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「ほうほう! このとても薄いのにそこそこ頑丈な袋。ビニール袋……でしたか? 興味深いですねぇ。これは一度にどのくらい出せるのですか?」
「これと
「良いですね! そのお話。もっと詳しくお願いします」
俺達が中庭に着いた時、さっきの険悪なムードとうって変わって大葉とジューネは和やかに談笑していた。途中セプトにお願いされているドロイさんと会い、直接頼んでいたら少し遅れてしまった。しかしその僅かな時間でここまで話せるようになっていて何よりだ。
「どうやら上手いこと話がまとまったみたいだな」
「……そのようね」
「あっ! センパ~イ! コッチっすコッチ。話してみると意外にジューネちゃん良い子だったっすよ!」
中庭に近づいていくと、話をしていた大葉がこちらに気づいて笑いながら手を振ってくる。
「意外にというのがやや引っ掛かりますが、まあオオバさんもこれからしばらくの良き取引相手になるとは思いますよ。……ある意味トキヒサさん以上に儲け話の気配がしますからねぇ」
「流石に鋭いな。まあその辺の話はひとまず夕食の後でってことでどうだ?」
「夕食っすか! 良いっすねぇ! こういう大きなお屋敷の食事って初めてだから楽しみっす! やっぱ豪華なんすかね? ワクワクっす」
夕食の言葉に大葉が素早く反応する。ジューネはまだ話を聞き足りなかったようだが、これからも話す機会があると思い直したのかすぐに頷いた。
さ~て。それじゃあ夕食をご馳走になりに行きますかね。
「美味しいっす! デリシャスっす! ワンダフルっす! こんなの初めて食べたっすよ!」
「ありがとうございます。ジューネ様のお言葉は私から料理長にお伝えいたします」
大葉は目を輝かせながら用意された夕食に舌鼓を打ち、ドロイさんは微笑を浮かべながらビシッとした姿勢で答える。最初はテーブルマナーとか良く知らないと言って困っていた大葉だが、あまり堅苦しくなくて良いと聞くと凄い勢いで食べ始めた。
あれだけ美味そうに食っているのを見ると、某孤独な食事番組よろしくこちらも腹が減ってくるものだ。こちらも負けじと口を動かす。気のせいかセプトもいつもより良く食べている気がするな。良いことだ。
……うん!? エプリ? もちろんいつもと変わらず食べまくってますが何か? あらかじめ他の人より大盛りにしていてもすぐペロリだもんな。
「それにしても……今日は人が少ないな」
ここに居るのは俺にエプリ、セプト、ジューネ、大葉、それとドロイさんを始めとする屋敷の使用人さん達だ。主であるドレファス都市長やアシュさん、ヒースの姿がない。
「旦那様は所用がございまして、本日は戻れぬとのことです。皆様と夕食をご一緒出来ないことを残念がっておられました」
「そうなんですか。……ジューネはアシュさんのことは何か知ってるか?」
「はい。アシュは都市長様からのたっての頼みということで都市長様と一緒に居ます。……私の用心棒だというのにまったくもう。アシュがいればオオバさんとのことももっとスムーズにいったというのに」
ジューネはそうブツクサ言いながら、その苛立ちを発散する様にフォークを口に運んでいた。確かにアシュさんが居れば初対面で話が拗れることはなかったかもしれない。まあ互いにあの初対面だったからこそ打ち解けられた面もあるかもしれないけどな。
「そしてヒースはまだ帰ってないと……すみません。こんなことならヒースらしき人をエプリが見かけた時連れ戻してもらえば良かったです」
「いえいえ。トキヒサ様に非はございません。こんな日まで外をぶらついているヒース坊ちゃまに非がございます。お戻りになりましたら私からきつく申しあげておきますので、皆様はお気になさらずごゆっくりお食事をお楽しみくださいませ」
「そう……ですか?」
どこかドロイさんの言い方が気になったが、今は食事を楽しもう。俺は違和感をひとまず押し込めながら、再び目の前の食事に没頭するのだった。
たらふく夕食を食べ、デザートに食べやすいようカットされた薄緑色の果物を摘まむ。この屋敷では菓子などはあまり出されず、大抵がこういった果物などだ。実に健康的だな。
「これも美味いっすね! なんて果物っすか?」
「これはファマの実ですね。本来ならデムニス国でしか採れない果実ですが、このノービスではデムニス国とも交易を行っているのでそれなりに手に入ります」
「へぇ~! デムニス国って言ったら確か魔族の国っすよね。なんかイメージ的にヒト種と仲が良くない感じっすけど、交易するくらいだから仲良いんすね」
すっかり打ち解けた大葉とジューネはこんな感じで食事中も話をしていた。ジューネからは特に商談なんかの話は振っていない。その点は食事が終わってからじっくりということかもな。
「基本は仲が悪いらしいぞ。この町は交易第一の国だからOKなんだって」
「なるほど。場所によって差があるんすね。了解っす!」
俺が補足すると、大葉は機嫌よく答えながらカットされたファマの実を口に放り込む。皮ごと食べられるのは食べやすくて良いな。……あとで忙しくなりそうだし食事が終わる前に聞いておくか。
「そう言えばドロイさん。今日って何か特別な日だったりするんですか?」
「いえ。特に祝日ということはございませんが。何故そのようなことをお聞きに?」
「ああいや、さっき俺がヒースについて話した時、『こんな日までぶらついているヒースが悪い』って言ってたじゃないですか? 普通は『こんな
そう訊ねると、ドロイさんは少しだけ視線を泳がして困った顔をする。反応からして何かあるってことは間違いなさそうだな。
「そ、それはですね」
「トキヒサさん。食べ終わりましたから部屋に戻りましょうか」
ドロイさんが話そうとした時、突如横からジューネが口を挟んできた。何だよいきなり。
「戻るんすか? あたしはたらふく食べて満腹だからもう少しここで腹が落ち着くまでのんびり」
「何を言うんですかオオバさん。オオバさんには色々とまだ聞きたいことがあるんですから、さっさと行きますよさっさと! ここでは色々話しづらいですからね。トキヒサさん達も早く早く!」
「ちょ!? ちょっと待ってくださいっすよ! ジューネちゃんったら!」
急に大葉を引っ張り、ズンズンと部屋に向かって歩いていくジューネ。……って俺達も!?
「すみませんドロイさん。なんか慌ただしくなっちゃって」
「いえいえ。構いませんよ。……残りのファマの実はお包みして後で部屋にお持ちしましょうか?」
「ありがとうございます。夕食ご馳走様でした。……ジューネ待ってくれよ!」
俺は手を合わせて一礼すると、さっさと自分の分を食べ終えていたエプリ、セプトと一緒にジューネ達の後を追う。
「……トキヒサ。分かってると思うけど」
「ああ。あからさまに割り込んできたよな。ジューネの奴」
向かう途中、エプリが確認のように話しかけてきたので、俺も分かってるとばかりに返す。俺にも分かるくらいのやや強引なやり方だったからな。
どうやらジューネとしては、ドロイさんにこれ以上突っ込んで聞かれるのが嫌だったらしい。……普通に急いで大葉の能力について話したかったっていうのもあるかもしれないけど。
「今日急にネッツさんに呼ばれて出かけていたことと関係があると思うか?」
「……どうかしらね。そこまではまだ分からないわ」
「だよなあ。ただジューネも何か知っているみたいだし、大葉との話が終わったら一度聞いてみるか」
そんなことを話しながらジューネの部屋に向かう。中からぼそぼそと微かに話し声が聞こえるから、この部屋に居るのは間違いなさそうだ。……何故だろう。なんか嫌な予感がするな。
「お待たせ。早いってジューネ」
たかだか部屋に入るだけでなぜこんな予感がするのか? 俺はこの形のない不安を振り払い、軽く扉をノックしてそう言いながら部屋に入る。そこには、
「ホントですかオオバさんっ!? ホントのホントに
「ホントっすよ! と言ってもあたしからしたらこっちが異世界なんっすけどね」
そこには、よりにもよって儲け話に目のない商人に特大の情報を洩らしてしまった後輩の姿があった。
なんちゅうことしてくれちゃったんだあの後輩はぁぁっ!?
バレたらまずい人にバレました! ……大葉に悪気はないんですよねぇ。ただうっかり口が滑っただけで。