異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第十五話 襲撃!? ネズミ軍団

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 異世界生活六日目。

 

 いよいよ出所の日だ。ここに来たばかりの頃はいきなり牢屋にぶちこまれ、もうお先真っ暗かと思われる散々なスタートだった。

 

 だがこれからは違う。ついに自由の身となり、異世界という未知の場所(厳密にはここも異世界なのだが)に出るのだ。幸いイザスタさんという心強い同行者も出来た。俺はこれからのことに大きな期待と僅かな不安を胸に秘めて外への第一歩を踏み出す…………つもりだったのだが。

 

「来ないわねぇ。看守ちゃん」

「そうですねぇ」

 

 俺達を出所させてくれる筈のディラン看守が一向に姿を見せない。朝食を運んできたのも今日初めて見る男だった。ディラン看守のことを訊ねてみると、何やら急用が出来て遅れるとのことらしい。

 

 ならばとイザスタさんとこれからの予定を話し合い、今までに分かっている『勇者』の噂話から信憑性の高いものをすり合わせる。

 

 ほぼ確定したものだと、『勇者』は男性三人女性一人の計四人であること。それぞれに専属の世話役や奴隷が付けられて、中々悪くない待遇を受けているということ。加護は不明だが、それぞれ相当高い能力を持っているということが挙げられる。

 

 ちなみに今更だが、この国には奴隷制が存在する。ライトノベルではお約束の奴隷だが、基本的には罪を償うためや借金によって奴隷になるらしい。

 

 奴隷は主人に従う義務が有るが、同じように主人も奴隷に最低限の衣食住を提供する義務がある。奴隷制が良いか悪いかは別として、この世界において一種のセーフティーラインになっているようだ。

 

「予定はこんな感じだけど、何か分からない所はあった?」

 

 話し合いが終わると、イザスタさんが確認のために聞いてくる。

 

「大丈夫だと思います。ここから出たらまず拠点となる宿“笑う満月亭”に移動。そこで用意を整えてから『勇者』のお披露目の場に向かう……でしたか?」

「バッチリ。そこで何か気づいたことがあったら教えてねん。別の世界の人から見た意見も参考になるから」

 

 ちなみにイザスタさんには俺が異世界から来たことはすでに話した。アンリエッタのことなどは伏せたが、それでもイザスタさんは「ほらっ。アタシの勘も大したものでしょう」なんて言って笑っているから驚きだ。異世界の話はここから出てからじっくり聞くと言っていた。

 

「さてと、それじゃあそろそろ自分の場所に戻るとしましょうか。最後くらいお行儀良く看守ちゃんを出迎えてあげないとね」

 

 茶目っ気たっぷりにそう言うと、イザスタさんは壁の穴に潜り込んだ。……彼女が戻る際にチラチラと見てしまうのは、青少年の悲しき性だと言わざるを得ない。

 

「フフっ。触っても良いわよ。脚でもお尻でも」

「さ、触りませんよ!!」

 

 戻る途中でからかうように言うイザスタさんに、俺は一瞬ドキッとしながら見ないように必死に顔を逸らして答える。勘弁してくださいよまったく。

 

「うんっ!?」

 

 その時、牢屋の外の通路で何か音がした。ドタバタと何か転げ回るような音だ。不思議に思って牢屋から顔を出すと、

 

「キシャァァァ」

 

 通路の奥の方で、この牢に居るのとは違うウォールスライムと、ネズミのような何かが争っていた。

 

 ネズミのようなというのは、俺の知るネズミとは少し違っていたからだ。普通のネズミは額から角は生えていないし、サッカーボールくらいの大きさもしていない。そんなやつが瞳を真っ赤に充血させて、涎をだらだら垂らしながら暴れまわっている様は中々に恐ろしい。

 

「な~に? 何かあった?」

 

 穴の中からイザスタさんの声が聞こえる。まだ穴の途中らしい。

 

「通路で角の生えたネズミがウォールスライムと揉み合ってます。こっちの世界のネズミはかなりおっかないですね。あんなのもうろついてるんですか」

「えっ!? 角の生えたネズミ!? それはちょ~っとマズイわねぇ。待ってて。一度向こうに抜けてからそっちに行くから」

 

 少し慌てたような声を出して、イザスタさんは急いで穴を通ろうとする。しかしどうやら慌てすぎたようでどこか引っ掛かったらしく、こちらから見ると足だけでじたばたともがいている。

 

「慌てなくても大丈夫そうですよ。スライムの方が優勢みたいです」

 

 角ネズミはしきりにスライムに噛みついたり角で突いているのだが、何度やってもスライムはすぐに元通りになってしまう。

 

 それもそのはず。前に聞いた話だが、この世界のスライムは某国民的ドラゴンRPGに出てくる青い玉ねぎのような可愛らしいものではない。核の部分以外への物理攻撃はほとんど無効。加えて大抵のスライムの体液は酸性を持っている。下手に攻撃すればそのまま呑み込まれて消化されるという凶悪さだ。

 

 ならば核をピンポイントで狙えばよいという話だが、身体の奥に隠してある核を攻撃するにはそれなりのリーチが必要になる。角ネズミはネズミにしては大きいとは言えサッカーボール程度。なかなか核までは届かない。悪戦苦闘しているうちに、ついにスライムが身体を拡げて角ネズミに覆い被さってしまう。

 

「う~む。想像してたよりスライムエグいな。あんなの突然のしかかってきたら、囚人逃げられずにそのままパクリとやられるんじゃないか?」

 

 もしウォールスライムのことを知らずにいたらと思うとゾッとする。角ネズミの方は何とか逃げ出そうともがいているようで、スライムの身体が内側から所々ボコボコ盛り上がるのだが、ついに力尽きたのか動かなくなった。

 

「トキヒサちゃ~ん。そっちはどうなったの?」

「もう大丈夫みたいですよ。スライムが角ネズミをやっつけたみたいで……」

 

 俺はそこで息をのんだ。決してイザスタさんの引っかかっている様子を眺めていた訳ではない。スライムさん後ろ後ろ!! 今の角ネズミが団体さんでやってきてるよ!!

 

 

 

 

「嘘だろ!? 何体いるんだアレ!?」

 

 通路の奥からどんどんやってくるネズミ達。一匹が二匹。二匹が四匹。四匹が八匹。その数は既に二桁に届き、なおも増え続けている。これがホントのねずみ算かとつい思考が現実逃避する。

 

「キシャァァァ」

 

 奇声を挙げて進撃する角ネズミ達。それを止めようとスライムが立ち塞がる。頑張れスライム。負けるなスライム。下手に注意をひかないよう心の中だけで応援するが、それがまずかったのか単に多勢に無勢なだけか、少しずつ対処しきれなくなっていく。

 

「あっ!? ヤバい!? こっちに来る!!」

 

 ついにウォールスライムをすり抜けて、角ネズミがこちらへ二匹向かってくる。まずいな。こっちは牢の中。こんな畳六畳くらいの部屋では逃げ場がない。何かないかと荷物を探ってみるが、ここに来た時に大半の荷物を没収されている。残っているのは身に付けていた小物類くらいのものだ。……これでどうしろと。

 

 いよいよ角ネズミは俺の牢屋の前までやって来た。牢の格子はギリギリ角ネズミが入ってこられるサイズ。このままでは…………いや待てよ。意外に話の通ずる相手ということはないだろうか? 人を見た目で判断するなと言うじゃないか。ましてここは異世界だ。正確には人ではないが、まずはコミュニケーションからだ。

 

「や、やあ。こんにちは。ご機嫌いかが?」

 

 作戦一。話し合い。まずは挨拶から始まり、平和的に解決しよう。そうさ。瞳を真っ赤に充血させてこちらを見ているけど、明らかにこちらに敵意を向けているように見えるけども、話し合えばこちらを襲ってくるなんてことは……。

 

「キシャァァァ」

 

 やっぱりダメだったよコンチクショー!! 二匹の角ネズミは格子の隙間から牢に入り込み、そのまま俺に向かって飛びかかってきた。

 

「うおっ!?」

 

 何とか突撃から身をかわすが、牢の中でこのまま逃げ続けるのは無理だ。かくなるうえは……。

 

「まぁ落ち着いて。菓子でも食べない? 美味しいぞ」

 

 作戦二。エサで釣る。こいつらも腹が減って気が立っているだけかもしれない。俺は以前イザスタさんと食べた菓子の残りをそっと地面に置いた。さぁこれでも食べて仲直りしようじゃないか。

 

 角ネズミ達はその菓子に向けてふんふんと鼻を動かし、

 

「キシャァァァ」

 

 そのまま菓子を蹴散らしてこちらに再度突撃してきた。これも何とか回避するが、哀れ菓子は衝撃で粉々に。……おのれこのネズ公共め! 食い物を粗末にしやがるとはもう許さん!! 話し合いはやめだ。俺は拳を握り締めて前に構える。

 

 俺と角ネズミ達との距離はおよそ二メートル。さっきまでのこいつらの動きを見るに、このくらいの距離はないのと変わらない。だがこちらもアンリエッタの加護が効いているのか、ここに来てからこいつらの動きにしっかり対応出来ている。それにこいつらはさっきから愚直な突撃を繰り返すばかり。これなら何とかなりそうだ。

 

「さあ来いネズ公共。返り討ちにしてやる。……できれば来ないでくれると嬉しいが」

 

 初の戦いで内心ビビっているのは内緒だ。




 次回主人公初戦闘。彼は生き残ることが出来るか。

 あとイザスタさんは早く穴から抜け出して欲しい所です。

うちのイザスタさんはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • これはヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
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