「ちょ、ちょっとタンマ!? 相談タイムっす!? ……どうしましょうっすか皆さん?」
「どうしましょう……って言われてもなぁ」
いくら何でも急すぎると判断したのか、大葉は一度仕切り直すべくこちらに話を振る。そのまま少し離れて顔を突き合わせるが、しかしこっちも急で戸惑っているし、まず相手がどういう人物か分からない。
まあ今のやり取りで気を抜いて良い相手じゃないってことだけは分かったけどな。
「まずレイノルズって人を知っている人はいるか? 大葉以外で」
「ごめん。知らない」
「……噂を聞いた程度なら」
セプトは首を横に振るが、エプリは何か思い当たることがあるようで僅かに顔を上げる。
「……かなりやり手の商人で、武器の販売から奴隷の売買まで幅広くやっているとか何とか。……この町だけでなく近くの交易都市にも顧客が居るという話よ」
「腕は確かかもしんないけど、人間的には最悪の奴っす! あたしが初めて会った時なんか『君の能力は素晴らしい。私の
なるほど。その話が本当なら確かにとんでもないな。だけど商人として有能なのは間違いなさそうだし、そんな人が人探しを手伝ってくれるというのなら心強いのは間違いない。
「まあ人間的に信じられないのはともかくとして、人手が必要な所に向こうから来てくれたっていうのはありがたい。となるとあとは向こうの狙いが何かだけど……やっぱり大葉の言った通り恩を売るかパイプを作るためか?」
「おそらくそうっす! 少なくともタダで動くなんてことは絶対ないっすよ!!」
大葉は力強く断言する。そこまで言うとは以前余程のことがあったらしい。
「……そもそも何故向こうはこっちがヒトを探してるって分かったのかしら? ……勘や当てずっぽうという感じではなかったけど」
「相当広い情報網があるっすからね。どっかでその情報が引っかかったのかもしれないっす」
エプリの疑問に大葉はそう返すが、俺は一瞬違和感を感じる。
いくら情報網が広いって言ったって、ヒースの帰りが遅くなるのは言っちゃ悪いが今日に始まったことじゃない。それなのに今日に限って、しかも今さっき探しに出た俺達……特に大葉に声をかけた。それはつまり……。
「相談中の所悪いのだがね。手を差し伸べっぱなしというのも少々疲れるものがあるので、そろそろ手を取るか払いのけるかどちらか決めてくれると助かるのだが」
その声に振り返ると、レイノルズがわざわざ先ほどと同じように手を伸ばした体勢でこちらを見ている。その仕草も何処か演劇じみていてオーバーだ。だが確かにあんまり待たせる訳にもいかないし、時間も有限じゃない。
「それでどうするっすか? 正直アイツの手を借りるのはどうにも良い気分はしないんすけど」
「……トキヒサが決めなさい。私はそれに従うわ」
「俺が?」
「……元々トキヒサが始めたことだもの。こういう時は言い出した者が責任を負うものよ」
大葉やセプトの方を見ると、二人もうんうんと頷いて見せる。大葉は今あんまり手を借りたくないって言ったばかりだけど、俺に委ねて良いんだろうか?
「明らかに怪しいのは間違いない。……でも手が多いに越したことはないってのもまた事実だ」
ここまでやって普通に帰ってきましたってなったら笑い話にしてはかなりキツイが、残念なことにエプリにジューネからの帰宅の連絡があった様子はない。……え~い話だけでも聞くとするか。
俺が意を決して近づくと、レイノルズは手を引っ込めて興味深そうにこちらを見る。何か値踏みされている感じがするな。後ろについているエプリ達は油断なくいつでも動けるよう身構えている。
「え~っと、レイノルズさんで良かったですか?」
「ああ。君のことは……トキヒサ君と呼べば良いかな?」
「はい。……もしかしてこっちの話を聞いてましたか?」
「いいや。そこに離れて話していたことなら聞き取れなかったとも」
つまり
「じゃあレイノルズさん。商品を貸し出すって言ってましたけど、それはつまりその……」
「君の察する通りだ。この
ホントに奴隷を商品って言ってるよこの人。俺は奴隷や奴隷制度そのものを否定する訳じゃないけど、そこまで徹底して道具として見ることは出来そうにない。この時点でこの人とはあんまり仲良くはなれそうにないな。
「確かに人手は必要です。……ですがいきなりそんなことを言われても困るというか。第一相場がいくらは知らないけど人を雇うにしてもお代が払えるかどうか」
「なあに心配することはない。本来なら代金がかかる所だが、今回は私から友好の証として言い出したこと。金を取ろうとは思わない」
つまり無料レンタル。……話がうま過ぎるな。
「納得できないかね? ……実の所、先ほどツグミが言っていたのはあながち間違いではない。これを機にドレファス都市長との表立った繋がりを作れれば良いとも考えているし、君達に恩を売るというのも悪い話ではない。その方が良いと思える相手なら尚のことだ」
「大分高い評価で驚きですが、残念ながら俺達は近いうちにこの町を出ることになると思うんですが」
「それならそれで構わないさ。またいずれこの町に戻ることもあるだろうし、繋がりが無くなるわけではない。持っていて損が無いのなら、多く作っておいた方が良いだろう?」
……そうか。この場合俺達に話がうま過ぎるというよりも、向こうがどう転んでも損をしない形なんだ。
仮に俺達が奴隷を借り受けたとする。直接金が入るわけじゃないけれど、手伝ったという点でレイノルズが気に入っているであろう大葉に恩を売れるし、上手くすれば都市長とのパイプも出来る。
そしてこの話を断ったとしても損はない。何もしていないんだから当然だ。……むしろ断った負い目がこちらに出来る可能性があり、もし次に交渉することがあれば場合によっては付け込める。
唯一損をするとしたら奴隷、向こうの言う商品が怪我か何かをする場合だけど、戦闘とかならともかくただの人探しだ。危険度は低いと判断したのだろう。
それならば……別に断る理由は無いか。奴隷というより日雇いの派遣社員か何かを雇うと考えれば多少は気も落ち着いてくる。
「なるほど。分かりました」
「では……私の申し入れを受けてくれるのかな?」
俺がレイノルズの差し出した手を握ろうとした時、
「ちょっと待ってくださあぁぃ!!」
どこからともなく制止する声が響き渡る。今のは一体誰だ? 周囲を見渡したがこの場には俺達しか見当たらない。というかどこかで聞き覚えのある声だ。
俺は振り向いてエプリ達を見るが、それぞれ自分じゃないと否定する。じゃあレイノルズの側の誰かかと思ったが、そちらもどうやら違うようだ。では一体誰が?
「…………あそこよ!」
最初に気づいたのはエプリだった。おそらく風で周囲を探ったのだろう。真っ先に反応してある一点を指差す。
そこはレイノルズ達がやってきた方向の反対側。その途中に、三人の白いローブとフードを纏った誰かが立っていた。それぞれ俺のように“光球”が身体の周りを回転しながら浮遊しており、姿かたちはハッキリと見える。
「ふぅ。連絡を受けたので慌てて来てみれば、これはどういう状況か説明していただけませんか?」
「およっ! よく見たらオオバ以外にもトッキーにセプトちゃん、エプリも居るじゃん。やっほ~!」
「その。こんばんは……です」
連絡を受けたって大葉の照明弾のことか? ……それにこの口調、どこかで聞き覚えがあるような。あとトッキーってもしかして俺のことか?
「おやおや。何者かな?」
「何者か……ですか。問われたからには答えなくてはなりませんね。私達は」
レイノルズは一度手を引っ込め、顎に手を当てて白ローブの三人に問いを投げかける。この場の全ての視線を釘付けにする中、三人はそれぞればさりと音を立てながらフードをまくり上げた。
その中に有ったのは全て同じ顔。ただ同じ顔ではあるものの、それぞれ自身の内面を映し出すように雰囲気が異なる。……よく見たら知ってる顔なんですけど。
「長女アーメ」
「次女シーメ!」
「末っ子……ソーメ」
「「「私達、三人揃って…………『華のノービスシスターズ』」」」
そこで言葉を切って三人がポーズをビシッと決めると、彼女たちの後ろから特撮の爆発が起こる姿を幻視した。唖然とするレイノルズ達。まあいきなり見たらそんなもんだよな。分かる。
そしてこの濃い三人娘を呼びつけた肝心の大葉はと言うと、何も言わず無言でグッと親指を立ててサムズアップしていた。なんか一気にシリアスがぶっとんだ気がするぞ。
爆発はあくまで幻視です。
まあこんな三人ですが、実はそれぞれかなり有能です。……雰囲気がぶっ壊れるのが長所であり短所でもありますが。