異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

176 / 272
第百四十三話 妨害者

「エプリ。一つ頼みがあるんだけど良いか?」

「……内容によるわね」

 

 部屋に戻る途中、俺はふと思いついたことがあってエプリに話を切り出した。

 

「これまではずっと、アンリエッタと話す時には席を外してもらってたり、一人でこっそりしていたけど、今回からはエプリにも聞いていてもらいたいんだ。もちろん毎回じゃなくて、都合の良い時だけで良いけどな」

 

 もうエプリには色々と話してしまったことだしな。この際一緒に話を聞いてもらって、時々アドバイスなんかを貰えると助かる。そう考えて頼んでみたのだが、エプリは少し悩む素振りを見せる。

 

「…………構わないけど、問題は向こうがどう出るかね。これまでずっと一対一で話していた相手が、急に他のヒトを連れてきたら話しづらいという事にならないかしら?」

「そっか。……言われてみたら確かにそうだな。俺が出ると思っているのにいきなりエプリが出たらそりゃ驚きそうだ」

 

 まあ最近は基本夜中の十二時少し前に連絡するって流れがほぼ決まってるから、それに合わせて向こうも用意をしてくれているけど、前に急に連絡した時なんか丁度風呂に入っている時に呼んじゃって機嫌最悪だったもんな。

 

 慌てて上がってきたって感じにまだ髪とかが濡れてたから、つい濡れた髪はよく乾かさないと風邪をひくぞと注意したら余計に機嫌が悪くなった。しょうがないだろ。見た目完全にお子様なんだから。

 

 そんな状態を他の人が見ていたら、恥ずかしさのあまり通信を打ち切りそうだ。いちいちそうなっていたら話が一向に進まないからな。

 

「……だから話自体はアナタがこれまで通り一人でした方が良いと思うの。……私は基本的に横で聞いているだけにするわ。その方が話しやすいでしょう」

「分かった。それだけでも後で相談できるから助かるよ。一応アンリエッタにはその点は伝えておくな。どうせ向こうもこっちの様子を時々覗いているからすぐに気づくだろうし」

 

 それで良いわと返すエプリと一緒に、俺達は静かに部屋に戻った。セプトはベットの中でよく眠っているようだ。セプトまで起きていたらさらに申し訳ない度が跳ね上がるので助かった。

 

 エプリは普段寝床に使っているソファーに背を預けるが、いつものように眠ろうとせずにこちらに目で合図する。いつでも良いってことか。

 

 それじゃあこっちも始めるとするか。俺はもう手慣れてしまったアンリエッタへの定期連絡を始めることにした。

 

 

 

 

「……という訳で、今回からはエプリも話を聞いてるけど良いよな? 基本的に話には割り込まないって言ってるけど」

『構わないわよ。富と契約の女神たるワタシの言葉を拝聴したいというのは良い心がけだしね』

 

 意外にあっさり許可が出た。アンリエッタは余裕綽々にそう言って偉そうにふんぞり返る。

 

 だから女神の寛大さを見せたいのだろうけど、見た目がお子様だから微笑ましさぐらいしか出ないっての。まあ今はその寛大さに甘えさせてもらうが。

 

「ありがとなアンリエッタ。それじゃあ定期連絡といくか。いつもの通り今日の出来事を俺の言葉でまとめれば良いのか?」

『いえ。今回は良いわ。ちょっとこっちからも話したいことがあるのよね。……これまでず~~~っと調べていたんだけど、ようやく目星がついたのよ』

「目星って……何が?」

『何がじゃないわよ何がじゃっ! トキヒサをその世界に送り出した時、横からどっかの誰かが妨害を掛けてきたでしょうがっ!』

 

 ……そういえばそうだった。最初にそんな話があったきりで、もう全然出てこないからとっくに忘れられた話かと思っていたぞ。

 

「……驚いたな」

『ふふん。偽装が上手くてなかなか手こずったけど、ワタシにかかればざっとこんなもの。これが女神の力というやつよ』

「いや。これまでとんと音沙汰が無かったから、もう匙を投げて諦めてるもんだと」

『だ~れが諦めるかっての。ワタシの手駒、ひいてはワタシの華々しいゲームスタートの時を邪魔した奴は、きっちりその分の落とし前を付けてやるわ。具体的に言うと、きっちり慰謝料をふんだくるわよっ!』

 

 アンリエッタはふんすと鼻息を荒くしている。よっぽど最初に邪魔されたことを気にしてたんだろうな。あの時は珍しく俺に謝るほどだったし。

 

「ま、まあ話は分かった。……それで誰なんだ? 最初に妨害してきたのは?」

『それなんだけど……どうやらライアンの所から妨害されていたみたいなのよ。あの糸目の腹黒神め~っ!』

 

 ライアン? 聞いたことない名前が出たな。知り合いの神様かね。

 

「……ライアンというのは七神教の神の一柱。光と裁定を司る神よ。それと主にヒト種から信仰されることが多いので知られているわ」

 

 横からこそっとエプリが耳打ちする。なるほど。ありがとエプリ。今のは割込みというより補足説明という感じだったので、アンリエッタも別段何も言わない。

 

「つまりは同僚か。嫌われてんなアンリエッタ」

『むしろ向こうが嫌われてるっての。いっつも薄ら笑いを浮かべて何考えてるか分からないし、今回のゲームだって最初はやる気なかったのよアイツ。それなのに賞品のことを聞いたら急にやる気になっちゃって』

「賞品? そう言えば参加者が一番になったら願いを叶えてもらえるっていうのは聞いてたが、神様側にも賞品が出るとは聞いてなかったな。道理でアンリエッタがここまで熱心にやるわけだ」

『…………えぇそうよ悪い? 娯楽としてもそうだけど、賞品があった方がやる気が出るじゃないの! 評価が一番だったらその参加者を選んだ神にも賞品が出るの。そっちのこととはあまり関係が無いから言わなかっただけよっ!」

 

 少しテンパりつつも、アンリエッタは半ば開き直るようにまくしたてる。

 

「いや。別に悪くないけど。確かにゲームだって賞品があった方がやる気が出るよな。俺だって友達何人かと、勝ったやつがお菓子一つなって賭けゲームをしたことくらいある。要するにそのスケールのデカい版だろ?」

『怒らないの? 黙ってたことに?』

「う~ん。最初に言ってほしかったってのはあるけどな。ほらっ! その方がやる気が出るだろ? 同じ目的のために協力しあってるって感じがして」

 

 隠し事ぐらい誰にでもあるっていうのは分かる。最初から全てをさらけ出すなんてことはそりゃあ出来ないよな。

 

 ただ今回のは別に言っても問題ない類のことだったからな。それでも言えなかったってことは向こうにも思惑があったか、もしくは言うと俺が気を悪くすると思ったか。

 

「まあなんにしても、そっちも狙ってるものがあるっていうのは分かった。今はそれだけで良いさ。細かい内容とかは気が向いたら話してくれよ」

『女神に気を遣うなんて千年早いわよ。ワタシの手駒。……だけど、そうね。それなりに課題を進めたら少しくらいは話してあげてもいいかしら。だからそれまで張り切ってお金稼ぎに励むことね』

 

 俺の言葉に、アンリエッタは少しだけ優しげな顔をしてそう答えた。相変わらず偉そうではあるけれど、これで少しは前より互いに信頼出来たってことで良いのかね。……うんっ!?

 

「ちょっと待った。よくよく考えてみると、まず課題として一億円分渡さなきゃいけない訳だよな。それが終わった後で、評価によってはさらに賞品。……報酬の二重取りじゃんっ!?」

『ギクッ!? な、何のことかしらね』

 

 ホントにギクッっていう奴初めて見たぞ。あ~どうして賞品について言わなかったか大体察しがついた。二重取りを狙っていることをバレたくなかったな。

 

「俺がこの世界に来た時も『勇者』召喚に乗じて加護の二重取りを狙ってたし、地味にせこいぞアンリエッタ」

『う、うるさいってのっ! せこいんじゃなくてしっかりしてると言いなさい。これは財テク。そう。財テクの一種なのよ。取れるものをしっかり取ってるだけ!』

「それなら俺の課題をもう少し楽にしてくれても良いじゃんっ! そもそも課題を達成できなかったら評価も何もないだろ?」

『簡単な課題で評価が良くなるわけないでしょうが。……あとワタシの取り分が多い方が嬉しいし』

 

 チラッと本音が漏れたぞこの女神。さっき一瞬だけ芽生えた信頼がガラガラと音を立てて崩れていく感じだ。やっぱり金の亡者だろアンリエッタ。俺なんでこんな女神に目を付けられちゃったんだろ。

 

 

 

 

「……はぁ。分かったよ。そこの言い合いは時間が無いからひとまず置いとこう。……ひとまずだからな。またその内蒸し返してやっからな」

『賢明な判断ね。それで一応これからのことだけど、ライアン陣営からの妨害には目を光らせておくからもうそうそうちょっかいを掛けるってことはないと思うわ。……向こうの手駒に直接そちらの世界で妨害を受けるってことはあるかもしれないけど』

「襲撃に気を付けろってことか。その点はこっちには頼れる護衛がいるから大丈夫だ。それにしても……課題が被っていないんなら手を組むってことは出来ないのか?」

『どうかしら。一応参加者の方に意思決定権があって、担当の神はそれぞれアドバイスくらいしかできないってルールなんだけど……正直神の側が主導権を握る方が多いと思うのよね。ワタシみたいに控えめな神ばかりじゃないから』

 

 どこが控えめだと声を大にして言いたいが、そこはぐっとこらえて先を促す。

 

『だからライアンの側から妨害をしてきた以上、敵対の意思がおもいっきりあると思ってほぼ間違いないのよね。少なくともそこの陣営とは仲良くなるのは難しいわね。これまでの慰謝料をきっちり払った上で、無礼を泣いて謝って同盟を結んでくださいと言うんだったら考えなくもないけど』

「つまり同盟の目はほぼ無しと。じゃあそこの参加者の情報とか分かるか? 男だとか女だとか」

『互いの選んだ参加者についての情報は一切なし。だから向こうもアナタの姿までは知らないはずよ。……そういう加護かスキルを持っていなければの話だけど。……大体話すのはこんな所かしら』

 

 アンリエッタはそこで話を一度打ち切る。見ればもう通信時間ギリギリだ。また後でかけ直した方が良さそうだな。

 

「そうだな。一度考えをまとめるから、十五分くらいしたらまた連絡するよ。今度はこっちからも聞きたいことがあるからな」

『分かったわ。じゃあまたね。ワタシの手駒』

 

 そうして一度目のアンリエッタとの通信が終わった。ふぅ。妨害してきた相手が分かったのは進歩だけど、これからどうしたもんかね。

 

 俺が横をチラリと見ると、エプリはしっかりと今の会話を聞いてくれていた。

 

「…………何?」

「いや。何でもない。それじゃあさっきの話のまとめといくか。エプリも気になったことをジャンジャン言ってくれよな」

 

 これまで一人で考えるばかりだったけど、今回からは一緒に考えてくれる人が居る。それだけでこんなにも安心感が有るものなんだな。

 




 参加者同士だけでなく、神様同士でも当然様々な関係があります。対立する者。協力しようとする者。我関せずで進む者など。

 その辺りはヒトと変わりませんね。

これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?

  • 金稼ぎ
  • バトル
  • 人間関係
  • 冒険
  • ゲーム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。