明日また来る約束をした俺達は、一度屋敷に戻るべく大葉の家を出る。……その時、
「……センパイ」
「何だ? やっぱり明日はやめとくか?」
後ろから大葉の声が聞こえたので振り返る。先ほどまでと違って真剣な声だ。
「もし……もしあたしがセンパイと相性の良い加護を持っていなかったら、センパイはあたしのことを誘っていたっすか?」
「持っていなかったら? う~ん……誘ってるな。それでも」
俺は少し考えて、それでも同じ行動をしていたと告げる。
「勿論加護の相性が良いっていうのは一緒に行くことを決めた一因だけどさ、それだけで行く気になった訳じゃないしな。例えば加護があったって、明らかに性格の悪い奴だったら誘わないって」
俺はそこまで合理的には動けそうにない。地味にストレスが溜まりそうだしな。“相棒”なら完全に割り切ってそういう相手でも誘えると思うけど。
「実際に会って話してみて、大葉なら一緒に行っても大丈夫そうだと思ったから誘ったんだ。それに、細かいところは違うかもしれないけど同じ境遇の身だろ? ほっとけないって」
「…………そうっすか。分かりましたっす。いや~もし加護が無かったら置いてくなんて言われてたら、流石のあたしでも泣いちゃってたっすよ。そうならなくて良かったっす!」
大葉は俺の答えを聞いてどう思ったのだろうか? 少しの間顔を伏せていたものの、すぐに顔を上げてまたいつものようなおチャラけた雰囲気に戻る。
「うんじゃまた明日。待ち合わせ場所はここで良いんすよね?」
「ああ。昼頃に迎えに行くよ。じゃあ明日な!」
「楽しみにしてるっすよ~!」
こうして今度こそ、俺達は都市長さんの屋敷に戻るのだった。エプリはゲームのこととか既に話しているけど、セプトは終始よく分からないって顔をしていたからな。これは一度ちゃんと説明した方が良いかもしれない。
……あっ!? 結局ヌッタ子爵の所に行きそびれた。コレクション見せてもらうつもりだったのになんてこったい。
「遅かったですね。こっちは盗品の確認やら諸々終わってヌッタ子爵の所まで行ってきましたよ」
「行ってきたんかいっ!? というかよくこの時間でそこまでやってのけたな」
「商人は活動的でないとやっていけませんから」
帰ってきた俺達に、先に自身の部屋に戻っていたジューネは平然とそう言ってのける。雲羊が向こうにあることを考えても、数時間足らずで良くそこまで色々出来たもんだ。頼んでいた整備が終わったのだろう。トレードマークのデカいリュックサックもばっちり部屋の隅に置かれている。
「幸いと言うか何と言うか、上手く話がついて事件にはならなさそうです。先方が無くしたことにまだ気づいていなかったのが幸運でした」
「気付いていなかったって……結構値打ちものっぽかったけど?」
「無くしたのが元々ああいう品をいくつも身に着けている資産家ですからね。一つ二つ無くなってもどうってことないということでしょう」
俺にはよく分からん話だが、頭の中で自然と全身にジャラジャラと装飾品を大量に身に着けている人を想像する。世の中にはそんな金持ちがいるんだな。……考えてみたら“相棒”もそうだった。アンリエッタも多分そうなんだろうし、結構周りにいるな金持ち。
「店で落としたのを拾ったという話にしたら、まあそれなりに喜んでくれましてね。謝礼とまではいきませんでしたが、次回の商談を取り付けることが出来たので悪くない展開でした」
「じゃあその後ですぐヌッタ子爵の所まで行ったのか?」
「はい。リュックサックの受け取りも兼ねて世間話を少々。コレクションを自慢する相手が居ないのでおじい……コホン。ヌッタ子爵も残念がってましたよ」
「それはぜひ行ってみたかったな」
純粋にコレクションの方も気になるが、リュックサックの整備の様子も見てみたかった。リュックのあの変形とかロマンだしな。
「……じゃあ、ビンターはどうなったんだ?」
「問題はそこなんですよね。ビンターさんには別室で待機してもらっています」
それまで機嫌よく話していたジューネだが、ビンターのことを話題にすると少し難しい顔をする。
「今回の事件は無かったことになるので衛兵に突き出すことはありませんが、それでもビンターさんが盗みをしたことに変わりはありません。簡単に事情を聞いたところ今回が初犯のようですが、はいそうですかと無罪放免にするということにも出来ないですからね」
「……ちなみに、この町で盗みはどの程度の罪になるの? ジューネ」
「そうですねぇ。初犯であれば罰金程度で済みますかね。勿論物の値段等にも依りますけど。しかし罰金を課そうにもそもそも金をほとんど持っていませんし。働いて返してもらうにしても仕事探しからしなくてはいけないし。ああもうなんで私がこんな事で悩まないといけないんでしょうか? 私衛兵でも何でもないただの商人なのに」
エプリの質問に答えつつ、ジューネはさらに難しい顔をしてウンウンと悩んでいる。そうは言いつつも関わった相手を簡単に投げ出さないのが律義だ。……そういえば、
「なあ。その罰金って俺がビンターに払う謝礼の分で払えないのか?」
スマホの謝礼や持ち物の代金はまだ払ってはいない。諸々確認が出来てからという話だったからだ。情報は本当だったし、その分を渡せば罰金も払えるのではないだろうか?
「物の値段が値段ですからね。全額ではありませんが仕事が見つかるまでの手付金くらいなら。しかし良いんですか? このまま踏み倒すことも出来なくはないですよ?」
「元々どう転んでも渡すつもりだった分だからな。それにジューネだってどうせ、俺と同じ立場だったら金をしっかりと払うだろ?」
「それは……まあそうですけどね。商人は商売上の約束事はきっちり守るものです。信用に関わりますから。エプリさんだってそうでしょう?」
急に話を振られたエプリは何も言わずこくりと頷く。エプリといいジューネといい、職業意識が高すぎないかまったく。
「じゃあビンターさんはトキヒサさんから貰う謝礼から罰金分をひとまず支払い、残った額はこれから仕事を探して稼いでもらうという事でひとまず落着ですね。良かった良かった。これで儲け話にならなそうな案件が一つ片付きました」
「そんなことを言って、ジューネは最初からこの展開を予想していたんじゃないか? この話題を振れば、俺が謝礼の件を言い出して丸く収めようとするって」
「さあて。どうでしょうかね。私としてはこのままビンターさんに、ちゃんと働いて罪を償ってほしい所ですけどね」
ジューネはどこか複雑そうな顔をしてそう言う。この屋敷でアシュさんと一緒に事情を聞いたらしいから、その時に何か思う事があったのだろう。…………うんっ!?
「そう言えばアシュさんは一緒じゃないのか? さっきから姿が見えないけど」
「ああ。アシュですか。アシュなら都市長様から何やら話があるとかで呼ばれています。もうそろそろ戻ると思うんですが」
アシュさんだけ? いつも二人は一緒に居るイメージがあったので、一人だけ呼ばれるというのは珍しい。そう不思議に思っていると、ドアのノックの音と共にアシュさんが入ってきた。噂をすれば影だ。
「おっ!? トキヒサ達も戻っていたのか。お帰り」
「ただいま帰りました」
「うん。ただいま」
セプトは小さくただいまを言い、エプリは何も言わず片手を上げる。挨拶は大事だぞエプリ。
「丁度良かった。トキヒサ達が戻ったら話そうと思っていたんだ。都市長殿が調査が一段落したから一度来てほしいとさ」
「調査って……何かありましたっけ?」
「何だ忘れたのか? お前さんの出した一円玉。アルミニウムの調査のことだよ。色々品質の確認が出来次第もう一度交渉する手はずだったろ?」
そうだった。性質やら細かいことを調べてからじゃないと売り出せないっていう事で、サンプルを渡していたんだった。その調査がようやく終わったのか。
「いよいよですか。これは気合を入れていかないといけませんねぇ。場所は都市長様の部屋で良いのですか?」
「ああ。時間は夕食にはまだ時間があるし、今ならおそらく大丈夫そうだ。ただしこっちの都合が合えばだが。どうする?」
急ぎの用事はないし、色々世話になっている都市長さんの呼び出しだ。断る理由はないな。
「もちろん行けますよ。ジューネは聞くまでもないって顔だけど、エプリとセプトはどうする? 部屋で待ってるか?」
「……それこそ聞くまでもないことね。一緒に行くわ」
「私も、行く」
となると俺を含めて五人か。少し人数が多い気もするが、向こうから呼んだという事だからその点も当然織り込み済みだろう。なら問題はないかな。
「それじゃあ全員で行くとするか。上手く交渉が進めば良いんだけど」
「そこの所は私やアシュも出来る限り協力しますよ。結果次第では凄い儲け話になりますからね。大きな商いに関われるのは腕が鳴りますよ」
ジューネはそう意気込んでいるが、前回は都市長さんに終始交渉の主導権を握られていた感じだったからな。この交渉の結果によって、アルミニウムの売買が認められたら一気に大儲けするチャンスだ。俺は元々こういった交渉は不得意だし、今回は頼むぞジューネ。
「残念だが、このアルミニウムを大々的に売り出すのは難しいと言わざるを得ないな」
都市長さんの部屋に到着し、挨拶もそこそこに発せられた言葉がこれだった。ジューネもこれには顔色を変え、アシュさんやエプリも難しい顔をしている。セプトは無表情ながらも何故と疑問に思っているって感じか?
おいおい!? いきなり交渉が難航し始めたよ!? 本当に頼むぞジューネ!
次話は完全に交渉回ですね。交渉事で都市長相手にどこまでジューネが食い下がるか、乞うご期待です!
これからの話で、読者の皆様が重視して欲しい事柄は?
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