「……戻ってきたのね。……どうだった?」
「色々あったよ。まあそこは部屋に戻ってから話すとして、とりあえず出発はもう良いんじゃないか?」
ヒースと別れてからおおよそ一時間ほどで屋敷に戻ってきた俺達だが、そこで今まさに雲羊に乗って飛び出そうとしているエプリとバッタリ鉢合わせする。
危なかった。もう少し遅れてたら行き違いになる所だった。買い物を続けようとしたジューネを止めてそのまま帰って本当に良かった。
まあこれ以上買い物をして、荷物をたくさん持っていくのがきつかったというのもあるが。
部屋に戻ってエプリに経緯を説明する。ヒースを追いかけていったらそこはラーメン屋だったこと。ヒースは時々講義をさぼっては、こうしてラニーさんとのデート用に隠れた名店を探しているということ。一応店主に確認したが、ここしばらく数日おきにラーメン屋に通っては夕方ごろに店を出るといったこと等だ。
「…………そう」
エプリは話を聞き終わると、何故か手を口元に当てて少し考えこむようなそぶりを見せた。
「何か気になるようなことでもあったか?」
「…………いえ。何でもないわ。ただ何となく気になっただけ」
何が気になったのかと聞いても、エプリは自分でもはっきりとは分からないという。一緒に連れて行けばその違和感が分かったかもしれないが、たらればって奴だな。
それと、後でエプリがぼそりと「……ラーメン……か」って呟いていた。その内誘って一緒に行った方が良さそうだな。食い物の恨みは怖いから。
その後は鍛錬の準備をしていたアシュさんも交えて買った物の整理。
予定の半分くらいしか店を回れなかったと嘆くジューネだが、それでも目の前にある小山のような量を見ると十分多いと思う。絶対いつものリュックが無いと無理なヤツだって。
「正直これを見ると、今日は一緒に行かなくて本当に良かったって思うぜ」
「まったくですよ。アシュさんが居ればもう少しは楽だったのに。今回の鍛錬はそんなに準備がいるものなんですか?」
「いや。鍛錬の内容自体は前と同じものを考えているぞ。ただちょっと都市長殿に呼ばれててな。それで都市長殿の部屋で話をしている最中にヒースに逃げられたんだから面目ないが」
「アシュが責任を感じることはありませんよ。あくまでも都市長様に頼まれたのはヒース様の鍛錬のみですし、そもそも今回の一件はヒース様が悪いのですから。その分みっちりと鍛錬でしごいてやれば良いのです」
男二人でぼやいていると、ちょっと機嫌の悪いジューネがアシュさんをフォローするように話に入ってくる。買い物の予定を潰されたから機嫌が悪いというべきか、それともアシュさん絡みだからかは微妙な所だ。
「それに今回来れなかったのは惜しかったですよアシュ。途中で食べたラーメンという麺料理がそれはもう美味しくて、この辺りではあまり食べられない品でしたからね」
考えてみたら異世界でラーメンはどのような立場なのかとあの時店主に聞いてみたが、どうやら獣国ビースタリアの一部で細々と作られている郷土料理らしい。ビースタリアちょこちょこ日本というか地球要素を出してくるな。何でかね?
店主は昔獣国に料理の修行に出ていたことがあって、その時必死に頼み込んで作り方を教えてもらったという。その後独自に修練を重ね、やっと客に出せる程度には納得いく品が出来るようになったと語ってくれた。
とまあここら辺ではめったに出ない料理のことを話してちょっとドヤ顔するジューネなのだが。
「しかしラーメンか。俺も久々に食いたかったな」
「おやっ!? アシュはラーメンを知ってたんですか?」
「まあな」
「……そう言えばアシュの格好は獣国の物に似てるわね。……以前行ったの?」
普通に食ったことあったよアシュさん。ドヤ顔が一気に崩れてつまらなそうな顔をするジューネ。そしてそこに珍しくエプリが自分から話の輪に入ってくる。
確かに言われてみればアシュさんの服装は思いっきり和風だ。着流しだし、武器も二振りの刀だし。まあ金髪碧眼なので多少違和感があるけどな。
時々着替えはするものの、基本的にいつも似たような和服だ。獣国は和風の者が多いらしいからそこ関連を考えるのはもっともだ。だが、
「いや。直接は行ったことはないな」
アシュさんは予想外の返答をしてきた。えっ!? そんなもろ和風の格好なのに?
「服がそこの物だからってそこに行ったことがあるとは限らないっての。この服は昔手に入れた物だが、単に気に入ってるから良く着てるだけだよ。動きやすいしな。ラーメンも色々あって食べる機会があったってだけだ」
「何だ。そうだったんですか。獣国に伝手でもあったらまた儲け話に繋がるかもって少し期待したんですが」
ジューネがまたガックシきている。どんな状況でも金儲けを考えているな。その根性はある意味尊敬するよ。ジューネが課題を貰っていたらすぐにクリアできたんじゃないか?
そんなこんなで時間は過ぎ、俺達が帰ってから三十分くらい遅れてヒースが到着。アシュさんの鍛錬の開始時間ギリギリのことだった。
「ふんっ! やあっ!」
今回の鍛錬も昨日と同じ。アシュさんとヒースの一対一の試合中に、俺とエプリで金属性と風属性による横槍が入るものだ。二人が戦っている中庭には風が吹き荒れ、風に乗って石貨が飛び交っている。
だけど前回のことですでに対策をしてきたのか、今回はまだ二人共一度も直撃していない。
アシュさんは普通に後ろからでも難なく回避するし、ヒースも木剣で上手く弾いたり躱したりしている。……ヒースは石貨は回避出来ても時々アシュさんに打ち据えられてはいるが。
「毎日毎日よくやるよ二人共」
「……こういうのは毎日やるから意味があるの。……アナタだってそうでしょ?」
「ま、まあそうだけどさ」
俺だってこのところ毎日ジューネに読み書きを習っているし、セプトの影絵の練習に付き合って簡単な魔法を一緒に練習したりしてる。
相変わらず読み書きは難しいし、火属性はライター使った方が早い火力しかないし、水属性も水鉄砲程度のものだったが、毎日やっている内に少しずつ進歩しているのは実感できるもんな。
「確かにこういうのって、自分が進歩してるって実感できるなら楽しいよな。俺の場合元々無かったから、何をやっても進歩になるわけだし。エプリも今の感じになるまで練習とかしてたのか」
「…………まあね。オリバー……私に色々なことを教えた憎たらしい老人ね。子供の頃は毎日そいつにひどい目に遭わされたわ。そいつを倒そうと毎日試行錯誤や工夫、練習をしている内に、それなりに風属性が上達していたってだけ」
それなりっていうけど、エプリほどの術者はあんまり見ないな。以前会った調査隊の人達からも、俺が怪我して動けないでいる数日の内に一目置かれるようになってたし。
勝てそうなのはイザスタさんくらいじゃないか? 俺がここまでで会った人の中では。
これはちょっと興味本位でアンリエッタに聞いたんだけど、この世界で魔法を同時に幾つも発動及び操作できるのはそんなに多くないらしい。
二つくらいまでならそこそこいるらしいけど、三つ以上になるとかなり限られてくるという。エプリって確か三つまで同時に以前使ってたよな。この時点でその限られた一人に入っている訳で、やっぱりそれなりと言うのは謙遜だ。
「よく分からんけどなんか大変な子供時代だったみたいだな。それならこれだけ強いのも納得か。……じゃあセプトはどうだ? 何か特別な修行とかしてたのか?」
俺は横でじっと二人の戦いを眺めていたセプトに声をかけた。セプトも以前大規模な影の魔法を使ってたし、エリゼさんが読み間違えるくらいに魔力の総量が多いって話だったしな。もしやこの歳で壮絶な修行をしてたりとか……。
「よく、分からない。覚えてない。だけど、毎日使ってたら、いつの間にかこうなってた」
そんなに毎日使う機会があったのかいと聞きたくなるが、話すと長くなりそうなので一旦置いておく。つまりはこっちも使い続けたことによる成果と言えなくもない。継続は力なりというけど、魔法も同じみたいだ。
「それじゃあ俺の魔法も毎日使ってたら少しはマシになるのかね?」
「……さあね。それよりも……ひとまず休憩になりそうよ」
「えっ!」
エプリのその言葉とほぼ同時に、ヒースがアシュさんの強烈な一撃を受けてバタリと倒れる。どうやら今回は飛んでくる金を全て回避か迎撃できたのは良いものの、その代わりにアシュさんへの対応が少し遅れたらしい。
「まったく。だらしが無いな。仕方ない。少し休憩するか。お~い救護班。出番だ」
救護班って俺達のことかね? まあ良いけど。それじゃあ救護班らしく助けに入ろうじゃないの。俺達は二人に駆け寄った。
エプリの場合、元々スラムで毎日生きるか死ぬかの状況だったので自然と熟達していったというのもありますね。そうして実戦の中で粗削りに磨かれた技を、オリバーによってさらに研ぎ澄まされたといった感じです。
これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?
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