異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百六十七話 照明弾と予期せぬ来訪

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「それで? 大葉の言う通り先にこっちに寄ったけど……これからどうするんだ?」

 

 人手に当てがあるという言葉を頼りに、俺とエプリ、セプト、大葉の四人とボジョは、エプリの駆る雲羊に乗って大葉の家までやってきた。すっかりエプリが運転手として板についてきた気がする。

 

 外はすっかり夜の帳に覆われ、一応町の大通りに街灯らしきものはあったけど念の為、俺の“光球”とセプトが持つカンテラ(屋敷で借りてきた)、それとしれっと大葉が取り出した懐中電灯を明かりにしている。

 

 そんなのまで有ったのかと驚いたら、「前に防災グッズをセットで買っておいて助かったっす!」なんて言ってた。……俺も牢獄に置きっぱなしにしている荷物の中に入れていたはずだけど、今頃あれどうなってるかな?

 

 ちなみにジューネは屋敷に残って、ヒースが入れ違いに帰ってきた時のための連絡係だ。エプリが出発の前にジューネから特殊な道具(商品)を借りたらしく、話したりは出来ないものの離れた所でも合図を送るくらいは出来るという。

 

 ドロイさんが客人にそんなことはさせられないと引き留めてくれたが、そこはジューネに説明を頼んである。上手いこと説得してもらおう。

 

 まあ個人的には普通にヒースが帰ってきて、こっちがくたびれもうけに終わるっていうのが一番良いんだけどな。

 

「まずはちょっと家の中に入って連絡用の道具を取ってくるっす。……すいませんがちょっとここで待っててほしいっすよ」

「確かに大人数で入っても邪魔になりそうだしな。分かったよ」

 

 そうして大葉は家の中に入り、俺達は外で待つことに。

 

 それから少しして、

 

「お待たせしましたっす! 使わないと思って家に置きっぱなしにしててまいったっすよ」

 

 何か筒のような物を手に持って大葉が家から出てきた。あれは……何だ?

 

「……照明弾の一種のようね。小型の魔石を空に打ち上げて炸裂させるの。……個数なんかで合図としてもよく用いられるわ」

「炸裂って……もしかして魔石も金属性みたいに爆発したりすんのか?」

「……物によるけどね。強い火属性や光属性の魔力がこもっていると、強い衝撃や火を点けることで爆発するの。地面に叩きつけたりとか」

 

 エプリが軽く説明してくれる。全部が全部爆発するって訳ではないらしい。……もしそうだったらただでさえ危ない特性の魔石がさらに危なくなるからな。ちょっと安心した。

 

「え~っと。つまりこの打ち上げ花火みたいなやつで誰かに連絡を取ると。……何と言うか古風だな」

「まああたしも実際に使うのはこれが初めてなんすけどね。用があったらこれで呼んでくれって言ってたし、今は夜だから少しは見やすいんじゃないっすかね? そんじゃ早速一つ打ち上げてみるっすか!」

 

 大葉はそのままそれを地面に置き、何やら横の部分を弄り始める。どうやらあそこから点火するようだが、懐中電灯を持ちながらなのと暗いのとでやや手こずっているようだ。

 

 手助けしようと俺の“光球”を向こうに飛ばそうとした時、

 

「これで、どう?」

「……おっ!? ありがとうっすセプトちゃん! もうちょっとそのままで頼むっすよ」

「うん。分かった」

 

 セプトが先にそっと近づいてカンテラを差し出していた。大葉も一瞬驚いたようだが、そのままにっこり笑い返して作業を続ける。

 

「なあエプリ。最近セプトも()()()()動くようになったと思わないか?」

「……そうね。調査隊のテントに居た時は、それこそトキヒサが何か言わない限り動こうとしなかったもの」

 

 いつも俺に言われるか、あるいは確認を取ってからじゃないと動こうとしなかったセプトが、こうして自分から行動する。これならいずれ俺から離れても大丈夫になるかもしれない。それはとても喜ばしいことだ。

 

「……よ~し。それじゃあ皆さん。打ち上げるから少し離れるっすよ!」

 

 いよいよか。そう言って軽く距離を取る大葉とセプト。俺とエプリも少し下がる。すると、ポンっとシャンパンの栓が抜けるような音と共に筒から光の球が放たれ、空高くまで舞い上がって炸裂した。

 

 考えてみると、夜に町の中でこれは色々と迷惑じゃないだろうか? 前に俺が銭投げで空に起こした爆発に比べれば弱いが、それでも結構遠くから見えそうな光量だ。……いざとなったら緊急事態ってことで許してもらおう。

 

「た~まや~っす!」

「完全に照明弾というより花火だよその台詞は。……ところで、これで誰を呼ぶ気なんだ?」

「ああ。言ってなかったっすね。それは」

「……待ってっ! 誰か近づいてくるわ」

 

 大葉が答えようとした時、エプリが何かに反応したらしくやや鋭い声で警戒を促した。慌てて耳をすませば、暗闇の中を誰かが歩いてくる足音がする。それもどうやら一人ではなく複数。もう大葉の呼んだ誰かが来たのか? 

 

 そうして明かりと共に現れたのは、明らかに妙な集団だった。暗がりではっきりとは見えないが、少なくとも十人以上はいるだろうか?

 

 年齢、性別はバラバラだが、一人を除いて共通しているのは同じような柄の灰色っぽい服を着ていること。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。……つまりこの人達はセプトと同じ奴隷らしい。

 

「おやぁ? おやおやおや? 夜の散歩中にふらりと立ち寄ってみれば、何やら面白いことになっているじゃないかツグミ! ここは一つ私も混ぜてはくれないかい?」

 

 唯一首輪をしておらず、他の人よりも明らかに上質な服を着た男が一歩前に出て喋り出す。動きや言葉の一つ一つが大仰で、どことなく役者か何かを思わせる人だ。

 

「げぇっ!? 面倒な奴が面倒な時にやってきたっす。なぁにが夜の散歩中にふらりとっすか? ただの散歩でそんな人数引き連れる人はいないっすよ。あとあんたにはツグミって呼ばれたくないっすね」

「くっくっく。いやいやこれは手厳しい。まあ散歩というのは嘘なのだがね。交渉帰りについふらりと君の顔を見に寄っただけのことさ」

 

 妙な男に対し大葉も一歩踏み出して牽制する。どうやら知り合いらしいが、いつも明るい大葉が珍しく嫌な奴にあったとでも言わんばかりの顔で見ているな。今にも塩でも撒きそうな勢いだ。

 

「……大葉。この人達は?」

「知り合いって言いたかないけど知り合いっす。こいつはレイノルズ・エイワ―ス。ここら辺の裏通りを仕切ってる性質の悪い奴隷商人っすよ」

「性質の悪いとは心外だな。私は極めて真面目に商売に勤しんでいるだけの商人に過ぎないよ。商品を必要としている客に必要とした商品を対価と引き換えに提供する。それだけさ。それに奴隷は私の取り扱っている商品の一つに過ぎない。私などが奴隷商人と呼ばれたら本職の奴隷商人に怒られてしまうな」

 

 よし。胡散臭い人だってのははっきり分かった。気のせいかエプリやセプトもさっきから警戒を緩めていない。油断できない相手みたいだ。

 

 しかし奴隷商人と言うと、以前大葉が俺と会うまでのことを話してくれた時に言っていた奴隷商人のことだろうか?

 

「ああもうっ! それで何なんすかこの悪徳商人。こっちは今とっても忙しいから後にするっす! というかもう来んなっす!」

「まあそう言わずに。私としては君とは友好な関係を築きたいと思っているんだよ。察するところ、どうやら困っているようじゃないか? 例えばそう……ヒトを探すのに()()()()()()()とか?」

 

 その言葉を聞いて一瞬大葉の動きが止まる。何で知っているのかという点はさておいて、レイノルズの言葉は的確に今一番必要な所を突いていたんだ。

 

「どうだろうか? ここは一つ私の商品を貸し出すというのは? ヒトを探すのに人手はいくら有っても良いだろう?」

「……何が望みっすか?」

「言っただろう? 君とは友好的な関係を築きたいと。その相手が困っている所に手を差し伸べるのは当たり前のことではないのかな?」

 

 レイノルズはそう言って大葉にゆっくりと手を差し伸べた。助力を受け取るのならこの手を取れと言わんばかりに。

 

「あんたがそんな人並みの情で動くような奴なら、あたしだってもっと普通に話すっすよ。……あんたが損得勘定度外視で動くなんてことはあり得ねえっす。今回のことだって、どうせ助けるついでに恩を売ろうとか都市長さんへのパイプを作ろうとかまあそんな所っすか?」

「ご想像にお任せすると言っておこうか。しかし、この差し伸べた手は間違いなく本物だ。……どうするかね?」

 

 そう言ってニヤリと不敵に笑うレイノルズの顔は、どこか魂を対価に契約を迫る悪魔のようにも見えた。ジューネが時折見せる小悪魔なんて可愛らしいものではなく、一つ間違えば全てを台無しにして破滅させかねない……そんな顔に。

 




 呼んだ人と別の人が来て嫌な気分になっている大葉でした。

 ちなみにレイノルズが大葉と友好関係を築きたいというのは噓ではありませんが、端から見てその関係が良いものだとは限りません。
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