていた方が良いと考えたのかもしれない。

 

「……で? どこか凝っている場所は?」

「まだ言うかっ!? ラニーならともかく何故お前にマッサージなどされなければならないんだっ!」

 

 結局薬師の人が来るまでマッサージはさせてもらえなかった。まあ本格的なマッサージはやったことはないので良かったのかもしれないが、俺だけ何もやっていない気がする。

 

 

 

 

「はい。もう大丈夫ですよヒース様。痣になっている所も薬を塗っておきましたからすぐに治ります。ただもう少し横になっていることをお勧めしますよ」

「ちなみに薬は私の商品は使っていません。流石に本職の薬師の方が用意した物の方が品質が良いですからね」

「当たり前だ。そうでなかったら家で雇っていない。……ラニーがいたら別だがな」

 

 屋敷の医務室で薬師の人の診察と治療を受け、ヒースは上体を起こして応える。ジューネの薬は結局使わなかったな。

 

 しかしラニーさんがいたら雇っていないのか。これはラニーさんの方が腕が良いからなのか、それとも単に好きな相手に見てもらいたいという男の性か。

 

 ……ちなみに薬師の人は白い髭を伸ばしたおじいちゃんだった。薬師というより仙人っぽいな。

 

「しかしアシュ様も見事と言うか何と言うか。ヒース様の身体中に打ち込みの痕が有りますが、どれも痣が出来るだけですぐに治るものばかり。痛みや疲労は有っても大事にはまずなりませんよ」

「さすがアシュ。大怪我でもさせたら大変ですからね。そこの所はバッチリです」

 

 ジューネがアシュさんの背を軽く叩きながら言う。そうだよな。石貨が風で飛び回るのを避けながら、怪我させないように加減して打ち込むっていうのは難しい。相当の実力差がないと無理だろう。

 

 そのことはヒースも分かっているのか、どこか悔しそうな顔をしている。

 

「まあ次の授業までまだ時間もあるしな。しばらくのんびりしてな。俺は次の担当の教官と話をしてくる」

「……はい」

「では私も薬の補充があるので少し失礼します。それほど長くはかかりませんので、安静にしていてくださいね。ヒース様」

 

 そう言ってアシュさんと薬師の人は二人で医務室から出ていった。ヒースは再び横になり、そうして医務室に静寂が訪れる。

 

「…………で? お前達はいつまでここにいる?」

 

 静寂は普通に破られた。それはまあ俺にジューネ、エプリにセプトもまだいるし当然だけどな。

 

 さて、どう話を切り出したものか。都市長さんから聞いたけど、最近フラッと授業をすっぽかして帰りが遅くなっているがどこ行っているんだ? なんてド直球に聞くわけにもいかないしな。

 

「まあまあ。そんな事言わずにお客様。ただ横になっているのも退屈でしょうし、ちょっと私共とお話でも致しませんか? これでも私は商人の端くれでして、何か必要な物でもあれば相談に乗らせていただきたく思いまして」

 

 ジューネはまず揉み手をしながら切りこんだ。久々に口調が商人モードになっているな。やはりまずは直接聞かずに搦め手からか。

 

 商人? と訝しむヒースだが、ジューネの話術にだんだん引き込まれてふむふむと頷いている。

 

「やはり意中のヒトを落とすにはこれっ! 見た目は何の変哲もないただのブレスレット。しか~し侮るなかれ。着けているだけで精神耐性が付き、簡単な眠りや幻惑の魔法なら防いでしまう優れものでございます」

「ふむ。なるほど確かにそこそこ有用な装備じゃないか。しかしこれと意中のヒトを落とすのと何の関係が?」

「さらにこれはなんとペアリングになっておりまして、最初は気になるヒトに有用な装備だとでも言ってそっと渡すのです。しかし使っている内にふと相手は気付く。貴方が自分の使っている物と同じものを使っていると」

「ほうほう」

 

 そこでジューネは少し大仰なほどに身振り手振りで続ける。

 

「ふとした気付きから見つける自身との共通点。それから何かと気になって目で追ってしまい、時々交わる視線。少しずつ縮まる距離。そして最後は……あぁ。これ以上は話すだけ野暮と言うものでございます」

 

 ……いやちょっと終わりの方は強引じゃないかそれ?

 

 確かにペアリングを贈るんだから、その時点で多少なりとも好意を持っていることは伝わるだろうけど。だからって流石にそこまで都合良くいくかなあ? ヒースだってちょっと疑問くらい持って、

 

「よし。言い値で買おうじゃないか」

 

 買うんかいっ!? 即決だったよこの人っ! 俺が言うのもなんだけどもっと悩めよ。

 

「ちなみにお値段は……こちらになります」

「安いっ! これでラニーとの仲が縮まるなら安いものだとも。……ただ今は手持ちがないので、後日払うがそれでも良いかい?」

「よろしいですとも。お買い上げありがとうございますっ!!」

 

 ジューネに算盤で提示された金額を見ても、ヒースはまるで退かずにそのまま購入。ただ現金の持ち合わせはちょうどなかったようで、ペアリングだけ貰って支払いは後払いとなった。

 

 無理もない。だって算盤にあった額は少なくとも四桁以上はあったもの。いくらヒースでもこの額はそうそう持ち歩いてはいないのだろう。

 

 早速リングを一つ腕にはめ、もう一つを大切に懐にしまい込むヒース。これでラニーさんにまたアタックするのだろう。一応心の中で応援しておこう。がんばれヒース。玉砕したら骨は拾うからな。

 

「ふふふ。良い買い物をした」

「ねえ。聞いても、良い?」

 

 ご機嫌そうにリングを見つめるヒースに、急に今まで黙っていたセプトが話しかけた。

 

「うん? 何だい? 今の僕はすこぶる機嫌が良い。多少のことなら笑って答えようじゃないか」

「じゃあ聞くね。ヒースは、最近授業を逃げてるって聞いたけど、ホント?」

 

 突如落とされた爆弾に、またもや医務室を静寂が覆った。一つ言わせてくれ。セプトド直球すぎっ!?

 

 しかしこうなったら仕方ない。出たとこ勝負だ。この機にグイっと押し込んでみようじゃないの。

 




 決してヒースは普段からここまでちょろい奴じゃないんです。ただちょっとラニーのこととなると一直線なだけなんです。……ホントですよ。

これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?

  • 金稼ぎ
  • バトル
  • 人間関係
  • 冒険
  • ゲーム
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