異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百六十五話 儲けを諦めない商人と心配する執事

「じゃあ皆さん。食べながらで良いんで説明の続きを聞いてくださいっす」

 

 中々値段を信じようとしないジューネにはひとまず一通り試食してからまた話そうということになり、各自試食を一巡したのを見計らって大葉の説明の続きとなった。……ちなみに一巡しただけでまた終わった訳ではない。これが甘いものは別腹という奴か。

 

「とまあざっと食べてもらったんすけど……売れそうっすかねジューネちゃん? こんなんで」

「売れそうかですって? そんなもんじゃありません。これは間違いなくバカ売れしますよっ!!」

 

 大葉のどこか自信なさげな言葉に、ジューネは食いつくように力強く断言する。というか半ば叫びだ。

 

「このブ〇ックサンダーという菓子にも驚かされましたが、他の品もどれも凄い逸品ばかりです! この味、この品質、そこらの菓子にうるさい貴族でも十分黙らせられるほどの品ですよこれらはっ!」

「ジューネがそこまで言うとなると……ホントに結構売れそうだな」

「それがどれもこれも一つ数デン。いっても十デンくらいって……一体価格設定はどうなっているんですかこれはっ!?」

 

 そんな事言われてもなぁ。今出てるやつそこらのコンビニとかで売ってる駄菓子とかばっかりのようだしな。ブ〇ックサンダーなんかまさにそれだ。庶民の強い味方だぞ。

 

「えっと、俺や大葉が居た所では大体こんな感じだったけど、こっちだと同じような物を売るとしたらどれくらいの値段になるんだ?」

「誰を売る相手にするかで多少変わりますが……例えばこのブ〇ックサンダーを売るとして、美食家の貴族ならさっき私が推測したように一つ数十デン。場合によっては百デン出しても食べたいというヒトは居るでしょうね」

 

 一つ下手すりゃ千円近くって……元値の約三十倍になってるじゃないか! 他の品もどうやら高評価みたいだし、上手くすれば濡れ手に粟の大儲けが出来るだろうな。ただ……大葉の様子からすると無理そうだけどな。

 

「どうでしょうかオオバさん! 異世界の品を大量に入荷して、私の伝手で販売するというのは? これなら確実に売れること間違いなしですよ! 無論オオバさんの意向は最大限配慮しましょう。……どうですか?」

「う~ん。ジューネちゃんに任せてぼろ儲けってのも魅力的な話なんすけど……そもそもそれ能力の制限に引っかかって上手くいかないと思うっすよ」

 

 そこで一拍おいて、大葉はポツリポツリと『どこでもショッピング』の制限について話し始めた。

 

 

 

 

「一つ目、一日に買い物できる最大上限は合計三千円分までっす」

 

 仮に三千円地球の品を買い物すると、もうこちらの品も買えなくなる。また合計額だから仮に地球の品を千五百円、こちらの品を百五十デン買ったとしてもやはり制限に引っかかるという。

 

「二つ目、あたしがこれまでに買ったことのある物しか買えないっす」

 

 道理でさっきタブレットで見た一覧が偏っていると思った。完全に趣味嗜好買い物履歴が反映されている訳だ。ちなみに値段に関しては、どうやらその世界での平均的な額をどういう訳か算出して出しているらしい。

 

 試しにジューネからこっちの世界の菓子(前にダンジョンでジューネが食べていたクッキー)を安い価格で売ってもらったら、タブレットの一覧に()()()()()で追加されていた。値段操作は出来ないという事か。

 

「三つ目、同じ商品は一日一つしか買えないっす」

 

 これは正確に言うと、大葉が一つの商品として買った物は一つずつしか買えないが正しいらしい。例えば大葉は以前ブ〇ックサンダーを箱買いしたことがあるという。その場合、単品として一つと箱丸ごとの一つは別物だ。なので別々の品として一つずつ買える。同じものでも規格違いなら可という事だ。

 

「四つ目、これまでの一日一回のカウントは、夜中の十二時にリセットされるっす」

 

 これは俺の通信機のタイミングと同じらしい。つまりは一日が終わるギリギリで買い物をしたとして、そのまま十二時を過ぎたらすぐにまた買い物が出来るみたいだ。

 

「う~ん。まあ大体()()()()()()()こんな所っすかね。という訳で、ジューネちゃんが考えるみたいな大量販売ってのは無理だと思うっすよ。毎日同じものばかりジューネちゃんが買い続けるんならいけるかもしんないっすけど、それだとあたしが新しく別のを仕入れるのが難しくなるっす」

「むむむっ! 悩ましい所ですね。……ブ〇ックサンダーは確かに魅力的な商品ですが、同じ品ばかりというのも困りもの。かと言ってそれぞれを少しずつでは継続した販売は難しい。しかし時間を掛ければ可能ならあるいは……。もしくは珍しい鉱石などでも」

 

 大葉が説明し終わるのを聞いて、ジューネはどこかにやけた顔をして悩み始める。今ジューネの頭の中では、数多くの売り込む相手とその手順、それによって生じるリスクとリターン、まわりに起きる影響などがグルグルと渦巻いているのだろう。

 

 あの顔からすると大儲けした未来でも想像しているのかもしれない。幸せな悩みという奴だ。……ここは引き締めるためにも言っとかないとマズいかな。

 

「なあジューネ。ちょっと良いか?」

「むむ……む!? どうかしましたかトキヒサさん?」

「それとこれは俺の意見だけど、異世界の物は大量に売り出すのはどうかと思うんだ。都市長さんにアルミニウムを売り込んだ時もアレだったし、下手に持ち込みすぎるとどんな影響を及ぼすか分からない」

 

 悩んでいるジューネに助け船……というかちょっとした意見を述べる。まさか一円玉を大量に渡したら実験で被害が出るとは思わなかったしな。地球では何でもない品でも、こっちでは危険物になるという事がまた起きないとも限らない。

 

 ジューネもそのことに思い至ったのか、ハッとした様子で表情が引き締まる。

 

「……確かにその点を失念していました。食べ物類くらいならまだともかくとして、いちいち販売する品を検査していたらキリがありません。時間が掛かりすぎますね」

 

 まあ極論すれば食べ物とかも世界が違うから影響が出る可能性はあるんだけどな。……そこは流石に何かあったらアンリエッタが言ってくると思うので心配してはいなかったけど。

 

「……それに一日三千円分、デンに直すと三百デンだったわよね? 三百デンなんて何かあったらすぐ無くなってしまうわ。……いざ何か必要な時に使えないのではマズいし、まだまだオオバの出せる品に何があるのかも把握できていないのに、今から焦って決めなくても良いんじゃないかしら?」

 

 加えてエプリの掩護射撃にセプトがこくこくと頷く。食べ物なら安いからそれなりに出せると思うけど、それにしたって箱買いばっかりしてたらすぐに上限に引っかかる。ここら辺の課題を何とかしないと大量販売は無理だな。

 

 その後もジューネはなんとかならないかとウンウン悩んでいたが、結局定期的に今試食した品を大葉から買い取るという話で一応の決着がついた。もちろん上限のことも考えて少しずつだ。

 

 菓子類は日持ちするから保存食としても使えるし、毎日少しずつ貯めていけば大量販売も決して不可能ではない。もしくは美食家の貴族に絞って売りに出すことでパイプを作るのにも使える。ジューネ的にはそんなことを考えているようだ。

 

 個人的には貴族とのパイプとか厄介ごとの気配がするので避けてほしいのが本音なんだけど、それを言っちゃあ都市長とかヌッタ子爵はどうなるのって話だし、ジューネにはぜひやりすぎないようにお願いしたいところだ。

 

 そして途中ドロイさんがファマの実を届けてくれたこともあり、そこで一度能力の説明及び試食会は終了し、それぞれ自分の部屋に戻ることになった。

 

 と言っても大葉はジューネに引き留められて、もうしばらく説明を続けることになったが。……商人モードになったジューネは大変だからがんばれよ大葉。

 

 

 

 

「……浮かない顔ね?」

「うん!? やっぱそう見えるか?」

 

 部屋に戻って少ししたところで、普通に一緒に部屋についてきたエプリに声をかけられる。……当然のごとくセプトもいるし、もう自然に返事をしてしまう自分に何とも言えないな。

 

「大丈夫? どこか、痛いの?」

「ああ。そういう訳じゃないから大丈夫だよセプト。ただ……ちょっとさっきから気にかかっててね」

「……ヒースのことね?」

 

 心配そうにこちらを上目遣いで見るセプトを安心させつつ、エプリの質問に頷きで返す。

 

「さっき試食会の終わり際に、ドロイさんがファマの実の残りを包んで持ってきてくれたろ? あの時のドロイさんはどこか心配そうな顔をしてた。おそらくまだヒースが帰ってきてないからだ」

「……そのようね。ドロイはヒースのことになると顔に出るみたいだから」

「というより、()()()()()()()()というのが大きいかもしれないな」

 

 この数日屋敷で世話になっていたから分かるけど、ドロイさんは基本仕事中に何かあっても顔に出すような人じゃない。

 

 これまでもヒースが夜遅くまで帰らなかったというのは有ったらしいし、言っちゃあ悪いけど慣れているはずだ。となると普段とは違う状況だから心配してると考えた方が自然だ。

 

「それにもう一つ気がかりなことがある。都市長さんが仕事で遅くなるっていうのは分かるけど、アシュさんまで一緒に行ったというのがどうしても引っかかるんだ。だってアシュさんはジューネの用心棒だろ?」

「……いくら以前縁があるヒトとは言え、今の依頼人の元を長時間離れるのはおかしいって訳ね。……つまりそれだけの何かがある」

「おそらくな。そしてそんないつもと違う日だからこそドロイさんがいつもよりヒースを心配している。……流れとしてはこんな感じかね」

 

 何が起きているのかは分からない。しかし何かが起きている。あるいはもうすぐ起きる可能性はかなり高い。とくれば、

 

「よし。やっぱりちょっと行ってくるよ」

「……行くって、ドロイに直接問いただすつもり?」

「いいや。ジューネのとこだ。今のドロイさんに聞き出すのは酷だと思うからな」

 

 そろそろ大葉との話も一段落しているだろう。思い立ったが吉日とばかりに、俺はジューネの部屋に戻ろうとする。すると、

 

「わざわざ来ることはありませんよ。……こちらから来ましたから」

 

 コンコンというノックの音と共に、そのようなことを言いながらジューネが真剣な顔で大葉と連れ立って部屋に入ってきた。大葉は心なしか少し疲れたような顔をしているな。

 

 しかし丁度良い。色々聞きたいことがあった所だ。じっくり話してもらおうじゃないの。




 実際ジューネは頭の中で、いくつかの販売ルートを思いついていました。大葉に制限がなければ一年で一億円も普通に稼げていたでしょうね。

 そろそろストックが無くなってきてしまったので、次回からは投稿頻度が遅くなります。三日に一話くらいですね。
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