ビンターに教えられた場所は、意外にも今までいた路地裏から近い所にあった。ただ近いとはいえ、一旦大通りに戻って雲羊と合流してから別の脇道に入り直したので多少の時間がかかった。数十分くらいかな。
「ここ……か?」
「ボロボロ」
セプトがそう漏らしたように、そこは一言でいえばボロ家だった。
ここらでよく見かける石材で建てられたものではなく、そこらに落ちていた廃材やらゴミやらをむりやり家の形に仕立て上げた……みたいな感じだ。これぞホントのごみ屋敷……って、笑い事じゃないか。
扉も屋根もなく、代わりに大きな布を廃材の柱にピンと張って雨風を凌いでいるようだし、まだ調査隊の使っていたテントの方が住処として上等だと思う。入口に別の布を暖簾のように垂らしているのは扉の代わりだろうか?
俺達は少し離れた場所で止まり、軽く周囲の様子を伺うが誰も居ない。中にいるのだろうか? ここらは通行人もあまりいないので静かな物だ。
「……そのようね。ビンターの言っていたことが本当なら」
「それは多分間違いないと思う。あの状況で嘘を吐いたら立場が悪くなるのは分かっていたはずだろうし、交渉慣れしているジューネやアシュさんも何も言わなかったしな。だけど」
嘘は言っていないと思うのだが……これを見るとちょっと疑いたくなる。人の住処としてはかなり悪い方じゃないか? こんなとこ住んでたらいつ倒壊してもおかしくないと思うけど。
ビンターの話によると、あのスマホは数日前にここの住人から三十デンで買ったらしい。見たことのないものだったので、上手く高値で誰かに売りさばいてやろうと思ったらしいけど誰も買わず、仕方なく噂になり始めていた俺の所に持ってきたとのことだ。
よく分からない物を買うビンターもビンターだけど、スマホを三十デンで売る方も売る方だ。上手くやればもっと高値で売れただろうに。
「……それにしても、さっきの板の出どころにここまでムキになる所を見ると……例の?」
「ああ。あれは俺の元いた世界の物だからな。他の参加者、あるいは『勇者』が関わっている可能性が高い」
「……でも、向こうが友好的とは限らないわよ。わざわざ関わらなくても良いんじゃない?」
エプリの言う事はもっともだ。相手がどんな人なのか分からない上に、昨日アンリエッタが言っていたようにこちらを狙っている参加者もいる。こちらから関わりに行くというのが必ずしも良いこととは限らない。だけど、
「そうかもしれないな。でも……そうじゃないかもしれない。話せば分かる相手かもしれない。なら……まずは会ってみないとな」
とまあ色々理由を並べ立ててはみたが、一番の理由はシンプルだ。
この時点で仲間だって思ってしまうのだから、自分でも実に甘ちゃんだ。もし悪い奴だったら? その時は全速力で逃げる。後悔も反省も、まず行動を起こさなきゃ出来ないのだから。
「よし。これ以上は外から見ていても分からないし、気合を入れて行ってみるか」
「……気合を入れるようなものでもない気がするけどね。……行くとしましょうか。可能性は低いけど、いきなり戦闘になることもあり得るわ。いざとなったら……護衛として動くからそのつもりで」
「私も、守る」
「二人共頼りにしてるよ。といっても荒事にはしたくないからな。あくまでも話し合い。向こうが敵意を向けてきたら全力で逃げる。ひとまずの方針はそれでいこう。……では」
では出発……という所で、俺の足の下で何かがかさりと音を立てる。なんか踏んだかな? ……っ!? これはっ!?
俺は落ちていたものを残像が残るくらいの速度(体感)で拾い上げ、それをまじまじと穴が開くんじゃないかと思うほど見つめる。こ、これはまぁさかっ!!
「…………どうしたの?」
「……ぶ、ぶ」
「ぶ?」
「ブ〇ックサンダーだあぁぁっ!!!」
俺はつい大きな声を上げてしまう。このパッケージ。内側にごくわずかにこびりついているチョコレートの欠片。間違いない。これはかの黒い雷神ブ〇ックサンダーの包装紙。この世界でまた会えるとは夢じゃなかろうか? 俺は包装紙を両手で空に掲げる。
「ブ〇ックサンダー? 雷属性の一種?」
「違うっ! ああいや、意味合いとしては合っているんだけど魔法とかじゃなくて。というか雷属性なんてあるんだな。……これは俺が元居た世界でよく食べられてたブ〇ックサンダーってお菓子を入れる袋だ。ちなみに俺も大好物」
そう言えばこっちに来る時も何個かリュックサックに入れておいたけど、牢獄に置きっぱなしになっているんだよな。
他にももろもろ装備が入ったままになっているし、あれは今頃どうなっているのだろうか? ディラン看守あたりが保管してくれていると助かるんだが。
「お菓子? それ、美味しいの?」
「勿論だともセプト。甘くねっとりとしたチョコレートの中に、サクサクとしたパフが絶妙なバランスで入っていてな。ココアの風味がまた一口ごとに食欲をそそるんだこれが。口の中でじっくり舐めて味わうも良し。一気にかみ砕いて食感を楽しむも良し。一つでいくつもの楽しみ方が出来る実に素晴らしい菓子だぞ。おまけに値段も手ごろで、俺もよく学校帰りに買ってたもんだ」
「よく、分からないけど、凄いんだね」
セプトは前髪から僅かに覗く目をキラキラさせる。こうして純粋に凄いと言ってくれるのは、ブ〇ックサンダー好きとしてはとても嬉しい。
「…………その菓子には少し興味があるけど、今は置いておきましょう。……その菓子の袋がここに落ちていたという事は」
「ああ。まず間違いなく俺の居た世界の人が関わってる」
俺がそんなことを言うのとほぼ同時に、入口の布がゴソゴソと動いた。それに気づいたエプリは素早く俺の前に立って何が出ても良いように構え、セプトも自身の影を僅かに揺らめかせる。
咄嗟の対応に迷いのない二人に、俺はちょっと自分が情けない気分になりながらも頼もしくも思うのだから複雑だ。
「誰っすか~? あたしの家の前で騒いでんのは? 騒ぐならよそでやってほしいっすよ~」
その言葉と共に布をまくり上げて出てきたのは、俺と同年代くらいの少女だった。
俺と同じくらいの背丈に上下濃い群青色のジャージ。袖から見える肌は軽く日焼けしていて、いかにも運動か何かをやっているという感じだ。
少し赤毛が混じった茶髪で、顔立ちは綺麗系というより可愛い系といったところ。イザスタさんとはまた違う明るい雰囲気を持った少女だ。あともろに日本人。これは間違いないか。
「……それで? あんた達は何かあたしに用っすか? 言っとくけどこちとら金なんかないっすからね。強盗も泥棒も旨味なんかないっすよ。あっ!? それとも別の世界から来たなんて言ってる頭のおかしな大ぼら吹きだって笑いに来たっすか?」
少女は肩をすくめながら、どこかおどけたような拗ねたような態度でそう口にする。
確かにこんな家に泥棒に入る奴は余程食い詰めている奴だけだろう。それに別の世界から来たなんて言って普通に信じるのはごく少数だと思う。……俺は信じるけどな。
俺はゆっくりと前に進み出て、先ほど拾ったブ〇ックサンダーの袋を少女に差し出した。
「およっ!? ……ああ。これっすか? これはあたしの世界で大人気の菓子の袋っすよ。その名も」
「黒い雷神ブ〇ックサンダーだろ? 俺も大好きだ」
「えっ? この文字が読めるって…………もしかして、もしかしてあんたは!?」
「ああ。多分……そっちと同じだと思う」
少女は微かに顔を伏せて肩を震わせていたが、それも一瞬のこと。キッと顔を上げ、俺に向かって歩いてきた。少女からは敵意とはまた違う闘志のようなものが漂っているように感じる。
エプリが間に割って入ろうとしたが、俺は優しく手で制してこっちも前に出た。大丈夫だエプリ。この人は敵じゃない。
そしてそのまま、俺と少女は互いに手を伸ばせば届く位置にまで近づいて見つめ合った。
「もし、もしあんたが本当にあたしと同じ所の出身で、ブ〇ックサンダーが好きっていうのなら、一つ質問に答えてもらうっす」
「なんだ?」
「ズバリ、一番好きな味は?」
「そうだな。もちろんブ〇ックサンダーはみんな好きだ。白いのもゴールドも期間限定の奴もそれぞれの味わいがあって好きだとも。だが、だが敢えて言おう。
少女はその言葉を聞き、無言のまま大きく右腕を振りかぶった。俺も対抗して右腕を振りかぶり…………がっしりと互いに固い握手を交わす。
「驚いた。戦うのかと、思った」
「…………私も一瞬そうなるかと思ったわ。……よく分からないのだけれどトキヒサ。アナタついさっきまで相手がどう出るか身構えていたわよね。それが落ちていた袋を拾って少し話をするなりすぐに打ち解けて。……どういうことなの?」
エプリもセプトも、俺の服の中に入っているボジョまでどこか不思議そうな具合だ。そんなにおかしなことだろうか? だってそうだろう?
「
「
俺達は固く握手をしながら、エプリ達に向かってはっきりとそう告げた。ほらっ! 当然だろ?
私も全てではありませんが、大半は善人であると信じています。
別作品『マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様』の方もよろしくです!
これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?
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