異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百六十六話 荒事前に探しに行こう

「セ、センパ~イ。あたしはもうダメっす。ジューネちゃんに根掘り葉掘り手取り足取りぬっちょりねっとり探られちゃって、足腰立たないくらいにヘロヘロになっちゃったっすよ~」

「ちょっ!? 言い方を考えてくださいよ言い方っ!! ……そりゃあまあつい聞き取りに熱が入ってしまったのは事実ですが、一切オオバさんには触れていませんからね! 商品だけですから!」

 

 大葉がおよよっとばかりにしなをつくりながら座り込み、ジューネが慌てて弁明する。……わざわざ説明しなくても、大葉がいたずらっぽく笑ってるから冗談だって分かるよ。

 

「まったくもう。……こほん。オオバさんも勉強会に参加したいとのことで、今日は抜き打ちの簡単なテストを行うつもりだったんですが……その様子だと私に聞きたいことがあるようですね」

「ああ。ちょっと気になることがあってさ」

 

 ジューネと大葉が部屋にある椅子に座ったのを見計らって、俺は早速本題を聞くことにした。腹の探り合いは趣味じゃないしな。……決して抜き打ちテストが嫌だったからじゃないぞ。

 

「ジューネ。もしかしたらなんだけど、今日何か特別なことが起きた……あるいはこれから起こるってことはないか?」

「…………何故そう考えたのですか?」

 

 今の間からすると、この予想は間違っちゃいなさそうだな。俺はさっきエプリと話し合ったことを説明する。都市長さんとアシュさん、ヒースが居ないこの状況。ドロイさんの様子、あとついでにアシュさんとジューネの今日の違和感についてもだ。

 

「違和感? 何かありましたか?」

「まあな。アシュさんの方はさっき言った通りで、今日に限って言えばジューネもそうだ。夕食の時は俺がドロイさんに聞こうとするのをわざと遮ってたし、そもそもこれまで一度も今日どうしてネッツさんに呼ばれたのか話してない。……大葉のことで話すタイミングを失くしたってことなら今話してくれても良いと思うな」

「そ、それは……」

 

 ジューネは何か言おうとして、そのまま口ごもってしまう。……言えない理由でもあるのだろうか?

 

「……おそらく、内容を誰かに話すことを禁じられているのでしょうね。大きな商売には良くあることだし、場合によっては契約を強制的に実行させる道具もある。……違う?」

「そういうことです。道具などは使われていませんが、口止めはされています。()()()()()()()()()()()()()商人の信用に関わりますから」

 

 自身も傭兵として契約を結ぶことが多いエプリが察すると、ジューネも静かにそう返す。……成程ね。今の言い回しはつまりそういう事か。

 

「じゃあいくつか答えられる範囲で教えてくれ。……何か起こるのはこれからか?」

「詳しい時間までは分かりません」

「じゃあ次だ。アシュさんと都市長さんはそれに関わっているか?」

「…………」

「言えない。つまりは関わっている可能性が高いな」

 

 直接情報を洩らすことは出来ない。言い換えれば、周りが勝手に外堀から推察するのは自由ってことだ。

 

 ジューネも明確な返答をせず、ギリギリ話して大丈夫な所までを話している。回りくどいけど今は聞けるのがジューネくらいなので仕方ない。

 

 

 

 

 そのまま問答を続けることしばらく。どうにか輪郭だけでも朧げに把握できたものをまとめてみる。

 

「まず時間ははっきり分からないけど、今日の夜中から明日の未明にかけてアシュさんと都市長さんが何やら大事に関わる」

「……しかも二人だけではなく、少なくとも百人近い衛兵が動くようね」

「アシュさんに衛兵百人ってどんな戦力だよ? どう考えても荒事の気配しかしないぞ」

 

 さらに付け加えるなら、元々このノービスはデムニス国に近いという事で、交易が盛んになるまでは半ば国境の防波堤のような扱いでもあったという。つまりそんな所の兵が弱いという訳もなく、交易都市群全体でも兵の練度で言えば三本の指に入るらしい。それが百人とは相当なことだ。

 

「それで何か起こるらしき場所が……よりにもよって町の外じゃなくて中。外だったらダンジョン攻略の援軍って考え方も出来たんだけどな」

「どうにもきな臭い話っすね。まさかどっかを焼き討ちするとか!?」

「この内容だとあながち間違いでもなさそうで怖いよ」

 

 大葉が自身を抱きしめながら物騒なことを言っている。場を和ませようとしているのかもしれないが、今は言うと本当になりそうだからやめとけな。

 

「それでそんなマズい状態の時にヒースが帰ってこない。……そりゃあドロイさんも心配になるはずだよな」

「うん。心配、する」

「セプトちゃんの言う通りっす。あたしはそのヒースって人は知らないっすけど、さっき一度トイレに立った時に屋敷の人達が心配そうに話してたのは聞いたっすよ」

「となれば……やっぱこのままジッとしてるってわけにはいかないよな」

「ちょっ! ちょっと待ってください!?」

「トキヒサ。少し待ちなさい」

 

 俺がそう言って立ち上がると、エプリとジューネがどこか慌てたように扉の前に立ちふさがって止めに入った。何かあったかな?

 

「あのですね。詳しいことは言えないのですが、今外出するのはあまりお勧めできないというか。ないとは思いますけど下手をして巻き込まれたら危ないんです」

「……私も行くのには反対よ。話を聞く限り、厄介ごとであることは間違いないもの。……護衛としてはこのままここで大人しくしていることを勧めるわ」

 

 二人共そう言って俺を引き留める。セプトと大葉は何も言わない。セプトは俺の意見に従うつもりのようだけど、大葉は……どうだろうな? 状況を見守っているって感じか。

 

「大丈夫だって! 別に危ないことに首を突っ込もうってわけじゃないんだ。ちょっとヒースを探してくるだけだから」

「…………本当? 本当にヒースを探してくるだけ? アナタのことだから途中で別件の厄介ごとをひっかけてこないでしょうね?」

「どっかでナンパしてくるみたいに言わないでくれよ! そんなに信用ないかな俺。そりゃあまあ色々あったけど、今回は本当に探しに行くだけだって」

「あたしが言うのもなんすけど、センパイは色々じゃ済まないくらいトラブルを巻き起こしてると思うっすよ。この前のいきさつを聞いた限りではっすが」

 

 俺は弁解するのだが、それに対してエプリに加えてジューネや大葉も何とも言えない表情を見せる。

 

 ……いや分かってるけどね。確かに少々トラブルに遭う確率が最近多いなあとは思ってるけど、どれもこれも自分から好き好んで突っ込んでいるんじゃあないんだ。……ホントだぞ。

 

「それに探しに行くにしたって、ヒース様が何処に居るか目星はついているんですか? ただ闇雲に探しても見つかるかどうか」

「ひとまずは今日、最後にヒースらしき人をエプリが見た場所からあたってみる。そこに居なかったらそこを中心にそこらを回ってみるつもりだけど……」

「実質当ては無いってことじゃないですかっ!? ……もしかしたら見つからないかもしれません。他のヒトが見つけるかも。もしくは探しに行って入れ違いになるかもしれません。……それなのに行こうって言うんですか?」

 

 ジューネが理詰めで止めようとするのに対し、俺はそこで力を込めて頷きながらただ我儘に自分の意思をぶつけていく。

 

「他の人が見つけるんなら上々だし、すれ違いになっても自分で帰ってくるならそれはそれで良いよ。……俺はただ、後になってあの時やっておけばよかったって思いたくないだけなんだから」

 

 それは別にヒースのためって訳じゃない。都市長さんに頼まれているからっていうのも少し違う。近いのは……そう。この屋敷の人達が心配していたから。

 

 より正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「待っていれば解決する話なのかもしれない。それでも、周りの人達が心配する中ではいそうですかと一人寝てたら寝覚めが悪いって話だよ。それになんだかんだ一緒に話をして、一緒に鍛錬をして、一緒に食事をした仲だしな。放っておけない」

 

 だから頼む。行かせてくれと、俺はゆっくり頭を下げる。理屈ではなく感情で動いているのだから、最低限これくらいの誠意は見せなくてはどうするのかという話だ。

 

「私からも、お願い」

「セプトちゃん!? 貴女もですか?」

「うん。トキヒサと、一緒に行く。ヒースのこと、私も気になるから」

 

 横を見ると、セプトも俺と同じように頭を下げていた。前にヒース絡みのことで失敗したこともあるから自分からは口を出さないかと思ったけれど、どうやらそんなことはなかったみたいだ。

 

「………………はぁ。分かったわ。二人共顔を上げて」

「え、エプリさんまでぇ」

「……考えてみれば、トキヒサが一度こうと決めたらそうそう曲げるとは思えないもの。……一応護衛として忠告はしたし、あとはもう雇い主の意に沿うよう動くのみよ」

「ありがとな! エプリ!」

「……ただし、探しはするけど際限なくじゃ困るわ。時間をあらかじめ決めておいて、その時になったら見つかってなくても切り上げる。……嫌だと言っても私が無理やりにでも引っ張っていく。それが最低限の譲歩よ。……約束できる?」

 

 ああ。約束するよ! そう言うと、軽くため息をつきながらエプリはセプトと同じく俺の側に立った。

 

「ああもうっ! 分かりましたよっ!」

 

 そしてその様子を見たジューネは、本当に渋々といった感じで一歩扉の脇にずれてくれた。すまないなジューネ。また儲け話とかあったらお詫びに真っ先に話すからな。

 

 

 

 

 そうして探しに行くことになったのだが、肝心の問題がまだ残っていた。

 

「しかし、根本的に当てがほとんどないまま探すというのはどうかと思いますよ」

「そうだよなぁ。もっと他に手掛かりはないもんかね?」

 

 こうなれば仕方ないとばかりにジューネも含めた面子で知恵を絞るのだが、どうにも良い手が思いつかない。

 

「例えばエプリの探知能力なら探れないか?」

「……難しいわね。私の風を読む技では、おおよその地形や何かの動きを察知するくらいので限界。……動きから種族くらいは予想出来ても、個人までは特定できないわ」

「そうか……この時間に出歩いている人は昼よりかは少ないけど、それでもまだまだいるだろうしな。あぁもう! せめてもっと人手があればな」

 

 屋敷の人達に応援を頼もうかとも思ったけど、考えてみたらとっくにヒースを探しに何人かもう出ているはずだ。資源回収から戻った時、ヒースを見かけた場所をドロイさんに訊ねられたからまず間違いないだろう。

 

 せめてもっと人が居れば人海戦術という手も使えたのに。そう愚痴をこぼした途端、

 

「人手っすか? それなら何とかなるかもしれないっすよ!」

「本当か大葉?」

 

 思わぬ所から救いの手が差し出された。……少し不安な手ではあるけれどな。

 




 正直この町の衛兵の練度は、作中でも述べたように相当高いです。もしダンジョン攻略に動いていたら、小さなダンジョンなら一日で制圧出来るかもしれませんね。

 ……と言ってもマコアのダンジョンはある意味相性が悪いですが、兵站的な意味で。
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