異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百三十八話 尾行は中々大変です

 

 とにかくこんな荷物を抱えて尾行する訳にはいかない。それに雲羊が凄まじく目立つ。さっきは相当離れていたから良かったものの、近づいたら俺達よりも先に雲羊が見つかること請け合いだ。ということで、

 

「そう怒るなよエプリ。しょうがないだろ。雲羊を操れるのはエプリかジューネしかいないんだから」

「………………ふんっ」

 

 素早く相談した結果、一旦エプリが荷物を雲羊でまとめて屋敷に運ぶことになった。雲羊だけでも帰るだけなら出来そうだが、荷物を途中で落っことす可能性があるので却下だ。

 

 ちなみにジューネが残ることになった理由は、単純にジューネの方が土地勘があるから。尾行するだけならこっちの方が適役という訳だ。

 

 護衛が護衛対象から離れるなんてとエプリが渋りまくっていたが、なんとか宥めすかして雲羊に乗り込んでもらう。

 

「……セプト。この中で戦力になりそうなのはアナタだけだから、くれぐれも二人を頼むわ。……またトキヒサがバカをやって危険に突っ込んでいこうとしたら力尽くでも止めて」

「分かった。任せて」

 

 エプリは雲羊の上からセプトにそんなことを言っている。失敬な! 戦力になりそうもないのは事実だが、自分から危険に突っ込んでいくなんてことは……そんなにないぞっ!

 

「エプリさん。念の為……これを渡しておきますね」

「……これは?」

 

 ジューネが持っていた袋から何かを取り出してエプリに投げ渡した。何だアレは?

 

「それは私の商品の一つでして、簡単に言うと対になっているものと引き合うようになっています。私がそれの対を持っていますから、帰りが遅いと感じたら迎えに来てください」

「……成程ね。分かったわ。夕食時になっても戻らなかったら迎えに行く。……その時はまたこれに乗っても?」

「多分その頃には尾行も終わっているでしょうから大丈夫です。お願いしますね」

 

 エプリは渡されたものを懐に仕舞うと、そのまま雲羊を転回させて出発する。勿論ヒースが歩いて行った方向とは逆方向からだ。

 

「さて。それでは行きましょうかお二人共。くれぐれもバレないように静かにですよ」

「任せろ。こう見えてかくれんぼと鬼ごっこは得意なんだ」

 

 以前色々やらかして、カンカンになっている陽菜や“相棒”から逃げ回っていたからな。自然にどこに隠れれば見つかりにくいかとかが分かるようになっていったんだ。

 

 ……最終的には大抵見つかって拳骨とお説教をくらったけどな。

 

「よく知らない言葉ですが、まあ自信があるなら良いでしょう。セプトさんは……トキヒサさんより上手そうですね」

 

 何が? と思ってセプトの方を見ると、なんとセプトの身体が半分影の中に沈み込んでいる。そう言えばそういう能力があったな闇属性って。

 

「隠れるの、得意。任せて」

 

 そう言うと、セプトはずるりと影の中から足を抜き出して地面に立ち、珍しく自慢げに胸を張る。確かにこれには負けるな。

 

 こうして俺達は当初の予定を変更し、ヒースの尾行を開始するのだった。

 

 

 

 

 尾行の鉄則は相手に気づかれないこと。それならば離れれば良いという話だが、離れすぎれば見失う。よって付かず離れずの距離を保つことになるが、それが中々難しい。

 

 当然だが道にはヒースだけではなく普通の通行人もいる。見失わずに追いかけるだけで一苦労だ。おまけに今日に限ってヒースはいつもの仕立ての良い服ではなく、茶色と灰色を基調とした地味めな服で人混みに紛れやすい。

 

 見つからないよう時には遮蔽物に隠れ、ある時はセプトの影で身を隠して追っていく。便利なことに、セプトと手を繋いでいる間はこちらも影に潜ることが出来るのだ。

 

 影の中は少し息苦しいが我慢できないほどではなく、影の隙間から外の様子を覗き見ることも出来る。水の中みたいな感じだ。

 

 まあ影の大きさと中の広さは比例するので影によっては狭苦しいし、セプトと手を離した瞬間影から弾かれてしまうのだが。それに何人も同時に入っているとセプトの消耗が激しいので乱用も出来ないしな。

 

 そうして悪戦苦闘しながら歩くことしばらく、

 

「……で、尾行してるのは良いのだけど、一体どこに向かってるんだ?」

「そうですねぇ。この方向だと……ちょっと大通りから離れた場所になりますね。ここまでくると店も少なくなってきますし、私もあんまり来たことはありませんね」

 

 なるほど。確かに周りの様子を見れば、先ほどのような活気が減って少し寂しい感じになっている。店も無い訳ではないのだけど、これまでいた市場と比べると半分くらいってとこか。

 

 ジューネとしてもこういう儲け話の少なそうな所にはあまり来ないか。

 

「こんな所に何の用なのかね? ヒースは」

「分かりません。ですが、これはいよいよ……」

「何だよジューネ。いよいよって?」

 

 ジューネが何か考え込むように眉根を寄せるのを見て、ちょっと俺も気になって聞いてみる。こんな状況だからな。隠し事は無しだぞ。

 

「いえ。都市長様の屋敷で噂を聞いたんですが、ヒース様は以前調査隊の仕事中にミスをして、それが元で一時的に副隊長を退いていると。今ではすっかりやさぐれて、後ろ暗いことにまで手を出しているとかいないとか」

 

 ジューネがわざわざ両手を前に垂らしておどろおどろしい雰囲気を出そうとする。それじゃあ幽霊か何かだよ。

 

 しかしこの状況。噂が本当になりつつあるぞ。失敗して落ち込んでグレてって、どんどん落ちていく王道パターンじゃないか。

 

「まあとにかく。とにかくだ。ヒースが何処へ行くのかちゃんと見届けるまでは尾行を続けよう。もし本当にそんな厄介なことになっていた場合は……速やかに戻って都市長さんに報告。それで良いか?」

 

 俺の言葉にうんうんと頷くジューネとセプト。いざという時のことは常に想定しておいた方が良いって以前“相棒”も言ってたからな。

 

 そのままさらに尾行を続けていくと、ますます人気が無い場所に入っていく。裏道とかもいくつか通っているし、慣れない人だと確実に迷子になるぞ。

 

「あそこ、入っていく」

 

 セプトが指さす先には、路地裏のどん詰まりにひっそりと一軒の建物があった。

 

 ちょっとした民家ほどの大きさでまるで存在を主張せず、見つけようと思わなければまず見つかることはないだろう。造りは他の建物の大半と同じく石造りだが、扉だけは木製のものだ。

 

 ヒースは一度きょろきょろと周りを見渡すと、扉を開けて素早く中に入りすぐさま閉めた。

 

 こちらは途中の建物の影に隠れていたので見つからなかったが、ああいう仕草をするってことは見つかりたくないってことか。俺達はそろりそろりと忍び足で建物に近づいていく。

 

「……外から見ただけじゃよく分からないな。ジューネそっちはどうだ?」

「こちらもよく分からないですね。特徴らしきものも無いし、普通の民家のようにも見えます」

「見て! あそこから煙が出てる」

 

 外から建物を観察していると、セプトが建物の隙間から白い煙が噴き出しているのを見つけた。一瞬火事かと思ったが、よく見たらそこには内部から筒状のものが伸びている。煙の排出口になっているようだ。

 

「煙ねぇ。……まさか」

 

 さっきのジューネの言葉から、俺の頭の中にこっそりタバコ的なものをふかして煙をプカプカと浮かべているヒースのイメージが浮かび上がる。

 

 いや、それだけならまだいい。だがもしもそれがタバコ的なものではなく、()()()()()()()()だったとしたら……。

 

「ちょっとマズいかもしれないなこの状況。場所も分かったしこのまま撤退するのも一つの手だけど、一刻を争う状況ってことも考えられる。突入するか?」

「……そうですね。正直今日はこのまま様子を見て出てくるのを待つつもりでしたけど、万が一のことがあったら都市長様に顔向けが出来ません」

 

 ジューネも覚悟を決めた顔で言う。安全を取るなら最初に言ったように待つのが一番だ。それでも行くというのは、ヒースの身を案じているからだと俺は勝手に想像する。やはりジューネは良い奴だ。

 

「私は、出来ればやめてほしい。トキヒサ、また危ない目に遭うから」

 

 セプトは相変わらずの無表情でそう言う。さっきエプリに言われたことを守ってのことだろう。でも、

 

「……そうだな。危ない目に遭うかもしれない。でも見逃したらマズイことになるかもしれない。これでも一応知り合いだし、ほっとくわけにもいかないよ」

「じゃあ私も行く。危ないことからトキヒサを守る」

 

 それがセプトの精一杯の妥協なのだろう。……勝手な保護者(仮)でゴメンな。

 

「ああ。頼りにしてるよ。あと俺だけじゃなくジューネも守ってくれよな。……おっ!?」

 

 それにもぞりとした感覚が服の中からしたかと思うと、ボジョが触手だけ出して任せろとばかりに振り上げる。忘れてないって、ボジョも勿論一緒だとも。

 

 決意は固まった。それじゃあ突入するぞ。ジューネはいざと言う時のために少し離れたところに残し、俺とセプトは静かに扉の前に立つ。

 

 本来ならセプトもジューネの近くに残したかったのだが、一緒に行くと言って聞かなかったのだからどうしようもない。さっきの譲歩の分はこっちも妥協だ。

 

 罠は……ざっと見たところではなさそうだな。念のために貯金箱を取り出して扉の周りを査定するが、別段不自然な物は無かった。

 

「…………うんっ!?」

 

 取っ手の部分に手を掛けた時に気が付いたのだが、扉の横辺りに妙な長方形の跡がある。これは……日焼けの跡みたいだな。

 

 元々ここには長い間長方形の何かがあったけど、今は取っ払われているってことか? よく見れば上の所に何かをひっかけるような出っ張りがあるし。

 

「トキヒサ。何か、良い匂いがする」

「匂い? ……そう言われると確かに。待てよ!」

 

 扉から微かに漂う匂いに、俺はふと考える。白い煙、扉の横の日焼け跡、そしてこのどこか()()()()()()()()()()()()()匂い。

 

「……もしかして」

 

 俺はある予感をしながら扉を開ける。あまりに自然な動きにセプトが慌てるが、俺の予感が正しければ危ないことには多分ならないと思う。扉を開けると中からむわっとした熱気が噴き出し、それと共に匂いも強くなる。

 

 そこに居たのは、

 

「…………らっしゃい」

「うんっ!? なっ!? お、お前達どうしてここにっ!?」

 

 こちらを一目チラリと見て不愛想にそう言う男と、席に着いて男から大きなどんぶりを受け取るヒースの姿だった。どんぶりにはなみなみとスープが注がれ、中には多くの具材と縮れた麺が泳いでいる。

 

 つまりここは…………()()()()()だ。

 




 セプトの隠密能力はかなり高いです。

 影に潜っている間は視認はほぼ無理ですし、セプトは胸に付いている魔石の関係もあって一人なら長時間潜っていられます。影の多く繋がっている町中であるなら尾行はお手の物ですね。

これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?

  • 金稼ぎ
  • バトル
  • 人間関係
  • 冒険
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