異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百六十話 プレゼントは贈る物? 贈られる物?

「お帰りなさいませ皆様」

 

 歩いて都市長さんの屋敷に戻ると、執事のドロイさんが出迎えてくれた。ジューネとヒースのことを聞いてみると、どちらもまだ戻っていないという。やはりさっきエプリが見たのはヒースだったらしい。

 

 ここに帰る途中でエプリが見かけたかもしれないという話をすると、ほんの僅かにドロイさんは顔をしかめ、すぐにまた普段の表情に戻る。場所を尋ねられたので大まかな場所を説明する。

 

「ありがとうございます。皆様お疲れでしょう。お部屋でおくつろぎくださいませ。夕食の際にはお呼びいたします。……失礼ですがそちらの御方は」

「あっ! すみません。こいつは大葉っていって、ちょっと商談のために来てもらったんです。ジューネに立ち会ってもらうはずだったんですがすれ違いになっちゃったみたいで」

 

 この理由はここに来る途中で考えたものだ。いきなり身分証明書を作ってもらいに来ましたというのはいくら何でもマズいので、ひとまずジューネも交えて商談を行うという体で来てから少しずつ話を持っていくためだ。

 

 それと今の大葉はジャージの上下ではなく、市場で買ったちょっと良い服を着て身だしなみを整えているのでパッと見は商人に見えなくもない。ちなみのこの服代はあくまで貸しだ。大葉がそのうち金が入ったら返してもらう。

 

「え~っと、ご紹介に与りましたツグミ・オオバっす。どうぞよろしくお願いしますっす!」

「……左様でしたか。ようこそおいでいただきましたオオバ様。お部屋をご用意いたしますので少々お待ちを」

「部屋っすか! ありがとうっす!」

 

 ドロイさんは一瞬探るように大葉を見つめたが、特に何も言わず他の使用人達に指示を始める。……やっぱり服と身だしなみを整えただけじゃ商人じゃないって感づかれたかな? だけどこれから本当に商人になるかもなので見逃していただきたい。

 

 

 

 

 自分の部屋を見せてもらってくるという大葉と別れ、ひとまず俺の部屋に集まる。夕食までもう少しかかるので、今の内に今日の収穫を確認しよう。

 

「え~っと、資源回収の純益が六千百二十デン。そこから食い歩きで使った分とバムズさんの店で買った分、そして大葉の服代にエプリに払う契約料、貯蓄用の分を差っ引いてっと…………良い感じで黒字だな」

 

 やはりバムズさんの所の儲けがデカい。今日は他にも回ったけど間違いなくダントツだ。量がとんでもなかっただけあって、これまでの資源回収の中で最高額をたたき出した。迷惑代で買取額を多めにしたのにこれだけ儲かったのだから凄い。

 

 大まかに計算し終わると、俺は軽く息を吐いて椅子にだらんともたれかかる。体力は加護のおかげでまだまだ余裕があるけど、それとは別に精神的な疲れはあるのだ。

 

 横目でチラリとセプトの方を見ると、夕食の前に自分の袋から果物を摘まんでいるボジョを優しく撫でている。リラックスできているようで何よりだ。その室内用に着ている服の左胸には、今日買った何かの動物を模ったような形をしている緑色のブローチが光っていた。

 

 時々それをそっと触れて満足そうな顔(元が無表情なので分かりづらいが)をしている所から、少なくとも嫌がってはいないようでホッとする。

 

「…………また無駄遣いかしら?」

 

 いつの間にか横に立っていたエプリが、どこか皮肉気な顔でそう言った。見ればエプリも今日買った品、何かの革製の手袋と胸当てを身に着けている。常時身に着けるというものではないけれど、ある程度使う事で馴染ませる必要があるらしい。

 

「無駄なんかじゃないさ。少なくとも俺にとってはな」

「……ふっ! 分かってるわ。からかっただけよ。……あのブローチ、非常に弱いけど魔力を流すと少しの間光を放つようになっている。セプトの闇属性を考えれば光源があった方が活用の幅が広がるもの。悪くない物よ」

 

 エプリは皮肉気な表情から一転、少しだけ感心したような表情を見せる。えっ!? あのブローチそんな効果があったの? 何となくセプトが視線を向けてたから手に取っただけだったんだけど。

 

「…………その様子だと知らなかったみたいね。……金が入ったからって適当に使いすぎるのは考え物だと思うけど?」

「そうだな。だけど……セプトはあんな性格だから自分から何か欲しいなんて言わないだろ。欲しがっても我慢してしまう。今回はたまたま欲しそうに見ていたものが俺でも手が届くぐらいの値段だったから、これ幸いと思って買っただけさ」

「……まあ結果的に有用な物だったから良しとしましょうか」

 

 エプリもセプトの方をチラリと見て、分かってくれたのかそこで言葉を切る。最近エプリに財布を握られかけている気がするな。一応俺雇い主なんだけど。

 

「……それで? そういうアナタ自身は自分の分は買わなかったの? 転売用の分や私達の分ばかりで」

「俺っ? 俺はいいよ別に。元々俺の身体は頑丈なの知ってるだろ? 武器だってロマンだとは思うけど、自分で使う予定はないしな。いつもみたいに貯金箱振り回す方が性に合ってるよ」

「…………はぁ。セプトもそうだけど、アナタも自分のことに対して無頓着過ぎね」

 

 そうかなぁ? それを言ったらエプリだって相当なものだと思うけど。なんだかんだ身体を張って依頼人を守ろうとするし。

 

「……まったく。…………ほらっ!」

「うわっとっと!? これは……何だ?」

 

 エプリが投げ渡してきたのは、エプリが身に着けているものと似た革製の胸当てだ。ただサイズが若干大きくなっているし、エプリの物に比べて少し厚みがある。バムズさんの所で何故か二つ胸当てを買っていると思ったら、これはもしかして俺用か?

 

「……トキヒサが頑丈なのは知ってるけど、だからと言って痛みがない訳ではないでしょう? 武器の方は仕方ないとしても防具くらいは用意しておくべきよ。……いざという時のためにね」

「エプリ。そんなに俺のことを心配してくれていたのか?」

「……当然でしょう? アナタみたいな雇い主を護衛するにはいくら用心しても足りないもの。……今回は私が用意したけど、これを機に時々は自分で防具も用意することね」

 

 なんだろう? この胸が暖かくなる感じは。なんか手のかかる雇い主扱いされているが、そこは実際そうなので気にしない。早速この贈り物を身に着けてみなければ!

 

「よっ……と。おっ! 特に動きにくいということもないし良い感じだ」

「トキヒサ。とても、似合ってる」

「……伸縮性があって衝撃に強いホッピングガゼルの革を使っているから動きも邪魔しないし、ちょっとした打撃くらいなら衝撃そのものを半減させるわ。……いつもとは言わないけど、安全のために出来るだけ服の下にでも着こんでおくことね」

「おう! 分かったよエプリ。プレゼントありがとうな」

 

 俺のことを思って贈り物をしてくれたというのが実に胸に沁みる。この装備は大事に使わないとな。

 

「……それと、防具代はトキヒサ持ちで会計は済んでいるから。プレゼントではないから間違えないようにね」

 

 プレゼントではなかったよっ! ……だけどまあ俺のことを考えて選んでくれたのは確かだし、これから使わせてもらうけどな。実際自分のことになると疎かになっていた感も確かに有ったし。

 

「プレゼントじゃなくても……やっぱり、ありがとうな」

 

 俺がそう言うと、エプリはふいっと顔を背けてまた自分の分の調整に戻った。……もしかして照れてたりするのかね? 顔を見てみたいと思ったが、どちらにせよ風弾が飛んできそうなので止めておこう。

 

 

 

 

 それからしばらくして、

 

「……何やら部屋の外が騒がしいわね」

「何かあったかな?」

 

 エプリの言う通り、何やら廊下の外から言い争う声が聞こえてきた。その言葉は最初は離れた所から聞こえていたのだったが、少しずつこの部屋に近づいてくるように感じる。

 

「ドロイさんかな? しかしそれにしてはやけに騒々しいな」

「……あの執事がこんなに騒がしく来るとは思えないけどね」

「だよな。じゃあ誰だ?」

 

 遂にその言い争っている声はこの部屋の前あたりまで到達する。なんだなんだと俺は扉を見つめ、ボジョは素早く俺の服の中に潜り込む。セプトは俺の傍にトコトコと歩み寄り、エプリに至ってはいつでも迎撃できるよう臨戦態勢をとっている。……ちょっと警戒しすぎじゃないか?

 

「…………ですよ!」

「………………っす!」

 

 うん!? この声は!! 聞き覚えのある声に各自の警戒レベルが少し下がった瞬間、扉が凄い勢いで開け放たれ外から二人の見知った顔が入ってきた。

 

「トキヒサさん!」

「センパイ!」

「「そこに商人を名乗る不審者がいたから連れてきました(っす)」」

 

 互いに互いのことを指差しながらこちらを見る少女商人と後輩。……なんかよく分からないが、初対面からして最悪になったことは間違いなさそうだ。

 




 誰かのためを思って贈る物と、誰かに思われて贈られる物。

 立場は違えど、どちらも喜ばしいものであってほしいものです。
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